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茨の王冠を抱く偽りの王

作者:カエサル
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13.学園祭

『こちらはGHQ広報部です。現在貿易法九条参考に基づき都市隔離宣言を発令中。環状七号線から外への移動は固く禁じられています』

あれから二週間東京はすっかり変わってしまった。
二週間前の事件.....ロストクリスマスの再来と呼ばれたアポカリプスウイルス感染により都心は封鎖された。
ネットや電話は通じなくなりテレビもラジオも沈黙したまま人々は各地の避難所に集まって暮らしている。

ここ天王洲第一高校には自然と生徒たちが集まってきた。
家族と連絡がつかず封鎖地区に自宅があるため帰れずそのままここで暮らしているのだ。
GHQのアナウンスは封鎖は間も無く解除されると言っている。
でも、こんな状況で解除されるのか、俺は半信半疑だ。

ーーもう、全部終わったんだよな.......ガイ


「やっぱりここにいた、王様」

一人で映研部室の近くの広場にいるとシオンが現れた。

「......シオンか」

「なに!.....シオンか、って」

「いや、ちょっと....な」

全ては終わった......ガイの死で......
でも、まだ何かが引っかかる。

「まぁ、いっか。それより、生徒会、急がないとと始まっちゃうよ」

「もう、そんな時間だったか。それじゃあ、行くか」

俺とシオンは生徒会室へと向かった。



「楽観は禁物だ。事件から二週間緊張の糸が切れる時期だ。新宿でも、ちょっとした暴動があったらしいし」

生徒会室では、集、いのり、祭、草間、颯太、八尋、供奉院の七人がすでに話し合いをしていた。

俺とシオンは遅れて席につく。

「たしかに校内でもモメ事が目に付くわね」

「みんな疲れてるんだよ。帰りたくても帰れない子も多いし、せめて息抜きでも出来ればいいんだけど」

「息抜き.....ね」

「おっ、そういえば」

颯太が何か思いついたように動きだし、カレンダーを手に取る。

「どうしたの、颯太?」

「なあ........文化祭やらないか!」

「はっ?」

颯太の案に少し驚いた。

「本当なら今月文化祭じゃん!なぁ、やろうぜ文化祭!」

「何言ってんだお前、この非常時に」

まぁ、八尋でなくてもそういうだろうな普通は

「だからこそだよ。一発ドカーンと盛り上げて、やな空気を吹き飛ばそうぜ!!」

颯太らしい意見だな。

「いいアイディアかもしれないわ」

まさかの第一に賛成してくれたのは会長だった。

「会長まで」

「食料は遠面心配ないし、ささやかなものならやれると思う」

「先輩の言う通りだぜ〜、もっと空気を読みたまえよ、寒川官房長官」

「本当に大丈夫ですか?」

集が心配そうに聞く。

「こんな状態はもうすぐ終わるわ。心配無用よ」

「って言うなら」

「いいよね。ねっ、集」

草間も祭も賛成のようだ。

「そうだね。壊とシオンもいいよね」

「もちろん賛成だ」

「楽しそうだね文化祭!」




文化祭は賛成だ。
だが、なぜか右腕が疼く。
二週間前の事件で新たにヴォイドを二つ取り出せる力を手にいれたがもう、使うこともないだろ。

これでまた、触れると人を殺す右腕に戻っただけだ........




そして、文化祭当日
この日は全生徒が文化祭を心から楽しんでいた。
俺も自分の役割の合間でシオンと文化祭を周って楽しむ.....はずだったが、時が進むに連れて右腕が徐々に疼きだす。
こいつがなければ俺はもっと文化祭を楽しめたのに。

