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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第四十五話 更なる高み

「そんで、具体的にどういうルートで行くんだ?」

「まっすぐ行けばいいだろ」

飛行しながらそう話しているのは、ソレイユとルシフェルである。山岳地帯を抜け、ウンディーネ領の近くの湿地地帯まで来ると、さすがにMobだけでなくプレイヤーともエンカウントする。それを片っ端から蹴散らしながらソレイユたちはレプラコーン領に向かっている。

「ソレイユ。いったん降りるぞ・・・飛行制限がかかるころだ」

「ああ、わかった」

ウンディーネ領を越え、古代遺跡地帯に差し掛かったところで翅が限界時間に達したため二人は仕方なく降りる。ここからは翅が回復するまで強行軍(あるき)でレプラコーン領を目指すことになる。

「つか、よくレヴィアさんが許したな。レプラに行くの」

「何言ってんだ?黙って来たに決まってんだろ」

「・・・・・・」

こいつは学習しないのか、と心の内で思うソレイユ。またあの説教が飛ぶとなるぞ、と口に出したところでどうにかなるわけでもないので口には出さない。

「それよりも・・・なんか面白いことになってそうだぜ」

「は?」

ルシフェルが指をさすほうは茂みしかない。面白い物を見つけた、といた表情のルシフェルだが、ソレイユにしてみればろくなことではない気がした。

「いいからいいから・・・俺を信じてついてきてみろ」

そう言って茂みの中を一歩一歩かき分けながら進んでいく。このままあほな領主さまを見捨ててレプラコーン領に行ってもいいのだが、それはそれで気が引ける、というよりもここで領主であるルシフェルがキルでもされたら目も当てられない始末なので、ソレイユは仕方なくルシフェルの後をついていく。しばらく進むと一人のウンディーネが何やらニタニタしながら茂みの中から何かをのぞいていた。

「なーに、してんだ?」

「うひゃあ・・・・・・お、脅かさんといてえな。今おもろいとこなんよ!」

「おっと、それは申し訳ない。で、何があるんだ?」

「ちょっとなー。おもろいというよりも珍しいと言ったほうがええかもしれへん」

「へぇー、そいつは楽しみだ」

どこかずれてるやり取りの後、先ほどウンディーネがしてる様に茂みからのぞきこむルシフェル。こそこそとウンディーネとインプが肩を並べて何かを覗き見る姿は異様にしか見えない。

「あれは・・・シェイドとドロシーか」

「そや。あのお堅い領主様があそこまでデレるもんなんやね」

どうやらスプリガン領主とウンディーネ領主が逢い引きを行っているらしい。しかし、その二種族の領主の名を言ったルシフェルの表情はどこか寂しそうだった。

「・・・どうでもいいが、いい加減そのニヤニヤは止めたらどうだ?」

そう言いながら領主の逢い引きを見ながらニヤニヤしているウンディーネのプレイヤーの尻を蹴り飛ばすソレイユ。知り合いならともかく初対面でその扱いはどうなんだ、と言いたい人もいるだろうがいちいちそんなことを気にするソレイユではない。

「あいたっ!?ちょ、いきなりなにすんねん!!・・・・・・あ・・・」

ソレイユの蹴りで隠れていた茂みの外に転がり出てしまったウンディーネのプレイヤは蹴られた尻をさすりながら茂みの方にいるソレイユに抗議するが今の状況を改めて認識した。油の切れた機械のように首を領主たちがいた方に向けると、いきなりのことで状況が呑み込めないのか、ポカンとした表情で茂みに隠れていたウンディーネのことを見ているが、数刻を得てウンディーネの領主が(いろんな意味で)顔を真っ赤にして叫んだ。

「な、な、な・・・何であなたがここにいるんですかっ!!!?!?!?」

「や、やほー、領主様。こんなところで奇遇やね」

領主の叫びに引き攣った笑みと大量の汗を流しながら白々しく挨拶する覗き見していたウンディーネ。しかし、そんなことでこの状況を逃れられるほど世の中あまくない。

「ステラ・・・あなたという人は・・・」

黒いオーラを放ちながらステラと呼ばれたウンディーネにゆっくりと近づいていく。対して、ステラもステラでしっかりと対抗策―――というよりも地獄の道連れはしっかりと用意いていた。

