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ヒーローは泣かない

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第一章

                   ヒーローは泣かない
 ルチャ=リブレはメキシコで最も有名かつ人気のある格闘技だ。広いジャンルでプロレスになるがこれは古代アステカの戦士達を復活させたものだと言われている。 
 飛び跳ね舞う、そうして派手に闘い覆面を被った派手な身なりの戦士達が闘うのだ。
 その彼等を見て誰もが声援を送る、その彼等の中でもだった。
 ケツアルコアトル、古代の有翼の蛇神の名を冠した戦士は今最も人気のあるレスラーだった。正義のレスラーでありそしてなのだ。
 常に、どんな逆境でも果敢に闘い勝っていた、それ故にだ。
 彼は子供達の声援を受けていた、子供達は言う。
「ケツアルコアトルは無敵だよ」
「どんな状況でも負けないよ」
「そう、あんな強い人はいないよ」
「最高のレスラーだよ」
「まさに戦士だよ」
 こう言ってサインをねだり喝采を送る、そしてケツアルコアトルはというと。
 サインには必ず応じ子供達を大切にした、だからこそ常に囲まれていた。
 その彼にマネージャーが問うた。
「あの、トレーニングや試合の合間も」
「サインをすることかい」
「はい、いいのですか?」
 トレーニングで縄跳びをしている彼に問うたのである。今彼等は事務所のリングの傍で話をしている。そこでの言葉だった。
「それで」
「いいよ」
「他のこともですか」
「皆僕をヒーローだと言ってくれるね」
 緑の派手な蛇を若し頭の先に羽根を付けたマスクである。上半身は裸で青い赤のレスリングパンツに青いストッキングだ。
 その彼がこう言うのだ。
「それならね」
「サインにもですね」
「絶対にするよ。子供達の応援があっての僕だから」
「だからですか」
「僕はね、貧しい家に生まれて」
 メキシコシチーのスラム出身だ、ルチャ=リブレの戦士の出生ではよくあることだ。
「子供の頃はかっぱらいとかよくしたよ」
「そのケツアルコアトルさんをですか」
「ヒーローと言ってくれるんだよ」
 そのことがだというのだ。
「正義の、皆のヒーローだとね」
「それ故にですね」
「有り難くない筈がないよ」
 実際に彼の言葉は笑みになっていた。
「本当にね。だからこれからも」
「サインも受けられて」
「一緒に遊ぶよ」
 こうしたこともしている、トレーニングや試合の合間に。
「そして勝ち続けるよ」
「どんな相手にもですね」
「うん、勝つよ」
 このことを確かな声で言う。
「絶対にね」
「では頑張って下さい」 
 マネージャーは彼の言葉を受けた、そしてだった。
 彼もまたケツアルコアトルを見た、彼はトレーニングを続けるのあった。
 その彼にだった、マネージャーがこんな話をしてきた。
「次の試合ですが」
「相手は誰だい?」
「厳密に言うとルチャ=リブレの相手じゃないです」
「プロレスかな」
「はい、アメリカの」
 言わずと知れたメキシコの北にある超大国だ。歴史的にメキシコと因縁がある。
「そこのレスラーです」
「そういえば交流試合の話があったね」
「あっちから来た話で」
 アメリカ側からだというのだ。
「共に試合をして楽しもうと」
「そう言って来たね」
「はい」
 その通りだというのだ。
「その相手ですが」
「誰かな、それは」
「向こうの一番のヒールですよ」
 ケツアルコアトルは彼の所属団体の一番のベビーフェイスだ、強く正しく格好のいいヒーローとして人気があるのだ。
 その彼の相手はヒールだ、それが相手だというのだ。
「名前はジャガーマン」
「ジャガーだね」
「はい、そうです」
「テスカトリポカだよね」
 ケツアルコアトルはここで彼の名前になっている神の宿敵だった戦いの神の名前を出した。 
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