トライ
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第一章
トライ
プレッシャー、彼はその中にいた。
一重の鋭さを感じさせる横にあるひし形の目に薄めの眉は斜め上に見事に描かれている。顔は面長で頬が細い、顔立ち全体が引き締まりいい感じの顔立ちにしている。唇は小さめで鼻は程よい高さである。黒髪は左右を短くして横を長くしている。
背はすらりとしていて高い、名前を池田良馬という。
彼は今ラグビーをしていた、その中で。
ボールを受け取った、投げたチームメイトは彼に叫んだ。
「池田、頼んだぞ!」
「ああ、わかった!
良馬もそれに応える。彼は高校でラグビー部に入っているのだ。今丁度練習試合に出ていたのである。
そこで今ボールを受け取りゴールに向かう、向かう目的はトライの為だ。
ラグビーボールを小脇に抱え突進するがその彼に相手チームの選手達が殺到する、だが彼はその彼等を右に左にかわした。
蝶の様に舞う、まさにそうした動きでゴールに向かっていた、そのままトライを決めるつもりだった。
だがそのゴールの前にまだ敵がいた。彼はそれを見て即座に決断した。
トライは無理だ、それならだった。
ボールを蹴った、それで点を入れるつもりだった。しかしそれは。
右に逸れてしまった、ボールはあえなくゴールの向こうに飛んで行き相手チームの安堵と自チームの落胆の声が出た。それは彼が最も聞いたことだった。
試合の後でシャワーを浴びその後でだ。良馬はチームメイト達にこう言われた。
「あれは残念だったな」
「あと少しで入ったのにな」
「まあトライ一回入れたしな」
「それでいいだろ」
「ああ、けれどな」
それでもだと。良馬は落ち込んだ声で彼等に応えた。
「あの蹴りはな」
「ゴール前に一人いたから咄嗟にだろ?」
「それで蹴ったんだろ」
「俺だってそうするよ」
「俺もだよ」
試合は引き分けであり彼等にとっても満足のいく試合だった、それで彼等の機嫌もよくしかも良馬もトライを一度決めていた、それでだった。
彼等も特に怒っていないし良馬を攻めない。だが彼自身はというと。
キックを決められなかった、それで言うのだった。
「あそこはどうするべきだったんだろうな」
「だからキックだろ」
「シュートだろ」
チームメイト達はこう彼に述べる。
「あの状況じゃな」
「トライしても止められるだろ」
「御前のプレイスタイルってかわすのだからな」
「それじゃあな」
「かわすか」
確かに彼はかわすプレイスタイルだ、背は高い方だがラガーマンは彼より背が高くしかも筋肉質の者が多い、それとぶつかってはだ。
とても勝てない、それで彼はかわすプレイスタイルである、それで試合でもそうしたのだ。
だがそれが今回は仇になった、それで言うのだった。
「間違ってるのか?それは」
「じゃあ二メートルの相手にも向かうのかよ」
「そうした相手にも」
「いや、それはな」
チームメイト達の話に否定で返した。
「ちょっとな」
「だろ?別にかわしてもいいだろ」
「御前フットワークいいんだしな」
「だったらそれでいけばいいだろ」
「左右にかわすこれまでのスタイルでな」
「そうだといいんだがな」
周囲の言葉に励まされはしなかった。むしろその逆だった。
失敗に項垂れるものの他に迷いの感情も加わった、それでだった。
彼は部活の練習にさらに励む様になった。朝と放課後だけでなく。
昼もグラウンドに出て必死にトライやシュートの練習をする様になった、部員達はその彼を見てこう言うのだった。
「あいつ変わったな」
「ああ、前以上に必死になってるな」
「前から部活には熱心だったけれどな」
「それでもな」
今はさらにだった。何しろ昼もしているのだ。
昼食の後ですぐに働く、それを見ての言葉だった。
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