「う、(ウチ)だけやないで!他にも覗いてたもんはおるんや!」

覗いていたことを自ら肯定してしまうステラだが、その後に続けた言葉はしっかりと領主に届いていた。しかし―――

「・・・・・・どこにいるのですか?」

「どこにって・・・後ろの茂みにおるやろ?」

「・・・私の索敵には引っかかりませんが?」

―――という言葉にステラの顔が一層青くなる。慌てて索敵をかけてみても先ほどまでいたインプの二人(ソレイユとルシフェル)の姿が感知できない。隠蔽魔法で隠れたかすでに逃走したかのどちらかであるのだが、そのどちらにせよ今のステラを助ける材料にはならない。むしろ悪化させてしまっている。

「・・・帰ったらわかっていますね?」

「・・・・・・はい」

顔は笑っているが瞳が笑っていない領主の言葉に頷くしかないステラ。そこで、今まで静観していたスプリガンの領主シェイドが話に入ってきた。

「あ~、ちょっといいか?」

「何ですか、シェイド?」

いきなり話に入ってきたスプリガン領主にウンディーネ領主ドロシーは首をかしげながら聞いた。

「どうやら、そっちの娘の言葉はホントみたいだぜ?」

そう言って、腰に装備していた投擲用のナイフを一本抜くとステラが隠れていた茂みの方へと投げた。きれいな線を描きながら飛んでいくナイフは茂みの中にある一本の木に刺さった。その時、ステラとドロシーの索敵に二人のプレイヤーが引っかかった。

「とっとと出てきたらどうなんだ?」

茂みの方へと声をかけるシェイド。数刻をおいて茂みから出てきた二人のうち一人を見たドロシーは先ほど以上に顔を真っ赤にして出てきた人物を見ていた。

「ル、ル、ル、ルルル、ルシ、ルシ―――」

「あー、よう。久しぶりだな、ドロシー」

定まらない口調でルシフェルの名前を言おうとするドロシーとバツが悪そうに挨拶をするルシフェル。どうやら二人は知り合いのようであるみたいだが、今はそんなことどうでもよい。軽くパニくっているドロシーを何とかシェイドが鎮め、改めてルシフェル(とソレイユ)に向きなたドロシーが最初に口にしたのは当然のごとく覗きに対する抗議だった。

「どうして、あなたがステラと一緒に覗いていたんですか!?」

「いや、こいつが覗いているところにたまたま俺らが通りかかっただけだぞ」

ステラを指差しながら経緯を説明するルシフェル。その言葉を信用できないのかもう一人いたインプ(ソレイユ)をみる。何を言いたいのかわかったソレイユはただ首を縦に振るだけだった。それを見たステラが裏切り者ーなどとぬかしていたが、ソレイユは完全に無視を決め込んでいる。

「わかりました。とりあえずは信じましょう・・・・・・それで、どこまで?」

後半顔を若干赤くしながら言葉足らずに聞くドロシーにルシフェルはバツが悪そうな表情を一変して、悪戯めいた表情をした。それを見たドロシーは嫌な予感が体中を駆け巡るがそれを回避する術を持っていなかった。

「安心しろ。おまえがシェイドにキスをせがんでいたところなんて見てないからよ」

案の定、予感は当たってしまった。一番見られたくないところを一番見られたくない人物に見られてしまった恥ずかしさとその時の自分の行動を振り返って湯気が出てもおかしくないほどドロシーは顔を真っ赤にして俯いてしまう。そんなドロシーの姿を忍び笑おうとするルシフェルであるが、全然忍び笑いにならないほど声をあげて笑っている。先ほどまでのバツ悪そうなお前はどうしたんだ、と無性にツッコみたくなったソレイユだがめんどくさくなりそうなのでやめておいた。ちらりと置いてけぼりを喰らっているシェイドの方を盗み見てみると、その顔は嫉妬の怒りに満ちていた。それを見たソレイユはなんとなく三人の関係が見えてきた。

「あー、笑った、笑った。んじゃ、ソレイユ・・・とっととレプラの領地に行こ・・・っと、あぶねぇ」

一頻り笑った後、本来の用事に戻ろうとしたルシフェルだが、翅を広げた直後右目に目掛けてナイフが投擲されていた。それをギリギリで躱し、飛んできた方向を見ると怒りが臨界点を突破したスプリガン領主がいた。

「待て、ルシフェル。ただで帰れると思っているのか?」

怒りの声色でそういうシェイドに、ルシフェルは肩を竦めながら言った。

「相変わらずだな、お前は」

そのルシフェルの態度に腹を立てたシェイドが再びナイフを投擲するが、今度はルシフェルに届く前にソレイユが刀でナイフを斬った。辺りにナイフがポリゴン片となって砕けた音が響き渡るが、気にする者は一人もいない。

