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万華鏡

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第十七話 甲子園にてその十九

「その人ならやってくれる、って思って打線全体が頑張るじゃない」
「その人までつなげようと思って」
「そう、それでなの」
 里香は今もグラウンドを見ている、一番打者が打席に入っていた。
「違うから」
「兄貴いないから。新井兄弟ももう弱くなってるし」
 阪神にとって残念なことに、である。
「鳥谷さんがいても」
「あの人チャンスに打たないわよ」
「そうなのよね」
 困った顔で琴乃に返す里香だった。
「あの人は守備も足もいいけれど」
「肩もいいわよね」
「チャンス以外には打ってくれるのよ」
 あまりいい時には打たないということだ、この場合は。
「鳥谷さんは三番で」
「で、今の西岡さんはどうかしら」
「日本シリーズでは凄かったけれど」
 ちなみにその時の相手が阪神だ、伝説的な負け方をした。
「それでもここでは」
「わからないのね」
「阪神だから」
 最早これが理由にさえなる。
「だからね
「阪神だからよね」
「そう、打たなくなることが多いから」
 新井も城島もだ。最初は打つがそれが途中からなのだ。
「今のところ打ってくれてるけれど」
「そろそろよね」
「ええ、そろそろね」
 その打たなくなる時期が来ているというのだ。
「来るわね」
「覚悟しておくべきかしら」
「そう思うわ。折角打ってくれたけれど」
 里香はその二塁のルーキーを今も見ている。
「得点にはならないかもね」
「得点にならないヒットってね」
「残念よね」
「これ以上はないまでにね」
 五人は今不安に満ちていた、打って欲しいがそれでも打ってくれるかどうかはわからない、例えそれが西岡でもだ。
 何はともあれその西岡がバッターボックスにいる、一球目はボール、二球目はストライクをそれぞれ見送った。
 それからだった。三球目にだ。 
 西岡はバットを振るとそれでだった。
 センター前に弾き返した、それでルーキーはホームインし得点が入った。まさに待望の先取点が入ったのだ。
 それを見て甲子園は湧きかえった、琴乃も満面の笑顔で言う。
「今は打ってくれたわね」
「ええ、そうね」
 里香も笑顔で応える。
「西岡さんやってくれたわね」
「これで一点ね」
「かなり違うわ。出来ればね」
「追加点よね」
「ええ、もう一点」
 つまり二点目をだというのだ。
「それが入ればね」
「追加点、二点あると」
「今のあの人の調子ならいけるわ」
 勝てるというのだ。
「最悪でも一点で抑えてくれるから」
「中継ぎ、抑えもいるし」
 阪神はこちらの心配はない。
「いけるわね」
「得点が入れば勝てるのよ」
 とにかくこれに尽きた。
「本当にね」
「じゃあもう一点」
「入って欲しいわ」
 里香は願ってさえいた。
「ここでね」
「そうよね。平野さんに鳥谷さんに」
「ここから入らないのがいつもだけれど」
「追加点ないとね」
「勝ちにくいから」
 こう話す彼女達だった、そうしてだった。
 平野は送り鳥谷が何と打った、そして二点目が入った。
 里香は生還する西岡を見て笑顔になって述べた。
「いけるかもね」
「この試合勝てるか?」
「ええ、今のピッチャーの調子だとね」
 美優jにもその笑顔で返す。 
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