バカとリリカルと召喚獣
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根拠って大事だと思います(By瑞希)
「さて、まず一つ目の根拠だが……」
そう言って坂本君はこちらに視線を向けます。……?
「おい康太。畳に顔つけて姫路のスカートの中を覗いてないでこっちに来い」
「…………!!(ブンブン)」
「は、はわっ」
必死になって顔と手を左右に振り否定のポーズをとるムッツリーニ君。ムッツリーニ君、君って人は、さっきOHANASHIをしたばかりなのに。
そんなムッツリーニ君は顔についた畳の跡を隠しながら壇上へ歩き出した。それにしても、あそこまで恥も外聞もなく低い姿勢から覗き込むなんて、ある意味では感心するの。
「土屋康太。コイツがあの有名な、寡黙なる性識者だ」
「…………!!(ブンブン)」
土屋康太という名前はそこまで有名じゃない。でも、ムッツリーニという名前は別。その名は男子生徒には畏怖と畏敬を、私達女子生徒には軽蔑を以って挙げられる。
『ムッツリーニだと……?』
『バカな、奴がそうだというのか……?』
『だが見ろ。あそこまで明らかな覗きの証拠をいまだに隠そうとしているぞ……』
『ああ。ムッツリの名に恥じない姿だ……』
そんな会話が聞こえてきます。そんな中で畳の跡を手で押さえてる姿が果てしなく哀れを誘うの。
「???」
隣では瑞希ちゃんが頭に多数の疑問符を浮かべていました。
もしかして、彼のあだ名の由来が分からないとか?別にただの『ムッツリスケベ』なんだけど。
「姫路のことは説明するまでもないだろう。皆だってその力はよく知ってるはずだ」
「えっ?私ですかっ?」
「ああ。ウチの主戦力だ。期待している」
確かに、試召戦争では彼女ほど頼りになる戦力はいないだろうな。
『そうだ。俺達には姫路さんがいるんだった』
『彼女ならAクラスにも引けをとらない』
『ああ。彼女さえいれば何もいらない』
誰でしょう、さっきから瑞希ちゃんにラブコールを送っているのは?
「木下秀吉だっている」
木下秀吉。彼女(あれ?『彼』だっけ?)は学力ではあまり名前を聞かないけど、ほかの事で有名なの。演劇部のホープとか、双子のお姉さんのこととか。
『おお……!』
『ああ。アイツ確か木下優子の……』
「高町なのはもいる」
え、私?
『そうだ、彼女もいるんだ』
『ああ。テニス部のエースオブエース』
『え?エースオブエース?『文月の白い魔王』『冥王の嫁』じゃなくて?』
『なんだそりゃ?』
『いや、いつも試合で相手を弄るだけ弄って最後に相手の顔面にトドメの一撃を叩き込むので有名なんだけど……』
『うわ…………』
変な二つ名を言った子。後でO☆HA☆NA☆SHIしよっか?
「当然俺も全力を尽くす」
『確かになんだかやってくれそうな奴だな』
『坂本って、小学生の頃は神童とか呼ばれてなかったか?』
『それじゃあ、振り分け試験の時は姫路さんと同じく体調不良だったのか』
『実力はAクラスレベルが二人もいるってことだよな!』
いけそうだ、やれそうだ、そんな雰囲気が教室に満ちていました。
そう。気がつけば、クラスの士気は確実に上っていた。
「それに、吉井明久だっている」
……シン----
そして一気に下がるの。
「ちょっと雄二!どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ!まったくそんな必要ないよね!」
となりではアキ君が席を立って叫んでいます。
『誰だよ、吉井明久って』
『聞いたこと無いぞ』
「ホラ! せっかく上りかけてた士気に翳りが見えてるし!僕は雄二と違って普通の学生なんだから、普通の扱いを--ーって、何で僕を睨むの?士気が下がったのは僕のせいじゃないでしょう!」
「そうか。知らないなら教えてやる。こいつの肩書きは《観察処分者》だ」
「……それって、馬鹿の代名詞じゃなかったっけ?」
誰かがそんな致命的な一言を口にします。
「ち、違うよ!ちょっとお茶目な十六歳に付けられる愛称で」
「そうだ。馬鹿の代名詞だ」
「肯定するな、バカ雄二!」
「そうです。そんなこと言っちゃ駄目だと思います」
と、アキ君のそれに便乗するように瑞希ちゃんが言ってきます。そんな言葉を聞いて、坂本君は驚いた顔をしています。まあ、当然でしょう。頂点に近い場所にいた瑞希ちゃんにはこの単語はなじみない筈ですから。
「姫路。お前観察処分者のこと、っていうか明久が観察処分者だって知っるのか?」
「はい。去年私もその件に関わっていたので」
