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好き勝手に生きる!

作者:月下美人
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第一話「モットーは自由奔放ですが、なにか?」



 私立駒王学園。ここが僕――姫咲レイが通っている高校だ。学年は二年。だけど僕の年齢は十五歳。うん、飛び級しました。これでも成績優秀なんですよ?


 教室に入った僕は窓際にいる二人組を見つけると駆け寄り、ある人の背中に飛びついた。


「イィイイイッセエェェェェェ!」


「おわっ」


「おはよう!」


 この人の名前は兵頭一誠。エロ三人組の一人で変態だ。いつも、おっぱいおっぱい言ってる。


 よろめきながらもしっかりと僕を支えたイッセーは肩越しに振り返り顔を顰めた。


「レイ、危ないっていつも言ってるだろ!」


 僕がイッセーの背に飛び乗るのはいつものことで、文句を言われるのもいつものこと。女子たちが僕たちを見て「兵藤×レイくん……」とか「いや、ここはレイくん×兵藤よ!」だの「レイくん、はぁはぁ……」なんて言うのもいつものこと。聞こえませーん、気にしませーん。


 エロ三人組の一人、松田が苦笑する。今日も元気なつるっぱげです。


「相変わらずだな、レイは」


「にはは」


 そんな褒めんなよ、照れるだろ~。


「いや、褒めてないから」


 むむっ、なぜオッチャンの心の声が聞こえたんだ! まさか読心術!?


「にゅー、やるな、いっちゃんよ~」


 イッセーの頭をペチペチ叩く。僕の背は一四二センチとかなり小柄。しかも髪は肩まであり顔も女っぽいから、どこから見ても女の子にしか見えないらしい。事実、女子のグループに混ざっても違和感なく溶け込めるし、初見で性別を看破されたことは一度もない。


 イッセーの背に伸し掛かり頭をペチペチ叩く僕の姿を女子や男子たちは微笑ましそうに見守っている。僕はクラスの人気者なのだ、ぶいぶい!


 苦々しい表情で元浜がやって来た。


「どうだった!?」


「飯島の野郎、この土日で決め込みやがった……。お相手は三年のお姉さまだ」


 最後のエロ三人組、元浜の眉間には皺が寄っている。


「ねえねえ、なんの話?」


「やっぱりか! あいつ、今までファッションとか全然興味がなかったのに、急にイメチェンしたかと思えば……!」


 松田が忌々しそうに顔を歪める。僕は無視ですか。


「今頃、俺たち非イケメンをあざ笑ってるんだろうよ」


 元浜が眼鏡をくいっと光らせながら言う。カッコいいよね、中指で眼鏡のブリッジを押し上げるのって。でも、眼鏡光らせて言うことじゃないよね?


「くっそぉおお! 俺も彼女欲しい! 生おっぱい見たい! 触りたい! 掴みたい! 揉みたい!!」


「分かる! 分かるぞイッセー!」


 拳を握り締め、ダバーっと号泣する松田。無駄に熱いね。


 元浜が懐から何かを取り出した。


「偏見と差別という名の荒波に傷ついた心は秘奥のDVDで癒すべきだ!」


 イッセーの背をよじ登って肩車してもらい、DVDを見る。パッケージには色っぽい目をしたナースさんが胸元を開けて扇情的な格好をしていた。うん、エロDVDですね。ごちそうさまです。


「そ、それは、絶版ムチムチナースシリーズじゃねえか!」


「えっ、オークションで一枚五万はするっていうあの!?」


 驚いた声を上げたイッセーが食い入るようにDVDを見る。


「フッ、良い買い物をしたぜ」


 ニヒルに格好つける浜松。そんな彼らをクラスの女子たちは冷やかな目で見ていた。


「ホント、最低ね」


「野獣で変態」


「レイくんが穢れちゃうわ」


 最後の女子、さっきと言ってること違うけど……。


「「「うっさい、犯すぞ!」」」


 相変わらず最低だね、キミたち。ま、そんな彼らだからこそ、僕は今ここにいるんだけどね。にはは。





   †                 †                  †





「「告白された!??」」


「お~」


 松田と浜松が声を揃えて驚く。かくいう僕も驚いた。


 時刻は午後四時を過ぎたところ。授業はすべて終わり放課後タイム。


 松田と浜松で談笑してたところ、イッセーがなにやらニヤニヤした状態で帰ってきたら「俺、告白されちゃったよ」なんてカミングアウトをした。


 相手の子は天野夕麻ちゃん。昼休みに屋上に呼び出されたと思ったら、そのまま告白されたらしい。明日の放課後にデートをするようだ。いいねー、青春だねー。


 見ると松田と浜松は血涙を流していた。久しぶりに見たよ、血の涙。


「イッセーがデートだとぉおおお!?」


「馬鹿な……エロの権化と称された変態に彼女だと……? 世界の法則が崩れるぞ」


「HAHAHA! 泣け喚け叫べ! 俺は明日、運命の階段を登る。そう、大人の階段って名のな!」


 優越感に浸った様子のイッセー。だけど付き合い始め早々にそれは無理だと思うけどね。まあ、僕も恋愛したことなんてないから、絶対なんて言えないけど。


「頑張ってね~」


 ぎゃあぎゃあ言い合うイッセーたちにバイバイを告げて教室を出る。家に帰っても暇だし、どうしよっかな。


「んに?」


 前方に知人のイケメンを発見! 彼の者、未だ我に気付かず。ここは、やはり……突撃ッ!


