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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第六十三話 邪魔大王国の最期

             第六十三話 邪魔大王国の最期
「!?」
宙はふと気配に気付いた。
「誰だ?」
「ここは」
観れば闇の中だった。無限の空間だ。その中に彼は漂っている。そしてそれは一人ではなかった。
「誰かいるのか」
宙はもう一人の声に気付いた。
「俺を呼ぶのは誰だ?そしてこの空間は」
「ここは。何処なのだ」
「!?御前は」
宙はここで目の前にいる女に気付いた。それは」
「フローラ!」
「司馬宙だと」
そしてフローラはフローラで宙に気付いたのだった。
「何故ここに」
「それは俺が聞きたい」
宙にもそれがどうしてかは全くわからなかったのだった。
「どうしてこんな場所に。俺達はいるのだ」
「わからない。だが一つだけ言えることがある」
フローラは宙に言ってきた。
「私達がここにいるということだ」
「そうか。そうだな」
宙もまたフローラの言葉に頷く。
「じゃあここはまさか」
そのうえでこの世界について述べた。
「夢の中、夢の世界か」
「そうなのか」
「ああ、だから俺と御前はここにいる」
宙はこうフローラに対して告げた。
「つまり俺達の心は今つながっているんだ」
「今、か」
「そうだ。それでどうするんだ?」
「むっ!?」
フローラは宙の言葉に顔を向けた。見れば今二人は武装していない。フローラの緑色の豊かな髪の毛もはっきりと見えていた。
「闘うか?」
宙が問うのはそれであった。
「今ここで俺と」
「いや」
だがフローラは宙のその言葉に首を横に振るのだった。そのうえでまた言う。
「止めておこう」
「戦わないのか」
「無駄だ」
こう言うのだった。
「ここが夢の世界ならそんなことをしてもな」
「そうか、無駄か」
「私はこう考える」
こうも述べてみせた。
「だから今は」
「それじゃあ」
宙はそれを聞いてフローラにあらためて言ってきた。
「何だ?」
「俺と話をしないか?」
こう提案してきたのだった。
「ここで」
「話だと」
「ああ」
今度はフローラに対して頷いてみせた。
「俺は君と話がしたいんだ」
「そうなのか」
「そう。俺は幾多の戦いを経てきた」
ヒミカを倒しそれからもロンド=ベルにおいて数多い戦いを。
「その中でわかったんだ。今人類は未曾有の危機にある」
「危機に」
「だから無益な戦いを何時までも繰り返してはいけない」
「無益な戦い・・・・・・」
「そうだ」
これについてもまたはっきりと述べてみせる。
「こんな戦いは一日でも早く終わらせないといけない」
「そう考えているのだな」
「ああ。その為にも君の力も必要だ」
「何っ!?」
「そうだ。この間の戦いからずっと考えてきた」
こうも述べる。
「君ならきっと俺達の気持ちを理解してくれる筈だ」
「私なら・・・・・・」
「だから」
さらに言う。
「フローラ」
一歩前に出た。
「俺達と手を組んで竜魔帝王の野望を葬ってくれ」
「・・・・・・・・・」
だがフローラはその言葉に答えない。宙もそれに気付いてさらに声をかける。
「どうしたんだ、フローラ」
「来るな」
静かに首を横に振って告げた。
「私のところに来るな」
「君が俺を拒むのは」
頑ななフローラの態度を見て述べる。
「この間の話、竜魔帝王が君の運命を変えたことに関係しているのか?」
「・・・・・・・・・」
この問いにも沈黙して答えない。だが宙はその彼女にさらに当問うのだった。
「教えてくれ、フローラ」
こう。
「竜魔帝王が君の運命を変えたことに関係しているのか?」
「それは」
「教えてくれ」
またフローラに問う。
「君と竜魔帝王との間には一体何が」
「竜魔帝王は救ってくれた」
「君をか」
「そうだ、私の命をな」
こう語るのだった。
「恩人なのだ」
「馬鹿な」
宙はすぐにそれを否定した。
「あの竜魔帝王が。まさか」
「だが事実だ」
フローラの言葉は変わらない。
「遥か古代のことだ」
「古代か」
「そう。私は山岳地方の村を治める村長の娘だった」
はじめてわかるフローラの過去だった。
「その時は平和に暮らしていた」
「そうだったのか」
「しかし」
だがここで話が変わった。
「ある日突然村は狼に襲われた」
「何だって!?」
「私はその時死んだ」
宙はこの時実はおかしなことに気付いていた。狼は人を襲わないということに。だから狼は犬になったのだ。これはよく忘れられることであるが。
「私はその時死んだ」
「そうだったのか」
「そして次に私が目を覚ましたのは」
「その時は」
「竜魔帝王の御前だった」
はじめて明かされる事実であった。
「そして帝王は私に言われた」
「何と?」
「愛の為に生命を落とした私を甦らせたのは」
フローラは語る。
「愛というものの無力さを教えるためだと」
「何っ!?」
「そして」
さらに言う。
「竜魔帝王は私に永遠の忠誠を誓わせた」
「君にか」
「そう。そして」
話は続く。遂に核心に。
「断れば私の生命の灯火を消すと」
「そんな馬鹿な話があるか!」
