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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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After days
summer
  日常との境界

 
前書き
summerのラストです。 

 





滞在3日目の朝。


明日はもう帰るための移動だけの予定なので、今日は各自で自由行動ということになった。


「とは言ってもな……」


土地勘が無いため、どこに何があるのかがさっぱり分からない。ホテルでもらったパンフレットにはあれこれ書かれているが、特に興味を引くものがない。

土地勘が無いという点では同じはずの他の面々は事前に調べてあったらしく、解散後は真っ先に飛び出して行った。


「むう……」


迷った挙げ句、結局『本来の目的』に時間を割くことにした。









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「……で、来たわけですか」

「面目ない……」


冷房が効いた『ホークス移動支部』に足を運んだ螢は来るなり副官に呆れられてしまった。


「まあ、隊長の仕事中毒は今に始まったことではありませんからね。……どうせなら報告書を書くの手伝って下さい」

「……おっと、いきなり用事を思い出したかも。すまんが手伝えん」


機敏に立ち上がり、出口へ駆け寄るが、一足早く飛来したダガーが錠前のノブを破壊する。


「逃がしませんが?」

「……………」


そもそもここに来たのは笠原に用事があったからなのだが、まずは目の前で2本目のダガーを構えている部下の微笑みが怖すぎたのでそちらを片付けることにした。









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Side海斗



螢が(自業自得で)大変な目にあっているその頃。海斗、夏希、凛、狼李は何故かホテルのゲームコーナーに居た。

卓球で無駄に接戦を繰り広げている凛と狼李。

片やアーケードゲームのコーナーで今や廃れつつある射撃ゲームをプレイする夏希。時おり「アハハハ!!」と危険な笑い声を上げているのは正直、鳥肌がたった。


「お前ら……ここまで来て何もゲームコーナーでエンジョイするなよ」


卓球が一段落し、射撃ゲームが《All clear!!》の文字が出てエンディングを迎えたところで取り合えずツッコンでみる。


「分かってないわね。今外に出たら暑いじゃない」

「夏だからな。ずっと暑いに決まってるだろ」

「だから日が落ちて涼しくなったところで出かけるのよ。幸い、今日は午後から曇り」


要するに暑い中動き回りたくない、ということなのだろう。気持ちは解らなくもなかったが、どうにも腑に落ちない海斗。


「ジュース買ってくる……」

「オレンジ」

「ピーチ」

「……烏龍茶」

「……………」







もう、半ば諦めてはいたが。







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Sideレオン



彼が今居るのは地元で一番の商店街らしい。確かに店も多く、品揃えも豊富だ。勿論、観光客向けのお土産屋もいくつかある。

買ったものを片っ端から持たせられてる身としては至極迷惑だが……。

隣を見やると、同じく荷物を持たせられてる螢の兄――蓮は前を行く4人の少女達を優しげな目で眺めている。

里香、珪子、直葉、そして沙良。沙良が合流したのは実に初日以来だが彼女曰く、後はもう非番らしい。

せめてエギルが居れば荷物持ちはもっと楽だったのだが、当のエギルは早々にどこかへ行ってしまったので、ここにはいない。


「おーい、まだ買うのか?」

「「「「もちろん」」」」


実はついさっきも同じ質問をしたのだが、帰ってきた答えは一緒だった。一昨日、昨日と2日とも海で散々遊び、夜も騒ぎ通しているというのに疲れを見せていないのは流石10代の乙女といった所だろうか。


