チェネレントラ
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第二幕その五
第二幕その五
「さらに面白いことになりそうだ」
しかしそれは決して言わない。そしてアリドーロに従い大広間に向かった。ティズベとクロリンデも後について行く。こうして彼等は大広間にやって来た。
「おお、殿下」
先程の従者がダンディーニ達を迎えた。
「よくぞおいで下さいました」
「うむ。ところで」
「わかっております」
従者は笑みで彼に応えた。
「あちらにおられますよ」
そこには白と金の美しいドレスに身を纏った女性がいた。ドレスの上からとはいえかなり素晴らしい容姿の持ち主であることがわかる。そして気品も漂っていた。
だが顔は見えない。しかしそれでも彼女が素晴らしい貴婦人であるということがわかった。
「彼女が」
「ええ」
アリドーロは頷いて答えた。
「あの方がです」
「そうか」
ダンディーニは了承した。ラミーロはそのすぐ後ろでその女性を見ていた。そして胸の鼓動が速くなるのを感じていた。
「これはどういうことだ」
彼はそれを不思議に感じていた。
「何故彼女を見ただけで胸がこれ程。何かあるというのか」
だがそれが何故かはまだわからなかった。彼はただその貴婦人を見詰めるだけであった。
「ううむ」
ダンディーニも見惚れていた。そして彼は貴婦人に対して語り掛けた。
「ヴェールをかけているとはいえ何という美しさだ」
彼女はそれを受けて頭を下げた。だが一言も発さず、物腰も静かなままであった。
「もし宜しければ」
ダンディーニはさらに言った。
「そのヴェールを取って頂けぬでしょうか」
「わかりました」
彼女は一言そう答えた。そしてヴェールを外した。中から金色の髪と青い瞳を持つ麗しい女性が姿を現わした。
「おお・・・・・・」
「何と・・・・・・」
皆その姿を見て思わず息を飲んだ。想像していたより遥かに素晴らしい顔立ちであったのだ。
とりわけラミーロの驚きようはすごかった。彼はその女性の顔を一目見るなり完全に心を奪われたようであった。
「何と美しい・・・・・・いや、あれは」
ここで彼は気付いた。
「彼女か。まさかと思うが」
「ふむ」
アリドーロはそれを横目で見ながら会心の笑みを浮かべていた。
「私の目に狂いはなかったようだな。殿下はあの娘に心を奪われられている」
そしてそれは他の者、そうティズベとクロリンデも同じであった。彼女達もその貴婦人から目を離していなかった。
「見た、あの美しさ」
「ええ」
彼女達はそう言って頷き合う。
「あんな綺麗な人ははじめて見たわ」
「私も。一体誰なのかしら」
二人は貴婦人を見ながらそう囁いている。そしてふとクロリンデが気付いた。
「ねえ姉さん」
「何?」
「あの貴婦人だけれど」
「うん」
それから何か言おうとした。しかしここで新たな客がやって来た。
「殿下」
マニフィコであった。彼は酒に酔いながら上機嫌で部屋に入って来た。一礼してから入るのは忘れないのは流石に守ってはいたがかなり砕けていた。元々の地であろうか。後ろには先程彼が連れて行った者達がついてきている。皆顔が赤いところを見るとかなり飲んでいるようである。
「宴の用意ができておりますが」
早速仕事に取り掛かっていたようであった。彼にとってはそれが仕事であると共に趣味であるようであった。
「ん!?」
だが彼はここで気付いた。目の前にいる貴婦人のことに。そして彼女に目を奪われた。
「何と美しい」
その顔に見入る。だがここでふと気付いた。
「待てよ」
その顔を何処かで見たと思ったのだ。そして考え込んだ。
「そんな筈はない。彼女は今家にいる筈だ」
「御父様」
そこへティズベとクロリンデがやって来た。二人は父に声をかけた。
「どう思う、あの人」
「おそらく御前達と同じだ」
彼はそれに対してそう答えた。
「あまりにも似ておるな」
「そうよね」
「本当にそっくり」
二人もそれに対して頷いた。そしてまた言った。
「けれどここにいる筈はないし」
「そうだ」
マニフィコはその言葉に同意した。
「しかもあれの服といえばどれも灰まみれでボロボロのものばかりだ」
「間違ってもドレスなんか着れないわ」
「そうよね、何かおかしいわ」
「そうだな」
三人はヒソヒソとそう話をしていた。貴婦人はそれを気付かれないように横目で見ている。
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