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さまよえるオランダ人

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第二幕その三


第二幕その三

「青白い男が救われるには七年ごとに陸にあがり乙女を探す。そして出会えた時にこそ救われる。救いが得られるならば彼は永遠に清められると」
「またその歌なのね」
「いい加減どれだけ聴いたのかしら」
 娘達はいい加減うんざりした顔でぼやくのだった。ゼンタはまさに夢遊病患者のそれになっていた。しかしそれでも歌を続けていく。
「貴方を救うべき乙女は私。私が救うのよ」
「ゼンタ」
 ここでマリーがゼンタに声をかける。
「何?」
「エリックよ」
 こう言うのだった。
「エリックが来たわ」
「マリー」
 ここでそのエリックが出て来た。長身で引き締まった身体に長い金髪と青い目を持っている。精悍な顔をしていているが優しげな目をしている。褐色の猟師の服を着ている。
「エリック、よく来てくれたわね」
「ゼンタがまた」
「ゼンタがどうしたんだい?」
 エリックは娘達に対して尋ねる。
「一体」
「またなのよ」
「あのオランダ人の歌よ」
 彼女達はそれをゼンタに言うのだった。
「あの歌をまた歌っているのよ」
「どうしたものかしら」
「どうしたものって」
 エリックは困った顔をしていた。どうしていいかわからない顔だった。
「もうすぐお父さんも帰って来られるのに」
「えっ、ということは」
「つまり皆も帰って来るのね」
「そうだよ」
 エリックは娘達に対して述べた。
「皆が帰って来るよ」
「嬉しい」
「皆が」
 娘達はそれを聞いて笑顔になる。笑顔になってまた言う。
「じゃあ糸を紡ぐのを早くしましょう」
「急ぎましょう」
「それから皆で楽しく酒盛りをしてね」
「楽しく陽気にね」
 娘達は笑顔で話し合い糸を紡いでいく。そうして次第に外に出ていく。マリーもまた。部屋に残ったのはゼンタとエリックだけだった。二人きりになるとエリックはゼンタに声をかけてきた。
「ねえゼンタ」
「何?」
 冷たい声でゼンタは応えてきた。
「僕は考えているんだ」
「何をなの?」
「結婚のことだよ」
 率直に述べてきたのだった。
「結婚をね。考えているんだけれど」
「結婚!?」
「そうだよ。僕の心はずっと君のもの」
 こう彼女に告げた。
「僕は貧しいけれど猟師としての幸福を持っているから。君にその全てを捧げることはできるよ。君のお父さんは許してくれるのね」
「お父様のことはわからないわ」
 ゼンタの声はやはりつれない。
「私は」
「けれどどうして君は」
 エリックはなおもゼンタに対して言ってきた。
「僕を避けるんだい?」
「避けてはいないわ。ただ」
「ただ?」
「私は行かないといけないのよ」
 そう述べるのだった。言いながら立ち上がる。
「何処に行くんだい?」
「お父様が帰って来るのよ」
 立ち上がりながらエリックに冷たく言う。
 
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