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ヴァレンタインから一週間

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第6話  謎の美少女登場?

 
前書き
第6話を更新します。
 

 
「最後の可能性は、今、何が起きているのか判らないけど、土地神を倒すか、もしくは封じる事の出来る存在が関わった事件が起きている、……と言う可能性が有ると言う事」

 俺を真っ直ぐに見つめる長門の視線を受け止めながら、そう続ける俺。
 その瞬間、冬の弱い陽光が彼女の深い湖を思わせる瞳と、最早、表情の一部と成っている銀のパーツを煌めかせた。
 少し冷たい雰囲気を纏いながら……。

 そして、

「俺の能力だけでは、どうしようもない事態が進行中の可能性が出て来た、と言う事やな」

 ……と、そう説明を締め括った。
 そう。現在のこの世界の状況は、場合によっては仙界や神界。もしくは魔界と呼ばれる異界から、それなりの能力と名前を持った存在が事件解決のために直接派遣される可能性も有るような異常事態と成って居る公算が高い、と言う事。
 土地神が消えて仕舞っている、と言う事は、それぐらいの異常事態ですから。

 長門の反応は……。疑問符の方が多いけど、信用していない訳ではないか。
 それならば、

「この世界全体に影響を及ぼす事件の内、人間ではどうしようもない類の霊的な事件。例えば、邪神や魔神が異界から人間世界に顕現しようとした場合、最初にその土地を守護する土地神たちが対処する事と成る」

 俺の独白が続く。但し、俺が説明して居る内容は、俺が暮らして来ていた世界に関しての常識。平行世界とは無限の可能性が有る以上、俺の常識が通用しない世界が存在する可能性もゼロでは有りません。
 つまり、この世界の常識に関しては、今のトコロ不明だと言う事です。

 但し、この長門が暮らして来た世界も俺の仙術が行使可能な世界ですので、俺が暮らして来た世界とそうかけ離れた世界ではないと思います。

「大抵の場合は、その土地、もしくは事件が起きている地域から近い場所に住む、その事態を解決出来る存在が、偶然か、もしくは必然かは判らないけど事件に巻き込まれて、最終的には事件を解決させられる事となる」

 小説や漫画。アニメの題材と成るのはこのパターン。その存在。その小説などの主人公たちが事件に偶然に巻き込まれて行くのは、偶然などではなく必然。むしろ事態を解決出来る能力が有るから巻き込まれている、と言う可能性の方が高い。
 そう言えば、伝承や昔話などに残っている英雄や勇者たちも、大半がここに分類されますか。

「但し、今回の事態の場合、その最初に対処すべき土地神達が封じられている以上、この例に当てはめるのは少し難しい」

 そして、ここで初めて土地神が封じられると言う表現を使用した。
 そう。俺は、土地神たちが倒されて冥界に落とされた訳ではないと思っていますから。

 もっとも、可能性としては、近場に事件を解決出来る人間がいなかったから、俺が徳島からここ西宮にまで飛ばされて来た可能性もゼロでは有りませんが、それでも、その場合は次元移動まで行っている事態の説明が出来ません。
 まして、俺の知って居る連中と良く似た存在たちが居る世界なら、現状では所詮は地仙レベルの俺をわざわざ次元移動などさせずとも、もっと能力の高い存在たちが居ると思うのですが……。

 それに、この眼前の長門有希と言う少女型の人工生命体を造り上げた存在も、この世界には居るはずですから。
 地仙レベルでも、確かにそれなりの使役獣や乗騎を創り出す事は可能なのですが、完全に人と同じ心を宿らせる事は流石に難しい事です。彼女に偶然、魂が宿った訳では無く、意図して魂を宿らせたとしたのなら、彼女を創り上げた存在は天仙クラスの存在。神にも等しい能力を持っていると考えた方が良いはずですから。

