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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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決戦

 
前書き
ケットシーが多いなー 

 
 ゲツガとキリトは同時にその名を読んだ。それを聞いたこの場の全員は凍りつく。

「え……嘘だよね……団長が……茅場……晶彦なんて……」

 ユキが絞り出すように声を上げた。

「本当だ。お前もそう思うだろ、キリト」

「ああ。ゲツガの言う通りだ。それに《他人のやっているものをただ眺めるほどつまらないものはない》。そうだろ?茅場晶彦」

 そう聞いた瞬間、アスナも絞り出すように声を出す。

「団長……本当……なんですか……?」

 しかし、その問いには答えずにゲツガとキリトのほうを向いて言葉を発す。

「……なぜ気付かれたのか参考までに教えてもらえるかな……?キリト君から」

「最初におかしいと思ったのは例のデュエルの時。最後の一撃だけ、あんたあまりにも速過ぎたよ」

「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。君の動きに圧倒されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまった」

 そう言った茅場晶彦は今度はゲツガを見て言う。

「今度は君だ」

「俺の場合は、キリトと同じことと、俺に迫った時だ。あの時、お前が口に出してなかったらまだ分からなかったよ」

「あの時口に出ていたとはな……。デュエルでは君には正直驚いた。オーバーアシストを初見で防ぐなんて見たことがなかった。少しひやりとしたよ。」

 そう言って、口元の片方を歪めほのかに苦笑の色を浮かべた。

「予定では攻略が九十五層に達するまで明かさないつもりだったのだがな」

 ゆっくりとプレイヤー全体を見回し笑みの、色合いを変えて超然としたものに変え、紅衣に聖騎士は堂々と宣言する。

「確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上階で君達を待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 近くでユキがよろめく気配を感じた。ゲツガはユキを視線を逸らさずに弓を持たない右手で支える。

「趣味がいいとは言えないぜ」

「まったくだ。最強のプレイヤーが一転最悪のラスボスかよ」

 キリトの言葉を続けるようにゲツガが言った。

「なかなかいいシナリオだろう?盛り上がったと思うが、まさかたかが四分の三地点で看破されてしまうとはな。……君達はこの世界での最大の不確定因子だと思っていたがここまでとは……特に君だ。ゲツガ君」

 茅場晶彦はゲツガを興味ありげに見た。

「君は、色々とすごいことを思いつく。まずは、筋力一極の移動方法。あれは最初見たとき驚いたよ。そして弓だ。この世界ではないはずの飛び道具を柔軟な考えで造りだした。ほかにも、君の言い方で《武器殺し(ウェポンキラー)》だったかな?あの技は正直君じゃないと出来ないと思うよ。力で全てをねじ伏せる君にしか……」

 ゲツガはその言葉に少し苛つくが次の言葉を待った。

「そして……」

 今度は疑問、そして不快さが入り混じった表情を浮かべる。

「あの力だ。システム的にも認められていないあの謎の力……あの力どのようにしてそれを手に入れた?」

 茅場晶彦はそう問うがゲツガは何も答えない。そして茅場晶彦は肩をすくめると今度はキリトのほうを向いて言った。

「キリト君、君も最終的に私の前に立つだろうと思っていたよ。全十種存在するユニークスキルの内《二刀流》スキルは全てのプレイヤーのなかで最大の反応速度を持つものに与えられる。ゲツガ君もそうだったが剣の種類が違ったためかそうではなかった。そしてそのスキルを持つ者は魔王に対する勇者の役割をになうはずだった。勝つにせよ負けるにせよ。だが君は私の予想をはるかに超える力を見せた。攻撃速度といい、その洞察力といい、な。まあ……その想定外の展開もMMORPGの醍醐味というべきかな……」

 その時、今まで凍り付いていたプレイヤーの一人がゆっくりとした動作で立ち上がる。その男は血盟騎士団の幹部を務めていた男だったと思う。

「貴様……貴様が……。俺達の忠誠……希望を……よくも……よくも……」

 男は巨大な斧槍を握り締め、

「よくもーーー!!!」

 絶叫しながら地を蹴って茅場晶彦へと突撃し始める。止める間もなかった。大きく振りかぶった斧槍は茅場晶彦へと振り下ろされる。だが、茅場晶彦の動きのほうが早かった。茅場は素早くウィンドウを開いて素早く操作する。そのあと、斧槍を振りかぶった男の身体が空中で止まり、力なく落ちた。その男のHPバーは緑色に枠に点滅していた。。この状態は麻痺毒だ。茅場晶彦はまだ手を動かし続けていた。

