スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第九十九話 天使達の覚醒
第九十九話 天使達の覚醒
アクエリオンはロンド=ベルに合流することになった。しかし騒動が終わったかというとこれでさらに複雑なものとなっていたのであった。
「二回目の合体」
シルヴィアはこのことを言っていた。
「はじめての時よりもずっと。何か」
「感じたのだな」
「ええ、お兄様」
シリウスの問いに対しても答える。
「まるでそのまま天国に行くように」
「そう。それはこの花のようなもの」
シリウスはここで花を見て言う。白百合だった。
「美しく可憐なもの」
「合体は」
「しかしだ」
だがここで顔を急に歪めさせるシリウスだった。
「あの男のそれはそうではない」
「そうよ、あれは」
「猛々しく凶暴だ」
忌々しげに語る。
「あんなものは正しい合体ではない」
「そうよ。絶対に」
シルヴィアも兄の言葉に頷く。
「あんなものは絶対に」
「私は認めない」
さらに言うシリウスだった。
「あの男がアポロニウスの生まれ変わりだと」
「そうよ、お兄様ことアポロニウスの生まれ変わりよ」
兄を見ての言葉である。
「絶対に。何があっても」
「シルヴィア」
だがここでシリウスは真面目な顔で妹に対して言ってきた。
「アポロニウスの話はあまり公に話さない方がいい」
「どうしてなの!?」
「これは。繊細な話だ」
だからだというのである。
「だからだ。外で話してはならない」
「だからなの」
「そうだ。慎んでくれ、いいな」
「わかったわ」
兄の言葉に静かに頷くシルヴィアだった。そしてそこにピエールが来るのだった。
「何か妙なことになっちまったな」
「ロンド=ベルに入ったことか」
「ああ。グレンの奴はとりあえず入院になったぜ」
グレンのことも話した。
「どうなるかはわからねえってさ」
「復帰できるかどうかはか」
「そういうことさ。それにしてもよ」
「どうした?」
「こんなややこしい状況なのに随分と澄ましてるな」
こうシリウスについて述べるのだった。
「こんな洒落にならない状況なのにな」
「事実を受け止めているだけだ」
シリウスは相変わらず冷静なままだった。
「ただそれだけだ」
「そうか」
「そうだ。ところで麗花はどうなった?」
「こっちに合流してるぜ」
こうシリウスに述べた。
「とりあえず肉体的には無事らしい」
「そうか」
「ああ。けれどな」
少し微妙な顔になるピエールだった。
「精神的なダメージってやつがな」
「それか」
「アクエリオンには乗れるらしいがな。それが心配らしい」
「わかった」
それを聴いてまた頷くシリウスだった。
「グレンがどうなるかもわからない。不安材料は残るが」
「それでもロンド=ベルに入ったんだな」
「何が何かわからないうちにね」
シルヴィアがここで言った。
「あいつまで」
「あいつ!?ああ、あれな」
ピエールは彼をあれと呼んだ。
「あれも一緒だったんだな」
「そうよ」
忌々しげに言うシルヴィアだった。
「全く。何で一緒なのよ」
「翼の跡はなかったけれどな」
ピエールはそこを言うのだった。
「今それで調べている最中さ」
「そうなの」
「あの副司令さんがな」
そう言って少し皮肉に笑ったピエールだった。
「目出度く副司令に就任になってな」
「何かあれもいきなりだったわね」6
シルヴィアはこのことについても述べた。
「不動司令が来られてね」
「その司令も同席であいつに質問中さ」
「それはいいけれど」
シルヴィアは含むところがあるような言葉になっていた。
「あいつ、まともに質問聞けるのかしら」
「無理だな」
シリウスは一言でばっさりと切り捨てた。
「それはな」
「やっぱりそうか」
「あの男は獣だ」
こう評するのだった。
「その獣を制御に話しても無駄だ」
「そういうことだな。まあ副司令さんには御苦労だけれどな」
ピエールもまた期待はしていなかった。そしてその頃そのジャンは。一室で不動や兵士達と共にアポロに対して色々と聞いているのであった。
「それで君は誰なのかな」
「・・・・・・・・・」
獣の目でジャンを睨んでいるだけで答えはしない。
「何処から来て。それで幾つかな」
「ガルルルルルル・・・・・・」
「あのなあ!」
答えるどころか唸り声をあげてきたので流石に言い返す。
「動物じゃないんだから答えるんだ!こっちだって仕事なんだよ!」
「ガアッ!」
しかしやはり答えはしない。答えないどころか怒った彼に頭突きを仕掛けてきたのだった。それでジャンは大きく後ろに倒れてしまった。
「グハッ・・・・・・」
「ここから出せ!」
ジャンを倒したアポロはこう叫ぶのだった。
「俺はバロンを助けに行かないといけないんだよ!」
そう叫んで今度は不動に襲い掛かる。しかし彼はジャンとは違った。
「ムンッ!」
「ガハッ!」
いきなり殴り飛ばされた。
「ムン!ムン!」
「グハッ!グボッ!」
「少年、まずは名乗ることだ」
