遊戯王EXA - elysion cross anothers -
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TRICLE STARGAZER
TRSG-JP010《冒頭に至る、始まりの終わり》
思い返せば、この世界での俺の人生は普通ではとても考えられないほどに波瀾万丈なものだったと自負している。
前世で死を迎えた後、俺を出迎えたのは天国でも地獄でもない……違う世界の現実だった。
正直言えば、この時点で違和感が多すぎた。なぜ自分がこんな世界にいるのか。なぜ自分がまだ10にも満たない小学生の背格好になっているのか。この家は誰の物なのか。机の上にあるこれは何だ。……そして、前世の記憶を失っていないのはなぜだ。
成り行くままに生活していく内に、俺はとある事件に巻き込まれ……そのとき、一人のクラスメイトに手を差し伸べられた。
桜井遊人。かつて自分が一度死ぬ、その直前に読んでいた漫画……"遊戯王CONNECT"の原作主人公だった。
やがて中学に上がり、"遊戯王CONNECT"の物語が幕を開けた。俺と同じ"転生者"と呼ばれる人々も、ここで一気に増えていた覚えがある。
原作通りの展開を望んでいた俺は、多くの"転生者"―――自分が主人公に成り代わろうとしている奴を妨害していた。あるときは、イベントの時間に間に合わなくなるように道を訪ねて時間稼ぎをした。またあるときは、敵側に助言をして"転生者"を遊人達と分断させたりもした。
「俺と組もうぜ、黒乃!」
……だから、どうしてこうなったのか見当もつかなかった。中学2年の時の文化祭、そこでのタッグデュエル大会にて……あろうことか、俺は"主人公"に声をかけられてしまったのである。
妹の桜井姫花や幼馴染みの雪風紫音はどうしたと問えば、どちらも他の人に先を越されたと返された。他の人と組もうとも、周りから常に送られてくる視線が怖い。だから、視線を送ってきていなかった俺を選んだ……と。理不尽とは、まさにこの事を言うのだろう。断る理由が咄嗟に出なかった俺は、なし崩しでそのまま遊人のパートナーとして大会にエントリーすることになってしまった。
事件は決勝戦で起こってしまう。原作における遊人のパートナーは姫花。本来ならば地属性の【ジェムナイト】との融合で遊人が新しい力《E・HERO ガイア》を手に入れるはずだったのだが……
「行くぜ! 魔法カード《平行世界融合》を発動! 除外されている《E・HERO エアーマン》と……"地属性"《魔導教士 システィ》を融合!」
「………あ。」
……その大事な役目を、俺がやらかしてしまったのである。
《平行世界融合》で《E・HERO ガイア》を融合召喚し、紫音の《BF-孤高のシルバー・ウィンド》を攻撃して勝利……流れるように鮮やかな原作通りの勝ち方に、俺を含めた転生者一同唖然。この程度で原作が壊れるわけないということを改めて思い知らされた。
後日、俺は遊人と姫花のお買い物をセッティングすることとなる。姫花が光属性との融合体である《ジェムナイト・セラフィ》を手に入れるタイミングを逃してしまったため、ショッピングモールでのタッグデュエル大会に二人を出場させることで半ばごり押しで手に入れさせたのだった。
「……ああ、そうか」
回想を一度止め、いつの間にか止まっていた《ヒュグロの魔導書》を再起動した。頭の中を整理するために夜風にあたっていたが、さすがに"ヒュグロ"が無ければ寒い。
「この世界は、既に俺達の知る"原作"じゃなくなってたのか……」
3年になり、遊人や紫音と同じクラスになった。"CONNECT"第四期、デュエル中、突然気を失ってしまう通り魔デュエル事件。遊人を中心とした非公式調査隊に、気づかぬ内に俺はメンバーとして数えられていた。他にも遊人達と関わりのあった多数の"転生者"が呼ばれ、非公式調査隊の規模は原作の実に三倍へと膨れ上がった。
通り魔事件と並行して、もう一つ……原作においては有り得ない、別の事件が発生していた。
デュエリスト狩り。"通り魔"と違い、被害にあった人間は闇に飲まれて世界から抹消されてしまうというものだった。"転生者"と関わりがあったのだろう一人のモブ少女の証言が無ければ、俺達は気づくことさえできなかった。それもそうだろう、どこぞのTRPGよろしくその事件は被害者から決して報告されないのだから。