宙はそこまで聞いて思わず叫んだ。
「君は竜魔帝王に脅迫されているだけじゃないか!」
「そう思うのか」
「当然だ!」
こうまで言い切る。
「何故俺達は戦わなければならないんだ!」
「竜魔帝王は世界征服を望んでおられる」
それが答えだった。
「だから」
「世界征服に何の意味があるんだ!」
しかし宙はそれに反論する。真っ向から。
「君には温かい血が通ってるじゃないか」
「私に・・・・・・」
「そうだ、だからこそ」
宙の言葉は続く。
「お互いに手を取り合って平和な世界を創り巨大な危機に立ち向かっていけるんだ!」
「・・・・・・無理だ」
しかしフローラは暗い顔で俯いてそれを拒む。
「無理だっていうのか」
「私は邪魔大王国の将軍」
まずはこう言った。
「竜魔帝王に仕える将軍だ」
「それが君の本心なのか!?」
「それは・・・・・・」
宙に問われるとどう答えていいかわからない。
「私は。それは」
「フローラ、君はそんな人間じゃない!」
宙がそれを否定する。
「君は人の為に命を投げ出すことができる!」
「何故そう言える・・・・・・」
「君が人間だからだ!」
それが理由なのだった。
「君の心の中には温かい愛情があるんだ!」
「私の中に・・・・・・」
「そうだ、だからこそ俺は」
さらに言う。
「君を信じ、こう君に語り掛けているんだ!」
「・・・・・・言うな」
しかしフローラの返答はこうであった。
「言うな、司馬宙」
「何故だ!」
「やはり私は」
こう言って踵を返す。そのうえで立ち去る。宙はフローラのその背に対してさらに呼び掛ける。
「フローラ!待ってくれ!フローラ!」
だが返答はなかった。宙は絶望の中で目覚める。しかし彼はそれに沈むことさえ許されていなかったのだった。
起きると通信でマシンファーザーに向かう。そこで父から話を聞くのだった。
「以上だ」
「そうか」
「御前が問い合わせた古代史に残された伝説の真相だ」
「やはりそうだったのか」
宙は父の言葉を聞いて頷く。
「しかし驚いたぜ」
「驚いた?」
「ああ、まさか科学要塞研究所にな」
それを言うのだった。
「父さんの本体が移設されていたなんてな」
「ここは今や日本の守りの中心だからな」
「そうか
「そうだ。私もその防衛には協力させてもらっている」
息子に対して答える。
「だが」
「だが。何だ?」
そのうえで息子に対して尋ねてきたのだった。宙もそれに応える。
「御前がわざわざ通信をかけてくるとは珍しい」
「ああ、確かにな」
宙もそれは否定しない。むしろ肯定していた。
「何か心に不安があるのか?」
「流石にお見通しか」
そのうえでこう応える宙だった。
「言っていいか?」
「うむ」
息子に対してそれを認める。
「俺は前の戦いで竜魔帝王の力の一部を見た」
「それは聞いている」
既に彼の耳にも入っていることだった。
「かなりのものらしいな」
「ああ」
そのうえで言うのだった。
「ヒミカの比じゃなかった。消耗していたとはいえ俺達は撤退せざるを得なかった」
「御前達がか」
「言い訳になるが確かにムゲや百鬼帝国の軍もいたさ」
一応はそれも言う。
「けれどな。それでも」
「それでも。どうした?」
「父さん、俺は恐ろしいんだ」
何とか表情は保っている。しかし心は違っていた。
「俺は奴に敗北し、母さんやまゆみを残して死んでしまうのが恐ろしいんだ」
「宙・・・・・・」
まずは一呼吸置いた。そのうえで述べるのだった。
「御前はもう立派な一人前の戦士だ」
「そうなのか」
「そうだ。だから私から御前に言ってやれることはもうないかも知れない」
こう前置きする。
「だが。それでもいいか」
「ああ、頼む」
そのうえで宙も父の言葉を受けるつもりだった。
「それは何なんだ?」
「これが御前に贈る最後の言葉になるだろう。それでもいいのなら」
「それでもいい」
宙もまた真剣であった。
「父さん、早く言ってくれ」
「忘れろ」
一言だった。
「忘れろ!?」
「そうだ。全てを忘れて死ぬのだ」
こうも告げる。
「そして御前は死んで生きるのだ」
「死んで生きる・・・・・・」
宙にはその言葉の意味がわからなかった。
「それは一体」
「いずれわかる」
その答えまでは言わなかった。
「すぐにはな」
「・・・・・・そうか」
その時だった。美和が来た。
「宙さん、来たわ!」
「邪魔大王国か!」
「ええ、北上してきたわ!自分達から来たのよ!」
「よし!それなら!」
最早躊躇することはなかった。美和に対してすぐに応える。
「俺達も出撃だ!」
「ええ!」
「宙、卯月君」
最後に二人に声をかけてきた。
「健闘を祈るぞ」
「はい!」
そして美和もそれに応える。
「私達は今日という日の為に戦ってきたのですから」
「父さん」
宙は最後に父に対して告げた。
「さっきの言葉の意味は俺にはよくわからない」
「そうか」
「だが、俺は戦う」
しかしこれはもう決めていたのだった。
「仲間達と自分の力を信じて!」
「そうだ、宙」
父の言葉だった。
「御前は・・・・・・鋼鉄ジーグは不死身だ!」
「ああ!」
宙もまたその言葉に応える。
「その力で人々の幸せを悪の手から守り抜くのだ!」
「ああ!」
こうして彼等は出撃した。邪魔大王国の大軍は既に佐賀と宮崎の境に展開している。一触即発の状況であるのがすぐにわかる。
