好き勝手に生きる!
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第八話「フリード・ゼルセンだと思ったら、セルゼンだった」
「俺にあんな槍働きとか無理だろ……。出世の道は遠いぜ……」
前回、はぐれ悪魔退治で他の部員の強さを身に染みたらしいイッセーは只今絶賛落ち込み中。まあ八つ消費したといっても『兵士』だしね。しかもその殆どを封印しているみたいだし、現段階じゃ一番弱いのはイッセーなのは仕方がないかな。経験も性能も皆に一歩どころか二歩三歩と遅れているのも事実。
「まあ、これから強くなるしかあるめえ。元気出しなよ、飴ちゃんいるか?」
「ああ、サンキューな」
現在、僕はイッセーの契約取りに付き添うため、自転車を漕ぐイッセーの後ろに座っていた。契約取りは悪魔のお仕事の一環で、普通は転移魔方陣から経由して契約主の元に訪れるんだけど、イッセーの魔力は雀の涙ほども無いためこうして自転車を漕ぐ羽目になっている。
僕も暇だし、何よりイッセーの傍にいると面白いことがいっぱい起こるから、イッセーの契約取りによく付き添っていたりする。ちゃんと契約を取れるように手伝っているから無問題だ。なんか、半部員化しているこの頃です。
「イッセー、まだー?」
頭をペチペチ叩く。イッセーは煩わしそうに頭を振った。
「もう直ぐだよ。っていうかいいご身分だよな、お前!」
そう? PSPやってるだけだけど。
やがて、僕らは一軒の家の前に止まった。どうやらここが依頼主のお宅らしい。
ブザーを押そうとしていたイッセーの指が止まった。その視線は玄関に向いている。
見ると、玄関の扉が僅かに開いていた。
「こんな深夜に物騒だな」
だね。泥棒に入られても知らないよ? 泥棒云々の前に面倒なことになってるみたいだけど。
玄関の隙間から微かに血の臭いがした。
「行くぞ」
「あいあい」
玄関の扉を開ける。電気をつけていないのか中は暗く、一番奥の部屋だけ灯りがついていた。
イッセーが忍び足で奥の部屋まで近づく。僕は堂々と足音を立ててイッセーの後に続いた。
「……ちわーっす、グレモリー眷属の者です。依頼主の方、いらっしゃいます?」
及び腰で扉を開けるイッセー。なんか見ていて情けないね。
イッセーが息を呑んだ。僕も中に入りソレを見る。
辺り一面に飛び散った血痕。そして、リビングの壁に上下逆さの状態で依頼主らしき人が縫い止められていた。壁には血文字で英語が書かかれている。
――神罰よ在れ、ねぇ……。
逆十字の格好で手足と胴体をぶっとい釘で縫い止められたその姿を直視したためか、イッセーが蹲って嘔吐した。イッセーの背中を擦って落ち着かせる。
「んーんー、んんー? これはこれは、あーくま様じゃありませんか~!」
後方から若い男の声が聞こえてきた。振り返ると、そこには神父の格好をした白髪の少年の姿があった。
弾むような足取りで近づいてくる神父に合わせて、首から下げたロザリオが鈍い光を放ちながら踊る。
「俺は神父~、少年神父~♪ ビッチでファックな悪魔をぬっ殺し~、鮮血の雨に打たれながら、勝利の余韻に浸るニヒルな神父~♪ 今日もお前らの首をちょん切るぜ~♪」
部屋に入ってきた少年はビシッとよく分からないポーズを決め、高らかに名乗りを上げた。