遊人達と調べていく内に明かされていく"通り魔事件"の全貌。原作を知っていた俺達"転生者"は、並行している事件"デュエリスト狩り"が"通り魔事件"の騒ぎに便乗して行われていることを発見する。そして、その翌日……メンバーの一人が、帰らぬ人となった。
毎日消えて逝くメンバーに危機感を感じ始めていた俺達。次に狙われるのは自分かもしれないという恐怖に襲われるメンバー……そしてついに、俺がデュエリスト狩りに襲われてしまう。
「ふざけんじゃねえ! "転生者"の分際で"転生者狩り"に勝ってんじゃねえよ!」
結論から言えば、俺はデュエルに勝利した。しかし、"転生者狩り"を自称するそいつはデュエルの結果を認めず、逆にこう言い放ったのだった。まるで「"転生者狩り"は"転生者"に必ず勝つという"設定"」でもあるかのような素振りで、散々に俺を罵倒し続けていたことは覚えている。その内容はもう忘れてしまったが。
……しかし後に、その"設定"が真実であったことを知らしめられる……"メアリー・スー"水咲凍夜によって。
敵の正体がわかったところで対策など彼らの前には全くの無意味であった。次々と狩られていくメンバー達。"CONNECT"のラスボスであるアルバート博士と対峙する時には既に、"転生者"のメンバーは俺を除いて亡き者とされていた。
……"ヒュグロ"の灯を消し、ふと夜空を見上げる。
「……機械仕掛けの神、か………」
本来なら、俺は既にこの世界にはいなかっただろう。しかし、星の観測者を名乗る四人によって俺は二度も命を救われた。
それだけではない。彼らの力によって夜神桜とアイシア(憑依)の二人を"転生者狩り"から誘拐し、アイシアに至ってはこちら側に寝返らせてしまったのだ。そして蓮と夜神の言っていたことから、"転生者狩り"最凶の【6軸リチュア】使いである水咲凍夜までも彼らによって殺された。
「全く、出来すぎた話だぜ……」
これが御都合主義で無ければ一体何と言うのだろうか。こんなこと、それこそ舞台装置でも使わなければ成し得ない。
「ここにいたんですか、望月黒乃」
「な―――!?」
油断した! そうだ、夜神はまだ寝返っていなかった。背後から突然響いた声に慌てて俺は夜神から離れ、右手に《トーラの魔導書》を呼び出し身構える。
「そ、そこまで拒絶反応示さなくてもいいじゃないですか……」
「いやいやいや、一度俺を殺しといて今さら何言ってんだよ!?」
「私にはもう戦う意思なんてありませんよ。ただ、黒乃に聞きたいことがあってきただけです」
「……聞きたいこと?」
「はい」
そう言って、夜神はさっきまで俺の座っていた場所にしゃがみこむ。念のため"トーラ"は出したままで、俺は構えをといた。
「……黒乃は、どうして私を生き返らせたんですか?」
「……あー」
それを言っていなかったな、そういえば。
「お前なら、俺の考えていることをわかってくれるような気がしたから」
「え……?」
俺の答えに、夜神が目を見開く。
「夕飯の時も言ったけどな、俺は"転生者狩り"の活動理念については同意できる」
"転生者狩り"の活動理念。原作を悪意を持って壊そうとする"転生者"から原作を守り、被害を最小限に押さえる……所詮は原作至上主義。奇しくもこの考えは、このせかいに来た当時の俺と全く同じものだったのだ。
「……だけど、それを口実に人を殺すのは理解できない。転生者を無力化するなら転生特典を没収すればいいだけの話だろ?」
「それだけではダメなんです。転生者は殺さないと……」
「なんでだ?」
「………え?」
「確かに、この物語のために殺さないといけない奴だっているだろうな。だが……」
一旦言葉を区切り、息を整える。そして、
「お前達が殺してきた転生者は、本当に全て殺すべき人間だったのか?」
「それは……」
「違うだろ? "転生者"だって、この世界を生きているんだ。死人なんかじゃない。お前だって"転生者狩り"である以前に一人の"転生者"だ。だから……」
「……」
「……」
「……黒乃?」
「あ、ちょっと待ってくれ。今何を言うか考えてるから」
「先に考えておいてくださいよ……」
呆れながら夜神が立ち上がる。
「でも、黒乃が伝えたいことは、大体ですがわかりました」
………え?
「……決めました。私、"転生者狩り"を抜けることにします」
…………。
……………………まじでか!?