「領主を打たせるわけにはいかないんだがな、一領民としては」

「邪魔をするな!これは俺たちの問題だ、赤の他人が入ってくるなっ!!」

「なら現実かおれのいないところでやれ。立場ってもんをしっかりと理解しろ、ボケが」

他種族とはいえ領主に向かってボケと言えるソレイユを何と表現して言いのかわからないが、ソレイユの立場からすれば自種族の領主をそうやすやすとは戦えさせられない。テリュスほどの実力ならルシフェルが出張っても問題ないのだが、さすがに同等の実力者同士だと何が起こるかわからない。だからこそ、もしそれで負けたとすれば一番苦労するのが領民だからである。それイコールソレイユも苦労するということに他ならない。それにルシフェルが付いてきたのはソレイユのせいだとも言えなくもないのでさすがにそれで討たれてしまったら合わせる顔がなさすぎる(主にレヴィアに)。

「つーわけでボケなす・・・ルシフェルと戦いたければまずおれを倒すことだ。一領民として、黙って領主が討たれるのを見ているわけにはいかないからな」

「おい、ちょっと待て。なんで俺が負ける設定で話してんだ、お前は!」

「いいだろう。そういうことならば、まずお前から相手をしてやろう!」

「お前もかっ!?」

「そう言えば、名乗ってなかったっけ―――ソレイユだ。よろしく、領主殿?」

「シェイドだ」

「・・・・・・・・・もういいもん。俺のこと無視する奴なんてもう知らないもん」

散々無視されて話を進めるソレイユとシェイドに嫌気がさし、隅っこで体育座りしていじけるルシフェル。そんなルシフェルを何とか励まそうとしているドロシーと無視されるルシフェルを爆笑しながら見ているステラ。ちなみに、ドロシーがルシフェルを励ます様子を遠目に見ていたシェイドはさらに機嫌を損ねてしまう。
ドロシーに励まされ、何とか立ち直ったルシフェルは今まさに決闘を始めようとしているソレイユに近づき助言を行う。

「気を付けろ。あいつは情にはしりやすいが、腕はかなりのものだ」

「≪六道≫の一人だっけ?」

「ああ。スプリガンという種族をよく理解してるやつだ。それにスプリガンの王の一番弟子でもあった」

「それは怖い。どんだけの実力か楽しみだ」

「前後の文章のつながりがおかしいぞ」

「ツッコんだら負けだ」

何に?という質問は野暮である。
ルシフェルが離れると、あたり一帯を静寂が支配する。ソレイユは構えないままシェイドを見据え、シェイドは手にナイフを数本持ちながらソレイユを見据えている。永遠に続くと思われた静寂を破ったのは―――シェイドだった。
手に持っていたナイフをソレイユに目掛けて投擲した。しかし、そんな攻撃が≪剣聖≫の名を冠するほどの剣士に通じるはずもなく、ナイフの射線から体を傾け逸らすだけで軽々とかわす。

「―――っ!?」

しかし、それがいけなかった。ソレイユが視線をナイフからシェイドに戻そうとしたとき、先ほどまでいた場所にシェイドはいなかった。軽く驚くがすぐに周囲を探る。だが、シェイドの姿は見つからない。

「どこを見てるんだ?」

【それ】は背後から聞こえてきた。咄嗟にそちらに視線を向けると、すでに投擲済みのナイフがソレイユの顔面目掛けて迫っていた。刀を振るう間もなく慌ててイナバウアーのごとく身を仰け反らせて躱すと、その勢いで空中で一回転して体勢を立て直すがシェイドの姿は再び見つけられない。だが、早くもソレイユはシェイド行っているものの正体をつかんでいた。

「ミスディレクションで相手の視線を外し、その一瞬で幻属性魔法を発動させて姿を隠す、か・・・それだけ効果のある魔法ならスペルワードも長いだろうに・・・よくあんな短時間で詠唱できるものだな」