「それでは、現在、何が起こりつつ有るのか調べる手段はない?」

 微妙な雰囲気でそう聞いて来る長門。完全に未来を諦めたと言う陰気に包まれている訳では無い、微かな希望に等しい陽気を発して居る雰囲気。
 彼女は未だ諦めてはいない、と言う事ですか。

「ない事もない」

 それに、早々諦める訳にも行かないでしょう。俺は、この世界の人間では有りません。つまり、何時かは帰らなければならない、と言う事です。
 そして、俺の次元移動と、この土地神を封じた存在が起こしつつ有る事態に某かの関連が有る限りは、無視する事は出来ませんからね。

「真っ先に土地神を封じたと言う事は、この地の伝承に残っている存在の可能性も有る。
 但し、それだけでは相手を特定する事は難しい」

 そして、その部分が、俺が土地神たちは倒されて冥府に送り込まれた訳では無く、封じられたと考えている根拠でも有ります。
 もし、土地神たちが倒されたのならば、冥府を司る存在から神界か仙界に連絡が行き、それなりの名の有る神仙が送り込まれる可能性が高く成ります。
 最初に、土地神をどうにかしようとするような狡猾な存在が、わざわざ土地神よりも強力な敵を招き寄せるようなウカツなマネは為さないでしょう。
 逆に、土地神を封じられたのなら、神界や仙界がその事実に気付くには、それなりの時間を必要とします。その間に、事態が手遅れとなる可能性は大きく成りますから。

 まして、神界や仙界が人間界に過度に干渉する事は、後にどのような害を及ぼすか判りません。故に双方とも慎重に事を運ぼうとするはずですから、手遅れとなる可能性は更に高まります。

「この西宮の地は古い町。京からの距離も近いし、東西の交通の要所でも有る。
 つまり、関係が有りそうな伝承も多すぎて、俺一人で特定する事は難しい」

 其処まで告げてから、俺はゆっくりと肺に残った空気を吐き出す。
 そして、真冬に相応しい、冷たい、そして、故に新鮮な、と感じる事が出来る大気を吸い込んだ後、

「少し、友達使いが荒いけど、出来る事なら、長門さんには手伝って欲しい」

 ……と、長門に対して右手を差し出しながら告げた。

 その瞬間、彼女から発生したのは……躊躇い?
 少しの逡巡。しかし、それは躊躇いと言うよりも、軽い驚き。
 そして、


☆★☆★☆


 ……そうして、昼食タイムを挟んだ後に、この街の中央図書館と言う図書館にやって来たのですが。

【人魚姫しかヒントがないのでは、正直、完全に手詰まりか】

 俺の愚痴に等しい【念話】に、長門が答えに成っていない【念話】を返して来る。



 尚、この【念話】と言うのは、テレパシー。精神感応などに分類される能力で、心の声を直接、霊道で繋がった相手に送る事が出来る能力の事です。
 つまり、長門と契約を交わして、彼女へと霊力を送り込む霊道を開いた事に因って、彼女との【念話】のチャンネルを開く事が可能と成ったと言う事ですね。

 もっとも、相手に有る程度の感応能力が存在して居るのならば、例え霊道が通じては居なくとも通じさせる事は難しくはないのですが。



 まして、関係が有りそうな豊玉姫や乙姫に関しては、どうしても有名な話の方に引っ張られるので……。
 少し愚痴に近い思考をウダウダと連ねる俺。正直に言うと、既に地味な調査と言う方法に飽きが来ていた、と言う事の方が正しいですか。

 ただ、この部分に関しては、仕方がない面も有るのですが。
 何故ならば、日本の伝承や昔話は、古事記や日本書紀。風土記などに詳しく分類されていて、それ以外の伝承となると真偽の程のはっきりしない、怪しげな文書の内容に頼るしか無くなりますから。
 その中から、人魚姫。そして、封じられた可能性の高い恵比須神。豊玉姫や乙姫に関係していて、更にここ西宮に関係した物語や伝承を見付け出すのは流石に……。