「夜神、じゃあ……」
「桜です。私のことは、下の名前で呼んでほしいです。黒乃の仲間になるんですから、それくらいは当然ですよね」
「あ、ああ……そうだよな!」
「あ、それとですね……」
そして、朝焼けを背に彼女が振り向く。俺達の知らないような明るい声で、俺に指を突き立てた。
「私を生き返らせた責任、ちゃんと取ってもらいますからね!」
……その時の俺達は、まだ知らない。
俺達の中では始まろうとしていた"転生者狩り"との闘いが、実は既に終わっていたなんて。
― ― ― ― ― ― ― ―
「えっと、これで最後……でしょうか?」
淡い水色の水晶を片手にゆみなが呟く。
「そうじゃない? ここがアジト最深部みたいだし」
それに答える蓮。何事もなかったかのように大きく伸びをする。
「……ん? お姉ちゃん、なんでそんな難しい顔してるのよ? "転生者狩り"は全滅させたはずよ?」
「え? あ、うん。なんでもないよ………」
お姉ちゃんの態度に疑問を覚えつつ、私は正面を向き直った。
「(……クレナちゃん、なんで私達こんなあっさり突破出来ちゃったんだろ……?)」
「(罠の一つや二つくらい引っかかってしまうと思ってたんですけどね……)」
向こうでなんか話が聞こえたような気がしたが別にそんなことはなかったわ。
「さて、と。転生者の暴走は黒乃達に処理させるとして、転生者狩りはこっちで処理したから役目はこれで全部よね?」
「あ、はい。本当は二年くらいかかると思ってたんですけど」
あ、やっぱり長い。
「沙耶ちゃん、黒乃くん"達"って誰のこと?」
「そこにいるアイシア(本物)と今頃こっち側に寝返ったであろう夜神のこと」
「私もですか!?」
「は? それくらい当然でしょ?」
そうじゃなかったらこいつは何をしに来たのかと。
「……あれ、私は入ってないの?」
アイシアの中にいるお姉ちゃんが首をかしげた。
「紗姫姉は俺達とこっちの世界に帰ります。てか、死体に憑依してるんだから、この世界にいてもその内死ぬよ?」
「……え、そうなの!?」
「おいクレナァ! だから、どうしてあんたは大事な情報を伝えないのよ!?」
「ああ、ごめんなさい! ごめんなさいですから腕をそっちに曲げちゃいやあああああああ!」
「待って沙耶ちゃん! それ以上いけない!」
― ― ― ― ― ― ― ―
「……そんなのありかよ」
アイシアが俺達に伝えた内容の顛末があまりにもぶっ飛びすぎていて、俺はただ色々な意味で呆れることしかできなかった。
「……え、じゃああれですか? "転生者狩り"を組織ごと崩壊させて、自分達は紗姫を生き返らせつつ向こうの現実世界に帰還した、というんですか?」
「Exactry.……とでもいうべきなんでしょうね。 ここまで綺麗に行きすぎると、逆にこれも敵の罠かと疑ってしまいますが……」
頭を抱えた桜の言葉にアイシアがうなずく。
なるほど、これが機械仕掛けの神という奴か。起承転結の"承"が見えないうちに勝手に"結"まで持っていくとは……。
「どこぞの打ち切り作品かよ……」
「本当にそんな終わり方じゃないですか……」
「おまけに、転生特典を結晶化して摘出したので逆襲の恐れも無し。敵ながら"転生者狩り"の皆さんが若干哀れに思えてきますよ」
「若干どころじゃねえよ、それは……」
……過程はどうあれ、とにかく「悪は去った!」とでも喜ぶべきところなんだろう。
「ま、まあとにかくです! これで私達は奴等に命を奪われることは無くなったんですよね!」
「あ、ああ! そうだよな!」
納得いかない部分は多々あるが、しかしこれが現実であり真実である。
故に、俺達が戦場へと足を踏み外すことは二度とないだろう。今はこの異世界の生者から与えられた平穏を、ありがたく受け入れようではないか。神の使いを名乗る少女の言葉に俺達は頷いた。
TRICLE STARGAZER
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後書き
……どうも、月詠クレスです。
ここまでの御清聴、本当にありがとうございました。最後に EPILOGUE EDITION にてその後の彼らを描写して終了です。いや、本当に短いですね。すみません。
しかし私の中では、一度この話を打ち切って、仕切りなおせるところでもう一度始めたい気持ちがありました。一人称よりも書きやすい三人称で統一しておくべきだったと後悔しています。このまま引きずっていってクオリティを死なせてしまうよりは、そうなる前に切りのいいところで打ち切ってしまった方がいい……私個人の考えですが。
……いや、もう既にクオリティ残念なことになってますけどね! なんだよGAY♂BARって! なにが「まず管理局という名前がよくない」コピペだよ! 本当にごめんなさい!
話を変えましょう。次書くとしたら、黒乃を主軸に据えたこの作品の本編【Anothers X ELysion -遊戯王AXEL-】。あるいは現実世界の方に主軸を合わせ、呉風学園天文部メンバーによるTRPGリプレイ【呉風学園天文部卓】や"新ジャンル「クラスで自分以外邪気眼使い」"を基にした【幻葬物語】。こちらを書くとしたら、もしかしたら"小説家になろう"様の方で執筆するかもしれません。
先述しましたが、しかし EPILOGUE EDITION は書かず仕舞いになってしまう可能性が少々。AXELかTRPGリプレイの方を先に書き始めるかもしれません。現にAXELは冒頭のデュエル部分書き始めてますし。というわけで、一度この作品は"完結"という形にしておきます。
さて、最後に。こんな拙い文章でしたが、いかがだったでしょうか。デュエルの内容だけでも、皆様の参考になったら幸いです。
それではまた。もしかしたらまた会えるかもしれませんね。どうか、その時まで――――!
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