「レオン君、今彼女達を止めるのは無粋というものだよ。諦めよう」

「蓮さんは慣れてるみたいですね……」


暗に彼女持ちかを訊ねてみるが、蓮は笑いながら首を振る。


「祖父も螢も俺も沙良に甘いからね。ああ見えて沙良も昔はおてんばさんだったからそう見えるんじゃないかな」

「なるほど……」


元気の塊のような里香、珪子、直葉に対して沙良の物腰は落ち着いている。
かと言って全くはしゃいでいない訳ではないが。


「でも沙良は友達が少なかった……いや、居なかったんだ」

「え……?」


意外な発言に思わず荷物を取り落としそうになる。


「内弁慶っていうのかな。家では元気なんだけど、学校とかに行くと、どうも自分から壁を作っちゃったみたいで」

「そうだったんですか……。意外です」

「だろ?だから、俺は沙良と友達になってくれた皆に感謝してる」


笑顔で店の前に陳列してあるアクセサリーを手に取っている妹を見つめながら蓮は微笑んでいた。









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Side明日奈



打ち寄せる波の音と浜で遊ぶ人々の声。水平線を見ればその蒼穹を遮るものはない。

アメリカとの合同演習と聞いたので、船影ぐらいは見えるものだと思っていたらそんなことも無いようだ。


「ユイ、どうだ?ちゃんと見えてるか?」


和人が明日奈が手に持つ一昔前のテープレコーダーのような機械に向かって話し掛ける。


『はい。時々ノイズが入る以外は正常のようです』

「うーむ……やっぱりそこを何とかしないとな……」


眉間に皺を寄せてブツプツ何事かを呟き始める。


「かーずーとくーん?せっかく綺麗な景色見に来てるんだから暗くならない!」

「すまん……」


2人は和人が旅行中も時間を見つけては調節していたカメラプローブの試運転(トライアル)がてら娘のユイに海を見せていた。
が、その結果があまり芳しくないため、和人としては今すぐ調節したい所だろうが、それに気を取られてマッドな雰囲気になってしまうのは面白くなかった。

和人もそれは分かっているので、空気を変えようと口を開く。


「ところでさ、この前螢の家に行った時、部屋に写真があったろ?」

「そう言えばよく見なかったけどあったね。何の写真だったの?」

「それがさ。螢のやつ、2人の女の子と撮ってたんだよ」

「え、螢君が?」


脳裏に呼び起こされる螢のある告白。何故かその写真がそれと関係しているような気がした。


「後で訊いてみたんだけどさ。教えてくれなかったんだよな……」

「じゃあ、そのどっちかなんじゃない?螢君の想い人」

「そうかもな。似合わないけど」

「だよね~」


もし仮に螢が居れば怒りそうな会話だったが、幸い(?)本人はここには居ない。


「そうだ!皆呼ぼうよ。せっかく遊びに来たのに写真の一枚も撮ってないよ」

「そういえばそうだな。……来るかな、あいつら」










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Side螢



「あー、もうやだ。休憩……」

「そうですね」


ペンを動かしすぎたせいで、熱をもった右手をブラブラ振りながら冷えた麦茶をあおる。


「やれやれ、何が悲しくて今時紙媒体の報告書を書かなきゃならんのだ……」

「雑務関係ならともかく、これは正式な書類ですからね。電子データではセキュリティも面倒ですし」


だからと言って全て手書きにというのは馬鹿馬鹿しい、と思ったが、それは言っても詮無きことなので麦茶をつぎ足して、呑み込んだ。

その時、脇に置いてある携帯端末がメールの着信を知らせた。


「ん?」


開くと差出人は和人で写真を撮るから浜辺に集合、と書いてあった。


「写真、か……」


正直あまり好きになれない事だが、だからと言ってばっくれるのは皆に悪い。


「行ってきていいですよ」

「……悪いな」


まだまだ膨大な量ある紙の束を藍原の方に押しやり、部屋を出ていった。








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程なくして全員が集合し、並び順で一悶着あった後、何とか全員が納得できるような写真が出来上がった。

初めて茅場に会ったあの日、俺がソードスキル作成を断っていれば、あんなにたくさんの死者は出なかったかもしれない。俺はこの世界に帰ってきてから1人になると、ついその事を考えてしまう。

あの世界に善かれ悪しかれ人格を歪められた人間は少なくない人数いる。かくいう俺もその1人だ。
それが良かったのか、悪かったのか、分かるにはまだまだ時間が掛かるような気がした。





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滞在最後の晩御飯はホテルでバイキングを楽しんだ。例のごとく騒ぎが起こってチーフウェイターさんにお説教をくらうという、まぁ当然のこともあったが、おおむね何事もなく夜はふけていった。