殴り蹴ってから踏みつけたアポロに対して言うのであった。
「今生の名は。何というのだ」
「うぐぐ・・・・・・」
こうしてかなり過激な質疑応答の後でアポロはとりあえず隔離されることになった。そうしてそこで彼は相変わらず騒いでいた。
「出せ!」
こう叫びつつ扉を体当たりで破ろうとする。
「ここからな!早く出せ!」
「とまあ大変だったらしいぜ」
アレックスがことの一部始終を皆に話していた。
「まるで動物を相手にするようだってな」
「動物かよ」
「何かなあ」
甲児もケーンもその話を聞いて呆れることしきりであった。
「そりゃロンド=ベルにはダンクーガみたいなのはあるぜ」
「あれはあれで凄えよな」
「いや、それでもだよ」
イサムがアレックスに対して言う。
「まんま動物ってのはいなかったけれどな」
「ああした奴ははじめてだ」
ガルドもイサムと同じ意見であった。
「動物そのものはな」
「俺もな。あれはちょっとな」
アレックスにしろその考えは同じであった。
「何かああいう奴何かの番組でいたよな」
「わかるぜ、それ」
「すぐにわかったよ」
黄金とタケルが同時に言ってきた。
「獣の力だったよな」
「俺はどういうわけかあの力に縁を感じるんだよ」
「そういうあんた達が一緒に話すとな」
アレックスはその二人の言葉に首を捻るのだった。
「一人が二役やってるように聞こえるんだけれどな」
「ああ、確かにな」
「そういえばそうだよね」
二人も二人でここで顔を見合わせてそれを確認した。
「思えば不思議なことだよな」
「世界が違うのに」
「まあその獣の力じゃが」
珍しく兵左衛門も話に入ってきた。
「わしが一番縁がありそうじゃな」
「んっ、あんた猫じゃなかったのかい?」
アレックスは何故かその彼を猫と呼んだ。
「確かよ」
「何故か最近よくそう言われるのう」
兵左衛門も自分で言う。
「後は波がどうだとかのう」
「そういやそんな感じだよな」
「確かに」
皆も彼の言葉に頷くのであった。
「そんな感じが」
「はっきりと」
「あと獣の力ならばだ」
今度はクワトロが言ってきた。
「私も感じる」
「ジオンの赤い彗星もかよ」
「不思議なことにな」
彼もアレックスに対して言うのであった。
「感じるところがある」
「俺もだよ」
今度は甲児であった。
「だからあいつには変な意識を感じるんだよな」
「アポロねえ」
「まんまじゃないの?あれ」
皆でアポロについて言い合うのであった。
「まんま動物だし」
「あれでわきわきとか言ったら完璧よね」
マナミとアイシャも言い合う。
「あんなんだとね」
「頭の出来もそんなのだし」
「だが。あいつがアポロニウスなんだな」
アークライトは冷静に皆に述べた。
「あいつが」
「そうらしいわね」
彼の言葉にセレインが頷く。
「話によると」
「だからこそこうしてロンド=ベルに入れたわけか」
「そういうことだな」
ブラッドとカーツが言う。
「さて、どうなのかね」
「本当にアポロニウスならいいがね」
「どちらにしろ問題は戦力としてどうか」
エルリッヒもまた冷静であった。
「それだけれど」
「じっくり見ていくか」
シグルーンが彼女に応える。
「その辺りもな」
「それで天使達のことだけれど」
問うてきたのはジェーンであった。
「気になることがあるわ」
「気になること!?」
「ええ。前の戦闘でね」
彼女が言うのは戦いにおいてのことだった。
「バサラの音楽に反応していたわよね」
「あっ、そういえば」
「確かに」
こちら側の面々は彼女の今の言葉にはっと気付いた。
「それで動きが止まって」
「何か急に弱くなった!?」
「確かに」
ジュゼとイワン、ハンスがそれに気付いて言う。
「それで勝てたけれど」
「そういうのを見ていたら」
「やっぱり」
「それにですね」
プレアも言う。
「あのラーゼフォン」
「綾人さんもか」
「あの人にもまさか」
カナードに応える形でこう言うのだった。
「音楽が関係するかも」
「あの人にもか」
カナードはプレアの今の言葉で考える顔になるのであった。
「音楽が、か」
「それは有り得るかもね」
樹里は二人のその仮定に賛成してきた。
「まだ確証は全然ないけれどね」
「バサラの歌はそんなに効果があるの?」
「ああ、実はな」
バリーがエルフィに対して答える。
「あいつの歌はまた特別なんだよ」
「確かに歌も曲もいいけれど」
「それにしてもあれはね」
キャシーは少し苦笑いを浮かべて述べた。
「武器を持たずに戦闘機で敵の中にいつも突っ込むのはびびるわよ」
「死ぬとは思わないのか」
ドニーが言うのはそこであった。
「あれでは何時か」
「全くだ」
ジャン=パトリックも言う。
「あんな奴ははじめてだ。歌で戦争を終わらせるつもりというのもな」
「けれど。実際に以前あったから」
「リン=ミンメイさんですね」
「ええ、そうよ」
プロフェッサーがシンルーに対して答える。
「彼女がやったから」
「こっちの世界ではもう伝説です」
こう述べるグレンであった。