「っ!?」

『へぇー、よくこんな短時間で見破れたものだな。だが、だからと言って簡単に対処させるほど俺は優しくないからな!!』

「そこで簡単に対処させてくれるのなら、それは優しさではなく愚かというとおもうのだがな・・・」

ソレイユの呟きに驚いたのはシェイドではなく遠くから二人の決闘を見ているウンディーネの領主ドロシーだった。まさか、三十秒にも満たない時間でシェイドの【あれ】のカラクリに気が付くとは思ってもみなかったのだろう。先ほど、投擲したナイフでソレイユの視線を自分から外し、その隙にその相手の死角に回り込み【グリモワール】で習得した最上位幻属性魔法の中の一つ魔法【インビンシブル・インビジブル】をも発動した。この魔法は、姿が完全に消えるためタゲられることもなく、索敵を使わない限りプレイヤーの真ん前にいても見つかることはない。ただ、武器や魔法などで攻撃するときは、魔法は解けてしまうといったものだった。
SAO時代では視覚では見つからない相手には索敵を使うのが有効的であったため、ソレイユは索敵を行うが、シェイドの反応はなかった。それもそのはずである。シェイドは【インビンシブル・インビジブル】のほかにも、索敵に引っ掛からないように妨害する幻属性魔法【ジャミング】を発動して【インビンシブル・インビジブル】の弱点を補っているのである。声で位置がばれないように幻属性魔法の一つ【ダミー・ボイス】もしっかりと発動しながら話しているあたり、手を抜く気はないということらしい。
再び、ナイフが投擲される。今度はソレイユの背後からだった。それを身を捻ることで躱すが、再び背後からナイフが投擲される。それを刀で弾くソレイユ。攻撃するときは【インビンシブル・インビジブル】は解けてしまうのだが、相手の死角から攻撃することでその弱点も補っていた。
シェイドは簡単にそれを行っているように見るが、実はそれは容易ではなく、誰にもできるわけでもない。弛まぬ訓練を得てようやく習得が可能になる技術なのである。魔法がないので当然といえば当然なのだが、ここまで研鑽された技術は分野は違えどSAOでも類を見ないほどであった。

「まぁ、さすがは≪六道≫に数えられるだけのことはあるものだ。たいしたものだよ、ホント」

『ずいぶんと余裕じゃねぇか。対処するのがやっとのくせによ!!』

「それはさっきまでの話しだろ。カラクリがわかればその対策をとることだってできる」

『はっ!だったらやってみろってんだ!!』

そういってどこからかナイフを投擲するシェイド。狙うはソレイユの首だった。このアルヴヘイム・オンラインにも当然クリティカル・ヒットなるものは存在する。それは人間の急所に位置するところと何ら変わりはない。だからこそ、殺傷力の低いナイフでソレイユを仕留めようとするのならばそれは必然的に急所を狙わざるを得ない。だが―――。

「「「『っ!?』」」」

次のソレイユの行動を見た全員が驚かされた。それはルシフェルとて例外ではなかった。簡潔に事態を述べれば、シェイドの投擲したナイフをソレイユが交わしたということであるが、その躱し方に四人が驚く要素があった。
その場から飛び退きながら躱したのなら、まだ四人の理解は及んだだろう。しかし、ソレイユは薄皮一枚切れるほどぎりぎりで躱したのだ。それを索敵を封じられた状態で、尚且つ死角から飛んできたナイフを見ないで、である。もっとも、驚くべきことはそれだけではなかった。

『何のつもりだ?』

「何が?」

『とぼけるな、勝負を捨てるつもりか!?』

シェイドが怒鳴ったわけはソレイユが納刀して目を瞑り全身の力を抜いた状態で唯立っているからであった。何処からどう見ても無防備にしか見えないその姿に怒鳴りたくなるのは仕方のない事だろう。だが、ソレイユはたった一言だけ言った。

「・・・・・・・・・・・・」

それ以降は唯々立っているだけである。その姿その言葉に憤りを感じながらもシェイドは新たにナイフを構える。

『・・・なら、後悔するんじゃねぇぞ!!』

そういって再びナイフを投擲する。しかも、今度は先ほどまでのように一本一本ではない。複数のナイフが次々にソレイユに迫ってくる。だが、ソレイユはそれを先ほどのように薄皮一枚を切らすように避けていく。誰にでもできるようなことではない。しかし、そんなことでは何時しかシェイドの攻撃にあたる、というのがドロシーの考えであった。見えない敵を相手にしているというだけで人間はストレスを感じるし、精神的疲労も蓄積していく。突き詰めて言えば、通常よりも早く集中力が欠けてくるということである。だからこそ、ソレイユの集中が欠けるのがオチだとドロシーは読んだのだが、その考えが外れることになると知るのは五分後のことだった。

―――五分後―――

不可視のシェイドがナイフを投擲し、ソレイユがそれを避けるということのみが行われた五分間。ソレイユは反撃するどころか、攻撃すらしていなかった。辺り一帯には大量の投擲されたナイフが散らばっていた。

