仮面の美女
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第一章
仮面の美女
パリの社交界で話題になっていた。
謎の貴婦人、よくある話ではある。
夜の仮面舞踏会でその貴婦人が誰なのか、謎めいた話が好きなロココの貴族達はこぞってこのことについて話をした。
「ヴィヨン公爵夫人じゃないのか?」
「いや、ロシア大使の娘さんだろう」
「オーストリアのカウニッツ侯爵の愛人じゃないのか?」
「夜の社交界の花形マリー男爵夫人ではないのか」
皆こぞって話をする、だが。
その正体は不明だった、国王ルイ十五世もその貴婦人について言う。
「本当に誰だろうな」
「陛下も興味がおありですか」
「誰なのか」
「うむ、気になるね」
実際にそうだと言う、それでだった。
「若しあの貴婦人が誰かわかった者には」
「褒美をですね」
「それをですね」
「私から出そう」
王はこう提案した。
「とっておきのサファイアをあげよう」
「そうされますか」
「その者には」
「うん、そうするよ」
こう言ってであった。
「その時はね」
「しかし難しいですね」
「あの美女が誰かというと」
「本当に誰なのか」
「気になります」
「全くだよ」
王も知らない、それで言うのだった。
「興味はあるけれどね」
「それでもですか」
「陛下もご存知ありませんか」
「あの貴婦人が誰か」
「そのことは」
「あの貴婦人は謎を出してくるね」
まるでスフィンクスの様にそうしてくるというのだ。
「三つの謎、そしてその全てに答えられたなら」
「その時に仮面を脱ぐと言っています」
「あの仮面を」
「私は謎解きは苦手でね。答えられないのなら」
それならというのだ。
「他の者に任せるよ」
「ではこのことを宮廷に知らせます」
「褒美のことも」
「謎が解かれ褒美も出る」
王は己の席から楽しげに言う。
「二つの喜びに応えられる者は誰だろうね」
そのことを楽しみにしている王だった、かくして名前も知られていない謎の貴婦人の謎に多くの者が挑んだ、だが。
答えられる者はいなかった、あえなく玉砕した男達は皆ワインを飲みそれで憂さを晴らしながら話すのだった。
「あの謎は何だろうね」
「意味がわからないっていうかね」
「とてもね」
「理解できないよ」
「一つがそうで」
彼等はワインで謎が解けなかったこと、そして王からの褒美が得られなかったことへの無念を散らしながら話していく。
「それが三つだよ」
「最初の一つにも誰も答えられない」
「ましてや三つになるとね」
「絶対に誰も答えられないよ」
「どんな賢者でもね」
これが彼等の言い分だった、だが。
この話を聞いて一人の男が出て来た、彼はというと。
思想家のヴォルテールだった。彼は深い叡智を讃えた目で彼等に言った。
「この世に絶対の言葉はなく」
「答えのない謎はない」
「そう言うんだな」
「そうです。どんな魔術でも秘密があります」
魔術についてもこう言う。
「仮面の下にも必ず素顔があります」
「じゃあ君は答えられるんだね」
「あの仮面の美女の謎に」
「彼女の出す三つの謎全てに答えられる」
「それが出来るんだね」
「はい、既に三つの謎の題は聞いています」
これは美女も出している、そして宮中の誰もが答えがわからないままなのだ。
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