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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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第二十四話~覚悟~

 
前書き
軽い戦闘回です。紅蓮弐式ファンの人すいません(-.-;)
 

 
ミッドチルダ・廃棄区画


 夜の闇が深まり普段から人気がないこの場所、廃棄区画にライは1人佇んでいた。ただ立っているだけのライであるがそこに隙はなく、どこか泰然としていた。
 目を閉じ何かを待つライ。そんな中、遠くからモーターの駆動音が響いてくる。その音が聞こえた瞬間ライはバリアジャケットを纏い構える。右手には蒼月、左手にはスーパーヴァリス、パラディンを握っている。だが背中にはなのはとの模擬戦で使用した翼は存在しない。
 近づいてくる音源にライはパラディンの銃身を向け引き金を引いた。放たれた魔力弾は音源に直撃した。着弾の衝撃で辺りには煙が舞う。その煙を切り裂き、中から巨体が姿を現す。その巨体を見たライは眉をしかめる。

ライ「……」

 巨体の姿は見慣れた赤の機体。自分にとって背中を預けることが多かったパートナー。紅蓮弐式であった。
 紅蓮は特徴的な右手を構えライに接近してくる。その右手には赤いオーラのようなものを纏っている。それはその機体の最大の矛であり盾、輻射波動である。
 ライはその攻撃を警戒しバックステップで大きく距離をとる。ライのそれまで立っていた場所に紅蓮の右手は叩きつけられ、その地面は輻射波動の効果も相乗しハデに抉れている。
 輻射波動の威力を再確認しライは目の前の敵を殲滅するために再び構えなおすのであった。



海上


 ライが交戦しているのと同じ時刻、機動六課の隊舎からあまり離れていない海の上でも戦闘が行われていた。
 戦闘を行っているのは機動六課の隊長陣3人、なのは、フェイト、ヴィータと航空戦が主体のガジェットドローンⅡ型である。だがそれは拮抗した戦闘ではなく一方的な殲滅戦になっていた。もちろん殲滅する側は機動六課の3人である。
 しかしその表情は優れなかった。
 最後の1機を撃墜し周辺警戒をしているとフェイトが口を開いた。

フェイト「……ライの方に援護に行かなくて本当にいいのかな?」

ヴィータ「出撃前にあんな大口叩いたんだ。行く必要なんかねーよ。」

 不機嫌さを隠そうともせずにヴィータはどこか投げやりに答える。彼女にはフェイトと違い、ライへの心配の感情は全くなくそこにあるのは彼への侮蔑に近い感情のみであった。
 ヴィータの言った「あんな大口」というのは、この出撃の前に起こった一悶着のことである。



機動六課・ヘリポート(数十分前)


 なのはとの会話を終え、デバイスの微調整や夕食を終えたライは隊舎の中を歩いていた。しかしそこでいつもとは違う空気を彼は感じた。いつもよりもピリピリした空気なのだ。
 そのことに疑問を感じて何かあったのか誰かに尋ねようとした時に音が鳴り響いた。
 その音は警報の音。意識を切り替えライは集合のかかったヘリポートに向かう。そこには意識を取り戻したティアナの姿もあり、見た限り深刻なダメージは引きずっている様子がないことに安堵した。
 フォワードメンバーが全員集まった時に聞かされたのは海上で飛行するガジェットの編隊の存在と陸地からこちらに向かってきている1機のナイトメアフレームの情報であった。
 敵の情報の次に伝えられたのは、今回出撃するのはシグナムを除く隊長陣のみであること。さらにそれ以外のメンバーはロビーで待機、ティアナは今回待機メンバーからも外すというものであった。
 これを聞いた時にライはナイトメアの対処には自分も参加することを上申しようとした。だがライが口を開く前にティアナが言葉を発した。

ティアナ「……言うことを聞かない奴はいらないってことですか?」

 その一言で場の空気は一気に重くなる。ティアナの方に振り向いたなのはは少し呆れた表情をしながら口を開く。

なのは「ティアナ、言ってて気づかない?それ、当然のことだよ。」

ティアナ「現場での指揮はちゃんと聞いてます。教導だってサボらずやってます!でもそれだけじゃ、私は強くはなれません!だから足りない分は自分で補うしかないじゃないですか!なのにそれすら否定されないと駄目なんですか!?私には才能もレアスキルも経験も無い。だから少しくらい無茶しないと、死ぬ気で頑張るくらいしないと強くなれないじゃないですか!!」

