ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~
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揉め事と出発
武具店を出て数分歩くと翡翠に輝く塔があらわれた。何度見ても綺麗だが、キリトだけは嫌そうな顔で自分が叩きつけられた壁を見ていた
「出発する前に少しブレーキングの練習しとく?」
「……いいよ。今後は安全運転することにしたから」
「なら、置いていくぞ?キリト」
「えっ……」
「冗談だ」
「それはそうと、なんで塔に?用事でもあるのか?」
「ああ……長距離を飛ぶときは塔の天辺から出発するのよ。高度が稼げるから」
「ははあ、なるほどね」
「さ、行こ!夜までに森は抜けておきたいね」
「俺たちは道がわからないから道案内、頼む」
「任せなさい!」
頬を少し赤く染めたリーファが胸を張って言った
風の塔の正面扉をくぐると色々なショップのあるロビーだった。一番奥にあるのはニ基のエレベータで、それで上に行くようだ
キョロキョロと風の塔の中を見ているとリーファに腕をひっぱられた。どうやら右側のエレベータに駆け込もうとした。だが行く手を数人のプレイヤーが立ちふさがった
リーファは反射的に文句を言ったがそのプレイヤーの顔を見て固まった。リーファの顔には引きつった笑顔が浮かんでおり内面の感情がにじみ出ているようだった
「こんにちは、シグルド」
シグルドはそのリーファの挨拶には答えず不機嫌さを隠さずにうなり声とともにしゃべりだした
「パーティーから抜ける気なのか、リーファ」
シグルドのその問いにリーファはこくりとうなずいていた
「うん……まあね。貯金もだいぶできたし、しばらくのんびりしようと思って」
「勝手だな。残りのメンバーが迷惑するとは思わないのか」
「ちょっ……勝手……!?」
この場合リーファのわがままで脱退なので勝手だ、と言われるのは仕方のないことなのかもしれない。だが、もちろんリーファの自由をシグルドには奪うことはできないので、止めることは不可能だが
「お前はオレのパーティーの一員として既に名が通っている。そのお前が理由もなく抜けて他のパーティーに入ったりすれば、こちらの顔に泥を塗られることになる」
「……」
リーファは言葉を失ってしまって、動かないので俺はリーファをかばうように前に出た
「確かにリーファの行為はほめられたものじゃない。あなたの言い分にもある程度納得はできる」
「そうだろう」
シグルドの顔がわずかに緩む。キリトはその言葉を聞くと前に出ようとするが、俺はそれを目で制して続けて言った
「だが、リーファの自由を奪う権利はお前にはない。パーティーメンバーの事を考えず、自分の都合だけを考えるなんてパーティーのリーダーとして、失格だな。わかったらさっさと退いてくれませんか?シグルドさん?」
俺の言葉にシグルドは顔を硬直させた。ついで真っ赤になる
「きッ……貴様ッ……!!」
「おや、無抵抗の相手を攻撃するんですか?口で勝てないからって単純な暴力に頼るとか……脳筋ですか?」
「今はヤバイっすよ、シグさん。こんな人目があるとこで無抵抗の相手をキルしたら……」
暴力に頼ってきてもいいように剣に手を添えるが、あっちにも一応プライドがあるからかシグルドの仲間が仲裁に入りバトルにはならなかった
「せいぜい外では逃げ隠れることだな。……リーファ」
歯噛みをしながらシグルドは俺にそう言った
「……今俺を裏切れば、近いうちに必ず後悔することになるぞ」
「留まって後悔するよりはずっとマシだわ」
「戻りたくなったときのために、泣いて土下座する練習をしておくんだな」
それだけ言うとシグルドとその仲間たちは去って行った
「弱いな、あいつ」
「へ!?彼はあれでもシルフのトップクラスのプレイヤーよ?」
俺がぼそりとつぶやいた言葉にキリトは同意の意識としてうなずいたが、リーファは驚きの声を上げた
「あんな安い挑発に乗って攻撃しようとしてくるやつなんか怖くない。それに歩き方が隙だらけだ。こういうところでの歩き方は戦闘フィールドでも癖として出る」
「安いって……結構ひどいこと言ってたよ?……それよりごめんね、妙なことに巻きこんじゃって」
「気にするな。俺はやりたいことをやっただけだ」
「それでも、あたしの問題に巻き込んじゃったわけだから……」
