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チェネレントラ

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第二幕その三


第二幕その三

「十五年に渡り美味なる葡萄の酒に一滴の水も混合せぬこと」
「十五年に渡り・・・・・・」
「左様、これが重要なのです」
「何故でしょうか」
 ラミーロが問う。
「ワインは純粋に楽しむものなのですから。水なぞ混ぜるのは外道なのです」
「外道ですか」
「少なくとも私はそう考えます」
 彼は真剣な顔でそう答えた。
「本来の味を損なうものですからな」
「そうですか」
 他にも理由はある。悪徳業者を防ぐ為であるがマニフィコはどうもそういうことには関心がないようであった。あくまでワインの味について考えているようであった。
「それではまた言いますぞ」
「はい」
 そしてまた言葉を再開した。
「違反せし時は逮捕し絞首刑とする」
「またそれは厳しい」
「それ程せねばなりませんぞ、これは」
 マニフィコはラミーロに対しそう答えた。
「さもなければ違反者は消えません」
「そういうものですか」
「はい」
 そしてまた言葉を続ける。
「理由は・・・・・・」
「理由は・・・・・・」
「それ故・・・・・・年度・・・・・・」
「それ故・・・・・・」
 そして筆記が終わった。それを見届けてマニフィコは満足気に頷いた。
「それではそれを町中に貼り出すようにな」
「わかりました」
「そして後は」
「そうですな」
 マニフィコは悠然と答えた。
「宴といきましょう、酒場にも繰り出して」
「酒場に!?」
 皆それを聞いて喜びの声をあげた。
「そう、皆で」
 マニフィコは満面に笑みを讃えてそう頷いた。
「わしのおごりでな」
「ううむ、流石は男爵」
「太っ腹ですな」
「いやいや」
 どうやら酒で気が大きくなっているらしい。上機嫌でそれに応える。だがそれだけではなかった。
「まだあるぞ」
「それは何でしょうか」
「ビアストラの金貨だ。それも十六枚」
「本当ですか!?」
「男爵家の名にかけて嘘は言わぬ」
「そしてそれはどうして得られるのでしょうか」
「宴の酒はマラガのワインとする。それを最もよく飲んだ者に授ける。それでよいな」
「はい!」
「男爵万歳!新しい長官万歳!」
「貴方に幸せが訪れますように!」
「ほっほっほ、よいよい」
 彼はそれを聞いてさらに機嫌をよくした。そして皆に対して言った。
「ではこれから繰り出すとしようぞ、仕事も終わったしな!」
「はい!」
 皆マニフィコと共にその場を後にした。だがラミーロだけはその場に残った。
「ううむ」
 彼は去って行くマニフィコの背を見ながら考え込んでいた。だが決して深刻な顔ではなかった。
「妙な男だな、つくづく」
 マニフィコのことについて考えているのは言うまでもないことである。彼がどういった者であるか見極めようとしているのであった。
「根っからの悪人ではないようだが。それにしても」
 そう言いながらその場を後にする。
「変わった男だな。どうするべきか」
 そして王子の間に入った。そこにはダンディーニがいた。二人は落ち着いた雰囲気の部屋の中で話をはじめた。
「そっちはどうだった」
 まずはラミーロが問うた。
「あの二人ですね」
「そうだ」
「また変な者達です」
 彼は口元を綻ばせてそう答えた。
「妙に見栄っ張りで勝気で。悪者ではないようですか」
「そうか」
「どちらも似たようなものですな。ただ結婚されるには考えられた方が宜しいかと」
「それはわかっている」
 ラミーロはそれにすぐそう答えた。迷いはなかった。
「あの二人の父親もな。似たようなものだし」
「そうなのですか」
「ああ。今他の者を連れて宴に出ている」
「はあ」
「あれだけ飲んでもまだ飲めるらしい。それはそれで凄い話だが」
「というと三十樽の酒を全て飲んだのですか」
「そうだ」
「それでまだ。まるで化け物ですな」
「東洋では蛇がそれだけ飲むそうだな」
「そうなのですか?」
「大蛇がな。日本ではそうらしいぞ」
「ここは日本ではありませんからな。さしづめ酒の神ディオニュソスといったところでしょうか」
「そういうには品がないがな」
「それはそうですが」
「まあそれはいい。それでだ」
「はい」
「私の妃だが・・・・・・」
 それについて言おうとしたところで例の二人の娘達が部屋に飛び込んで来た。そしてダンディーニの左右に張り付いてきた。
 
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