「それだけのものがありまして」
「すげえなんてものじゃねえぞ」
話を聞き終えて言う楯人であった。
「あんた達の世界も壮絶なんだな」
「否定はしねえよ」
エドが笑って言う。
「それこそもう色々な相手と戦ってきてるしな」
「こっちにも殆ど動物みたいな奴等もいるしな」
キャリーが笑って述べた。
「あの三人な」
「全くだ」
ミハエルもその三人について述べた。
「相変わらず。今もな」
「まだ食ってるのか」
弾児が目を顰めさせて言った。
「あの破壊兵器よ」
「ラクスさんとクスハさんとミナキさんのお料理」
ソーマも声が曇っていた。
「あれは。私も」
「あの三人は不死身なのだ」
ミナが言い切る。
「何をされても死なないのだ」
「本当に人間なんですか!?」
アンドレイもそこに突っ込みを入れる。
「あんなものを食べても生きていられるなんて」
「一応前はエクセテンデッドマンだった」
モーガンはこう説明する。
「しかし。元々ああだったのだ」
「元々か」
グラハムもそれを聞いて顔を顰めさせる。
「それはまた壮絶な」
「こちらの世界にはもっと凄いのもいるわよ」
レナが言う。
「マスターアジアね」
「マスターアジアって!?」
「流派東方不敗といってな」
イザークが説明する。
「素手でモビルスーツを破壊し車を走り抜く」
「車を!?」
「まさか」
「信じられねえと思うが本当の話なんだよな」
ディアッカも驚くこちら側の面々に話すのだった。
「これがな」
「そんな人間がいるのかよ」
「そうなんです」
ニコルが楯人に答える。
「ほぼ不死身ですし」
「そんな人間がいるとはな」
グラハムもまた言うのだった。
「そちら側の世界も色々とあるのだな」
「色々というかだ」
「何と言うべきか」
ミゲルとハイネは言葉を少し濁らせていた。
「あくまで特別な連中だ」
「ガンダムファイターというものは」
「ガンダムファイターか」
宗介はその存在の名前を呟く。
「ドモン達を見ていると味方としては頼もしいが敵に回すと手強いな」
「その通りよ」
レインもそのことを認めて頷く。
「正直なところね。マスターアジアには苦しめられたわ」
「それで今彼はどうしているのかしら」
「向こうの世界にいるわ」
ルナマリアがメリッサに対して答える。
「向こうのね」
「そう。じゃあ介入しては来ないわね」
「多分そうかと」
「そう思いたいです」
フィリスとエルフィがいささか自信なさげに応える。
「流石にそこまでは」
「あの人でも」
「あの人でもっておい」
クルツは二人の言葉に突っ込みを入れた。
「幾ら何でも化け物みてえじゃねえかよ」
「まあそこのところがあれなんだよね」
今度はアーサーが言う。
「正直かなり疑わしいし」
「こっちにも出て来るかも知れないっていうのか」
「信じられないね」
闘志也もジュリイもまずはそれを信じようとはしなかった。
「生身で時空を超えるなんて」
「有り得ないさ」
「ゲッターはできたけれどな」
謙作はゲッターについて言及した。
「あれはあくまで例外だな」
「ゲッターの力は特別だ」
ガイが言う。
「あれだけはな」
「どちらにしろ。そういう人間もいるのよ」
メイリンはそこを念押しするように述べた。
「あっちの世界にはね。それはわかってね」
「まあそういうことなら」
とりあえず受け入れはする彼等であった。しかしだからといって納得はしていない。だがそんな話をしている間に天使達の間では一つの動きが起こっていた。
「目覚められたのですね」
「うむ」
若く美しい青年の天使があの四つの目の美女に対して応えていた。
「一万二千年ぶりか」
「そうです。一万二千年ぶりです」
四つ目の天使は静かに答える。
「その通りです」
「長かったな」
「いえ、一瞬です」
しかし四つ目はこう返した。
「我々にとっては」
「そうだな。考えてみればな」
「その通りです。それでは」
「わかっている。動くぞ」
「はい」
「同胞達をここに集めてくれ」
彼はこう言葉を出した。
「すぐに。行動に移ろう」
「わかりました」
彼等も動くのだった。こうしてすぐに天使達がロンド=ベルの前にやって来た。その数は先のそれよりも遥かに多いものであった。
「数が増えた!?」
「しかもそれだけではない」
シルヴィアに対してシリウスが述べる。
「何かが違う」
「何かが!?」
「まるで我々を狙っているかのようだ」
こう言うのである。
「まさかとは思うが」
「私達を狙っている!?」
「そうだ」
彼は鋭い目でモニターに映る天使達を見て言った。
「我々に何かを見ているのか」
「だとすれば一体」
「俺達に何を見ているっていうんだ!?」
「そこまではわからないが」
シリウスはシルヴィアとピエールの言葉に対しては答えられなかった。
「おそらくあの男が関係しているのだろうな」
「あいつが」
それが誰なのかシルヴィアにはすぐにわかった。そうして顔を顰めさせるのだった。
「その運命の」
「アポロニウスねえ」
ピエールは腕を組んで考える顔になった。