シオンはこの文化祭でのメインイベントであるEGOISTの生LIVEに出演するらしく舞台の方へと向かって行った。

「俺も暇だし行くか」

不意に遠くの方で殺気を感じた。

「気のせいか」

気のせいであってくれ、そう願いながらEGOISTのLIVE会場を目指した。




EGOISTのLIVEは校舎グラウンドに作られた特設ステージで行われる。

そこには、一人で少しうつむいている綾瀬がいた。

「綾瀬」

俺は綾瀬に声をかけた。

「カイ」

「どうしたんだよ、浮かない顔して」

「ほっといて、何の役にも立てない私だから」

「どうしたんだよ、綾瀬?何かあるなら話せよ、俺たち仲間だろ」

「ガイは死んだのよ!!」

綾瀬はいきなり大きな声をだす。

「違う、守れなかったのよ。私があの人を死なせてしまった」

「違う、綾瀬。ガイを死なせたのは、俺だ」

その瞬間、ガラスが割れる音と生徒たちの悲鳴が飛び交う。
音のした方を見てみるとそこには、エンドレイブが。

「エンドレイブ!?」

そして、ハンヴィーに乗って銃を乱射する男たち。

俺は綾瀬を安全な場所に避難させるために車椅子を押し走った。

「ちょっと!」

「綾瀬が戦う必要はない。ひとまず安全なところへ」

「逃げたくなんかないの!私の接続を切らないで!」

綾瀬が車椅子のタイヤを手で抑え無理やり止める。
どの反動で俺は前に飛ばされる。

「何やってんだよ!」

綾瀬は車椅子自ら起こし乗ろうしている。

綾瀬に駆け寄り手を貸そうとするが

「あんたも私を怠け者にしたいの!」

「そっ、そんな」

「ガイは私に足をくれたの。どこまでも速く駆ける足を。......なのに......私は.....無理だよ。私は終われないよ」

綾瀬は泣いていた。

「お願い、カイ。私を一人で立たせて」

その瞬間、地面が光り出し、それと同時に俺の綾瀬の胸のあたりが光を放ち出す。

「これって、まさか!?」

「お願い、カイ。私を使って」

俺は頷き、綾瀬の胸の光に手を突っ込む。
引き出されたヴォイドは.......エアスケーター
そのヴォイドは綾瀬の足に装着された。

「私.....自分の足で立ってる」

「それが綾瀬のヴォイド。行って来い、綾瀬!!」

「うん!」

綾瀬はそう大きく頷き、自分の足で駆け出して行った。




広場で暴れていたハンヴィーは綾瀬が一人で撃退した。

「これ、俺、来る必要あった」

「あるよ、王様!さぁ、王様。私を使って壊れるくらいメチャクチャに!」

シオンから取り出されたのは......静止銃。

『何なんだよ、お前ら!!』

反暴走状態のエンドレイブがこちらに向かってくる。

「行くぞ、綾瀬、集!!」

「うん」

「行くわよ!」

綾瀬が飛び出しエンドレイブそれを狙う。
だが、綾瀬はそれを空中に飛び避ける。

「カイ、シュウ!!!」

「了解!!!いっけぇぇ!!」

静止銃でエンドレイブを撃つ。

「今だ、集!!」

「うぉぉぉおぉっ!!」

集がいのりヴォイドを持ち、エンドレイブを切り裂く。

こうして、危機は去った。




ステージの上ではいのりとシオンが歌っている。
その歌声は聞くものすべてを虜にするような歌声だ。

「久々に自分の足で全力疾走したわ、気持ちよかった」

「そうか、俺もちょっとふっきれた。難しく考えすぎただけかもしれない」

「ガイのことはまだ割り切れないけどそれでも少しずつ考えて行こうと思う。私に何が出来るかを」

「俺もかな」

「ありがとう、カイ」

綾瀬は笑顔で俺にそう言う。

歌が終わり拍手と歓声が鳴り響く中、颯太の声が響く。

「みんな、テレビが映るようになったって」

少しの歓声の後、その声はピタリと止んだ。

『その調査の結果.....環状七号線より内側には重度のキャンサー化患者以外に生存者は確認されず臨時政府とGHQは救助活動を打ち切り今後十年に渡り完全封鎖することで同意しました』

どういうことだ。
あいつがなぜ!?

『我々は国際社会の懸念を払拭すべくアポカリプスウイルス撲滅に尽力する所存です。再生のために浄化。それこそがこの度、日本国臨時政府の大統領に就任したこの私の責務と信じます』

「何なんだよこれって」

「ふざけんじゃねぇぞ、ダァトォォ!!!」


 
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