チェネレントラ
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第二幕その一
第二幕その一
第二幕 宮殿にて
宮殿に案内されたマニフィコ達はダンディーニに食堂に案内されていた。白い白亜の宮殿に無数の煌びやかなシャングリラが輝いている。彼等はその中で艶やかな服に身を包んでいた。そしてテーブルにそれぞれ向かい合って座り何やら話をしている。
そしてその中で得意気な顔をしている。とりわけマニフィコは上機嫌であった。何やらダンディーニに話をしていた。それはどうやら講義のようなものらしい。
「ふむふむ」
ダンディーニはそれを聞いて頷いていた。
「貴方は実に博識であられる」
「いやいや」
マニフィコは謙遜する素振りを見せながらもやはり有頂天にあった。
「何処でそれだけのワインに関する知識を手に入れられたのですかな」
「いや、これは」
彼はにたにたと笑いながらダンディーニに対して言う。
「唯の趣味が高じたものでありまして」
「ほう」
ダンディーニはそれを聞いて興味深げな顔をした。
「好きこそものの上手なれといいますからな」
「そういうわけではないですが」
「それでもそれだけの知識は素晴らしいものです。これ」
彼はここで側に立っているラミーロに声をかけた。
「男爵を酒の貯蔵庫に案内するように」
「わかりました」
ラミーロはそれを受けて頷いた。そしてマニフィコのところにやって来た。
「それでは男爵、こちらへ」
「あの、殿下」
案内されることのなったマニフィコはここでダンディーニに尋ねた。彼が偽の王子であるということは全く気付いてはいないのであった。
「何故貯蔵庫に」
「これから貴方を試させて頂きます」
彼はにこりと笑ってそう答えた。
「三十回試し飲みをして頂きます」
「三十回の」
「そうです。それでふらつきもせず、しっかりとしておられれば貴方は酒倉役人です。丁度今開いておりまして」
「酒倉役人に」
マニフィコはそれを聞いて思わず目の色を変えてしまっていた。
「それは本当ですか!?」
「はい」
ダンディーニは笑顔で頷いた。
「三十回ですよ。宜しいですか」
「勿論です。是非やらせて下さい」
そして彼はそれを快諾した。そして席を立つ瞬間にそっと娘達に耳打ちした。
「後は頼むぞ」
「お任せ下さいな」
「期待していてね」
「うむ」
マニフィコはそこで席を立った。だがここでダンディーニはラミーロを再び呼んだ。
「はい」
ラミーロはすぐに彼の側に来た。そして耳をそばだてた。
「これで宜しいですか」
ダンディーニはそっと彼にそう尋ねてきた。無論マニフィコ達には悟られないようにして、である。
「ああ、上出来だ」
ラミーロはそれを聞いて頷いた。
「それでいいぞ」
「有難うございます。あとは」
「わかっている」
ラミーロはその言葉に応えた。
「ここは御前に任せるぞ。あの二人をよく見てくれ」
「はい」
そう答えてティズベとクロリンデに目をやる。
「あの二人のことはお任せ下さい」
「うむ」
「全てを見極めてやるつもりです」
「頼むぞ。だが大体はわかっているな」
「そうですね」
彼はそれに答えた。
「まああの二人の心は見せ掛けだけのメロンです」
「外見だけか」
「そうでしょうね。才能はがらんどうの型押し器、頭の中は空家となっております」
「上手いことを言うな」
「いえいえ」
にやりと笑った主に対してそう返す。
「それではここは頼んだぞ」
「はい」
そして二人は仮の関係に戻った。ダンディーニはラミーロに命じる。
「では案内してさしあげるように」
「はい」
こうしてマニフィコはラミーロに案内されて酒倉に向かった。そして後にはダンディーニと二人の娘達が残った。彼はここで二人に顔を向けた。
「これでゆっくりとお話ができますな」
「はい」
二人はそれを受けて頭を垂れた。
「恐れ入ります」
「いやいや」
そう言われていささか謙遜を覚えながらも話を続ける。
「それでお話ですが」
「はい」
「貴女方はそもそも姉妹であらせられます」
「はい」
「それは愛の轆轤により回され出来上がったものでありますな」
「御言葉ですが」
ここでティズベが言った。
「私は長女でございます。それをよく御存知下さいませ」
「いえ」
しかしここでクロリンデも申し出てきた。
「私の方が若いですわよ」
そう言いつつ姉の方に顔を向けて得意気に笑う。
「若い方が宜しいですわね、殿下も」
「ううむ」
戸惑うふりをする。それに乗ってティズベがまた動いた。
「殿下」
そしてダンディーニに対してまた言った。
「子供より大人の方がものを知っております」
「あら、それは」
だがクロリンデも負けてはいない。
「塩が欠けた水は味がありませんわ。塩も時間が経つと下に沈んで水には味がなくなりますわ」
「ふむ」
「ですから私に」
「いえ」
しかしティズベも負けてはいない。
「私の塩は永遠です」
「殿下」
クロリンデが逆襲に出た。
「私の唇を御覧下さい」
「はい」
「よく御覧遊ばせ」
そう言ってダンディーニに自分の唇を見せる。
「赤いでございましょう」
「ええ」
「口紅なぞつけてはおりませんわよ。そしてこの白い肌も」
「殿下」
しかしそこをティズベに突っ込まれる。
「それは白粉のせいですわよ」
そして言葉を続ける。
「この髪を御覧になって下さいまし。女の命は髪」
「はあ」
「髪に勝るものはありませんわ」
「殿下」
クロリンデも自分の髪を見せる。
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