「俺の名はフリード・セルゼン! とある組織に所属している末端で、職業は神父さ! さあさあ、殺しましょ殺されましょ殺し合いましょう!」
うーん、随分と個性的な神父さんだねえ。頭がアッパッパーなのかな? 統合失調症か……怖いなぁ。僕も若年性アルツハイマーには気を付けましょう。
「これは、お前がやったのか?」
「イエス、イエース! だってこいつ常習犯だし殺すしかないっしょ! 泣き叫ぶだけで全然楽しめなかったのは残念無念だけどねえということで、死ねよ悪魔ぁあああああ!」
フリードくんは懐から柄の無い剣と銃を取り出すと、イッセーに向かって発砲した。それに合わせて僕はイッセーを突き飛ばし、反動で僕も回避する。
「あれあれあれぇ? キミ人間だよね、なんでその悪魔の味方をするのかなぁ」
「なんでもなにも、友達だもん」
友達は財産なのですよ! って、どっかのテレビでやってたよ。
「あー、なるなる。OKOK、僕チン理解。異端者殲滅これ鉄則♪ ということで斬ってもいいですね撃ってもいいですね? というか撃っちゃいますよ、撃っちゃった♪」
素早くマガジンを入れ替えたフリードくんは重い銃声を響かせながら僕を牽制し、イッセーに駆け寄って柄の無い先から光る剣を作り出した。
おお、ビームサーベルってやつですか!? いいなー、欲しいなー、貰っちゃおうかなー。
縮地でイッセーの前に躍り出た僕は半身になって剣を躱し、フリードくんの腕を下方に引きながら捻り、勢いに任せて投げ飛ばした。柄を握る手の小指を強く押して剣を奪うのも忘れない。
「ハァアアアアン!? お前、なに一丁前に抵抗しちゃってんの? しかも僕チンを投げ飛ばしてさあ! チョームカツクんですけど!」
フリードくんがなにやら騒いでいるけれど、僕はそれどころではなかった。
新しく手に入った玩具に目が釘付けになる。光の剣を出しては消し、ブンブン振って調子を確める。
「無視ですかそうですか!? ならテメェから死ねよ! アーメン!」
銃口がこちらを向き、立て続けに連射。避けたらイッセー死んじゃうよね。なら――、
――キンキンキンッ。
刹那の煌めき。一息で五度、弾丸を切り払う。
……また、つまらぬ物を斬ってしまった。なんつってなんつって!
「ハア? なんで光剣で斬れんの!? それ悪魔特化型の剣なんですけど! 物理的殺傷力皆無なんですけど!」
「んー、僕だから?」
「意味わかんねえし! さっさと死ねよクソ悪魔ぁああああ!」
ヒステリック気味に叫ぶフリードくん。若い頃から血管プチプチしてたら禿げるよ?
再度、縮地で接近した僕は銃のスライドを斬り払い、そのおでこにデコピンをかました。
バチンッ!
デコピンとは思えない音を響かせてフリードくんが吹き飛んだ。
脳震盪を起こしたのか気を失っていた。
玩具も手に入って機嫌も良いし、追撃しないで見逃してあげるかな。んー、僕ってば優しいね。
空間跳躍で適当な場所に跳ばそうと手を伸ばしたその時だった。
「やめてください!」
シスターの格好をした金髪の女の子が間に割り込んだ。手を広げて震えながらも僕の前に立ち塞がる。
「だれ?」
「アーシア!?」
おや、知り合いですか。空気と化していたイッセーはアーシアちゃんの突然の登場に困惑した様子だ。
「し、神父様に酷いことしないでください……!」
あれ? なんか僕、悪者扱いになってるよ?
