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戦国異伝

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第百十二話 東西から見た信長その五

 それだけに謀の効果も知っているのだ、そしてその毒もだ。
「あの毒は少し誤るとじゃ」
「それで、ですね」
「自分に返ってきますな」
「そうじゃ。己とは限らぬ」
 その返ってくる対象はというのだ。
「家そのものやも知れぬのだ」
「因果応報ですか」
 ここでこう言ったのは隆元だ。
「それでしょうか」
「うむ、史記にもあるな」
「所々にありますな」
「謀で人を陥れたならば報いがある」
 史記はそうした話が多い。司馬遷がそうした輩を許せなかったのかその末路はどれも悲惨なものなのだ。
 元就もそれを知っている、だからこそ言うのだ。
「謀は己の為には決して用いてはならぬ」
「宇喜多の様に」
「そうしてはですな」
「斉藤道三を見よ」
 信長の義父である彼の名前も出た。
「あの者は美濃を手に入れるまでに多くの謀を用いたな」
「そして美濃を手に入れましたな」
「ああして」
「己の野心の為にそうしたな」
 元就は家の為、即ち毛利家が生き残りかつ家の者達が家が大きくなることにより栄えることを
考えて謀を出してきた、だが道三はというと。
「引き立ててくれた者も主も讒言や暗殺や謀反で追い落としてきた」
「そして美濃一国を手に入れましたが」
「しかしですな」
「その末路は」
「息子、血がつながっているかどうかは知らぬ」
 その真相は元就にとってどうでもよかった。この事実こそが大事だった。
「その息子に裏切られ死んだな」
「思えば悲惨な末路ですな」
 元春は唸る様にして述べた。
「我が子に叛かれ滅びるとは」
「しかしそれもじゃ」
「因果応報でございますか」
「謀はみだりに、しかも己の為だけに用いるのではない」
 稀代の謀略家と謡われる元就ならではの言葉と言えた。
「溺れれば滅びるからのう」
「しかし宇喜多はみだりに謀を用い国を奪いました」
「己の舅や血縁の者まで次々と殺めています」
「そうした輩だからでございますな」
「うむ、あの者は好きになれぬ」
 そしてだった。
「決して信用できぬ」
「では何かあれば」
 隆景は心の刃を今抜いた。その上での言葉だった。
「その時は容赦なく」
「降ってきても決して信じるでない」
 息子達全員に告げた言葉だった。
「例え何があろうとな」
「ですな。そして」
「若し少しでもおかしな動きを見せれば」
「その時は」
「斬れ」 
 元就は一言で告げた。
「よいな、そうせよ」
「畏まりました」
「それでは」
 息子達も頷く。毛利家にとって宇喜多は敵となるやも知れぬ信長以上に厄介だった。その証に元就はこうも言うのだった。
「しかし織田信長と共に茶を飲むのもじゃ」
「あの者とですか」
「尾張の蛟龍と」
「青と緑なら色の相性もよい」
 それぞれの家の色の話もする。
「それもいいじゃろう」
「そういえば織田信長は酒が飲めぬとか」 
 隆元もこのことを言う。
「噂でございますが」
「それは事実であろうな」
「左様でございますか」
「だから茶じゃ」
 酒が飲めないならそれだというのだ。 
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