 ただ、たったひとつ。俺が知らない伝承がひとつだけ出て来たのですが……。
 但し、飽くまでも俺が知らなかっただけで、この世界独自の伝承とは限った訳ではないのですが。

「あんた。さっきから見ていたけど、一体、何を調べているのよ」

 図書館に設えられた、あまり座り心地の良いとは言えない椅子に腰かけ、西宮近辺の伝承を集めたかなり分厚い書籍に目を通していた俺に対して、頭の上から非常に不躾な質問が投げつけられた。
 ……どう考えても、図書館内で掛けられる声とは思えない大きな声で。

 若い女性の声。しかし、俺自身がそんなに目立った動きをした覚えもないですし、ましてや絶世の美少年と言う人間でもないので、女の子の方から声を掛けられるような人間ではないと思うのですが。

 生まれてこの方、逆ナンされた経験など有りませんから。

「あぁ。少し、怪しい伝承について調べて居るんや」

 俺は、読んでいた本から視線を上げながら、その俺の正面に立つ少女に対して、不躾な言葉使いに対する答えに相応しい口調で答えた。
 それに、この程度の事ならば、別に隠す必要の有る内容では有りませんから、問題はないでしょう。
 まして、少々、残念な子ぐらいの感覚を持って貰えたら、相手の方から勝手に去って行ってくれると思いますからね。

 その俺の視界に飛び込んで来たのは、年齢は俺と同じぐらいに見えますから、中学生か高校生程度。髪の毛は背中に掛かるぐらい。目鼻立ちはかなり整っていて、十人中八、九人が美少女だと認めるぐらい。
 その美少女が、黒目がちの大きな、そして意志の強さを如実に物語っている瞳に俺を映し、上から目線で見下ろしていた。
 ご丁寧な事に、胸の前で腕を組み、口をへの字に結んで。

 何故に、俺は、この娘に目を付けられなければならないのかに付いては、判りませんが。

「怪しい伝承ね。それで、何か見つかったの?」

 口調は不機嫌そのもの。視線も、喧嘩を売られているような気さえして来る視線なのですが、しかし、彼女自身が発して居る雰囲気は、別にそれほど不機嫌と言う雰囲気では有りませんね。
 ……と言う事は、彼女の普段の態度がこのような態度と言う事なのでしょうか。

 ……俺の態度が残念な子ならば、彼女も非常に残念な美少女と言う雰囲気ですか。これは、最初の対応を誤った可能性も有りますか。
 妙な受け答えをして仕舞った為に、余計に絡まれているような気がしますから。

八百比丘尼伝説(やおびくにでんせつ)に、俺の知らない伝説を見つけた」

 もっとも、所詮は残念な美少女ですから、そんなに害が有る訳でもない。そう考えてから、俺が知って居る範囲内では、今までに見た事がない八百比丘尼伝説を口にする俺。
 但し、もし、この本に書いて有る内容が、昨夜起きた俺の次元移動、そして今朝に発覚した土地神封印事件双方に関係が有るのなら、俺は素直に、長門を連れて地の果てまで逃げるのですが。

 ただ、逃げる先が地の果てでは実は意味がなく、宇宙規模での災厄が起きる事態で有るのは確実な相手なのですが。
 コイツが本当に顕現するのならばね。

「昔、この辺りに大陸より渡って来た羅諷(ラフウ)と呼ばれる悪鬼が居ったらしい」

 俺がこの分厚い書籍に書かれている内容を話し始めた。

「それで、ソイツはどうしようもない悪鬼で、付近の国々……天竺から唐、半島を荒らしまわった結果、最終的にこの辺りにまで流れ着いて来たらしいんやけど。
 それでも、この辺りについては昔話の典型例かな。それで、都から派遣された兵士も。旅の武芸者や、有名な術者でさえも敵わずに、ホトホト手を焼いていた」

