ソードアート・オンライン 穹色の風
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アインクラッド編
会議が招いた再会
前書き
ああ、戦闘パートまでが遠い……
出来るだけ今回くらいの間隔で更新していこうと思います。……いつまでできるかわからないですけど(滝汗)。
「悪いナ。いくらオイラが見つけた金の卵のマー坊でも、その依頼を受けることはできなイ」
「……そうか、ならいい」
朝の日差しがトールバーナの町全体を照らし出した頃の路地裏でマサキがそう言うと、アルゴは「すまないナ」とだけ言った。
常にふてぶてしく、情報とあらば自らのステータスでさえ売ることを厭わないという商売根性を持つ彼女がこのような言動をした理由は、マサキが彼女に収集を依頼しようとした情報の内容にある。
マサキは以前、はじまりの街でキリトと行動を共にしていた際に、彼からいくつかの情報を聞きだしていた。《ナイトウルフ》を狩るクエストなどがその代表例である。
しかし、その情報もそろそろ底を突いてきた。可能ならば新しい情報を仕入れたいのだが、誰に聞けばいいのか分からない。唯一連絡がつき、なおかつ元βテスターだということが判明している存在としてキリトがいるが、果たして彼がβテスト時にどれほどのプレイヤーだったのかが疑問に残る。
そのため、アルゴに“信頼できる元βテスターを紹介してほしい”という内容で依頼をしようと考えたのだが、あろうことか拒否されてしまった。アルゴ曰く、「こいつは誰にも譲れない情報屋としての掟ダ」ということだ。マサキは昨日のキバオウに代表される“βテスター断罪すべし”の風潮を自分が踏襲していると誤解をされたのかもしれないと考え、βテスターを恨む気はないことと、自分が持ちかけているのは公正な取引であり、情報には料金を払うし、もし話したくない類のものであれば拒否してくれても構わない旨を伝えたが、それでも彼女の首が縦に振られることはなかった。
マサキがこれ以上の交渉は無意味と判断して路地裏から出ようとすると、「ちょっと待ってくレ」と呼び止められた。マサキが振り返ると、アルゴの小さな手の上に初日に貰った本と同じデザインだが圧倒的に薄い、どちらかといえばパンフレットのような冊子が二部、乗っていた。
「これは?」
「“アルゴの攻略本 第一層ボス編”サ。本当は、配布は今日の夕方ごろからの予定だったんだが、マー坊とトー助にだけ特別ダ」
「そいつはどうも。ありがたく頂戴させてもらう」
マサキはアルゴの手に乗っていた二冊の冊子をポーチに入れると、今度こそ路地裏を出て、表通りへと姿を消した。
マサキはアルゴと分かれて表通りへと出ると、そのまま近くの武器店へと向かった。位置関係的にはマサキが今までいた場所と正反対に位置する店だったが、トールバーナの町自体がはじまりの街と比べるとかなり小規模なため、急がなくとも数分で辿り着き、店先で剣を眺めているライトブラウンの頭を発見できた。マサキが声をかけようと肩に手を置くと、突如目の前の体がビクッと大きく跳ね、体ごと頭がマサキに向き直る。
「何だ、マサキか。びっくりした……」
トウマは今のがマサキの仕業だと分かると、途端に安堵の表情を浮かべて言った。
「そうか? 元からここで合流する予定だっただろう?」
「いや、それはそうなんだけどさ。……もうちょっとこう、声を掛けるとかにしてほしかったな~、なんて」
「別にいいだろう、《圏内》じゃPKもモンスターも出ないんだ」
「それは、まあ、そうなんだけど……」
ぶつぶつとトウマが歯切れの悪い返事を繰り返し、話が前に進まないため、マサキはトウマが持っている大剣に話題を変えた。
「それで、それにするのか?」
マサキが言うと、トウマも話題が変わったことを理解して、ようやく普通に話し出す。
「ああ。一応これが一番性能良いんだ。攻撃力重視ってところも気に入ったし」
どうやら話したことによって決心がついたらしく、トウマは何度か頷いた後にウインドウを操作してそれを購入、すぐさま装備した。すると、今まで腰にあった黒塗りの片手剣が姿を消し、代わりに幅広の大剣が背中に吊られた。刃は両側についていて、朝日の光を受けて鈍色に輝いている。持ち手の部分には黒い皮が巻かれ、当然だが両手で握るように設計されているため、今までトウマが使っていた《ブラックソード》やマサキの持つ柳葉刀とは長さが決定的に違う。また、刀身はかなり肉厚で重そうだが、その分攻撃力も高そうに見える。
マサキはその剣に近づき、一度指でタップした。即座にウインドウが呼び起こされ、剣の詳細情報が表示される。それによると、名前は《ロードブレイド》。見た目通りの重い大剣だった。
トウマは背中に心地良い重さを感じながら、マサキの体をフィールド方面に向かって押した。
「さ、それじゃ試し斬りといこうぜ!」
「はいはい」
マサキは降参、とでも言わんばかりに両手を肩まで上げ、門へと向かった。
それから数時間が経ち、トールバーナの町を照らす太陽が大分西に傾いた頃、マサキたちは再び噴水広場に集まっていた。ディアベル達のパーティーが第一層のボス部屋を発見、攻略会議を行う、という情報がアルゴから届いたためだ。
前回の会議内容の密度からして、今回もさほど重要なことは話し合われないのではないかと不安視していたマサキだったが、今回も広場の中央で青髪を爽やかにかきあげて見せた騎士様は、その見方の上を行って見せた。
彼の話によると、彼らはボス部屋を発見したあと、勇敢にも扉を開き、住人に拝謁賜ってきたらしい。その後も誇らしげな顔で報告を続けていく。彼の情報は要点を的確に押さえていて、マサキもその点に関しては評価していた。
――既にアルゴから攻略本を受け取っていたマサキ達にとっては、無用の長物だったが。
