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万華鏡

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第十七話 甲子園にてその二十一

「ホームラン二十五本でね」
「打点三十七ね」
「阪神に若しいたら」 
 里香は戦慄さえ感じた。
「もう無茶苦茶になったと思うわ」
「そのバッティングで守備もだとね」
「ええ、守備も大事だから」
 このことも重要である。
「若し守れないとね」
「サードって大事だし」 
「そこが穴だったら困るでしょ」
「ええ、確かにね」
「だから古木さんじゃなくて新井さんで助かったわ」
 まだずっとましだったというのだ。
「そう思うわ」
「その新井さん打ってくれるかしら」 
 カウントはワンストライクツーボールになっていた。
「ここは」
「どうかしらね、本当に」
 琴乃も言う。
「フォアボールもあるけれど」
「若しも」
 里香は最高の望みを言った。
「ホームラン出たら」
「その時は、よね」
「四点よ」
 二塁にいるその鳥谷を見ての言葉だ。
「それだけあればね」
「もう勝てるわよね、絶対に」
「若しあの人が急に崩れても」
 そうなってもというのだ。
「中継ぎ、抑えがいるから」
「勝てるわよね、阪神だと」
「例えJFKがいなくても」
 この頃の中継ぎ、抑えがやはり最強だった。
「阪神は本当jにピッチャーはしっかりしてるから」
「何時でもね」
「勝てるわ、それでね」
「本当にピッチャーには困らないけれどね」
 あの日本一の頃は弱体と言われてはいた、しかし実はそれは先発が打たれていただけでやはり中継ぎ、抑えはよかった。
「けれどいてくれてるから」
「四点があれば」
「勝てるわ。というかね」
 また切実な顔で言う里香だった。
「阪神はいつも四点取ってくれていたら」
「八十勝いってるわよね」
「優勝してたわ」
 そしてだ。
「クライマックスシリーズでも勝ててるわよ」
「阪神って四点以上取られる試合少ないからね」
 琴乃もこのことに気付きだしている。
「四点も、ていう位に」
「昔のパリーグとは正反対にね」
 かつてのバファローズならこれが違う。
「六点取られて八点取り返して」
「豪快ね」
「また追いつかれて引き離してとか」
「それ何処のチーム?」
「昔のバファローズよ」
 やはりこのチームだった、その頃の親会社は近鉄である。
「そんな野球だったのよ」
「ある意味羨ましいわね」
「強かったけれどね、あの時のバファローズは」
「今はあんなのでも」 
 パリーグの横浜と言われている、まさに凋落だ。
「昔は強かったのよ」
「昔は、って」
「阪神もそうなって欲しくないから」 
 また切実な顔になる里香だった。
「頑張って欲しいわ」
「やって欲しいけれどね」
「本当にね。さて、と」
 またボールだった、これでワンストライクスリーボールだ。
「あと一球でフォアボールだけれど」
「四球じゃね?相手のピッチャーコントロール乱れてきたぜ」 
 美優はマウンドにいる広島のピッチャーを見て言った。
「二点取られたところでな」
「そうみたいね。これだと」
「これだと?」
「あと一球でフォアボールだから」
 里香の灰色の頭脳が今は野球に向けられていた、彼女はそうしてからここで一つの答えを出したのである。 
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