 それに、俺の知って居る……。知識として知って居るアイツならば、普通の人間では絶対に相手をする事が出来る存在では有りません。
 俺でも、勝てる可能性は非常に低い相手ですから。

 万全の準備を整えた後にならば、勝てる可能性が出て来る相手、と言い直すべきですか。

「それで、これもお約束のパターンとして登場するのが、民の難儀を見かねた、として登場する正義の味方。この物語の中では、西国に向かう旅の途中の八百比丘尼が、これまでの旅の道中で調伏した一目連(イチモクレン)を引き連れて戦う訳なんやけど……」

 一目連。天目一箇神(テンモクイッコノカミ)の事か、もしくは、三重県の方の伝承に残っている一目連の事か。
 ここ西宮は兵庫県に存在しているから、天目一箇神の方が伝承に残されている場所的には近いけど、三重県の方には八百比丘尼伝説が残っている。

 そして、三重県に残っている一目連の伝承は、片目の龍神の事。

「それで、激烈な戦いの後、見事に討ち果たす事に成るんやけど、その時に、我の如き悪神が悪業を為すのは天の運命(さだめ)。我は故に滅びる事はなし。再び、会いまみえん。と言ってから、首を刎ねられたらしい。
 その後、羅諷の首が天に昇って、天の悪星と化した」

 ……と言う伝承なのですが。

「それにしても、もう少し、後に続く人間の事を考えて欲しいものですよ、ホンマに」

 俺は、深いため息と共に、長い昔話を締め括る。
 そう。もし、この伝承通りの敵が顕われて、片目の龍神の属性を持たされた俺と、人魚姫の属性を持たされた長門に因って退治しろ、と仰っているのならば、もう少し、詳しい情報を残して置いて欲しいのですが。
 弱点とか、そいつが顕われる。……復活する詳しい場所の情報とかを。

 俺としてはね。
 まして、伝承上のアイツは、不死の存在のはずですよ。

「これは、おそらくラーフ。つまり、羅睺星(ラゴウセイ)の事とは思うけど、彗星やデカい流星群が、最近、地球近辺を通るなんて言う事もないとは思うから」

 少なくとも、俺の知って居る範囲内ではそんな事実は有りません。
 但し、俺の知って居る事実は、俺の暮らして来た世界の事実であって、この長門有希が暮らして来た世界の事実ではないのですが。

「何を言って居るのよ。あんた、今朝のニュースを見てはいないの!」

 しかし、残念な美少女が、何か良く判らない事を言い出した。それまで以上のボリュームの音量を撒き散らせながら。
 ……この図書館の司書連中は、現在、全員が長い昼休みを継続中らしいですね。

「昨夜、急に発見された巨大なサイズの彗星が有るじゃないの。確か、地球に最接近するのは一週間後のはずよ!」

 その妙にハイテンションな美少女の音量が更に上がった。
 確かに、急に発見された彗星ならば俺が知って居る訳は有りません。まして、そんな昨日、急に発見された巨大なサイズの彗星の地球最接近が、一週間後などと言う事が現実には有り得るとは思えません。

 つまり、これ……この新しい彗星発見の報は、既に何らかの神霊的な事件だと言う事の可能性が高いでしょうね。

 その瞬間、

【その少女に、事件の発生を教えないで欲しい】

 急に、長門からの【念話】が繋げられる。
 しかし、その内容は意味不明。確かに、一般人を無暗に危険な事が判っている事件に巻き込む事は有り得ないのですが……。それでも、この目の前の少女に教えないで、と言い切ったと言う事は、その事について、何か事情が有ると言う事なのでしょうか。