 それを聞いてスバル、エリオ、キャロは驚く。ティアナがここまで感情的になったことと、自分の能力にここまでのコンプレックスを抱えていたことに。
 なのははティアナの本当の気持ちを噛み締めるように真っ直ぐティアナを見つめている。
 フェイトはなのはとティアナを交互に見つめる。
 ヴィータとシグナムはティアナの考えを拳を使ってでも否定しようと一歩踏み出す。
 だが全員が何かアクションを起こす前に場の空気が再び変わる。いつの間にかティアナの前に進んでいたライが蒼月を展開しその刃をティアナの喉元に突きつけたのだ。
 その場にいたライ意外の全員が固まる。それはライが刃をティアナに突きつけたからではない。ライから感じる恐怖がその原因である。
 それはライが王であった時代に発していた覇気と殺気。それがこの場に充満していた。
 非殺傷設定の存在でほとんど経験の無い死の恐怖を感じた殆どのメンバーは冷や汗を流し、自分が少しでも動いたら殺されるのではないかという気持ちになり動けないでいる。
 本物の戦場を過去に経験したことのあるシグナムとヴィータは他のメンバーよりも楽に見えるがライの覇気と殺気に軽く飲まれていた。

ライ「ティアナ・ランスター」

ティアナ「……っひ…」

 模擬戦の時と同じくライはティアナをフルネームで呼んだ。返事をしようとしたティアナであったが口から漏れるのは乾いた声が漏れる音だけ。

ライ「貴様が強さにこだわる理由は分かった。だがそれはスバル・ナカジマの命を使ってまで証明すべきことか?」

ティアナ「………………え?」

 ライの言葉の意味を理解するのにティアナは数秒を費やした。だがそれはティアナだけでは無い。その場にいた何人かがライの言葉を理解するのに数秒かかった。

ティアナ「…な、にを言って…」

 乾ききった喉を震わせなんとか声を搾り出す。だがライはそんな彼女に吐き捨てるように言葉を重ねる。

ライ「あの模擬戦で最後、貴様が放とうとした砲撃魔法。それが貴様の思った通りに着弾していたらどうなっていた?」

 その言葉を聞いてティアナはハッとした。

ライ「高町なのはの隣にいたスバル・ナカジマを巻き込んでいた。
さらに命令は聞いていると言っていたが、ホテルアグスタでの襲撃で無茶をしてでもガジェットを落とせと誰が命じた?」

 ライは模擬戦の時になのはにしたように言葉でティアナを追い込んでいく。

ライ「貴様は誰かを傷つける力が欲しいのか?
   何のためにその引き金を引く?
   貴様が無茶をし死んだ場合、次に誰が傷つき、命を落とす?」

ティアナ「……う……ぁ…………」

 ライの言葉にティアナは言葉を返せない。ライの言葉で冷静になった頭が理解したのだ自分の浅慮さを。
 返事をできないティアナから視線を外すと同時にライは蒼月を待機状態に戻し隊長陣の方に向き直る。その時ライを正面から見た隊長陣は反射的にライに攻撃しなかった自分を褒めてやりたくなるほど理性を働かせていた。

ライ「ナイトメアの方の迎撃には私が赴く。援護は不要。邪魔になる。」

なのは「え?あ、でも――」

ライ「模擬戦で使用した魔法は使わん。そちらが考えているとおり、今までと同じ手段で敵を殲滅する。手の内は明かさん。」

 なのはとフェイトはその言葉に驚いた。はやてと話し合った内容を知っている筈のないライがまるで聞いていたようにこちらの考えを把握していたのだから。
 それだけ言うとライは殺気だけを解きヘリの中に乗り込んだ。
 ライの姿が見えなくなると隊長陣はハッとして動き出し、シグナム以外はヘリに乗り込む。それ以外のメンバーは糸の切れた人形のようにその場に座り込む。さらにフリードは怯え、キャロに至っては気絶している。
 その光景を見たシグナムはそれも仕方ないと思う。それほどライの覇気と殺気は常軌を逸していた。それは本物の戦場でも感じることが難しいレベルであったのだ。
 そんなことを考えている背後でヘリは離陸する。それを見送りながらシグナムは呟く。