その大軍を前にして。宙は叫ぶ。
「来い、邪魔大王国!」
まずはこうであった。そのうえで鋼鉄ジーグになった。
「これで終わらせてやる!」
「宙さん」
「心配するなミッチー」
そのうえで美和に対して応える。
「俺は戦う、力の限りな」
「わかったわ」
「諸君!」
大河が一同に声をかけてきた。
「来るぞ!」
「総員迎撃用意!」
ダイテツが指示を下す。
「ここで彼等を食い止めるぞ!いや」
言葉を訂正する。
「倒す!」
これであった。
「これが邪魔大王国との決戦になる。総員奮闘せよ!」
「よし!」
アランが応える。そこにはフローラもいた。
「フローラ、やはり」
「鋼鉄ジーグ・・・・・・」
「御前はやはり」
「言うな。よいかロンド=ベル!」
ロンド=ベルの戦士達に対して叫ぶ。
「我こそは邪魔大王国のまの支配者竜魔帝王の腹心フローラ将軍!」
「悲しきことだ」
ここで呟く者がいた。
「己がわかっておらぬか」
「ククル」
「わらわもかつてはそうだった」
邪魔大王国の女王だったその時のことを思い出していたのだ。
「あの女もまた。悲しきことだ」
「そうか」
「我が誇りと邪魔大王国の悲願達成の為!」
そのククルの言葉なぞ知らずフローラの言葉は続く。
「貴様等の命貰い受ける!」
「宙!」
竜魔が宙に言ってきた。
「彼女のことは御前に任せる!」
「済まない!」
「御前は彼女を救いたいって言うのなら!」
凱も叫ぶ。
「俺達はバックアップを惜しまないぜ!」
「宙さん」
また美和が声をかけてきた。
「それでどうするつもりなの?」
「考えがある」
宙はこう美和に答えた。
「考えが?」
「ああ、まずはフローラに呼び掛け」
まずはそれであった。
「その真意を確かめてみる」
「それなのね」
「済まない、ミッチー」
ここまで話したうえで美和に謝罪してきた。
「どうしてなの?謝るなんて」
「危険な賭けに巻き込んじまって」
謝罪の理由はそれであった。
「これは。成功する可能性は」
「気にしないで宙さん」
しかし美和は微笑んで宙に答えてきた。
「私だって無益な戦いをこれ以上続ける気はないのだから」
「そうか」
「そうよ」
また答えてみせる。その笑顔で。
「だから。気にしないで」
「ああ、済まない」
「行くぜ皆!」
トウマが叫ぶ、
「俺達は宙を援護して周囲の雑魚を叩く!」
「待っていろフローラ!」
宙の言葉である。
「御前の本心を聞き出してやるぞ!」
「総員攻撃開始!」
「全軍進撃せよ!」
大河とフローラがそれぞれ指示を出した。
「ここで彼等を倒す!」
「悲願の達成だ!」
またしてもそれぞれの言葉であった。
「最後の戦いだ!」
「決戦だ!」
両軍は激突した。その中で鋼鉄ジーグはフローラの乗るヤマタノオロチに向かう。そうして彼女に対して叫ぶのであった。
「フローラ!」
「鋼鉄ジーグ!」
「君はこんな馬鹿げたことのできる女じゃない!」
こうフローラに対して叫ぶ。
「君は俺達と同じ人間だ!」
「くっ!」
「君は人に対して哀しみを感じることができるじゃないか!」
「言うな!」
しかしフローラはその言葉を拒む。
「今は命を賭けた戦いの中だ!」
「いや、止めない!」
それでもジーグは叫ぶ。
「君は帝王を恐れているだけだ!」
「違う!」
フローラは首を横に振りそれを否定する。だがジーグの言葉は続く。
「勇気を出せ!」
「勇気だと」
「そうだ!」
さらに言葉を続ける。
「本来の君の姿に戻るんだ!」
「夢の世界で言った筈だ!」
フローラも頑なだった。
「私にとって竜魔帝王は恩人だ!」
「恩人か!」
「そうだ、例え悪の化身であろうとも」
それはわかっていた。
「しかし私の命を蘇らせてくれた恩人であることには変わりがないのだ」
「それは嘘だ」
「何っ!?」
今のジーグの言葉に顔を向けた。
「今何と言った」
「君は騙されているんだ」
「騙されているだと。この私が」
「そうだ。父さんから聞いた」
根拠まで言ってみせる。
「君の村を襲い一度君を殺したのは竜魔帝王だ」
「馬鹿な」
フローラはそれを嘘だと思った。思いたかった。
「そんな筈がない。有り得ない」
「地獄の帝王」
言うまでもなく竜魔帝王のことだった。
「彼に滅ぼされた村の村長の娘の話をな」
「馬鹿な・・・・・・」
他ならぬ自分のことだ。今の話でそれがわかった。
「では私の両親も優しかった村人達も」
「そうだ!」
また宙は叫ぶ。
「皆竜魔帝王に殺されたんだ!」
「竜魔帝王に・・・・・・」
「考えてみるんだ、フローラ」
宙の言葉はさらに真剣なものになる。
「狼に襲われたのだな」
「そうだ」
その通りだ。その時のことは今でもはっきりと覚えているのだ。
「そして私もまた」
「狼は人を襲わない」
「何っ!?」
「何故犬がいるんだ」
彼が言うのはそれであった。
「狼が犬になれたんだ。人を襲うならどうして」
「ではあれは」
「そうだ。わかるな」
こうフローラに述べる。
「君は騙されていたんだ」
「なら私は今まで」
フローラの顔が割れた。まるで鏡が割れたように。ひび割れ壊れてしまっていた。その心も。
「自分と皆を殺した男に仕えてきたというのか」
「目を覚ますんだフローラ!」