「どうなのかね、本当に」
「間違いだとは私も思う」
シリウスもこう考えてはいた。
「しかしだ。候補者なのは確かだ」
「だから今はっていうのね」
「その通りだ。それではだ」
「行くっていうんだな」
「そうだ」
ピエールに対して答えると共に前に出るシリウスだった。
「戦わなければ生きてはいけないのだからな」
「それはな。じゃあ俺達もな」
「行きましょう」
二人もまた司令室に向かった。ここで不動がシリウスとシルヴィア、そして麗花に対して出撃命令を出すのであった。
「あれっ、俺は?」
「今はまだだ」
こうピエールに言う不動であった。
「ここで見ているがいい」
「ちぇっ、俺はスペアってわけかよ」
「それは違う」
今のピエールの言葉は否定した。
「見るのもまた戦士の務めだ」
「見るのも?」
「その通りだ」
静かだが強い声で言うのであった。
「だからだ。今は見ているのだ」
「何かしらねえが納得するしかねえんだな」
「司令としての命令だ」
「ああ、わかったさ」
納得はしないが頷くしかなかった。
「それじゃあな。そういうことでな」
「うむ」
何はともあれこれで三人のメンバーが決まった。彼等が出撃したその時にはもうロンド=ベルの面々は天使達との戦闘に入っていた。
「おい、大丈夫なのかよ」
「大丈夫って何がだよ」
「あの麗花っていう奴だよ」
忍は彼女の乗る戦闘機を見つつ沙羅に言うのだった。
「あいつ前の戦いでよ」
「そういえばそうだね」
雅人も忍の言葉に気付いたのだった。
「あの娘精神的なダメージ受けてるから」
「不安が残るのは間違いない」
亮も言う。
「フォローの用意はしておくか」
「フォロー!?そんなもんいらねえよ」
だが忍はここでこう言うのであった。
「フォローなんてよ」
「何考えてるのよ、あんた」
「俺が全部ぶっ潰してやるぜ」
これが彼の考えであった。
「天使共を全員な」
「やっぱりそう言うんだね」
「当たり前だろうが。相手が何処のどいつでも俺は俺なんだよ」
やはりこの世界でも忍は変わらない。
「一匹残らずな。やってやるぜ」
「では藤原」
イゴールが冷静に忍に声をかける。今彼等は分離している。
「すぐに前に出るぞ」
「ああ、それじゃあな」
「既に熱気が前線に出ている」
見れば真っ赤なバルキリーが既に前線で舞っている。
「それに続く」
「よし、行ってやらあ!」
忍はアランの言葉を聞くとすぐに行動に移した。ダンクーガを前にやる。
「どいつもこいつも。くたばりやがれ!」
断空剣を縦横に振るいつつ天使達を薙ぎ倒していく。やはりバサラ達の歌は彼等に何かしらの効果があり動きを止めるのであった。
「よし、今だ!」
ジャンが司令室で叫んでいた。
「今こそアクエリオンの合体だ!」
「無理です」
だがここで。オペレーターの一人が言うのだった。
「それは。まだ」
「何故だ!?」
「麗花が」
彼女の名前が出て来たのだった。
「合体にはまだ」
「くっ、どういうことだ!?」
「精神的なダメージが大きいようです」
こうジャンに答えた。
「ですから」
「何てこった・・・・・・」
その報告を聞いて失望の声を出すジャンだった。
「こんな時に。合体できないなんて」
「副司令」
しかしこのタイミングでピエールが出て来た。
「俺が行くぜ。瞬間転送でな」
「瞬間転送だと!?」
「そうだ。それならいいよな」
こう彼に対して問うのであった。
「それならな」
「しかしだ」
だが彼はその瞬間転送というものに難色を示してきた。
「それは。今は」
「今やらなくてどうするんだよ」
彼の言葉は強くなった。
「今ここでよ。俺と麗花がよ」
「危険だ」
彼は弱い声で述べた。
「あまりにも。やはり」
「だから駄目だっていうのかよ」
「許可はできない」
彼の結論はこうであった。
「ここで何かあればそれこそ」
「今それで合体できなかったら余計に駄目だろ?」
ジャンはこう言われてもまだ言う。
「ここでアクエリオン失ったらよ」
「それはそうだが」
「じゃあ決まりだよな」
かなり強引に話を決めてしまった。
「それでな」
「仕方ないか?」
ジャンの声はここでも弱々しい。ちらりと不動を見るが彼は腕を組んだまま何も言おうとはしないのであった。完全に沈黙していた。
「それで」
「ああ、じゃあすぐによ」
「本当にいいのね」
司令室の面々が怪訝な顔でピエールに問うた。
「それで。瞬間転送はかなりの負担がかかるけれど」
「やわな身体じゃないさ」10
不敵な笑みでの返答であった。
「生憎な。だからよ」
「待て!」
しかしであった。
「私が行く」
「私!?」
「誰!?」
「私だ」
声の主は何と。アポロであった。
「アポロ!?」
「どうしてここに」
「しかも言葉遣いが」
「セシリア」
周りの問いには答えずに急に聞き慣れない名前を出してきた。
「何だその無様な戦いは」
「セシリア!?」
「それは一体」
「かつての私との共闘を忘れたか」
こうそのセシリアに対して言うのであった。
「無様な戦いを見せるとは」