シグナム「……ランペルージ、お前は何者だ?」

 その答えを知るのは現時点で本人とその相棒だけであった。



ミッドチルダ・廃棄都市


 数分前までただ廃れた建物が並ぶだけであったその場所も今は見る影もないほどの戦闘の爪痕を残し続けていた。
 その爪痕を刻んでいる1人と1機は今、少し距離を置き対峙していた。ライは戦闘が始まった時と同じく泰然自若とした佇まい。若干バリアジャケットの端々が傷つき汚れているがライ自信はほぼ無傷。
対して紅蓮弐式は特徴的な右腕は二の腕の辺りから断ち切られ、左腕に装備されているグレネードランチャーも切り裂かれている。今は左手に装備されている収束型AMF装備の呂号乙型特斬刀を構えているが、装甲にも複数の斬撃の跡が残っているためそこに力強さは存在しなかった。

ライ「……」

 ライはいつもの指導キーを口にせずに足元に魔法陣を展開、加速魔法を発動させる。
 紅蓮弐式は持ち前のスピードを生かしライに追随しようとするがそれは無駄な行動であった。
 紅蓮弐式の周りには白銀の魔法陣が複数展開されている。それはライが“使用した”魔法陣。加速魔法を連続使用しライが置き去りにし、残った魔法陣であった。
ライがその加速を利用し紅蓮弐式の横を通り過ぎるように駆け抜ける。紅蓮弐式は細かい加速を使いセンサーでは追いきれないライを追いきれずに反応ができない。
一瞬の交差で決着は着いた。両足の関節部分をMVS状態の蒼月で切り裂かれていた。そのまま紅蓮弐式は崩れ落ちる。
まだ戦闘を続けようと左腕を動かそうとする紅蓮弐式。だがコクピットブロックにライは近づき一閃。行動を停止させた。

蒼月「敵機、完全に停止。レーダーに敵機の反応なし。増援はありません。」

ライ「チューニングシステムとパラディンとのシンクロシステムは?」

蒼月「どちらも不具合はありません。」

パラディン「こちらもです。戦闘前の微調整は完璧でした。」

 戦闘中に見せた加速魔法の連続発動。これは蒼月1機では成せない。例えチューニングシステムで発動間隔を短くしたとしてもナイトメアのセンサーを振り切る程にはならない。例え無理に間隔を短くしようとしてもデバイスがその連続発動について行けず処理落ち、つまりはフリーズする。
そこで出てくるのがパラディンとのシンクロシステムである。これは蒼月とパラディンを接続し並列処理を行い、処理速度を向上させその問題を解決した。
このシステムは元々ライが飛行魔法を使用するために組み込まれたものであった。そもそも何故ライが飛行をできずに浮遊しかできなかったというとデバイスに入力されていた飛行魔法に関する命令が細かすぎたのだ。前述したフリーズの原因がそのまま直結している。
飛行魔法は無意識下で飛行や姿勢制御などを脳から指示している。ライはその指示が細かすぎデバイスが処理しきれずにフリーズ、結果浮遊しかできなかったのである。それが判明したためライはデバイスの処理速度を向上させることで飛行魔法の使用を実現させた。
ちなみにカートリッジシステムも似たような理由で違和感になっていたのだ。
 ライはカートリッジを使用する際にカートリッジの弾丸に込められた魔力量も計算してから使っていた。だがカートリッジの弾丸は管理局から支給されたものでその魔力量はそれぞれ微妙に異なる。といってもその差はコップに表面張力があるかないか程のものであるのだが、その差はライの中では大きなものだったらしくそれが違和感の正体である。
 その問題の解決は簡単であった。ライが自分で弾丸に均一に魔力を込めればいいのだ。
 ライは怪我が原因で病室にいたときにその弾丸を作っていた。幸い時間はあったためシャマルからその制作方法を教わりしばらくは作らなくても十分なストックを制作していた。

ライ「……」

パラディン「マスター?」

 何かを決意した表情のライは蒼月とパラディンの報告に返事をせずにどこか遠くを見る目をしていた。

ライ「パラディン、君は僕のことをどこまで知っている?」

パラディン「……シンクロシステムで蒼月との記憶領域まで繋がっていたので蒼月と同じ程度は把握しています。」

ライ「そうか………僕は彼女たちに全て話そうと思う。」

蒼月・パラディン「「……」」

 それは1つの覚悟。自分のことを知ってもらうということはもう戻れないということ。過去の自分を受け入れてくれるかは否か、それはライにもわからない。だがそれでも彼女たちを信じたいという自分の気持ちの方が拒否される恐怖よりも強かった。
 そしてライは視線を上げる。その目にはこちらに向かってくるヘリの機影が映っていた。

 
 

 
後書き
というわけで狂王状態初登場です。

説明は次回も挟みます。

過去編ですがしっかり書いたほうが良いという意見が多かったのでしっかり書かせていただきます。

ご意見・ご感想をお待ちしておりますm(_ _)m
 
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