「そうなのか?」
「はい」
「ちなみに、私もそのことは知ってるよ」
念のため、私もそう言っておきます。
『なあ。それはそうと、観察処分者って何なんだ一体?』
「ん?ああ、それは「まって」な、なんだ高町?」
「それは私が話すよ。坂本君が話したら有ること無いこと余計なことまで言いそうだし」
「ぐっ……」
坂本君の言葉を遮り、二の句を告げられないようにあらかじめ言っておく。これでよしなの。
「さて、それじゃあ話すけど。観察処分者ってのは、具体的って言うか簡単に言うと教師の雑用係かな? 力仕事とかそういった類の仕事を、特例として物理干渉……もとい物に触れるようになった試験召喚獣でこなすといった具合ね」
そう、本来なら召喚獣は物に触れることができない。彼らが触れることができるのはお互いの召喚獣だけ。要するに、幽霊みたいなものかな? まぁ、学園の床には特殊な処理が施してあるらしいから立つことはできるみたいだけどね。
『へえ……それってすごいんだな?』
『ああ。確か召喚獣って一桁だけでもかなりのパワーを出せるらしいぜ?』
『それが物理干渉できるんならすごいよな』
辺りから関心するような声が聞こえてきます。
「まあ、教師が承認しないと呼べないし、なにより痛みとか疲れとかがフィードバックされるんだけどね。何割か」
『おいおい。ってことは、観察処分者は試召戦争でそう簡単に召喚できないってことじゃねえのか?』
『だとしたら役立たずじゃねえか』
『なるほど、吉井はオチか』
「それは違いますよ」
今度は瑞希ちゃんが声を上げます。
「確かに観察処分者の召喚獣はそう簡単に召喚はできませんけど、そのかわり何度も召喚獣を操作してるので操作に慣れてるんです。明久君は何度も観察処分者の仕事をやってますから操作技術はかなり高いんです。多分、学年のトップクラスだと思いますよ?」
「そう。アキ君の強みは成績じゃなくて召喚獣の操作技術。多分だけど相手の点数が三~四倍くらいなら対等に戦えると思うよ?」
『そうなのか……吉井ってすげえんだな?』
『ああ、俺達なら同じ点数の奴らでやっとのはずだし……』
『そうか、だから坂本は吉井の名前を挙げたのか』
あちこちからアキ君の評価がいいほうに変わっていくのが分かります。よかった。
「はい、それじゃあ坂本君。あとよろしく」
そう告げて私と瑞希ちゃんは席に戻ります。戻るとアキ君が私達に「ありがとう、ほんっとにありがとう」と頭を下げてきましたもう、別に気にしなくていいのに。
「とにかくだ。俺達の力の証明として、まずはDクラスを征服してみようと思う。みんな、この境遇は大いに不満だろう?」
『『『『『当然だっ!』』』』』
「ならば全員ペンを執れ!出撃の準備だ!」
『『『『『おおーーッ!!』』』』』
「お、おー…………」
クラスの雰囲気に圧されたのか、瑞希ちゃんも小さく握りこぶしを作っていました。
「よし、明久にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。無事に大役を果たせ!」
「……下位勢力の宣戦布告の使者って大抵酷い目に遭うよね?」
「大丈夫だ。だまされたと思って逝ってみろ」
字が違う気がします。
「本当に?」
「もちろんだ。俺を誰だと思っている」
「え~っと、穴掘りシ○ン?」
「そうじゃねえ。とりあえず逝け」
しょうがない。ここは一つ……
「ちょっと待ってくれない、坂本君」
「な、なんだ高町?」
「アキ君にはちょっと用事があるから宣戦布告の使者はやれないと思うの」
「じゃあ、誰がやるんだよ?」
「えーっとね……あ、そこの君」
手近にいた男子を呼び止める。
「えっと、何?」
「お願いがあるの」
「お願い?」
「うん。あのね……」
上目遣いにして、胸元を強調してっと……。こうすれば大抵の男子は頼みを聞いてくれるってはやてちゃんが言ってたんだよね。
「宣戦布告の使者、やってくれる?」
「須川亮、突貫します!!」
効果絶大。自分でやっといて言うのもおかしいけど、ここまで効果があるなんて……
ダダダダダダダッ!ガラッ!
『俺達Fクラスは、Dクラスに対して試験召喚戦争を仕掛ける!』
『なんだと!?』
『Fクラスの癖に生意気なんだよ!』
『やっちまえ!』
『来るなら来やがれ! 俺には、絶対勝利の女神がついとるんじゃあぁぁぁぁああああああっ!!』
そんな騒ぎが聞こえたのは、ほんの数秒後のことでした。
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