「言うか、アポロニウスよ」
「なっ!?」
「シルヴィア!?」
その言葉に応えたのはシルヴィアであった。口調は完全に変わっていた。
「どうしてシルヴィアが」
「まさか。その前世を」
「私を愚弄するのか。では来い」
「わかった」
アポロがまた応えた。
「では共に舞を舞おう」
「うむ・・・・・・って」
ここで我に返ったシルヴィアであった。
「私は。一体」
「シルヴィアの前世を蘇らせたというのか」
シリウスはそれを見て冷静に考えていた。
「アポロの今の言葉は」
「それではだ」
アポロは神々しい声であらためて周りに言ってきた。
「私が行こう。いいな」
「いや、待て」
しかしそれはジャンが止めた。
「君が行くだって!?」
「そうだ」
ジャンに対しても有無を言わせぬ口調であった。
「私の戦いの舞を今見せよう」
「待て、話はもう決まったんだ」
戸惑いながらもアポロに言う。
「ピエールでだ。それでどうして」
「構わん!」
ここで今まで沈黙していた不動が告げた。
「それでよい!」
「よいってでは司令」
「その通りだ。少年よ」
「アポロニウスだ」
「ではアポロニウスよ」
すぐにこう彼にも告げる。
「行くがいい。いいな」
「わかった。それではな」
「ですが司令」
ジャンは焦りつつも不動に対して言う。
「彼はまだ操縦が」
「前の戦いでは何ともなかったな」
「ですが。それでも」
「いいのだ」
彼は言うのであった。
「それでな」
「いいと言われても。まだアクエリオンの訓練が」
「訓練!?違うな」
「違う!?」
「選ばれたのだ」
これが不動の言葉であった。
「奴はな」
「選ばれたといいますと」
「馬は己で騎手を選ぶな」
「ええ、まあ」
「それと同じだ」
こうジャンに言うのであった。
「それとな。奴はアクエリオンに選ばれたのだ」
「そうなのですか」
「わかればはじめろ」
指示に戻っていた。
「瞬間転送だ。いいな」
「はあ、それでは」
こうしてアポロが転送される。それを確認してから不動はすぐにまた指示を出したのであった。
「やれ!」
「あれをですね」
「そうだ。創聖合体!!」
今叫んだ。そして。
三機の戦闘機が合体してアクエリオンになる。それは一瞬のことだった。
「またこの感触か」
「この感触は」
シリウスとシルヴィアがそれぞれ言う。
「まさに夢の如く」
「いっくううーーーーーーーーーーーーっ!」
シルヴィアに至ってはこう叫んでいた。こうしてまたアクエリオンになるのであった。
「行くぞ、セシリアよ」
アポロは相変わらずであった。
「今ここで舞う為にな」
「こいつ、本当に」
シルヴィアは今の彼の言葉を聞いて思ったのだった。
「別人みたいに」
「完全に前世の人格になっている」
シリウスも言う。
「やはり。こいつは」
「おい、それでさ」
「いいですか?」
三人にジャックとシホが声をかけてきた。
「そっちに敵が集中してきているから」
「用心して下さいね」
「わかっている」
アポロニウスそのものになっているアポロが二人に応えた。
「私が引き受ける」
「引き受けるのは幾ら何でも無理では?」
シホはそのことを不安に思っていた。
「私達が今から」
「行くから」
「いや、いい」
だがアポロは二人のその申し出を断った。
「私はここでな」
「そうですか。そこまで仰るのでしたら」
「俺達も。ここで戦って」
「私の舞を貴様等に見せよう」
アポロはもう完全に敵の天使達を見据えていた。
「一万二千年ぶりにな」
「よし、このまま戦闘を進めるぞ」
不動はそのアポロを見つつ言った。
「このままな」
「はあ、それでしたら」
ジャンはまだ何が何なのかよくわからないままそれに頷いた。
「わかりました」
「ちぇっ、俺は何なんだよ」
そしてピエールは腕を組みふれくされていた。
「何か急によ。話が」
だがそれでも戦闘に入っていた。アポロはアクエリオンを駆り戦局そのものをロンド=ベルにとって有利なものにしていた。だが敵をあらかた倒し終えたその時に。
「アポロニウス」
「!?」
「この声は!?」
「久し振りだね」
一同が突如として謎の声を聞いたのだった。
「一万二千年ぶりだね」
「トーマか」
「そう、僕だよ」
その声はアポロの問いに対して答えてきた。
「僕だよ。わかったんだね」
「わからない筈がない。それで何の用だ」
「まずは言っておくよ。おめでとう」
最初は祝福の言葉であった。
「転生と覚醒はね」
「それだけか?」
「勿論それは違うよ」
これはすぐに否定した。160
「それはね」
「では何だ」
「失望したよ」
急に彼にこう言うのであった。
「以前の君とは違うから。あまりにも」
「何っ!?」
「まだ完全に覚醒していないみたいだ」
「覚醒!?」
「何の話なんだ!?」
「まさか」
これは他のロンド=ベルの面々にはわからない話だった。だがそれでも彼等は考えたのである。
「アポロの前世の」
「じゃあこの声の主もまた」
「その前世の!?」
「いや、天使だ」