「あっ、ゲツガ……君……」

 不意にユキが力が入らないと言った具合に全体重が右手に掛かる。しかし、ゲツがにとっては何の障害にもならない。ユキを見ると、HPバーが緑色に点滅している。アスナもクラインもエギルも、このエリアにいる茅場晶彦、ゲツガ、キリト以外のプレイヤーは全て麻痺になっていた。

「テメエ……ここの全員殺す気か……」

 ゲツガは怒りを込めた声で茅場晶彦に言う。

「まさか。そんな、理不尽な真似はしないさ」

 茅場晶彦は微笑を浮かべたまま首を左右に振る。

「こうなってしまっては致し方ない。予定を早めて、私は最上層の紅玉宮に君達の訪れを待つとするよ。九十層以上のモンスター群に対抗しえる力として育ててきた血盟騎士団、そして攻略組のプレイヤー諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君達の力ならきっと辿り着けるはずさ。だが……その前に……」

 茅場晶彦はゲツガとキリトを交互に見た。

「キリト君、ゲツガ君、君達には正体を看破した報償を与えなくてはな。チャンスを与えよう。今、この場で一対一で戦うチャンスを。無論不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーこの世界からログアウトできる。……どうかな?」

 茅場晶彦がそう言った。ゲツガは、このときを待ってましたとばかりに口元をつり上げた。その様子を見たユキは、まさかと思い言った。

「まさかゲツガ君……挑む気なの!?」

 ユキの問いかけにこくりと頷く。どうやらキリトのところでもアスナがユキのようなことを言ったみたいだ。

「駄目だよ……ゲツガ君……絶対に駄目だよ……」

 ユキがそういうがゲツガは、何も言わない。そしてユキを持ち上げ、壁のところに行った。
壁から振り返り見るとキリトは二振りの剣を茅場晶彦に向けて構えていた。その近くに行く。近くに行かなければユキの声で決心が揺らぐ気がしたからだ。

「キリト、最初は俺にやらせろ」

「いや、最初は俺がやる。こいつはそれがご所望だ」

 茅場晶彦のほうを向くとこくりと頷いていた。

「君とは最後に戦えたら戦いたい。色々と話もしたいからね」

「チッ……分かったよ。ただし、最初にやるんだったら絶対に勝て」

「分かってる。俺は絶対にこの世界から出るんだからな」

 そう言って離れるとクラインやエギルが声を上げた。

「やめろ!キリト!!ゲツガ!!」

「キリトーッ!!ゲツガーッ!!」

 二人は必死に身体を起こそうともがいている。キリトとゲツガは二人のほうを見て小さく頭を下げた。

「エギル。今まで、剣士クラスのサポート、サンキューな。知ってたぜ、お前が儲けのほとんど全部、中層ゾーンのプレイヤーの育成につぎ込んでいたこと」

「悪いな、これ以上犠牲を出したくないんだよ。それと、最初のボス攻略、お前がチームに入れてくれたこと、うれしかったぜ」

 そう言って次はクラインのほうを見た。

「クライン……あの時、お前を置いていって、悪かった。ずっと後悔していた」

 キリトはかすれた声で言った。

「クライン。俺らがもし負けても、お前が攻略組を引っ張っていってくれ。それと、お前には色々と世話になったし、迷惑をかけたな。本当に悪かった」

 クラインは叫びを一度やめ、次は喉が張り裂けんばかりの大声で絶叫した。

「て……てめぇら!キリト!ゲツガ!二人して謝ってんじゃねえ!特にゲツガ!てめぇのガラじゃねぇんだよ!今謝ってどうすんだ!許さねえぞ!ちゃんと向こうで、飯の一つも奢ってからじゃねえと、絶対許さないからな!!」

 なおもわめき続けるクラインに頷きかけた。

「解った。約束だ。次は向こうの世界でな」

「必ず勝つから、おとなしく待っとけって」

 そう言ってゲツガとキリトは自分の最愛なる人をもう一度見る。ユキは身体を動かそうとしていた、ゲツガは叫ぶ。

「ユキ、こんな遠くからで悪い!けど、決心が揺らぎそうなんだ!お前といると……お前と長くいたいと思って!だから、この戦いが終われば、お前に会いに行く!だからそれまで待っていてくれ!」