【了解。適当に誤魔化したら良いんやな】

 俺の問い掛けに、首肯いたような【念話】に成って居ない気のような物を返して来る長門。しかし、かなり、器用なマネが出来るのは間違い有りません。

「急に発見された彗星! これはきっと、新しい不思議の始まりに違いないわ。
 そして……」

 俺を見下ろすその美少女が、ビシッと擬音を発しそうな勢いで俺を指差す。そして、

「妙な伝承を調べている、怪しいオッド・アイの少年!」

 ……と、非常に失礼極まりない台詞を続けるその美少女。

 確かに、俺は怪しいし、オッド・アイですし、更に少年には間違い有りませんよ。
 まして、今、起こりつつ有る事件は、例え羅睺星(ラゴウセイ)が関わって居なくても、土地神が封じられている事から考えても、普通ではない、かなり不思議な事件で有るのも間違いないでしょう。

 それに、式神使いで龍種と言う、かなりマイノリティに分類される人間が、魂の発生した人工生命体の目の前に放り出されると言う異常事態も既に起きています。
 それでも、この反応は……。

「おいおい。なんぼ何でも、初見の相手を捕まえて、いきなり怪しいオッド・アイの少年はないでしょうが。()()()オッド・アイの美少年やったら、速攻返事していたかも知れへんけどな」

 取り敢えず、イタイ子から、残念な子のフリをして、この妙な少女からの逃走を図る俺。
 しかし……。

「そんな事よりも、何でそんな事を調べていたのか、理由を話しなさい!」

 しかし、彼女は相変わらずの上から目線で、その上、命令口調で言って来る、性格的に非常に残念な美少女。
 う~む。何と言うか、コイツは、少なくとも人の話を聞くような人間でない事だけは判りました。

「理由は、俺が知らない不思議な事が何かないか、……と思って、調べていただけやで。
 それが、何か問題でも有ると言うのですか?」

 一応、最初に話した内容との間に矛盾点のない答えを返す俺。それに、この内容は完全にウソと言う訳では有りません。ただ、言葉が足りないだけですから。

 そう考えてから、俺の目の前で胸の前で腕を組み、不満げな顔で俺を睨み付ける美少女を見上げる俺。
 しかし、何故に俺が、この娘に睨み付けられなければならないのでしょうかね。

「それで、何か御用ですか?」

 一応、一般人のフリを続けながらそう問い掛ける俺。但し、本当に不思議なのは俺と言う存在そのもの。人間びっくり箱ですからね、俺と言う人……存在は。
 見た目に関しては……。あ、いや。今は、左目が普通とは違い過ぎる色に染まっていましたか。

「せっかく、不思議な事件が始まったと思ったのに」

 それまでと違い、少し陰気に染まった雰囲気で、そう言う少女。それまでのハイテンション振りから考えると、かなりの落ち込みのように感じる。
 う~む。これは、流石に少し悪い事をしたような気もしますが……。
 しかし、正直に不思議な事件が進行中だと言う訳にも行かない相手らしいですから。

「何をしょうもない事を言って居るんですかね、この()は。不思議な事なら、既に起きて居ますよ」

 俺の、先ほどの思考を完全に否定するようなその台詞。その瞬間、長門から、かなり否定的な気が【念話】を通じて届けられる。
 ……確かに、昨夜出会ったばかりの相手ですから、簡単に俺の事を信用出来るとは思いませんが、それでも、約束を簡単に反故に出来るような人間でもないのですが。

 そのぐらいの事は信用してくれても良いとは思いますけどね。

「少なくとも俺は、図書館のような静かな場所で、妙にハイテンションな美少女に絡まれていますからね」

 そのような、気分的には少しへこんだ状態をオクビに出す事もなく、平然とした様子で言葉を続ける俺。
 それに、普通に考えると現在は少し妙な状況と成っているのは事実ですから。
 どう考えても、この目の前の少女の声のレベルで会話を続けていたら、普通は司書がすっ飛んで来て、最悪、図書館から追い出される事に成るはずなのです。
 しかし、現状、そのような事はなし。

 更に、俺と、この少女の周囲には人影はなし。
 しかし、俺の感知能力に間違いが無ければ、人払いの結界が施されている訳でも無ければ、音声結界が有る訳でもない通常の空間。
 但し、それでも尚、俺と、そして、この目の前の少女には、ある種の興味や、観察する、と言った雰囲気の視線が注がれている状況。