だがここでピエールが言った。
「間違いねえ。これは天使だ」
「天使!?」
「それじゃあまさか」
「そうだ。また一人目覚めたのだ」
不動もまた彼等に告げてきた。
「ここでな。また一人な」
「やっぱり。それじゃあ」
「アポロと因縁が」
「おそらくはな」
これは不動も読んでいるようであった。
「間違いがない。それではだ」
「アポロとあのトーマっていうのは」
「その一万二千年前の話をここで」
「してるっていうのかよ」
「思い出すんだ、アポロニウス」
トーマと呼ばれたその男はさらに彼に言ってきた。
「あの時のことを。さあ」
「な、何なの!?」
「この感触は」
アポロと共にいたシリウスとシルヴィアはここで思いも寄らぬ中に投げ込まれた。
「宇宙なのか!?」
「ここって」
「宇宙は宇宙だ」
アポロがその二人に答える。
「ここはな」
「馬鹿な、我々が今いるのは」
「地球なのに」
「地球にはいる」
アポロはこうも答える。
「身体はな」
「心はってことなのね」
「そうだ」
シルヴィアに対して答える。そういうことだったのだ。
「これでわかったな」
「そういうことだったの。私達の心を」
「宇宙に」
「トーマよ」
アポロはアポロニウスの記憶のままそのトーマにまた声をかけた。
「私の覚醒がまだ充分でないというのだな」
「そうさ」6
トーマの声が彼に答えた。
「それが残念だよ。けれど違うよね」
「無論だ」
トーマに対しても有無を言わさぬ口調であった。
「私は。完全に覚醒してみせよう」
「わかったよ。それじゃあ」
これでトーマの気配が消えた。
「また会おう」
「去るのか」
「そうさ。また会うとの時を楽しみにしているよ」
実際にその声は笑っていた。
「またね」
こうしてアポロ達の心は完全に地上に戻りその時には天使達も撤退していた。ロンド=ベルは戦いには勝ったがまた得体の知れない敵の存在を知ったのだった。
「トーマか」
「どうやら天使達のリーダーのようだな」
彼等はこう予想を立てた。
「あの力からして」
「まず間違いありません」
彼等の思案にテッサが述べた。
「それは」
「そうだな。やはり」
「あいつは」
「ですが。天使達については資料が少ないので」
「あまりよくはわかっていないのですね」
「申し訳ありません」
サコンに対しても述べるのであった。
「本当にあまり。何もかもが」
「わかりました」
サコンはそこまで聞いてまずは頷いた。
「ですがその資料をお貸し願えますか」
「貴方がですか」
「はい。こちらでも調べてみます」
こう述べるサコンであった。
「俺も興味を持ちましたし」
「だからですか」
「一万二千年前でしたね」
「はい」
サコンが言うのはその時間であった。
「確かこの世界での文明ができた時でしたね」
「そうされています」
テッサはサコンにこう答えた。
「その時に文明が生まれたとされています」
「その前は」
「その前はといいますと」
「何もなかったんですね」
彼が問うのはここであった。
「この世界には」
「一応それまで生物はいましたが」
「生物は」
「恐竜や三葉虫が」
こういった古代の生物が話に出た。
「いました」
「そうですか。そういった生物は一万二千年前にもいたのですね」
「そうです。それは」
いたと答えるテッサであった。
「ですが。それが何か」
「いえ、聞いただけです」
考えるところがあったがそれは今は伏せるサコンであった。
「それにつきましては」
「左様ですか」
「とにかく。こちらでも調べてみます」
サコンはあらためてこのことをテッサに述べた。
「何かわかればまたお知らせします」
「はい、御願いします」
「それであいつはどうなったんだ?」
サコンとテッサの話が一段落したところでサンシローが言ってきた。
「あいつはよ。どうなったんだ?」
「アポロ君ですね」
「ああ、そうさ」
ブンタの問いにも答える。
「何かアポロニウスって奴になってたけれどよ。それでどうなったんだよ」
「何でもまた隔離されているらしいぞ」
「何っ!?」
「だから隔離だ」
リーはこうサンシローに言うのだった。
「戻ってすぐに暴れたらしくてな」
「何だよ、そりゃ」
その話を聞いてサンシローも呆れてしまった。
「まるで動物だな、そりゃ」
「全くだな」
ピートも珍しくサンシローに同意している。
「そこまで無茶苦茶な奴だとはな」
「アポロ君はアポロニウスではないのですか?」
「憑依が解けたのか?」
ブンタとピートはこう考えた。
「どうやらそうらしいわ」
ミドリがその二人に対して答えた。
「それで我に返ってまた急にだったらしいわ」
「本当にとんでもない奴なんだな」
ヤマガタケにまで言われるアポロであった。
「完全に動物じゃねえか」
「だが一体」
大文字はその話の中で考えるのだった。
「あのアポロニウス、それに一万二千年という時間にあのトーマという天使」
「私の予想ではまず何かがあります」
サコンは今度は大文字に対して述べた。
「おそらくは」
「そうか。ではサコン君」
