Muv-Luv Alternative~一人のリンクス~
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横浜基地
仲間
前書き
露骨な速瀬推し。速瀬もヒロインですがメインヒロインってわけではありません。
…寧ろメインヒロインはいない…のかな?
既に日も落ち、皆が寝静まった頃に基地内にあるグラウンドから自室の方へ戻る。
この後はこのままシミュレーター訓練をやるつもりだ。既に香月にも話は通してあるので、誰の目にも触れられずに一人で集中する事が出来るだろう。時が過ぎるまでは外にあるグラウンドで肉体訓練。走りこみから簡単に格闘術の練習をしている。ACに乗るだけが仕事じゃないからな。
「誰も居ないな」
格納庫に向かうまでの道のり。昼頃なら数人の衛士とすれ違ったりするのだが、流石にこの時間だと誰ともすれ違う事がない。流石に全員が寝ている訳ではないが、通常勤務の軍人は既に就寝している事だろう。
そしてそのまま誰にも会う事なく、格納庫へと辿り着く。
香月から既にシミュレーターの使い方は教わっているので、迷う事なくシミュレーターの主電源を居れ、俺の為に用意された強化装備に着替える。見た目は確かに思う所はあるが、強化装備の説明を聞いた所かなり性能がいい事が分かった。
この前面が透けている事にも確かな理由がある事には正直驚いた。
…とまぁ話が逸れたが、強化装備に着替え終わったので、そのままシミュレーターに乗り込み、コンソールに設定を打ち込む。
流石に、いきなりHIVE突入などを行う訳もなく、市街地に現れた数500のBETAを想定して訓練を開始する。
幸い視界はACと同じ網膜投影なので、其処に違和感を感じる事はあまりなかったが、握りなれない操縦桿には流石に戸惑った。
シミュレーター訓練が開始と同時に、視界に市街地の風景が映し出されるが、俺はすぐさまその場を離れる事が出来ない。右上のレーダーを確認すれば、既にBETAが此方に向かってきていると言うのに、AMSなしの操作にかなり戸惑っているのだ。
…いきなりBETA戦は無理がったか?と思うが、既に初めてしまったのだから仕方がない。そう割り切り、焦り始めている気を落ち着かせ、先ずは最初の一歩を踏み出す。
ACとは操縦が全く異なる戦術機。まさか此処まで苦戦するとは…!
そう憤りを感じた瞬間、遂に右方向大型ビルの影から数体の突撃級の姿が現れた。BETAの中では突撃級の速度が一番速いため、此方に到達するのは一番早いとは分かっていたが、こうも速いものなのか!
俺が突撃級が現れた事に驚いている最中に突撃級が待ってくれる訳もなく、そのままの速度で俺の方へと突き進んでくる。このまま当たれば間違いなく大破判定。シミュレーターは終了。幾ら戦術機に乗ったのが初めてと言ってもそれは情けないだろうに!
「くそ!」
思わず口に出た悪態の言葉と共に、頭で考えるよりも早く足がフットペダルを強く踏み込む。フットペダルが最大に踏み込まれる事により、跳躍ユニットの出力はゼロから一気に最大まで上がり、物凄い勢いと共に機体は宙へと舞い上がる。
当然地上での機体制御もままならない俺は空中でまともな機体制御など出来る訳もなく、空へと舞い上がった後に地面へと落下。無様な姿を晒すことになる。
「ッ!」
ACでは余り感じる事のない激しい衝撃に体に多少の衝撃が走るが、既に要撃級が直ぐ側まで近寄ってきている。
咄嗟に右腕に装備されていた突撃砲を構え、地面に伏せたまま乱射。まともに狙えていない狙撃だったが、数うちゃ当たるとはまさにこの事。見事接近してきていた要撃級を殺した。そのすぐ後に次なる要撃級が出てくるが、その前に機体をどうにか起き上がらせる。
一旦この場から離れる…!