宙の言葉はさらに続く。
「君はそんな所にいてはいけないんだ!」
「私は・・・・・・」
割れてしまった心で呟く。
「私は・・・・・・」
「愚か者が!」
しかしその時だった。地の底から恐ろしい声が聞こえてきた。
「その様な若造の言葉を真に受けるのか!」
「あの声は!」
「出たか!」
「出やがったな!」
戦いを続けるロンド=ベルの面々も声をあげる。姿を現わしたのは。
「竜魔帝王!」
「やはり出て来たか!」
竜魔帝王であった。宙に浮かぶ巨大戦艦に一人の禍々しい顔の巨人がいた。その巨人こそ彼であった。燃える様な赤い髪に剣を持っている。
「フローラ!」
「帝王!」
「貴様は大恩ある俺に背くか!」
「私は・・・・・・」
「黙れ!」
まずはフローラの言葉を黙らせる。そのうえでさらに言う。
「それどころか人間共の言葉に騙されこの俺に疑いの目を向けようとしているな!」
「それは・・・・・・」
「竜魔帝王!」
ジーグが彼に叫ぶ。
「遂に出て来たか!」
「愚かな奴め!」
彼は今度はこうフローラを言い捨てた。
「俺の言う通りにしておればいいものを!」
「竜魔帝王」
しかし今のフローラは。その彼にあえて言うのであった。
「何だ」
「どうか世界制覇の野望をお捨て下さい」
彼女が言うのはそれであった。
「野望を捨てろだと」
「そうです」
帝王に対して答える。
「我々は地底で、地上の者は地上で」
こう述べる。
「それぞれ理想の暮らしをすればいいのです。ですから」
「黙れ!」
だが。竜魔帝王が聞く筈もなかった。一喝してそれを退ける。
「貴様俺に説教するつもりか!」
「お互いに傷つくことは無意味です!」
「フローラ・・・・・・」
それでもフローラは言う。ジーグはそれを見て彼女の心を知ったのだった。
「どうかそのお力を地底での豊かな国造りに振り向けて下さい!」
「裏切り者の貴様が言う筋ではないわ!」
しかし帝王はフローラのその言葉も心も退けるだけだった。
「最早容赦はせん!」
「むっ!?」
ここで異変が起こった。フローラが乗るヤマタノオロチが動きだしたのだ。
「な、何っ!」
ジーグはそのヤマタノオロチを見て叫ぶ。
「どうしたんだフローラ、いきなり!」
「だ、駄目だ!」
フローラは宙に対して答える。
「ヤマタノオロチがこちらのコントロールを受け付けない!」
「何だって!?」
「宙さん、大変よ!」
美和が宙に対して叫ぶ。
「今エネルギー反応を見てみたけれど」
「ああ」
「あのヤマタノオロチには爆弾が満載されているわ!」134
「何だって!?」
「竜魔帝王、これは!?」
「ロンド=ベルに、人間共にたぶらかされた貴様なぞ最早用済みだ!」
冷然と言い放ってきた。
「所詮貴様は人形!いらなくなれば捨てるだけだ!」
「そんな・・・・・・」
「さあ行くのだヤマタノオロチ!」
呆然とするフローラをよそにまた叫ぶ。
「裏切り者のフローラを乗せたままロンド=ベルを道連れにしろ!」
「竜魔帝王!」
甲児が竜魔に対して言う。
「手前何処まで汚い手を使えば気が済むんだ!!」
「戦いは勝てばいいものだ!」
これが甲児に対する返答だった。
「それを今日貴様達に教えてくれる!」
「ならば!」
今度は鉄也が言う。
「俺達は御前に敗北を教えてやる!」
「これまでの戦い!」
続いて大介が。
「今日ここで決着をつけるぞ!」
「面白い!」
竜魔もまたその言葉を受けて叫ぶ。
「これでこそ俺が直々に戦場に出てきた甲斐があるというものよ!」
「フローラ!」
ジーグはフローラに対して声をかける。叫びだった。
「脱出しろフローラ!!」
「だ、駄目だ!」
だが返って来たのは絶望であった。
「出入り口は完全にロックされている!」
「おい宙!」
リュウセイがそれを聞いてジーグに問う。
「どうするんだよ!」
「決まっている!」
ジーグはすぐにその言葉に答えた。
「こうなれば力尽くでヤマタノオロチを止めて」
「そして」
「フローラを救い出す!」
「けれど宙」
その彼にマイが言う。
「どうしたんだ?」
「あれだけの機体よ」
彼女が言うのはそこだった。
「それを考えたら」
「難しい」
ライも言う。
「それでもいいんだな」
「ああ、それでもやってやる!」
その決意は微動だにしなかった。
「俺はあいつに人の心を教えてやると決めたんだ!」
「だからだな!」
「そうだ!」
またリュウセイに答える。
「これしきのことで諦めてたまるか!」
「そうよ!」
それに頷いたのは美和だった。
「宙さん!」
「ミッチー!」
「やりましょう!」
美和は笑顔で宙に告げる。
「私も付き合います!」
「前にも言った通りだ!」
忍も言う。
「俺達は御前を全力でアシストするぜ!」
「忍!」
「だからさ!」
沙羅も言う。
「格好いいところ見せてよ!」
「そうそう」
「そうでないとな」
雅人と亮も言うのだった。
「ヒーローじゃないよ」
「だからだ。いいな」
「よし!やってやる!」
「諸君!」
大河の声がここで響いた。
「ここはなにとしてもだ!」
「ああ、行くぜ宙!」
甲児が早速動きだしていた。
「今助けに行くからよ!」
「いや、いい!」
だが宙はそれを断ってきた。
「皆、それには及ばない」
「えっ、けれど」
「宙、それじゃあ」
