セビーリアの理髪師
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16部分:第一幕その十六
第一幕その十六
バルトロとバジリオは彼等を見てほっと一息という顔であった。ロジーナも流石に強張った顔をしている。ところが伯爵が化けている兵士だけは平気な顔であった。
「では事情をお聞かせ下さい」
「あの兵隊がですな」
バルトロはすぐに士官に事情を話す。
「いきなりここにやって来て泊めろと言い出すわ後見している娘に色目は使うわで」
「その通りです」
バジリオも言う。
「それで困っているのです」
「彼に悪気はありません」
ロジーナは伯爵を庇う。
「ですから許して下さい」
「まあ落ち着かれてね」
フィガロが一番落ち着いていた。伯爵を除いて。
「そうすればおわかりになられるかと」
「何かよくわかりませんが」
士官は首を捻って彼等の話を聞いていた。本当にわからなくなっていた。
「何が何なのか」
「つまりですね」
「このならず者が」
バルトロとバジリオはまた言う。
「全て悪いのです」
「だからこそ」
「まあお待ち下さい」
明らかに冷静さをなくしている彼等からまずは距離を置いた。それで伯爵が化けている兵士に顔を向けるのであった。それから言う。
「とにかく君には来てもらいたい」
「どちらに?」
「憲兵隊の詰所に。事情聴取だ」
「おっと、それは必要がないよ」
「!?」
「ほら」
ここで懐からある書類を出して士官に見せた。すると士官は驚いた顔で姿勢を正して敬礼をし、兵士達もそれに続いて慌しく捧げ銃をした。それはバルトロ達にも見られた。
「何だ一体」
「何が起こったのだ」
皆今の出来事に呆然となる。
「これは一体」
「奇跡か、それとも」
「わかりました」
士官は緊張した面持ちで伯爵に応える。はたから見れば士官が兵士に敬礼をしているのだ。これ程おかしな光景はないと言ってよかった。
「そういうことでしたら」
「わからん、何事だ」
バルトロとバジリオはそんな様子を見てまだ言う。
「わしは夢を見ているのか」
「どういうことかしら」
ロジーナはロジーナで何が起こったのかわからなかった。
「将校さんの態度が急に変わるなんて」
「さて、騒ぎはまずは収まった」
フィガロはにこにこと笑って様子を見ている。
「このまま流れに乗れるかな」
「流れはこちらのものだ」
伯爵は今の状況に満足していた。
「よし、それじゃあ」
「何かが起こる」
銘々それははっきりわかっていた。
「このままいけば」
「上手くいくな」
「どうなるんだ」
だが結果への予想はそれぞれであった。何はともあれ騒ぎはまだ続くのであった。
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