 正直に言うと、俺に取ってこの図書館内の一角は、非常に鬱陶しい空間と成っています。

 何と言うか、この少女が実はとある国の王族で、影から彼女を護衛しているSPたちが、彼女の周囲に近寄って来る人間を排除しているような、そんな気さえして来るのですが。

 まして、彼女の事を、長門は知って居るような雰囲気でしたし……。

 尚、俺の言葉。不思議な事件が進行中と言う言葉を聞いた瞬間、少しの陽の気を発し掛けた少女が、それに続く台詞を聞いて、もう一度、急降下。陰の気を発し始めた。
 ……何と言うか、見て居て飽きない相手で有る事だけは確かですね。
 但し、視界内に納めて置きたい相手では有りますが、彼女と一緒に、騒々しい毎日を過ごしたいとは思わない相手でも有ります。

 どう考えたって疲れるでしょう。こんなに騒々しい相手に傍に居られると。

「それに、一度や二度失敗したぐらいで、不思議な事を探すのを諦めると言うのですか?」

 ただ、それでも、この娘を不必要に落ち込ませても仕方が有りませんか。そう思い、少し挑発するような台詞を口にする俺。
 それに、この程度の台詞ぐらいなら問題はないでしょう。

「そんな事、有る訳ないじゃない!」

 案の定、反骨心と反発の籠った視線と、妙に強い霊力の乗った台詞で答える美少女。
 ……って言うか、この台詞。まるで、言霊(ことだま)に近い霊力が籠っているような気がするのですが……、俺の気のせいなのでしょうか。

 もし、先ほどの台詞に言霊が籠められて居たとするのなら、彼女はこれから先も、不思議な事を探し続ける事と成る運命を自らに課したと言う事と成ります。
 もしかすると、これは、少しマズイ事を言った可能性も有るような気がするのですが……。

 彼女の未来の一部を、先ほどの俺の不用意な一言が決定して仕舞った可能性が――――――――。

 ……いや、まさか、自分の運命を言霊で簡単に制御して仕舞うようなウカツな言霊能力者が存在する訳は有りませんか。

「そうしたら、少し、面白い事を話してやろうかな」

 
 

 
後書き
 ようやく、事件の発端にまで辿り着いた主人公と長門さん。しかし、この事件も、涼宮ハルヒの世界とはかけ離れた事件ですね。
 東洋伝奇小説風の邪神が登場する可能性が出て来たと言う事ですから。

 そうしたら、次。【念話】について。
 【念話】は、龍の特殊能力と言う雰囲気で理解して置いて下さい。
 龍体に成った時に、龍がデカい口をパクパクさせて話していたら、流石に威厳も何も無く成って、かなりマヌケな空間と化して仕舞いますから。

 ただ、主人公が龍体と成って空を翔けるかどうかは未定です。今のトコロは。

 それでは次回タイトルは、『本当に有った怖い話?』です。

 第6話に登場した謎の美少女、涼宮ハルヒとは?
 涼宮ハルヒのシリーズのメインヒロイン。
 そして、全ての事件を無意識の内に起こすはた迷惑な、無自覚な神。
 ……と言う設定らしいのですが、それは原作小説のストーリーテラーのキョンと言う少年の言葉のみの説明なので、原作者が本当にその意思で書いて居るのか、それとも、何かの伏線かは不明。
 原作小説内では、ハルヒには自分の都合の良いように世界を改変する能力が有る、と言う表現も存在しているが、それも、確定事項ではない。

 何故なら、何もかもが彼女の思い通りに進んで居る訳ではないから。

 尚、この『ヴァレンタインから一週間』内の彼女は、色々な組織の監視下に置かれて居ます。
 何故ならこの世界には、原作よりも多くの組織が存在して居ますから。 
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