「俺一人で充分だ!」10
さやかとマリアに対して答えるのだった。
「言った筈だ鋼鉄ジーグは不死身だ!だからこそ!」
「やれるのね」
「その通りだ!見ておいてくれ!」
ジュンに対しても答えた。そのうえで。
「フローラ!」
「鋼鉄ジーグ!」
「君は死なせない!何としても!」
「だが!」
しかしそれはフローラ自身が拒む。
「このヤマタノオロチはもう」
「こんなもの!」
そのヤマタノオロチに向かって跳んだ。
「何っ!」
「まさか!」
トッドとギャブレーがそれを見て叫ぶ。
「御前さん、死ぬ気かよ!」
「無謀な真似はよせ!」
「無謀じゃない!」
しかしジーグはその二人にこう返した。
「やれる、見ろっ!」
空中から拳を繰り出した。それで。何とヤマタノオロチの動きを止めてしまっていた。
「動きが止まった」
「これでどうだ!」
「おのれ鋼鉄ジーグ!」
竜魔帝王はヤマタノオロチが止まったのを見てジーグに対して問う。
「今何をした!」
「貴様の施した遠隔操縦装置は解除した!」
「何だと!」
「脱出しろフローラ!」
ジーグは今度はフローラに対して言った。
「ヤマタノオロチはすぐに爆発するぞ!」
「いいえ」
しかし今度もまた。フローラは首を横に振るのだった。
「私にはしなければならないことがある」
「何だって!?」
「それは司馬宙」
宙の名を呼ぶのだった。
「貴方が最もよくわかっている筈だ」
「何っ、それじゃあ」
宙はそれを見て全てを察した。
「フローラ、君は」
「私はこうやって貴方を助けることができただけで今までの罪が一つ消えた気がする」
こう宙に対して語る。さらに。
「そのことを。私の命を無駄にしないでくれ」
「馬鹿な、フローラ!」
宙はフローラを制止しようとする。だがそれは届かなかった。
ヤマタノオロチで帝王のもとへ向かう。帝王はそれを見てフローラに対して言う。
「待てフローラ!」
彼も命がかかっていただけに必死だった。
「御前が戻って来るのならその罪を許してやる!」
「もう二度と!」
だがフローラは言うのだった。
「邪魔大王国には戻らない!」
彼女の決意は固かった。
「回り道をしたが今日で私は生まれ変わる!」
こう言いながら突進を続ける。
「それは司馬宙が私に生きる勇気を与えてくれたから」
「だから死ぬのか!」
「いや、違う!」
フローラは今度もまた宙の言葉を否定する。しかし今度の否定は違っていた。
「私は生きるのだ。愛の為に!」
「愛の為にだと!?」
「そうだ、だからこそ!」
今特攻をするのだった。
「貴方に愛の為に戦うことを教えてもらったから!」
「ぬうっ!」
「竜魔帝王!」
今度は竜魔帝王に対して言った。
「先に地獄で待っているぞ!」
「フローラ!」
ジーグとして向かう。しかし間に合わなかった。
「さようなら、宙」
フローラは最後に微笑んだ。
「貴方のことは絶対に忘れない」
最後に微笑む。そして。
戦艦ごと爆発した。巨大な爆発の中で遂に。ヤマタノオロチは姿を消したのだった。
「そんな・・・・・・」
「何てことだ」
アヤとリュウセイが呆然として声をあげる。
「こんなことって・・・・・・」
「フローラ・・・・・・」
「あの女将軍」
ライも沈痛な顔になっていた。
「自らの罪を償う為に」
「だがそんなことをしても」
レビも呻くようにして言う。
「何が残るんだ」
「宙さん」
美和が宙に声をかけてきた。
「どうしたんだ、ミッチー」
「あれを見て」
爆発が起こったポイントを指し示すのだった。
「あそこには」
「あれは・・・・・・」
宙もそこに目をやる。すると。
「フローラ!」
「フローラ、無事だったの!」
「フローラ!」
宙はフローラに駆け寄る。彼女は仰向けに倒れている。兜は壊れその長い髪がはっきりと姿を現わしていた。
「生きていたのかフローラ!」
「司馬宙・・・・・・」
「しっかりするんだ!」
フローラを助け起こして言う。
「傷は浅い!だから!」
「いえ、わかってるわ」
しかしフローラは言うのだった。微笑んで。
「私自身がね。もう」
「馬鹿な、君はもう」
「これでいいのよ」
微笑みながら言う。
「これで私は両親のところへ。平和な村の人達が待っているところへ帰れるわ」
「そんな・・・・・・」
「有り難う宙」
また告げる。
「有り難う、鋼鉄ジーグ」
こう言って微笑みながら息を引き取る。今フローラは死んだ。
「フローラ!」
叫ぶ。しかし返事はない。フローラの亡骸は光に包まれ。その中に消えるのだった。
「宙さん・・・・・・」
「笑っていた」
美和に対して答える。
「フローラは笑いながら死んだ。この鋼鉄ジーグの腕の中で」
「そうだったの」
「ああ。けれど」
「まだ戦いは」
「鋼鉄ジーグよ!」
竜魔帝王の声がする。彼は生きていたのだった。
「まだ戦いはこれからだ!」
「わかっていたぜ、貴様が生きていることはな!」
戦艦の艦首にいる帝王を見据えての言葉だ。
「ここで最後の戦いだ!」
「貴様を倒してな!」
「黙れ!」
その竜魔に対して言った。
「黙れ竜魔帝王!貴様にわかってたまるか!」
「何をだ!」
「人の心だ!」
ジーグは言った。
「人の心の素晴らしさ、貴様にわかってたまるか!」
「そうだ!」
鉄也が続いて言う。
「その心があるからこそ俺達は戦っている!」