このままでは成すすべなく殺られると判断した俺はぎこちない動きで跳躍ユニットを使いながらも、後ろへと後退する。だがBETAとの距離は中々離れず、後退の意味を成さない。
「っく!」
苦肉の策で近くにある高層ビルを壊しながら進むが、足止めの為に壊したビルは全て突撃級に壊され、突撃級によって作られた道を要撃級が通る。つまり意味がない。
まともな動きが取れない俺が要撃級と接近戦をこなせるとは到底思えない。先ずは遠距離からの射撃で数を減らすしかないだろう。
「喰らえ化け物が!」
着地と同時に背後を振り向き、突撃砲二つによる一斉射撃。マズルフラッシュにより視界が眩しくなるが、目を逸らすことなく、突撃級の足元を必要以上に打ち抜いてゆく。足を打ち抜いただけでは殺せないが、その進軍はとめる事が出来る。それに壁になった突撃級は要撃級といった足の遅いBETAの進行を遅らせてくれる。
その考えの元、ある程度の数の突撃級を足止めした所で、再び後退。
後退し反撃。そして後退。
これを繰り返し、一番厄介な突撃級を先ずは減らす。そして進行が即なり、まばらになった要撃級や戦車級を一体一体確実に殺してゆく。
要撃級の数が少ない時は覚悟を決め、長刀に持ち込み、速度を落とさずそのまま突撃する。
硬強な二つの前腕を喰らえば戦術機など一撃だ。その前腕の動きに全神経を注ぎ込み、BETAの動きに注意しながらも一体一体BETAを切り捨てる。
シミュレーションで設定したBETAの数は500。既に20分の時間が過ぎているが、今倒した数は未だに100。所詮先程までとっていた行動は逃げの行動。時間の割りに殺した数がこの程度なのは仕方のない事。しかし、その20分間、自分でも頭が狂いそうになるほど集中していた俺の額には既に汗が滲み始めていた。
なれない機体に圧倒的物量による圧迫感。そこから生まれる恐怖がこんなにも大きいものだとは思わなかった。今までACに乗り、数え切れない程殺し合いをしてきたので、ある程度はましだと思うが、この圧迫感は尋常ではない。
…前の世界で最後に複数のネクストに追われた時の感覚に似ている。
「ッ!嫌な事を思い出させるな!」
思い出したくもない映像が脳裏に浮かび、それを振り切るかのように背後に居た要撃級を振り返ると同時に切り捨てる。
ある程度の動作は慣れてきた。未だに動きに繊細はないが、動くのには問題がない。跳躍ユニットにも慣れてきた。ACと随分使い勝手は違うが、同じ人型機械である以上、根元にある操作は同じだ。それが助けになったかもしれない。
それでも白銀の動きには遠く及ばない。白銀に勝てずとも、せめてその隣に並べる程の腕はつけたいものだ。
そう思いながらも腕を休める事なく、長刀を振り回す。
時には突撃砲に切り替え撃ち殺し、時には空中から地面に向かって弾丸の雨を降らせる。
要撃級の動きがある程度理解できた所で長刀も突撃砲もしまい、短刀を取り出し、超近接戦にも持ち込む。
視界の横や直ぐ上を通り過ぎる要撃級の前腕。気を抜けば一瞬で取り付こうとしてくる戦車級。その二種類の存在に常に気を使いながらも機動性を上げるためにひたすら近接戦を挑んだ。
「ッハァ…ハァ…」
一時間の時が過ぎ、ようやく500のBETAを倒しきった時には完全に息が上がっていた。
情けない。
この言葉に尽きる。
たったの一時間の戦闘。たったの500のBETAでこの様だ。初めて戦術機に乗った、なんて言い訳にならない。…こんなんで伊隅達にあんな事を言ったんだ。恥ずかしくなるよ。
「っふぅ…とは言ったものの、一旦休憩を挟もう」
今の訓練でどれ程疲れたのかは自分が一番分かっている。激しく波打つ心臓を落ち着かせながら、シミュレーターを一時中断し、外に出る。
「ッ!?」
なんと外に出た瞬間、俺の視界に誰かが写った。
ゆっくりと視線をそちらに向けると…そこに立っていたのは驚いた表情をしている速瀬の姿。…最悪だ。
「…見ていたのか?」
「う、うん」
速瀬も速瀬で俺に対し何を言っていいのか戸惑っている様子で何も言ってこない。場に漂う沈黙。俺にとってはこの沈黙がかなりつらい。今最も見られたくない事を見られてしまったのだから。しかも速瀬にだ…。
最早投げやりな気分になった俺は速瀬に言った。
「見たんだろう?此れが俺だ。此れが俺の実力だ。笑いたければ笑えばいい」
自分でもこんな事を言って情けないとは思っている。何を言っているんだか…俺は。
「…ないわよ」
「なんだ?」
「笑える訳なんてない、っていってんのよ!あんな必死な表情で戦ってるあんたを笑える訳ないじゃない!」
「ッ!」