「気にするなって言っただろ?守りたいって思ったから守っただけだ」
「……」
「リン……」
無言で顔が赤くなるリーファ。ジト目で見てくるキリト
「じゃ、じゃあ行くぞ」
そう言って話を打ち切ると俺たちはエレベータの中に乗りこんで上に上がった
「……いい凄い眺めだな……」
「空が近いな……。手が届きそうだ……」
キリトがしみじみと言うとリーファは右手を空にかざすと言った
「でしょ。この空を見てると、ちっちゃく思えるよね、いろんなことが」
俺とキリトは目を見合せ、リーファをみる。すると、少し寂しそうな笑顔を見せるとリーファは言った
「……いいきっかけだったよ。いつかはここを出ていこうと思ってたの。一人じゃ怖くて、なかなか決心がつかなかったんだけど……。なんで、ああやって、縛ったり縛られたりしたがるのかな……。せっかく、翅があるのにね……」
「それは人間だから。人間は縛って、他の人間より上に立ってるという意識で優越感を得ようとする。また、逆に縛られて自分で考えるのを放棄して楽をしようとも思う。翅があっても人間である限りそれは変わらない」
SAOでたびたび出会った人はそうだった。優越感に浸りたいがため、レベル上げに邁進し結果、攻略組と呼ばれた自分を含むグループ。楽をしたいと<<軍>>に入ったメンバー……
「複雑ですね、人間は」
ユイはキリトの肩に着地すると腕を組んで首を傾げた
「ヒトを求める心を、あんなふうにややこしく表現する心理は理解できません」
「求める……?」
「他人の心を求める衝動が人間の基本的な行動原理だとわたしは理解しています。ゆえにそれはわたしのベースメントでもあるのですが、わたしなら……」
ユイはキリトの頬にキスをした
「こうします。とてもシンプルで明確です」
リーファは呆然している。キリトは苦笑い
「人間がみんなそんな単純だったら何の争いも起きないさ」
俺も苦笑いをしながらユイに言う
「手順と様式ってやつですね」
「……どこからそんなことを吸収してるんだ?まさか……」
そう言ってキリトの顔を見るがキリトは首を全力で振って否定した
「……人を求める心、かぁ……」
リーファはそう言って顔を赤らめながらこちらを見てくる。……まさか、な
「……さ、そろそろ出発しよっか」
自分なりの答えを見つけたらしくリーファは立ち上がった。キリトはその言葉にうなずくとユイを胸のポケットにしまった
風の塔の展望台の中央にある石碑(ロケーターストーンというらしい)で戻り位置をセーブする。そして
「準備はいい?」
「ああ」
「もちろん」
そう言って離陸しようと翅を広げ、少し浮かんだときにKYな声が後ろから聞こえてきた
「リーファちゃん!」
そう叫んだKYにリーファは浮かせていた足を再び着地した
「あ……レコン」
「ひ、ひどいよ、一言声かけてから出発してもいいじゃない」
「ごめーん、忘れてた」
レコンは肩を落とすがすぐに持ち直し真剣な顔で言った
「リーファちゃん、パーティー抜けたんだって?」
「ん……。その場の勢い半分だけどね。あんたはどうするの?」
「決まってるじゃない、この剣はリーファちゃんだけに捧げてるんだから……」
「……痛い台詞だな」
「ああ……」
「えー、別にいらない」
リーファの言葉によろけるがメゲずに言った
「ま、まあそういうわけだから当然僕もついてくよ……と言いたいとこだけど、ちょっと気になることがあるんだよね……」
「……なに?」
「まだ確証はないんだけど……少し調べたいから、僕はもうしばらくシグルドのパーティーに残るよ。……キリトさん、リンさん。彼女、トラブルに飛び込んでくくせがあるんで、気をつけてくださいね」
「あ、ああ。わかった」
「キリトも同じタイプだから……慣れてるさ」
ひでぇとキリトは苦笑い
「リンさん……負けませんから」
俺はレコンのその言葉に本心からの笑みを浮かべると口を開いた
「期待してるぞ」
こういうやつは嫌いではない
俺たちはそのままレコンに別れをつげ飛び立った
「さ、急ごう!一回の飛行であの湖まで行くよ!」
リーファを追いかけ、それまでのおちゃらけた気を引き締める。アスナを助けるために!
後書き
蕾姫「……オリジナルに行けない……」
リン「まあ、我慢しろ」
蕾姫「……感想待ってます!」
リン「図々しいぞ、蕾姫……」
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