 そう言うとユキは動くのをやめ、ゲツガ叫び返した。

「必ず勝って!!ゲツガ君の出番があるかわからないけど!」

 そう聞いたゲツガは、一言よけいだと頬を緩め、茅場晶彦のほうを向き、ユキのほうに親指をむけた。

「もし俺が死んだら、ユキを死なないようにしばらく軟禁していてくれ」

「君もか、よかろう。彼女達はセルムブルグから出られないように設定する」

 その言葉を聞いた、ユキとアスナは涙まじりの絶叫が響く。

「キリト君、だめだよーっ!そんなの、そんなのないよーっ!!」

「ゲツガ君、ひどいよ!!」

 そしてゲツガはキリトと茅場晶彦から離れる。そして離れて数秒たった後、殺し合いが始まった。キリトが床を蹴って茅場晶彦に突っ込み剣を振るう。茅場晶彦はその剣を左の盾で難なく受け止める。その攻撃で出た大きな金属と金属のぶつかり合う音が開始の合図といわんばかりにキリトの二刀が高速で振るわれる。その剣は茅場晶彦の盾でことごとく防がれる。

 ゲツガはその戦いを見守る。キリトは集中して攻撃スピードを加速させていく。しかし、その攻撃もオーバーアシストによって防がれていく。システム上のスキルが使えない分、こちらが不利。キリトは戦いの中で焦ったのか剣に光が灯っていく。

「馬鹿野郎ッ!!」

 ゲツガは小さく毒付く。その瞬間、ある槍を取り出す。そして茅場晶彦の表情が今までのものと違うものになった。あれは勝利を確信した時の笑みだ。茅場晶彦は襲い来る二刀の剣を盾でガードし、その攻撃が終わると茅場晶彦はキリトに向けて剣を振り下ろす。

 しかし、ゲツガは予想できないことが起きた。麻痺で動けなかったはずのアスナがその間に割り込んでキリトを守ったのだ。ゲツガは、ゆっくりとキリトとアスナの近くによっていく。

「ああ、いいよ。ゆっくりお休み」

 キリトがアスナと会話終わると同時にゲツガはアスナに槍を突き刺した。それを見た誰もがおどろいた。もちろん茅場晶彦も、さすがにゲツガの行動に驚いていた。

「ゲ……ツガ……ゲツガ……ッ!!ゲツガーッ!!」

 キリトはゲツガの行動を最初理解できなかったが、すぐに怒りの表情を浮かべ、ゲツガに食いつこうとする。その前にゲツガは、キリトの首を掴み、持ち上げる。

「てめぇー……!!殺す……絶対に殺す!!」

「交代だキリト。後は俺に任せな」

 そう言って槍の刺さったアスナも持ち上げ、ゲツガは放り投げた。キリトを先に投げたため、キリトの上にアスナが乗る。キリトは素早くアスナを抱いてゲツガを睨んでいた。

「ゲツガ君、君のさっきの行動は、どう考えてもおかしいと思うぞ。死人になる前の者に槍を刺すなんて」

 茅場晶彦がそう言うと、ゲツガは背中から両手剣を抜剣し、逆手に持ち変える。

「俺はあの出来事以来少しどこかおかしいからな。でも俺は意味の無い行動はあまりしないんだけどな」

 そう言って、上を見上げる。

「お前、あの力について気になるんだよな?」

 そう言うと茅場晶彦の表情が変わる。

「教える気にでもなったのかな?」

「いや、教えるも何も、俺自体あんまあいつらのことは知らねえ。だから、あわせてやるよ」

「どういうことだ?」

 茅場晶彦が尋ね返す。

「さあな」

 そう言ってゲツガは心の中に語りかける。

『出て来いよ。チェンジャー、使い時が来たぜ。俺の身体を使わせてやる。その代わりに勝て』

 そう念じると声が帰ってきた。

『ようやく来たか!!今まで溜まったものを吐き出せなくて、すげえイラついてたんだよ!!』

 そううれしそうに答える。

『じゃあ、借りるぜ。だが、対価はきっちりといただく』

『ああ。もし、あいつに勝てたらの場合だけどな……』

 そう言ってゲツガは身体の所有権を引き渡した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ふぅ……ようやく、出られたぜ」