速瀬の言葉とその剣幕に押され、俺は一歩後ろに後ずさってしまう。それと同時に安心してしまった。…ああ、見られたのがこいつで良かったのかもしれない、と。
「…そりゃ最初地面に転んだ時は馬鹿にしてやろうなんて思ったわよ。でも…その後のあんたは本気だった。本気でBETAと戦ってた。どうしてそんな人間を笑えんのよ」
「…」
「あんた何か訳ありなんでしょ?戦術機もまともに乗れない人間がうちの部隊に入る訳がない」
正直全てを速瀬に言ってしまおうかと思ってしまった。
だがそれは駄目だ。俺の事は誰にでも言ってしまっていい事ではない。
速瀬は恐らく俺の話をまじめに聞いてくれるだろう。そして違う世界から来た、なんて言う馬鹿みたいな話を信じてくれるだろう。確証はないが、そう思える。そして俺も速瀬に話す事によって、気が楽になると思う。
だが駄目だ。それは俺が楽になるために逃げでしかない。そして俺の事を誰かに話す、と言う事はそれだけそいつを危険に晒すこと他ならない。
よって俺は何も速瀬に喋る事が出来ない。
「言う事は出来ない…ってやつね。相当なもん抱え込んでんのねあんたは」
「…すまない」
今俺が言えるのは謝罪の言葉だけ。
「何謝ってんのよ。私はそんな言葉を聞きたい訳じゃないんだけど?」
「…?」
なら何を言って欲しいんだ?少し頭を回転させ思考に嵌まるが、その答えが出る事はなかった。
そんな様子の俺に呆れたのか速瀬は大きくため息を付くと、俺に近寄り、顔も寄せてきた。そして俺の胸元を指で突きながらこう言った。
「私達を頼んなさいよ!同じ部隊の"仲間"でしょ!?」
「ッ!?」
その言葉に俺は何も言えなくなった。
既に互いの息が掛かりそうな程近くにある顔。そして真っ直ぐに交わる視線。俺は速瀬の深く綺麗な色をした瞳から視線を外す事が出来なかった。まるで溺れてしまったかのような感覚。その初めて感じる感覚に戸惑いを覚えるが、不思議を心地よいものだった。
「あんたの過去に何があったのかは知らない。でもね、あんたは一人じゃない。私達がいるの。部隊の仲間ってのは只一緒に戦うだけじゃない。そういった所でも支えあわないと駄目なのよ。分かる?」
「…あぁ」
「なら今度から頼りなさい。他のメンバーにいいずらかったら私にでもいいから、一人でどうにかしようなんて思わないで頼りなさい。それが一番早く解決出来るし、あんたも馴染めるでしょ?一石二鳥で最高じゃない!」
「っふ…その通りだ」
「な、なに笑ってんのよ!こっちはまじめに話してんのよ!?」
俺が笑ったことを癪に感じたのか、速瀬は俺の胸倉を掴み、揺さぶってきた。
「お、落ち着け!決して馬鹿にした訳じゃない!」
「なら何なのよ!」
「速瀬らしい考えだと思っただけだ」
「やっぱり馬鹿にしてんじゃない!」
どうやら俺の言葉は速瀬の怒りを鎮めるのは値しなく、速瀬はそのまま俺を上下に揺さぶる。流石に始めてのシミュレーター訓練後で疲れている事もあるので、これ以上揺さぶられると結構きつい。なので俺の胸倉を掴んでいる速瀬の腕を掴み、少し無理やりにでも押さえ込む。
しかしそれでも止めようとしない速瀬。これ以上はまずい…!遂に限界が迫った来た為になりふり構わず、あまり言いたくなかった言葉を言う事にした。
「お前の事は馬鹿にしてない。寧ろその逆でお前には本当に感謝してるんだ。俺の考えが間違ってた事を気づかせてくれたんだから」
「ッ!」
嘘ではない事を信じてもらうためにも速瀬の目を真っ直ぐ見ながら、そう言った。
すると速瀬は顔を少し赤く染めると俺の胸倉を掴んでいた手を離すと、俺から距離を取り、交わっていた視線を外した。
「わ、分かってるなら…いいのよ」
小さな呟きだった為に聞き逃しそうになるが、どうにか聞き取る事が出来た。
「と、とりあえず!今度からは一人で抱え込まない事!分かったわね!?」
「あ、ああ」
「私はもう帰る!最悪な気分だわ!」
速瀬はそう口に出しながら俺に背中を向け、部屋がある方に歩き始めた。
「速瀬!」
そんな速瀬を呼び止めるかのように俺は大声を出す。いきなり大声で声を掛けられた速瀬は肩を震わせ一瞬だけ歩みと止めるが、それも一瞬の事で再び歩き出す。
俺はそれに構わず、言葉を続けた。
「今日は助かった!有難う!」
自分でも柄にない事を言っているのは重々承知だ。だが、こんな気持ちにしてくれたのは、他ならない速瀬なのだ。
そして、そんな俺の最後の言葉を聞いた速瀬は手を挙げる形で答え、そのまま曲がり角を曲がり見えなくなった。
…本当に感謝している。俺が間違えていたよ。
仲間…か。今まで感じた事のない存在だったが…悪くない。
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