「はい」
「頼むぞ」
サコンに顔を向けて告げたのであった。
「この謎を解明してくれ」
「わかりました。それでは」
「しかし。何だよな」
ジュドーが口を開いてきた。
「折角あの連中とも仲良くしてえのにな」
「あのピエールっていうのと話しやすそうだけれどな」
「そうだね。何かね」
ビーチャの言葉にイーノが頷く。
「気さくな感じがするし陽気だし」
「だよな。変な奴もいるけれどね」
「変な奴って!?」
モンドはビーチャの今の言葉に問うた。
「誰、それ」
「あの王子様じゃないの?」
「ああ、シリウスね」
エルとルーが言った。
「顔はいいんだけれどね」
「何か変わった感じのする人よね。確かに」
「そうなんだよな。あの王子様な」
ジュドーもシリウスをそう見ているのだった。
「微妙に変なんだよな」
「ブリットに声似てるし」
「そうだな」
今度はプルとプルツーが言う。
「けれど剣いつも持ってるし」
「超能力も使っていたな」
「本当に何者なのかね」
ジュドーはこのことを考えた。
「あの王子様もよ」
「しかし。あのトーマという天使といい」
マシュマーは憂いのある顔で己が持っている薔薇を見つつ話をしている。
「この世界も。謎に満ちているものだな」
「どこもかしこも謎だらけですね」
「全くだよ」
ゴットンとキャラも言う。
「いい加減頭こんがらがってきますよ」
「今度は天使だしねえ」
「しかもです」
「どうも気になるのですが」
ランスとニーの双子も口を開いてきた。
「この世界での天使達も」
「我々の世界の使徒に何処か似ているような」
「それだけではないな」
ハマーンが二人の話を聞いて述べてきた。
「何故か音楽にも反応する」
「熱気バサラのよね」
「そうです」
ミネバの言葉に恭しく応えるハマーンであった。
「あの者の音楽に反応していますね」
「ええ。ミレーヌの音楽にも」
「私はどうもそこが気になるのです」
真剣な顔でミネバに話すのだった。当然この話は周りの皆も聞いている。
「それに。やはり一万二千年という時間でしょうか」
「天使達の時間が?」
「この世界には他にもわからないものがあります」
ハマーンはさらに述べる。
「あのラーゼフォンといい」
「そうよね。何か色々とあり過ぎて」
「ですが何かつながるものを感じます」
語るその目がさらに鋭いものになった。
「それ等の中に」
「!?つながるものだって!?」
「そうだ」
ジュドーにも言葉を返した。
「ジュドー、御前はまだ感じないのか」
「あのトーマには妙なものは感じたさ」
ジュドーはそれは感じていたのだった。
「何かよ。輪廻とかそういったものをな」
「そう、輪廻だ」
「輪廻だって!?」
「この世界には輪廻を感じるのだ」
ハマーンが見ているのはそこであった。
「永遠に繰り返されるな」
「どういうことですか?ハマーンさん」
「今は私が感じているだけだが」
ロザミアにも述べた。
「どうもだ。こうしたことが繰り返されているような気がするのだ」
「こういうことって」
「破壊はただ破壊にだけ終わるのではない」
ハマーンはまた言った。
「そこから創造と調和が続くのだ」
「創造、調和、破壊」
クェスがその三つを呟いた。
「私にもそれはわかるわ。インド神話のサイクルよね」
「インド神話!?」
「そうよ。ブラフマーとヴィシュヌとシヴァ」
クェスはギュネイに対して答えた。
「私インドにいたからそれはわかるの。インド人の中での世界のサイクルよ」
「そんなものがあるのかよ、インドには」
「クェスの言う通りだ」
ハマーンはクェスの言葉に対して言ってきた。
「私もこの世界にそれを感じる。サイクルをな」
「それじゃあよ」
話を聞いた楯人が言ってきた。
「俺達の世界は何かその三つのサイクルを繰り返してるってことかよ」
「私の考えが正しければだ」
ハマーンは彼に対しても言った。
「若しかすればな」
「何か話がわからなくなってきたな」
弾児も話を聞いて首を傾げだしていた。
「輪廻にサイクルと言われてもな」
「けれどそれがあの連中と関係があるのか」
楯人はまたこのことを言うのだった。
「何か途方もないことになってきたのはわかるぜ」
「まあとにかくさ」
シーブックがここで皆に声をかけてきた。
「ここであれこれ話してて皆お腹が空いたよね」
「あっ、そういえば」
「確かに」
皆シーブックの言葉でそれに気付いた。
「どうにもお腹が」
「そういえばそんな時間だったっけ」
「そうだよ。もうお昼の時間だよ」
シーブックはまた皆に話した。
「もうね。だから」
「何かあるかな」
「お昼っていえば」
「セシリーがパンを焼いたから」
シーブックはここでまた言うのだった。
「皆でそれを食べようよ」
「あっ、いいわね」
「それじゃあ」
「後はおかずは」
続いてそちらだった。
「誰か何かできる?」
「んっ!?じゃあ俺が作ろうか?」
ディアッカが言ってきた。
「とりあえずソーセージがあるよな」
「はい、ありますよ」
リィナがにこりと笑って答えてきた。