そして―――、







『Emergency――code:008』


午前零時過ぎ、この4日間沈黙を続けていた、緊急回線がアラームを鳴らした。


『格納庫内の『ヴァレリー』が原因不明の暴走。内閣がコンディション・レッドと判断しました』


黒地薄手のTシャツと膝までの長さのズボン、それに紺色のパーカーを羽織った人影が消灯されたホテルの廊下を音もなく歩いていく。


『想定事態code:008により、第三師団の投入を閣議決定』


その間にも彼の耳にインカムから機械音声による無機質な報告が流れてくる。


『ペンタゴンより『ヴァレリー』撃滅の提案、本国政府はこれに同意しました』


薄暗いロビーを抜け、生暖かい夜風が吹く外に出る。



『水城隊長』









回線が切り替わり、東京でくつろいでいるのであろう総帥の声がした。


「はい」

『件のブツは両国の秘匿技術の決勝だ。鉄屑1つ残すな。本日午前1時を以て『アマリリス』の使用を許可。―――『ヴァレリー』を撃滅せよ』

「了解」


インカムを耳から取り外し、深呼吸をする。


「ふぅ………」


ここからは『水城螢』ではなく、『第三師団長』として振る舞わなければならない。
だが、いつもなら迅速に切り替わる思考がこの時に限ってまだ境界線を越えることが出来ない。


「困ったものだ……」


眠れなかったのか、あるいは夜の逢い引きか。恐らくは前者だろうが、ホテルの入り口脇にある巨木の影にいるのは和人と明日奈。
『日常』と繋がる彼らを知覚しているだけに、『非日常』に上手く入れなかった。


「―――ここからは裏の世界」


2人に聞こえるよう、かつ自分に言い聞かせるよう言葉を紡ぐ。


「『日常』を守るために俺は『非日常』で戦う」


同時にゆっくりと歩を進め始めた。付けてくる気配は、ない。







「願わくは『日常』が居心地のいい場所であらんことを―――」









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「『アマリリス』起動」


その宣言に従い、『アマリリス』はその砲身を上げる。
砲身は円錐形になっており、その尖端は拳ほどの水晶球になっていた。


1964年に試作された『レーザー兵器』約60年の歳月を経て稀代の天才(天災)笠原竜也によって実用化されたそれが『アマリリス』だった。


「攻撃対象『ヴァレリー』――座標設定完了。距離2000。―――どうされました?隊長」


アマリリスから目を離し、制御パネルに何かを打ち込み始める螢。今さらそんなものに用は無いはずなのだが……。


「『アマリリス』のレーザー出力を下げろ。撃滅は取り止め、鹵獲する」

「…………!?な、なぜ?」

「暴走の原因が気になる。()()()に鹵獲し、解析しよう」

「……了解。砲手、出力を下げなさい」

「は、はい!」


キュウゥゥゥン。と音をたててアマリリスが沈黙する。


「『アマリリス』のターゲット変更。『ヴァレリー』のコアに照準する。替われ」


自ら砲手席に座り、狙いを『ヴァレリー』のコアに定める。

これは完全な命令違反。完全な彼の独断だ。バレれば命の保障は無かった。


――シッ!!


放射された光エネルギーはその熱で『ヴァレリー』の装甲を突き破り、コアを破壊した。


「回収部隊を向かわせろ。名目は残留物質の処理でいい」

「了解。お疲れさまでした」

「ああ。お疲れ」


気を効かせた藍原が暗に「もう休んで下さい」と言ったのを汲み取り、俺はホテルへ戻っていった……。






___________________________




翌日、帰りの飛行機にて


「すぅ………」


離陸した途端、寝始めた螢。
例によって水城家でチャーターした飛行機なので、皆は自由にしていた。


「どうしたのよ螢。あんなに無防備に寝ちゃって……」


和人が頬を突っついても、夏希やレオンが顔に落書きしても、同じ空間で皆がどれだけ騒いでもピクリともしない。
里香が驚くのも無理はないと言えた。


「まぁ、寝かせてやれって。疲れたんだろ」


蓮が苦笑しながら里香を諭す。


「まぁ、ほぼ毎日遊びまくってたしね。……あー、課題が憂鬱……」

「里香さん、思い出させないで下さい……」






天気は今日も良好。空港には定刻通りに着くようだ。


(……まったく、大したやつだよ。お前は……)


昼は『水城螢』として仲間と過ごし、夜は『第三師団長』として常に『ヴァレリー』に気を配る。同時に『アマリリス』の調整にも参加していた。
睡眠時間を削りに削ってこの4日間フル稼働していたのだ。


(こりゃしばらく稽古相手には使えないな……)


螢の体の心配をするより、自分の稽古相手の心配をするところが蓮らしかった。







 
 

 
後書き
ULLR「番外編三部作も残すところ後1つ。脱線気味だった前2つの反省を生かしつつ、頑張ります!」

レイ「脱線気味っていう自覚はあるのか……」

ULLR「無論、脱線にも意味はあるけど、文才が追いつかないのが現実だな」

レイ「…………」 
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