『馬鹿な・・・』

そう呟きたくなるのも仕方のないことだと思う。結局一発もソレイユには当たらないかったのである。

『一体、何をした?お前は・・・なんだ!?』

「・・・はぁ、種明かししてもいいけど、誰にも言うなよ?」

眼を開けたソレイユが一拍置いてソレイユが語りだす。

「ぶっちゃけた話、あんたがどこにいるのかもうお見通しなんだよね」

足元に落ちていたナイフを二本拾い、そのうちの一本を何もない方向へと投擲する。少し間をおいて、二本目を投擲するとくぐもった声と同時にシェイドの姿が現れた。

「ぐっ!?」

「まぁ、簡単に言うとだ・・・第六感ってやつだな。またの名を心眼」

「お前、説明する気ないだろ・・・」

「冗談だよ、冗談―――まぁ、あれだ。おれとてできるかどうかはやるまで半信半疑だったんだ」

「一体なにを、したのですか?」

ドロシーが恐る恐る尋ねるとソレイユは微笑して答えていく。

「空を視て、空を感じただけだよ?」

「空を視る?空を、感じた?」

ソレイユの言っている意味が解らない四人は首を捻るしかない。そんな四人にソレイユは説明を続ける。

「一つだけ聞くけど、空ってどこら辺からが“空”だと思う」

「どこって・・・あの辺からとちゃうん?」

ステラが指差したのはちょうど生えていた木の天辺である。

「残念ながら不正解だ」

「ほな、どこからなん?」

「・・・“空”にあるのは空気と水蒸気のみだ。そのほかには何もない」

「「「?」」」

「あー、なるほど。そういうことか」

「ルシフェルはわかったみたいだな・・・つまり、だ・・・地面より上のすべてが“空”なんだよ」

「で、では、それが先ほどのものと何の関係があるのですか?」

ドロシーの質問は当然と言えた。どうやってシェイドのあれだけの攻撃を避けたのか、どうやってシェイドの居場所を突き止めたのかを聞いたはずなのだが、それに対しての答えは返ってこず、全く関係ないと思われる話をされているのだから。しかし、次のソレイユの言葉でそれは解決した。

「“空”にあるのは空気と水蒸気だけ。ならば、“空”を視るということは空気を視るということに他ならない、だろソレイユ?」

「ああ。光とは密度の異なる空気層を直進することはできない。だからこそ、目を凝らしてみればある程度はわかるんだよ」

「で、ですがシェイドはあなたの死角をついて・・・」

「それは攻撃するときだけだ」

「それなら、どうやって死角の攻撃を避けることができたん?死角から攻撃されてしもうたら、視るに視れへんやろ?目を瞑ってたんやし・・・」

「視るだけならな」

ステラの疑問に答えたのはソレイユではなくルシフェルだった。ルシフェルの言葉を継ぐ形でソレイユはステラの疑問に答えていく。

「そう・・・あの時のおれは目を瞑っていたんだ・・・光の相違を視ることはかなわなかった」

「ほな・・・」

「言っただろ、“空”を視て、“空”を感じたって。シェイドの攻撃を避けたのは“空”視たんじゃなくて感じたからだ」

そこから説明を続けたのはルシフェルだった。

「地上で生きる者にはある一つの共通点がある」

「共通点、ですか?」

「ああ。それは―――風を纏っていることだ。風とは空気。風とは密度の違う相対する空気の移動現象のこと。だからこそ、人が動けば風が発生する。それを察知したってことだろ。目に見えようが見えまいが関係ないんだよ。そこに、シェイドという人物は存在しているのだからな」

「けど、ここは仮想世界やで。そない大それたこと出来る核心でもあったん?」

「ああ、そのことか。それに関して言えば、確信に近いものはあったな。なぜなら、この妖精郷には風属性魔法があるんだからな」

ルシフェル以外の三人は言葉を失った。ただ一人、ルシフェルだけがソレイユの異常さを笑いながら見ていた。

「空を視、空を感じる技術・・・≪天帝空羅(てんていくうら)≫―――それがこのシステム外スキルの名前だ」
 
 

 
後書き
はぁ・・・

ルナ「どうしたの?ため息なんかついて」

最近、思うように筆が進まないんだ・・・

ルナ「燃え尽きちゃった感じ?」

ああ・・・真っ白にな・・・
というわけで

ルナ「どういう訳?」

・・・・・・・・・
感想などお待ちしております!

ルナ「逃げたね」 
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