ソドムとゴモラ
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第三章
「それって」
「そうね。まあとにかくね」
「そのお店に今から行って」
「そう、見ましょう」
その同性愛をだというのだ。
「そこにね」
「お店の名前は何ていうの?」
「悪徳の栄えよ」
サディズムの語源となった変態貴族にして小説家マルキ=ド=サドの代表作だ。この場合はよくあると言える名前だった。
「何でも千客万来で去る者は追わず」
「えらく寛容ね」
「同性愛は異性愛より寛容だって」
そうした信条の店だというのだ。
「誰が入ってもいいし参加するしないも自由」
「見学にはもってこいね」
「それでその悪徳を楽しむお店らしいわ」
「同性愛を?」
「そう、男の方も女の方も」
そのどちらもだというのだ。
「楽しむものらしいわ」
「何か異性も混ざりそうね」
「そうかもね。設備も整ってるらしいし」
「設備?」
「とにかく凄いお店らしいわ」
その名に恥じないだけ、というのだ。
「行ってみたら同性愛がわかるかもね」
「ううん、そうなの」
「ここでいいわよね」
「ええ、勉強になるならね」
奈央もそれでいいと返す。
「そこでいいわ」
「千客万来だしね」
ここで綾女は見落としがあった、千客万来であってもそれは決して初心者向けとは限らないということをだ。
そのことに気付かないまま奈央に言うのだった。
「じゃあこのお店ね」
「ええ、行きましょう」
「参加しなくてもね」
見学だけでもだというのだ。
「これでいいわね」
「ええ、それじゃあね」
こうした話をしてだった、奈央は綾女が見つけたその店に向かった。その店は歌舞伎町のフレディ=マーキュリー像の近くにあった。
その店の入り口は普通の扉だった、ただの樫の木の扉だ。
店の看板はフランス語で流暢に書かれていた、奈央はその扉と看板を見てそのうえで綾女にこう尋ねた。
「ここよね」
「そう、ここよ」
ここが悪徳の栄えだというのだ。
「このお店がね」
「そうよね。何かね」
「表は普通の世界よね」
「ええ、特に何の変哲もない」
まさにそうした扉だった、看板も普通だ。
「そんなに凄いお店には」
「ここじゃわからないわよね」
「けれど中身はどうか」
「それを今から見極めるわ」
「ええ」
意を決した顔で綾女に答える。
「そうさせてもらうわ」
「それじゃあね。入るわよ」
「今からね」
こうして二人はその退廃の世界に入った、まずはタキシードの妙に妖しい雰囲気の男と交渉した、男はこう二人に断った。
「では今はですね」
「はい、見学です」
「それでお願いします」
「参加はされないのですね」
妖しい、耽美な雰囲気の男は二人に問う。
「今回は」
「はい、それでお願いします」
「今は」
二人もこう返す。そうしてだった。
店の奥にそのタキシードの男に案内された、その中でだった。
男は二人にこんなことを言ってきた。
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