「悪に屈することなく!」
大介も続く。
「僕達はこうして戦っているのだ!」
「その心がある限り俺達は負けねえ!」
そして甲児も。
「そして最後には手前等悪党を根こそぎ退治してやる!」
「やれるものならやってみるがいい!」
竜魔の身体を紫の邪悪なオーラが包んだ。
「この俺を倒せるのならな!」
「何だと!」
炎を吹き上げてきた。竜魔の魔力だった。
「うわっ!」
「何だこの炎は!」
その炎がロンド=ベルの者達を焼く。それも何人も。
「皆!」
「大丈夫だ、この程度!」
「それよりも宙!」
「ああ、わかっている」
彼等の心は。誰よりもわかっているのだった。
「俺は倒す!竜魔帝王、貴様をな!」
「何だ、この気迫は!」
鋼鉄ジーグから発せられる気迫に。竜魔は怯んでいた。
「俺が押されているのか!?」
「行くぞ!」
跳んだ。
「勝負だ!」
「くっ、ならば!」
ジーグが跳ぶとそれに合わせる形で竜魔も跳んだ。その手に剣を持って。
「この俺の手で貴様を!」
「うおおおおおおおおおおっ!」
二人は空中で激しい一騎打ちに入った。互いに拳を繰り出し剣を振る。しかし戦いは空中で決着せず着地してからも続いた。激しい応酬が繰り広げられる。しかしその中で。
「おのれっ!」
竜魔が突きを繰り出した。しかしジーグはその剣を右足の蹴りで飛ばした。
「ぬうっ!」
「ケリをつけてやる!」
その一瞬の隙をつき。懐に飛び込んだ。そして。
「ジークブリーカーーーーーーーーッ!」
両腕で竜魔をねじ締めにかかった。マグネットパワーを使わずそのまま掴んで。
「ううっ、ぐうっ!!」
「フローラーの痛み!」
まずはこう言う。
「そして多くの人達の痛み思い知れ!」
締め付けをさらにきつくする。そして遂に。
「死ねえええええええええええーーーーーーーーーっ!」
「うぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
竜魔を打ち砕き真っ二つにしたのだった。真っ二つになったその場で爆発し遂に倒れた。既に戦場に邪魔大王国は残っていない。ロンド=ベルは決戦に勝利したのである。
「終わったわね、宙さん」
「ああ」
美和に対して答える。
「これでな。邪魔大王国との戦いはな」
「そうね」
「作戦終了!」
大河が言う。
「邪魔大王国との戦いはこれで終わった。それをここで宣言する!」
「終わったか」
「けれど」
美和が言う。
「フローラは」
「フローラは己の運命を受け入れた」
宙がその美和に言った。
「だから。もう」
「そうなの。彼女が望んだことなのね」
「ああ、そうだ」
そのことも告げた。
「全てな。その結果だ」
「フローラ・・・・・・」
「ミッチー、俺は考えたんだが」
「何?」
「戦う」
まずはこう述べた。
「これからもな。皆の為に」
「皆の為に」
「そしてフローラみたいな存在をこれ以上出さない為に」
こうも言うのだった。
「俺は戦う。これからもな」
「宙さん・・・・・・」
「それでいいよな」
「ええ、御願い」
微笑みになって宙に応えた。
「宙さんなら出来るわ」
「有り難う」
「これからも長い戦いが続くけれど」
「そうだ。しかもずっと激しくなる」
この邪魔大王国との決戦よりも。遥かに激しくなるというのだ。それはわかっていた。
「だからこそ俺は」
「戦いましょう、宙さん」
美和はあらためて彼に言う。
「これからも」
「ああ、一緒にな」
二人でそれを誓い合う。邪魔大王国との戦いはフローラという尊い犠牲を払って終わった。しかしすぐに次の戦いが彼等を待っていたのだった。
「それで次は鬼ってわけかよ」
「やれやれだぜ」
甲児と勝平がぼやいていた。
「まあわかってたことだけれどな」
「それでもよく出て来やがるぜ」
「けれど今度の戦いに勝ったらもう日本での脅威はなくなるわ」
ここでミリアリアが言う。
「やっとって感じだけれど」
「そうだよな。やっとだな」
「全くだよ」
トールとカズイがミリアリアの言葉を聞いてそれぞれ言う。
「今まで日本での戦いが多かったから」
「おかげで俺達もかなり日本に詳しくなったけれどね」
「そういえばキラは元々日系だったな」
「うん、そうだよ」
キラはサイの言葉にこくりと頷いて答えた。
「名前はね。そうだね」
「じゃあシンと同じか」
「本当に日本人っていっても色々ね」
「おい、そりゃどういう意味だよ」
シンはフレイの今の言葉につっかかった。
「色々って。俺は何なんだよ」
「あんたとか甲児とかそういうのも日系だからよ」
フレイはそのシンを見据えて言う。かなり剣呑な目になっている。
「全く。アムロさんみたいな人もいるのに」
「アムロさんは特別だろ」
流石に彼はロンド=ベルの中でも別格だった。
「一年戦争からのスーパーエースじゃないか」
「人間的にも凄い立派だしね」
シンジが言った。
「本当に素晴らしい人だと思うよ」
「平均的日本人ってシンジ君みたいなのかしら」
マリューはシンジを見て述べた。
「シン君や甲児君や藤原中尉は特別として」
「ドモンさんは?」
「彼はそもそも地球人かどうかも怪しいし」
さりげなくメイリンの言葉に応えるが容赦がない。
「とりあえずシンジ君みたいな感じが普通だと思うわ」