「あとハムとか。サラダも」
「トマトあるかな」
「トマトならもうたっぷり」
「よし、じゃあサラダはサラダでだ」
ディアッカはサラダをまず分けた。
「後はソーセージとハムとトマトを炒めるか」
「それがおかずですね」
「そうさ。じゃあリィナちゃんも手伝ってくれよ」
「わかりました」
「皆ちょっと待っててくれよ、すぐに作るからな」
こうしてディアッカが料理に入る。シンジや他に何人かが手伝いに入る。アーウィンはそんな彼を見てぽつりとした感じで言うのだった。
「あいつ料理できたのか」
「ディアッカの料理は名人クラスだ」
レイが彼に答える。
「だから任せておいていい」
「そうか、そんなにか」
「じゃあ楽しみにしてます」
フレースはそれを聞いて明るく言うのだった。
「ディアッカさんのお料理」
とりあえず彼等はのどかに過ごしていた。しかし隔離されているアポロは相変わらずその中で暴れ回っているのであった。まさに猛獣である。
「くそ、出せ出せ!」
鉄の扉に何度も体当たりをしながら叫んでいる。
「何で俺がこんな場所に。くっ」
そんなことを喚いているとここで。扉をノックする音が聞こえてきた。
「何だ?」
「入ります」
その声と共に紫のドレスに薄紫の髪と緑の目の少女が入って来た。車椅子に乗っている。
「お食事を御持ちしてきました」
「食い物!?」
「はい、これです」
パンとミルクにサラダ、それにソーセージとハム、トマトを炒めたものであった。言うまでもなくディアッカ達が中心となって作ったあの料理である。
「どうぞ」
「寄越せ!」
いきなりそれを奪い取るようにして受け取るとその場でガツガツと食べはじめるのだった。
「うめえな、これ」
「ディアッカさんが作られたものです」
「ディアッカ!?あの色が黒くて金髪の奴か」
「はい、そうです」
「あいつ料理ができたのかよ」
アポロにとっては驚くべきことだった。
「しかもこんな美味いモンを」
「美味しいですよね」
「ああ」
それは素直に認めるのだった。
「それもかなりな」
「それでアポロさん」
「何だ?」
「貴方は先程戦われましたね」
「それがどうしたんだ?」
少女に顔を向けて問う。
「それが。何かあるのか?」
「貴方は前世を思い出されました」
「俺は覚えてないんだけれどな」
本人にその時の記憶はないのだった。
「それはな」
「そうなのですか」
「ああ。それで気付いたら色々と言われててな」
それから暴れたというわけだ。
「あの副司令とかいう奴気に入らねえな」
「ジャンさんがですか」
「どうにもな」
少女の問いに答える。
「いけ好かねえんだよ、ああいう奴は」
「そうですか」
「そうさ。ところであんたは」
今度は少女に顔を向けるのだった。
「何ていうんだ?名前は?」
「リーナです」
少女は名乗ってきた。
「リーナ=ルーンです」
「そうか。んっ!?」
ここで彼はあることに気付いた。そうしてそのリーナの前で手を横に振ってみるのだった。しかしリーナは反応を一切見せないのだった。
「あんた、まさか」
「見えています」
だがリーナは微笑んでアポロに答えた。
「心で。しっかりと」
「そうなのかよ」
「はい。そして貴方のことも」
今度はこう言うのだった。
「見えています」
「俺のことも?」
「貴方は獣です」
言葉はこうであった。
「聖なる獣です。まさに」
「俺が聖なる獣!?」
「はい。一万年と二千年の輪廻の鎖を断ち切る獣」
こう言うのである。
「それが貴方です」
「そのアポロニウスとかな」
その話もするアポロだった。
「俺にはわからないことばかりさ」
「はい」
「それでその聖なる獣だ」
彼はそのことについても言った。
「わからないことばかりだけれどよ」
「どうされたのですか?」
「戦わないといけないんだよな」
首を左右に捻りながらの言葉であった。
「やっぱりな」
「そうです。簡単に言えば」
「わかったさ」
リーナの言葉に頷くのだった。
「何かわからねえけれどな。あの天使達と戦うさ」
「天使達だけではありませんが」
だがリーナはまた言うのだった。
「麗花さんもようやく気を落ち着かせさせられましたし他の方々もおられます」
「他の奴等も!?」
「はい。皆さんで」
リーナはさらに言うのであった。
「この戦いの先にあるものを御覧になられて下さい」
「この戦いの先にあるもの」
「まだ私にも見えはしません」
その心の眼でもあった。
「ですがそこにあるものを」
「何かしらねえがわかったさ」
今はこう答えるアポロだった。
「俺は戦う。これでいいんだな」
「はい」
「ならいいさ。好きなようにやってやるさ」
何はともあれ彼も正式にロンド=ベルに加わるのだった。暫くして彼は隔離から放たれることになった。こうしてアクエリオンは本格的にこの果てしない戦いに加わったのだった。
第九十九話完
2008・12・16
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