 いきなりの言葉に疑問符を浮かべ、ゲツガに問いかける。

「どうしたんだ?ゲツガ君」

「ゲツガ?俺はそんな名前じゃねえよ?俺の名前はチェンジャーだ」

 そういうことかと呟く。

「君がゲツガ君の能力の正体だね」

「まあな。それより早くやろうぜ。もう殺したくてうずうずしてんだよ!!」

 そう言ってチェンジャーは自分に向けて突っ込んだ。素早い攻撃にオーバーアシストが反応し、それを止める。だが、今までとは比べ物にならないほどの衝突音が響く。盾ごと吹っ飛ばされるが何とか踏みとどまった。

「どういうことだ。この力は……君は何者だ」

 言い終える前にチェンジャーは、目の前に迫っていた。素早く剣で応戦しようとするが両手剣で叩き落される。

「クッ!!」

 続けて攻撃される両手剣をオーバーアシストを使い、避けて距離をとる。距離を取り見ると、チェンジャーは面白いものを見つけた子供のような顔をした。

「さっきの……たしかオーバーアシスト……だっけ……?」

 そう言ってチェンジャーは走って自分との距離を一瞬で詰める。その速さはまるで俊敏に極振りにしたプレイヤーの速さのようだ。素早くチェンジャーを撃退しようと盾で自分の身体を隠して突撃する。そしてチェンジャーに向かってオーバーアシストを使ってコマ送りに振られたような剣。その攻撃は回避不能だ。しかし、ありえないことが起きる。

 絶対に回避不能なはずのオーバーアシストの攻撃を避けたのだ。

「なぜこの力を避けることが出来る!!」

 先ほどの異常な光景を見て表情は焦りに変わる。

「俺は名前通り、いろいろなものを変換させることが出来るんだよ。攻撃は、俊敏に振られているものを筋力にして、速くなりたいときは俊敏に振る。まあ、さっきのは管理者権限(アドミニ)を使ってお前と同じくオーバーアシストを使っただけだ。それにこんなことも出来る」

 そう言って手を地面に当てるとそこから引き抜くように手を引く。すると、そこからはゲツガの使っていた剣とまったく同じものが出てくる。いや、造られていると言ったほうが正しいかもしれない。

「ふざけるな!!なぜ貴様が管理者権限(アドミニ)を持っている!!それに、なぜそのような力が使える!!そんな力私の世界に存在しない!!貴様は本当に何者だ!!」

 そう叫ぶとチェンジャーは剣を消してから、飛び出して攻撃を開始する。攻撃の手はまったく緩ませないで話し始める。

「俺はあの方の手駒だ。それ以上でもそれ以下の存在でもない」

「どういうことだ!!」

 攻撃をチェンジャーはゲツガと同じ持ち方で弾いていく。しかし、少し違和感の覚える防御の仕方に気付いた。

(突きや背中への攻撃をかばっている)

 そのことに気付くと一か八かの賭けに出た。身体を盾で隠して、突撃する。

「その攻撃はうぜぇんだよ!!」

 そう言ってチェンジャーは盾に武器殺しを使い盾を破壊した。しかし、盾が破壊されることを予想していたため、腕を盾を手で持っていたため腕を失わずにすんだ。そして、今度はチェンジャー、もといゲツガの両手剣を握る片腕を切り落とした。その時に右目も切りつけることもできた。

「それで!!」

 チェンジャーは落とされた剣を蹴り上げ、剣先の方向を変える。そしてもう一度蹴り飛ばし、剣を持たない腕を突き、肩から斬り落とした。片目を失っていたおかげで目測がずれたのか、剣を持ってないほうが落とされた。

「クッ!!」

 しかし、攻撃に怯まずにチェンジャーもとい、ゲツガの身体に剣を突き刺した。

「何しやが……」

 急にゲツガの身体にノイズが走る。

「てめぇ、何しやがった!!」

「私にも何が起こってるのかわからないよ。だけど、君の身体は背中の守りが硬かったからね。もしかしたらと思っただけだよ」

「何いって……」

 そう言って、大きなノイズがゲツガの身体を走った。

「ガハッ……!!」

「どうやら、戻ってきたみたいだね。ゲツガ君」

「そうみたいだな……」

 その身体の所有権はチェンジャーではなくゲツガに戻っていた。
 
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