「んー、でも先に襲ってきたのはそっちだしねぇ。それにイッセーなんかは問答無用で殺されそうになったんだよ?」
「そんな、何かの間違いです!」
「あれを見てもそう言えるかな?」
僕は壁に貼り付けてある依頼主を指差す。アーシアちゃんはソレを見て悲鳴を上げた。
イッセーが近寄り、アーシアちゃんの背中を擦る。しばらくして落ち着いた様子を見せるとイッセーが質問した。
「アーシアはなんでここに?」
「それは――」
「アーシアたんは俺の助手なんでございますのですよ」
額を押さえながらフリードくんが起き上がった。
「あー、いてぇなあ。んーで、アーシアたんはそこの悪魔さんとは知り合いなんですかねぇ。なになに? もしかしてシスターと悪魔の禁断の恋とか? うっは、マジで?」
「――っ! イッセーさんが、悪魔……?」
「そうなんでございますよ。そこのゴミは正真正銘のクソ悪魔なんでござ~い。だから僕チン、そこの汚物共々処理せにゃならんのですよ」
そこのクズのように、と依頼者を指差す。処理されそうになってたのはキミだけどね。
アーシアちゃんが息を呑んだ。
「これは、神父様が……?」
「んー、んー、んん~? アーシアたんはもしかしてこういう死体は初めてですかい? なら、たーんと見ておきなさいな。悪魔くんに魅入られた人間はこうやって屍を晒すのですなぁ。悪魔に魂を討った人間なんてクズですよクズ。ここ大事なところなんで二回言いました~」
「そんな……っ」
「悪魔は俺たち人間の敵なんですよ~。見つけたら即殺さなきゃならんのですよ~。絶対不変の事実なのでございますのですよ~」
絶句するアーシアちゃんにフリードくんが肩をすくめた。
「でもでも、武器をぜ~んぶそこのクソチビに駄目にされちゃあ、殺せるものも殺せないので、僕チン帰りまーす。そこのクソチビ、なま――」
いい加減鬱陶しいんで、空間跳躍で強制退場させました。もう十分でしょ?
イッセーが何とも言えない顔で僕を見てくるが、無視する。だって一人べらべら喋ってて、うざかったんだもの。
フリードくんが突然消えたことで目を白黒していたアーシアちゃんだったが、イッセーが気にするなと首を振ると、困惑した様子でコクッと頷いた。信頼されてるね~、イッセーくん。
「んに?」
床が青白く光り出し、転移魔方陣が現れた。魔方陣の中央にはグレモリーを表す家紋がある。
魔方陣が一段と強く輝き、リアスちゃんの眷属が現れた。
「イッセーくん、レイくん。助けに――来たんだけど」
「……いない」
「あらあら」
おー、わざわざ助けに来てくれたんだ。ありがとね、みんな。でもゴメンね。もう事態は収拾しちゃった。
「助けに来たのだけれど、もう終わっていたようね……。もうすぐここに堕天使たちが来るわ。その前に帰るわよ」
「なら、アーシアも一緒に!」
その言葉にリアスちゃんは首を振った。
「無理よ。魔方陣を使っての移動は悪魔だけしかできないの。しかもこの魔方陣は私の眷属しか使用できないわ。レイは一人で大丈夫よね?」
「にはは、もーまんたいだよ」
イッセーが苦渋に満ちた顔でアーシアちゃんを見た。
「アーシア……!」
「イッセーさん。また、会いましょう」
その言葉を区切りにイッセーたちは転移した。残されたのは僕とアーシアちゃんだけ。
「アーシアちゃんはイッセーと知り合いなの?」
「はい、私の大切なお友達です」
そっかそっか、イッセーのお友達か。
んー、ならここで見捨てるのも忍びないよね。後でイッセーに怒られちゃいそうだし。仕方ないか。
「僕はもう帰るけど、アーシアちゃんの家ってどこ? 送ってあげるよ」
「そんな、悪いですよ!」
「大丈夫大丈夫。大した手間じゃないし、すぐお届けできるよ。じゃあ、自分の家を想像して」
アーシアちゃんは目を瞑って、ムムッと眉間に皺を寄せながら言われた通りに自分の家を思い浮かべようとした。素直だねぇ。
「思い浮かべた? じゃあ送るねー。バイバイ」
腕を一振りして空間跳躍を発動。アーシアちゃんを自宅である教会に転移した。
「さてさて、お届け完了と。んじゃ、僕も帰ろうかな」
そして、再び空間跳躍で僕はオカルト研究部へと向かう。
アーシアちゃん、か。素直そうで良い子だし、イッセーのお友達みたいだしね。今度また会ってみようかな。
後書き
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