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さまよえるオランダ人

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第一幕その四


第一幕その四

「是非共」
「ああ、いいとも」
 ダーラントはむげもなく答えたのだった。
「それならばな。わしとしても異存はない」
「財宝なぞ何の意味もない」
 オランダ人もオランダ人で一人呟く。
「私にとっては。愛こそが」
「いい娘ですぞ」
 ダーラントは有頂天になって彼に述べてきた。
「そんなにか」
「うむ、美しいだけではなく誠実で」
「誠実と」
「そうだ、誠実だ」
 オランダ人に対して念を押したのだった。
「素晴らしい心の持ち主だ、我が娘ながらな」
「そうか。それならば余計にいい」
「君は随分と苦労をしたみたいだがそれはもう終わりだ」
 上機嫌のままオランダ人に述べる。
「君は私の婿になる」
「夫に」
「娘のな」
「今日にでも会えるだろうか」
「風が導いてくれるさ、我々とな」
「彼女が私のものに」
 オランダ人はまだ姿すら見ていないその娘のことを想い呟く。
「私に残された唯一の希望を失うまいとするのも許される。天使が私に希望を下される」
「嵐が運命を運んでくれた」
 ダーラントもダーラントで笑顔になっている。
「想わぬ幸運だ。私に財産が与えられる」
「船長」
 ここであの舵取りがダーラントに声をかけてきた。
「どうした?」
「風です」
「風か」
「そうです、南風です」
 こう彼に告げるのだった。
「南風が吹いています。これに乗れば」
「オランダの方」
 ダーラントは彼の言葉を受けてオランダ人に顔を向けるのだった。
「幸運の天使は貴方に微笑みかけている。風が吹き海は静かになった」
「ええ」
「すぐに錨を掲げて帆を上げよう」
「そして向かうのは」
「故郷だ」
 はっきりとオランダ人に対して告げた。
「故郷だ、私のな」
「さあ帆を上げろ」
「錨ももういいぞ」
 既にダーラントの船では海に戻ろうとしていた。オランダ人はその彼等を見てからダーラントに顔を戻し言うのであった。
「貴方の船が先に」
「それでよいのですな」
「はい、私の船の者達はまだ疲れていますので」
 こう言ってきた。
「ですから」
「しかし風向きが変わったら」
「御心配なく」
 オランダ人は落ち着いた声で彼に述べるのだった。
「風はまだ当分の間南から吹きます」
「御存知なのですな」
「この時期のこの海も何度か航海していますので」
 そのうえでの言葉だというのだ。
「ですから問題はありません。すぐに追いつくことができます」
「ではそうしよう。陽のあるうちに娘に出会えればいいですな」
「是非共」
 これに関してはオランダ人も同じ意見であった。
「御会いしたいものです」
「では早速」
 ここで彼は自分の船に乗るのであった。
「出航だ。いいな」
「了解、それじゃあ」
「出るか」
「ではオランダの方」
 船に乗るところでオランダ人に顔を向けて声をかける。
「どうかついてきて下さい」
「はい、それでは」
「遠い海から嵐と共に来たのさ」
 ダーラントの船から船乗り達の陽気な歌声が聞こえてくる。
「愛しい娘さん、塔の高さ程の潮に乗ってわしは戻って来たぞ」
「南風が吹かなかったらここには戻ってこられまい」
「南風よもっと吹け」
 こう歌うのだった。
「あの娘がわしを待っている」
「出航だ!」
 最後にダーラントの声が響いた。
「いざ故郷の港へ!」
「おうよ!」
 彼等は意気揚々と出航し故郷に戻る。オランダ人もそれについて行く。まずはオランダ人にとっては希望を見出せたはじまりであった。
 
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