 その背に走り寄り、飛び掛かる。


「木場くーん!」


「うわっ」


 流石は木場くんだ。まったくふらつかない。安定するなあ。


「レイくんか。また背後を取られちゃったね」


 一瞬硬直する木場くんだが、僕だと分かると苦笑する。にふふ、まだまだ精進が足りんぞ、若人よ。


「そうだ、レイくん。今暇かい?」


「うん、ひまひまー」


 超暇ですとも。


「じゃあ、一本どうかな」


「おー、やるやる~」


 木場くんとは今までにも何回か相手をしているから、何を言ってるのかはすぐに分かった。


 そのままおぶさって、いつもの所に連れてってもらう。


「じゃあ、始めようか」


 ついた場所は剣道場。そして眼前には防具をつけた木場くんが竹刀を正眼に構えている。切っ先がピッとしていて綺麗な構えだね~。


「おー」


 僕も竹刀を構え、意識を木場くんに向けた。


 さてさて、楽しくいこうか!





   †                 †                  †





 今、僕は目の前の男の子、姫咲レイくんと対峙している。彼は強い。その見た目からでは想像もつかない程に。今まで何十回と彼と剣を合わせてきたけど、ただの一度も勝利したことがない。あの人の騎士としては不甲斐ないけどね。


 相変わらずレイくんは防具も付けず制服姿のままだ。一度、何故着ないのか聞いてみたら「暑いし、邪魔なんだもん」と顔を顰めていたのを覚えている。本来なら無謀とも言える選択だが、彼の実力ならあっても無くても左程変わらないだろう。


「じゃあ、始めようか」


「おー」


 彼は緩慢な動作で竹刀の切っ先を右下に向けて、右脚を一歩引いた半身の姿勢を取る。これが彼の構えだ。


「行くよ!」


 床を蹴って一息でレイくんの眼前に迫り、頭目掛けて振り下ろす。出し惜しみはしない、全力でいく!


 レイ君は一歩踏み出すことで躱すと同時に、彼の竹刀が跳ね上がった。逆袈裟懸け、僕の洞を狙ったカウンター! 僕は大きく外側に跳躍することで逃れると、反復横跳びの要領で間髪入れず床を蹴り、レイくんの竹刀を持つ腕を狙う!


 パッ。


 ……ッ、竹刀から手を離して回避した!? レイくんは空中にある竹刀を片手で素早く掴み、そのまま振るう。


「くっ」


 首を傾けてなんとか紙一重で避ける。なんてスピードだ、まったく見えなかった! 運よく避けれたから良いものの、次は無いだろう。


「まだまだいくよ~」


 のびのびとした姿に似合わず、その剣速は凄まじい。上下左右、縦横無尽に迫る剣を勘だけで捌く。これを片手でやって且つ余裕のその表情、底が見えない。


「にょほほほほ」


 あまりの速さで竹刀が二本、三本と増えているように見える。本当に人間か!? 同業者って言われた方がまだ納得できるよ!


 レイくんとの試合では『力』は使わないようにしている。人目もあるしフェアじゃないと思ったからだ。だけど、使ってもはたして勝てるかどうか……。


 このままじゃ防戦一方でジリ貧だ。ここは攻めるしかない!


「ハァッ!」


「にょ?」


 前へ出る。集中しろ、チャンスは一度っきりだ。


「――ここだっ!」


 僕の頭に迫る打ち下ろしを体を捌くことで躱し、カウンターの一撃をレイくんの首に決める。タイミングはどんぴしゃ、躱せない!


「ざんねん、はっずれ~」


 僕の竹刀はレイくんの首に食い込み、そのまま通り過ぎた。残像!?


「はい、おわりー」


 その声とともに、僕の頭に軽い衝撃が走った。





   †                 †                  †





 試合が終わった僕らは帰り支度を済ませて校門に向かっている。すれ違う女子たちがキャーキャー喚いてるけど、確かああいった人を腐女子って言うんだっけ。


「それにしても、やっぱりレイくんは強いね。独学だっけ?」


「うん、木場くんも段々強くなってきてるね。結構楽しめたよ」


「そうかい? そうだと嬉しいな」


 そうそう。だって初めの頃なんて一瞬で終わっちゃって勝負にもならなかったもの。


「でも、やっぱり悔しいな」


「にはは。僕に勝とうなんて三万年早いよ」


 校門が見えてきた。今日はここでお別れかな。


「んじゃあね~、木場くん。また明日ー」


「うん、また明日」


 手をぶんぶん振り、駆け出す。明日はどんな面白いことが待ってるかな?





   †                 †                  †





 とある部屋では二人の女性が対面していた。


「部長、例の者が動き出しました」


 電気をつけていないため室内は薄暗い。紅髪の女性と黒髪の女性が互いに向き合う形でソファーに座っており、チェスに興じていた。


「そう、それで?」


「ある生徒と接触したようです。確か、二年の兵藤一誠といいましたか」


「ふぅん、漸く尻尾を出したってわけね……チェックメイト」


「あら」


 紅髪の女性の一手に黒髪の女性の手が止まる。そのまま黙考する中、紅髪の女性が立ち上がり、窓を全開にした。


「さて、あなたは一体なにをする気なのかしら、迷い子さん?」


 女性の口元が怪しく、艶めかしく緩んだ。

 
 

 
後書き
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