「僕が普通ですか」
「だって。極端に感情的じゃないでしょ?」
マリューが言うのはそこだった。
「日本人って穏やかなイメージがあるから」
「あと個性がない?」
メイリンはまた言う。
「そんなイメージもあるけれど」
「そういえばそういうことになっていたわね」
ルナマリアも妹の今の言葉で気付いた。
「バサラさんとか見ていて忘れていたけれど」
「日本人って個性派ばかりだよな」
「そうですよね」
イザークとシホは少なくともこう判断した。
「少なくともここにいる連中はな」
「皆が皆」
「僕だって個性的だと思いますけれど」
シンジは自分で最近それを自覚しだしていた。
「少なくとも変わってそうなったと思います」
「確かに御前随分変わったよな」
「それもいい方向にな」
甲児と勝平が彼に言ってきた。
「明るくなったしな」
「気も強くなったしな」
「皆のおかげだよ」
にこりと笑って答えてみせた。
「やっぱり。ここにいて皆と一緒だと一人で悩むのが馬鹿馬鹿しくなるからね」
「そう、悩むのは皆で悩む」
ミサトが言う。
「それが一番よ」
「ミサトさんはもうちょっと悩んで欲しいよね」
「そうよね」
さやかとマリアはそんなミサトの言葉を聞いてヒソヒソと話をする。
「即断即決過ぎて怖い場合があるし」
「作戦の時とか」
「悩んでいたり迷っていたら死ぬわよ」
ミサトの言葉は率直なものだった。
「それより前にやっぱり決断よ」
「その通りね」
ジュンがそれに賛成する。
「戦いにおいてはそれが一番よ」
「だが。それでもな」
「どうしたの、大介さん」
「時々ミサトさんの作戦には驚かされるものがあるから」
「そうなの」
「大胆な作戦をすぐに決めるからね」
大介が言うのはそれであった、
「それで驚くよ、本当に」
「奇策が多いのは確かですね」
鉄也は大介に対して応えた。
「普段から」
「まあそれが楽しいんだけれどな」
「いや待て甲児君」
鉄也は今の甲児の言葉は窘めた。
「戦いはそうじゃない。正攻法でオーソドックスに戦うのが一番いいんだ」
「ちぇっ、鉄也さんも厳しいなあ」
「けれど実際に奇襲的なものが多いですよね」
ニコルがミサトに対して問う。
「ミサトさんの立てる作戦は」
「私は奇襲担当なのよ」
本人も悪びれずにこう述べる。
「だからよ。オーソドックスは早瀬大尉やクローディア大尉が担当なのよ」
「じゃあ強襲は誰なんだ?」
「火麻参謀よ」
「やっぱりな」
ディアッカは話を聞いて納得した。
「そういえばユウナさんは」
アスランはここでユウナをちらりと見た。
「確かオーブの参謀総長でもありましたよね」
「うん、そうだよ」
彼の肩書きの一つである。
「僕は慎重な作戦が多いかな」
「というかユウナさんが慎重でないと」
「そうよね」
「誰がカガリ様を止めるんだか」
オーブ三人娘の切実な言葉であった。
「ああ、そうそう」
「!?何か?」
ここでユウナは声をあげ一同それに顔を向ける。
「また新規加入だよ」
「今度は誰ですか?」
「うん、何か今度は僕達も知っている人もいるみたいだね」
「知ってる人って」
「誰なんだろ」
「今の時点で相当なことになってるけれどな」
「そうだな」
タップはケーンの言葉に頷く。
「こんなに人が増えるとは思わなかったぜ」
「俺達だってずっといるしな」
「しかし。問題は誰かだな」
ライトはそれを言う。
「多分頼りになるメンバーなんだろうけれど」
「最近うちも随分大所帯になってきたわね」
「そうね」
ミサトはマリューの今の言葉に頷いた。
「その分賑やかでいいけれどね」
「確かにね」
マリューは今のミサトの言葉に微笑んで応えた。
「人が多いにこしたことはないわ」
「そのうえで百鬼帝国との決戦か」
「鬼が出るか蛇が出るかですね」
「まあ鬼なんですけれど」
ジャック、エルフィ、フィリスは何気にギャグになっていた。
「それで葛城三佐」
「ええ」
ミサトはハイネの言葉に応えた。
「何かしら」
「作戦は?」
「今回はユウナさんが担当よ」
つまり慎重案ということだった。
「だからスリルを楽しみたい人は残念だったわね」
「慎重がいいだろうな、今回は」
ミゲルはそれでいいとしたのだった。
「百鬼帝国との決戦だからな」
「まずは新規加入のメンバーが来てから動くよ」
ユウナは皆にこう告げた。
「話はそれからでいいよね」
「早速攻め込まないのか」
「まさか。邪魔大王国とあれだけの激戦の後だよ」
それをカガリに説明する。
「すぐは幾ら何でも無茶だよ」
「そうか」
「そういうこと。カガリもゆっくり休んでね」
「わかった。じゃあパスタでも食うか」
「パスタなんだ」
「駄目か?」
ユウナに対して問う。
「最近それに凝ってるんだが」
「いや、別にいいけれど」
ユウナはそれはいいとした。しかし。
「けれどね」
「けれど。何だ?」
「言っても無駄だと思うけれどあまり飲み過ぎないようにね」
「パスタだぞ」
「パスタといえばワインじゃない」
彼が言うのはそれであった。
「そこでワインを飲み過ぎてもらったら困るよ」
「随分な言われようだな」
「だってカガリ飲むし」
もうこれは皆が知っていることだった。
「それがねえ」
「何か私は問題児みたいだな」
「みたいじゃなくてそのものです」
