| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

さまよえるオランダ人

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一幕その一


第一幕その一

                   さまよえるオランダ人  
                  第一幕  永遠に彷徨う者
 ノルウェーの岸壁。荒れたこの場所に今一隻の船が近付いてきた。空は暗く激しい嵐が荒れ狂っている。海も荒れ船はそこから逃れてきたようである。
 船は錨を下ろすとそこに停泊する。帆を降ろし綱を投げたりしている。その間に船長らしき男が岩場に降りてきていた。そのうえで周りを見回す。
「ダーラント船長」
 船から船乗り達が彼の名を呼んで声をかける。
「そっちはどうですか?」
「問題ありませんか?」
「いや、ない」
 ダーラントは低く底から聞こえるような声で彼等に応えた。船乗りの服を着ている大柄で顔中髭だらけの男だ。髭には白いものが混ざっている。それを見れば初老らしきことがわかる。少し垂れている目の尻には皺もある。だが姿勢はよく堂々としたものであった。
「何もないぞ。だが」
「だが?」
「かなり押し流されてしまったな」
 彼が言うのはそれであった。
「嵐のせいでな」
「はい、それは」
「長い航海の後でもうすぐ到着だというのに」
 ダーラントの目が曇っている。
「こうなってしまうとはな」
「まあそれは」
「ここはザンドウィーケさ」
 ダーランとはここの地名も知っているようだった。
「もうすぐだが。しかし」
「娘さんが気になるんでしょ?」
「よっ、憎いね」
「うむ、ゼンタにな」
 ダーラントは船員達の言葉を聞いて娘の名を呟いた。
「会えると思っていたが今は仕方ないな」
「それでどうされますか?」
「今は休もう」
 結論としてはこうであった。
「焦っても仕方ない。それでいいな」
「わかりました。それじゃあ」
「それでだ」
 ここでダーラントは船乗りの一人に声をかけてきた。
「舵取りよ」
「はい」
 その舵取りがダーラントの言葉に応えてきた。
「わしは寝るがその間見張りを頼めるか」
「ええ、それでは」
 舵取りは彼のその言葉に応えて頷いてみせてきた。
「お任せ下さい」
「うん、それじゃあ頼むぞ」
 ダーラントはそれに応えて船に戻る。他の船乗り達も船の中に入っていく。甲板に残っているのはその舵取りだけだが。彼も何か眠そうに目をこすりだした。
「遠い海から嵐を超えて御前の胸に戻って来た。愛しの南風に連れられて御前にこの黄金の腕飾りを」
 そう歌いながらうつらうつらとしていきやがては。完全に眠りに入ってしまった。するともう一隻船がやって来た。それは実に変わった船だった。
 マストは漆黒でありその帆は血の様に赤い。波をものともせず音も立てず海の上を進んでくる。そして岸に泊まり投錨する。やがてその船から一人の男が出て来た。
 変わった男だった。服は黒いスペイン風の服だった。ズボンに服、そしてブーツとカラー。ただしそのカラーも白ではなく黒だ。帽子も黒であり何もかもが漆黒だ。陰気な顔をしており顔色は蒼い。蒼白だった。暗い黒い目をしており髪も同じ色だ。大柄であるが幽鬼の様に見える。不気味な男であった。
 男は岩場に降り立つと。まずはこう呟いた。
「期限は切れた」
 まずはこう。
「幾度めかにまた七年が過ぎた」
 時間が言われた。
「如何にも飽きたというように海は私を陸に置く。だが高慢な海よ、御前はすぐに私を呼ぶ。そんな具合に御前の反抗は強靭だが私の苦しみは永久だ」
 こう述べていく。
「私が陸に探し求める幸せを私は決して見出しはできぬだろう。世界の海のあらゆる潮よ、私は御前と運命を共にする。世界の波が全て砕け最後の水が渇くまで私は御前と共にある」
 言葉を続けていく。
 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