八条学園怪異譚
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第十九話 口裂け女その六
二人もその口を見て納得した顔で頷いて述べた。
「切り傷って噂もあったけれど」
「実際はそうなのね」
「ああ、あの噂ね」
相手、口裂け女の方も納得した感じで二人に応える。そうしながらマスクをつけなおしてそのうえで言うのだった。
「整形手術で失敗したとか」
「そう、その噂だけれど」
「違ったのね」
「そういう口に変えることも出来るわよ」
それ自体は出来るというのだ。
「ちゃんとね。けれどね」
「今はその口なのね」
「そっちで」
「あっちの方が皆びっくりするけれどね」
口裂け女はにこにことしながら二人に話す。三人で正門の傍でそうしているのだ。
「今日はこっちなの」
「気分で?」
「そうよ、気分でそうしたのよ」
こう愛実にも答える。
「考えてね。どうかしら」
「まあいいんじゃない?」
愛実は首を少し右に捻って答えた。
「それでね」
「だったらいいけれどね。それでだけれどね」
口裂け女は愛実に応えながらあらためて二人に言ってきた。
「あんた達のことは博士とか花子さんとかから聞いてるから」
「あっ、そうなの」
「もう聞いてるの」
「パーティーにいつも出てたけれど気付くかなかったんだね」
「ううん、そういえばいたわね」
「端っこの方にいつも」
「研究室にもいるよ、博士のね」
口裂け女はこのことも話した。
「ただ。あたしは口以外は普通の人間と変わらないから目立たないのよね」
「確かに。外見は美人だけれど普通に怪しい人って感じで」
「ストーカーに見えるけれど人間そのままよね」
「怪しいとかストーカーは余計だけれどね」
口裂け女はそこは言った。
「まあこういう外見だからね」
「妖怪さん達の中じゃ目立たないのね」
「そうだったのね」
「そうなのよ。まあここで立ち話も何だしね」
口裂け女はその切れ長の目をにこりとさせて二人に言ってきた。
「歩きながら話さない?あたしの家に案内するよ」
「っていうか口裂け女さんってお家あったの」
「そうだったの」
「家っていうか寝起きしてる場所はあるわよ」
「あっ、あるの」
「そうだったの」
「妖怪にも生活があるのはわかってると思うけれど」
口裂け女は二人に対してこう返した。
「それはもう」
「まあそうだけれどね」
「そのことはね」
二人もこれまでのことでそれはわかっていた、だがそれでも口裂け女自体を見てそのうえでこう言ったのである。
「けれど、あんたいつも出歩いてるイメージあるから」
「そういうのはちょっと」
「妖怪だって雨露を凌がないといけないからね」
このことは言うまでもなかった。
「だからあたしは初等部の博物館の中にいるのよ」
「口裂け女が博物館なの」
「そこにいるの」
「電車の博物館があるわよね」
この学園の中には様々な博物館がある、動物園や水族館もあれば歴史博物館、そして鉄道のものもあるのだ。
初等部には鉄道博物館があり彼女はそこにいるというのだ。
「そこにいるのよ」
「あそこねえ」
「何か違和感あるけれど」
「最初は車のところにいたけれどね」
車の博物館もあるのだ。
「ちょっとそこは寒くてね」
「寒い?」
「あそこってそうなの」
「あたし冷え性で寒がりなのよ」
口裂け女は目を細めさせて少し苦笑いになって二人に話した。
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