その後、会議は一時中断となった。“アルゴの攻略本 第一層ボス編”が配布されたのだ。当然のことながら全員がそれをNPCショップで受け取り、熟読し――、
最後のページに書かれていた赤いフォントの一文に、目を奪われた。
曰く、【情報はSAOベータテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります】。今まで彼女が貫いてきた、“何処の誰とも知れない元βテスターから情報を買っているただの情報屋”というスタンスを揺るがしかねないものだった。
全員がこの情報をどう扱うか決めかね、決定を託すようにディアベルに視線を向ける。視線の先の人物は数十秒ほど思案げな表情を浮かべていたが、やがて腹を決めたように声を張り上げた。
「――みんな、今はこの情報に感謝しよう! 出所はともかく、この情報のおかげで、二、三日はかかるはずだった偵察戦を省略できるんだ。正直、すっげー有り難いってオレは思ってる。だって、一番死人の出る可能性があるのが偵察戦だったからさ」
その発言に周囲の集団がざわざわと揺れるが、すぐにその決定を呑み込み、うんうんと頷く。マサキはキバオウ辺りが噛み付くのではと思ったが、それもない。
「絶対に死人ゼロにする。それは、オレが騎士の誇りに賭けて約束しよう!」
聴衆から「よっ、ナイト様!」との声が届き、次いで集まった全員が彼に対してスタンディングオベーションを送る。どうやらあの騎士様は、リーダーシップはそれなりに備えているようだ。
マサキは素直に感心し、口元を、口笛を吹くように尖らせた。
「さて、と」
ディアベルが各自でパーティーを作るように指示を出してから数十秒後、マサキはゆっくりと腰を上げ、周囲を見渡した。すると、今までは一箇所に集まっていた集団が、六人ずつ、七グループに分かれている。恐らくまだ正式に決定はしていないだろうが、このままでは十中八九このグループがパーティーになるだろう。
「マサキ、どうする……?」
「人数的に後二人、あぶれた奴がいるはずだ。まずはそいつらに話しかける」
不安そうにこちらを見てくるトウマに対し、マサキは広場全体を見回しながら答える。と、二人の右斜め下に、二人のプレイヤーが座っているのが見えた。マサキはトウマに「行くぞ」と短く声をかけてからそちらに歩み寄り、爽やかなビジネススマイルを浮かべながら話しかけた。
「すみません、実は僕たち、誰ともパーティーを組めていないんです。もしよろしければ、僕達と組んでいただけませんか?」
「ああ、ちょうど良かった。こちらからも是非……」
線の細い中性的な顔がくるりと回転し、二つの瞳がマサキの姿を捉えた瞬間――、表情が一気に凍りついた。
「ま、マサキ……?」
「何だ、キリトだったのか」
驚いたように目を丸くするマサキに対して、キリトはなぜか目を伏せた。色白の顔からは、後悔と葛藤の色が滲んでいるように見える。
キリトはしばし視線を広場の石段に落としていたが、ふうと大きく息を吐き、顔を上げた。
「えっと……、そちらは?」
「ああ、こいつはトウマ。初日に出会って、今は二人で組んでる」
紹介を受けたトウマが「よろしく」と手を出すと、キリトはおずおずとその手を握った。
「で、キリト。パーティーの件なんだが……」
「ああ、別に俺は構わないけど……」
語尾を濁しながら、マサキとキリトは二人してキリトの隣に座るフーデッドケープのプレイヤーに視線を向ける。腰にレイピアを差したプレイヤーは今までマサキに対して警戒心を露にした視線を送りつけていたが、キリトの知り合いと分かって安心したのか、若干穏やかさを増した声色で告げた。
「あなたたちが申請するなら、受けてあげないでもないわ」
マサキは控えめなソプラノを耳にした後、表面上の苦笑を浮かべながらウインドウを操作し、パーティー参加を申請する。声によって女性であることが判明したレイピア使いは、無表情のままに出現したウインドウをタップして申請を許可した。マサキの視界の左上、自分の命の残量を表すHPバーの下に、新しく“Kirito”“Asuna”の名前が表示されたのがその証左だ。
「それじゃ、改めてよろしく」
「あ、ああ」
マサキは話しかけた時と同様の笑みを浮かべながらキリトと握手を交わし、そのまま細剣使いへと手を向ける。しかし、彼女は冷たい視線でマサキを一瞥した後、握手の意思がないことを、顔を背けることでアピールした。仕方なくマサキは差し出していた手を引っ込め、肩をすくめつつキリトの隣に腰掛けた。
数分後、出来上がったパーティーを検分するためにディアベルが四人の元へやってくると、常に爽やかだった騎士様は表情を曇らせた。
マサキからすれば、その気持ちは分からなくもない。他のパーティーは全て六人で組んであるため、これを崩すことはあまりしたくない。しかし、POTローテを回すにも時間的に不安が残る四人パーティーを、おいそれとボスに向かわせるのも考え物だ。もしこの中の誰かがゲームオーバーになってしまえば、全体の士気が下がって今後の攻略に支障をきたす可能性もある。
ディアベルはしばしの間悩んでいたが、やがていつもの爽やかな声で言った。
「君たちは、取り巻きコボルトの潰し残しが出ないように、E隊のサポートをお願いしていいかな」
その声にアスナは苛立ちを見せて前に出ようとするが、キリトが素早くそれを阻止し、ディアベルの要請を承諾する。アスナは尚も憮然としていたが、キリトが理由に挙げた中にあった単語が分からないらしく、後で詳しく解説する、という流れでとりあえずその場を収め、広場中央のディアベルに視線を投げて次の言葉を待った。
後書き
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