西部の娘
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第三幕その三
第三幕その三
「これからどうなるか」
ランスは言った。
「覚悟は出来ている」
ジョンソンは言った。
「よし、いい度胸だ」
ランスはそれを聞いて言った。
「その度胸に免じてせめて苦しまずにしてやる。感謝しろ」
「そうだ、この人殺しが」
誰かが言った。
「それは違う」
ジョンソンはそれに対し反論した。
「俺は人は殺しちゃいない」
「嘘をつけ!」
皆それに対しいきり立った。
「俺は嘘は言わない」
ジョンソンは再び反論した。
「俺は確かに盗賊だ、だが誇りもあるんだ。その誇りにかけて嘘は言わん」
「・・・・・・そうか」
ランスはそれを落ち着いた態度で聞いていた。
「だがポルカに入ったのは店の金を盗むつもりだったのだろう」
彼は問うた。
「・・・・・・最初はそうだった」
ジョンソンは白状するように言った。
「しかし何故盗まなかったんだ!?」
ソノーラが尋ねた。
「それは・・・・・・」
ジョンソンはそれを問われ逆に口篭もった。
「ミニーを見たからか?」
そこでソノーラは再び尋ねてきた。
「それは・・・・・・」
ジョンソンは答えられなかった。だがそれは肯定であった。
「そうか」
彼はそれを見て頷いた。
「どちらにしろあんたはここでは何も盗まなかったんだな」
「ああ」
ジョンソンはそう言って頷いた。
「だがそれが何になるというんだ!?」
彼を引き立てている男達が騒ぎだした。
「ソノーラさん、だからあんたは甘いって言われるんだ!」
「そうだそうだ、盗賊は縛り首にしろ!」
「久し振りに腐った果実を見たいんだ!」
彼等は興奮していた。そして口々に叫ぶ。
「皆まあそういきり立つな」
ランスは彼等を宥めた。
「ラメレス、行くぞ」
「ああ。だが少しだけ話させてくれ」
「何をだ!?」
ランスはそれを聞いて顔を顰めた。
「まさか命乞いではないだろうな」
「そんな見苦しいことはしない」
彼はランスを見据えて言った。
「そうか。だがな、皆御前を早く絞首台に送りたくてしょうがないんだ」
見れば皆激しい憎悪の目で彼を見ている。
「そうか・・・・・・」
ジョンソンはそれを見て諦めた。しかしソノーラが言った。
「まあ待て、罪人も最後には神父様に懺悔する機会が与えられる。彼にもそれ位認めてやろう」
「しかし・・・・・・」
皆彼の提案を拒絶しようとした。だがソノーラはそんな彼等に対して言った。
「俺達は神様を信じているだろう?ならそれ位いいじゃないか」
神を持ち出したことが決定打となった。
「まあちょっとだけなら・・・・・・」
彼等は渋々ながらもそれを承諾した。
「いいかい、ランスの旦那」
彼はランスに対しても尋ねた。
「ああ、だがほんの少しだけだぞ」
彼もそれを認めた。
「そういうことだ。ラメレス、話してみろ」
ソノーラはジョンソンに顔を向けて言った。
「すまない」
ジョンソンは彼に礼を言った。
「俺はもう心残りは無い。いつかはこうなるとわかっていたからな」
彼はランスやソノーラの方に身体を向けて話しはじめた。
「だが一つだけ心残りがある」
彼は少し俯いて言った。
「ミニーのことだ」
それを聞いたランスは顔を顰めた。
「彼女のことで頼みがある。彼女には俺がどうやって死んだか絶対に教えないでくれ」
「わかった、それは約束する」
ソノーラはそれを聞いて言った。
「皆もそれは誓ってくれるな」
そして彼は仲間達の方を振り向いて言った。
「あ、ああ」
彼等は戸惑いながらもそれを了承した。
「ラメレス、この通りだ。それは安心してくれ」
そして彼はあらためてジョンソンに対して言った。
「・・・・・・有り難う」
ジョンソンは再び礼を言った。そして言葉を続けた。
「彼女は俺が無事に何処かへ旅立ったと信じているんだ。そして俺がいつかまた帰って来ると信じている。その想いだけは決して壊したくはないんだ」
彼はさらに続けた。
「だが俺は今から死ぬ。ミニーに別れを告げずにな。ミニーは俺の荒んだ生活の中で唯一つ見つけた花だった」
「・・・・・・話は終わったか」
ランスはそれを聞いて言った。
「ああ、もうこれで終わりだ」
「そうか」
そして彼はジョンソンに歩み寄った。
「行くぞ」
「わかった」
そして縄がかけられている木の下に向かった。
男達はその周りを取り囲んだ。ランスは腕を組んで見ている。ソノーラは縄の下に来たジョンソンに対して問うた。
「目隠しはいるか?」
「いや、いい」
ジョンソンはそれを断った。そして台に登ろうとする。その時だった。
「待って!」
不意に誰かの声がした。若い女の声だ。
「まさか・・・・・・」
皆その声にハッとした。思わず動きを止めた。
「ミニーだ」
誰かが言った。見ればミニーが馬に乗ってこちらにやって来る。
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