「困ったことです」
キサカとトダカのツープラトンアタックが炸裂した。
「どうしたものか」
「どうにかならないのでしょうか」
「御前等まで言うのか?」
「オーブの人間だからこそ言うんだよ」
ユウナも当然のことのように言う。
「ロンドはともかくねえ」
「どうせ私は」
「いやさ、政治とか軍事は実質的な担当者がいるからいいんだよ」
実質的にはユウナのことである。
「けれどね。それでも」
「それでも。何だ?」
「何だもこうしたもないよ。せめてお行儀はねえ」
「そうです」
「それさえして頂ければいいのに」
「参ったことだよ」
またユウナが発言する。
「これじゃあ何処かのねえ。不良少女と」
「相変わらず好き勝手言ってくれるな」
「まあたまにはね」
一応たまにはと述べる。
「言いたくもなるよ。さて、作戦だけれど」
「本題ですね」
「遅れて御免。それでね」
ミサトに応えながら述べる。
「まず邪魔大王国はいなくなったね」
「ええ、それは確かに」
「もういないです」
これははっきりと述べられた。
「けれど百鬼帝国も強いしかなりの数だよ」
「かなりの」
「うん。おそらく正面から来るだろうけれど」
「どうされるんですか?」
「ゲッターチームに頑張ってもらうよ」
こう述べてきた。
「俺達にですか」
「うん、やっぱり百鬼帝国といえば君達だよね」
「ええ、まあ」
応えた竜馬はそのままユウナに答えた。
「そうだけれど」
「それでユウナさん」
今度は武蔵がユウナに尋ねる。
「どういった作戦ですか?」
「僕の予想では彼等は何か謀略を仕掛けて来るね」
「謀略ですか」
「それも君達に」
竜馬達を見て言う。
「何かをね。それで僕達を動けないようにしてくるだろうね」
「じゃあ人質か?」
弁慶はこう予想を立ててきた。
「その場合は」
「そうだな、それは充分考えられる」
隼人も腕を組み呟く。
「あの連中はな」
「ほら、帝王ゴールもそうだったね」
ユウナは恐竜帝国のことを述べてみせた。
「僕はその時はいなかったけれど」
「そうか。あれか」
「だからまずはあえて君達は先に進んで欲しいんだ」
「囮!?」
「うん、そうなるね」
はっきりと答えた。
「それであえてね。捕まってそこから脱出して」
「それですか」
「君達には負担をかけるけれどね」
「いや、それはいいさ」
隼人はそれはいいとした。
「俺達ならどんなトラップでも警戒でも脱出することができる」
「だから君達にはあえてなんだ」
ユウナはこう説明する。
「明らかに慎重策ではないけれどね」
「御前には珍しいな」
「珍しいだろうけれどね。はっきり言って賭けというか読みだね」
「読みか」
カガリはユウナの言葉を聞いて述べた。
「御前のだな」
「彼等は絶対に罠を仕掛けてくる。いや、それを考えているに決まっている」
「決まっているか」
「だったらあえてそれを置いておくんだよ」
ユウナの作戦はそうだった。
「そうすれば彼等はそれに乗って仕掛けて来るから」
「それをか」
「うん。だからこそ」
さらに言葉を続ける。
「やってみるんだよ。わかったね」
「別に私でもいいんだが」
「ああ、カガリは駄目」
左手を横に振ってそれを否定する。
「そんなのしても。カガリじゃ無理だよ」
「私ではか?」
「あからさまにばれるから」
理由はそれだった。
「竜馬君のところに君がいたら絶対にこの作戦は採用しないね」
「ばれるからか」
「そういうこと。絶対に無理」
駄目出しだった。
「その場合はもう慎重に何処かに防衛ラインを築いて戦っていたね。もっとも今回もだよ」
「今回も?」
「それは築くよ」
この辺りは慎重なユウナらしかった。
「今からね」
「今からか」
「若し何かあってもいいようにね」
ユウナの顔が真剣なものになっていた。
「それは用意しておくさ」
「そういうところは流石だな」
「オーブの首相だよ、これでも」
今の役職はそれだった。
「だからさ。慎重に話を進めるんだよ」
「慎重はいいが今回は随分危険だな」
「まあね。竜馬君だったら大丈夫だろうけれど」
信頼はしていた。
「それでも。心配なのは事実さ」
「ユウナさんよ」
そのユウナに隼人が言う。
「隼人君」
「その心配はいらないさ。俺達は絶対にやる」
「絶対にだね」
「そうさ。安心して見ていてくれ」
こうも言ってみせる。
「絶対にな」
「わかった。じゃあ君達に任せるよ」
「囮、安心して引き受けてやる」
隼人がまた言った。
「何としてもな」
「よし。じゃあここは」
「行きましょう」
竜馬が声をかけてきた。
「決戦に」
「行くぜ、皆」
弁慶も言ってきた。
「今度で決めるんだ」
「今度の戦いに勝てば日本に本拠地をおく勢力はいなくなるんだよな」
「ええ、その通りよ」
ミチルが武蔵に答えた。
「だから余計にね」
「じゃあ作戦を発動するよ」
ユウナは早速それも決定した。
「いいね」
「よし。それじゃあ」
「行くか」
彼等は今度は百鬼帝国との決戦に向かうのだった。戦いはまだ終わらない。しかしまた一つ一つの戦いが終わろうとしていたのであった。

第六十三話完

2008・5・24 
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