| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四十五話 説得

                第四十五話 説得
ラミアとアクセルがシャドウミラーに戻って二日後。またシャドウミラーが出て来た。
「今度は何処だ!?」
「大阪デス」
スワンが大河に答える。
「正確に言うと大阪湾に向かってイマス」
「そうか。なら今から行こう」
大河はそれを聞いてすぐに決断を下した。
「全軍今から大阪に入るぞ」
「おっ、大阪か」
それを聞いてタータが声をあげた。
「何かウキウキしてきたで」
「ホンマやな」
それにカルディナも相槌を打つ。
「アルシオーネはどないや?あとレインさんも」
「私はどちらかというと京都が」
「私も」
二人は大阪と聞いてもあまり嬉しくはないようであった。
「たこ焼きよね」
「あときつねうどんよね」
「そや、他にも一杯あるで」
「お好み焼きとかな」
「別にねえ」
「どちらも」
二人共ここでもあまりいい顔をしていない。
「どちらかというと私は湯豆腐が」
「そうよね。湯葉とか」
二人共かなりあっさり好みらしい。
「そういうのがいいのだけれど」
「あまり濃いのは」
「何、おもろないな」
「そういう味がええんやないか」
「何か面白い話になってるわね」
レイがそれを聞いて呟く。
「お肉。入っていたらいらないけれど」
「やっぱりそれなんだね」
シンジはそれを聞いてももう驚かない。
「綾波は」
「大阪も嫌いじゃないわ」
声に感情はないがこう答える。
「だって。きつねうどん好きだから」
「そうなんだ」
「ええ。けれどそれも」
レイは言う。
「戦いの後ね」
「そうだよね。大阪かあ」
シンジも大阪に行くのは久し振りであった。何か感慨がある。
「虎が出るのかな」
「むっ、呼んだか少年」
ここでバルトフェルドが出た。
「僕としてもあれだね。是非大阪のくいだおれをだね」
「やっぱり食べるんですね」
「ははは、人間は食べる為に生きているんだよ」
朗らかに言ってみせる。
「だからだよ。是非ね」
「わかりました。それじゃあ」
「さて、大阪での楽しみの前に一汗かくとするか」
「アンディもうやる気なのね」
「けれど艦長」
ダコスタ達が彼に言う。
「真剣にいきましょうね」
「勿論だよ。戦争は何時でも真剣勝負」
ここでは真面目な顔になる。
「最初からそのつもりさ」
「だったらいいんですけれどね」
「さて、それじゃあ行くか」
あらためて指示を出す。
「全軍大阪へ。行くか」
「はい」
こうしてロンド=ベルは呉から大阪へ向かった。まずは北から大阪に入りそこから大阪湾に回り込んだのであった。これが敵の意表を突く形となった。
「くっ、馬鹿な」
そのシャドウミラーを指揮するのはテンペストであった。彼は呉にいるロンド=ベルがまっすぐに来ると思って大阪方面は気にしていなかったのだ。その裏をかかれたのだ。
「後ろから来るとは」
「こちらの動きを読み返したのか」
軍の中にはラミアもいた。彼女は後ろから現われたロンド=ベルを見て呟いた。
「まさかとは思うが」
「へっ、悪いがそのまさかなんだよ」
シンがラミアに答える。
「そうそう俺達だっていつも騙されるわけにはいかないんだよ!」
「その通りだ!」
カガリも言う。
「ラミア、アクセル!」
そして二人の名を呼んだ。
「御前達を連れ戻す、いいな!」
「馬鹿なことを」
アクセルはカガリのその言葉をまずは一蹴した。
「俺達は元々シャドウミラーの人間だ。それでどうして連れ戻すなどと」
「それはどうでしょうか」
しかしここでルリが二人に言ってきた。
「貴方達の心の奥底でもそれは言っているのでしょうか」
「戯言を」
それも否定する。
「さっきから言っている。俺達はシャドウミラーの人間だとな」
「だといいですが」
あえて思わせぶりに言ったかのような言葉であった。感情は見られないが。
「ラミアさんも」
「私もか」
「そうです。短い間ですが一緒にいたのは事実です」
今度はそこを言う。
「それをお忘れなく」
「何を言っているのだ」
これはラミアの心の表面ではわからないことであった。
「私は何も」
「だといいのですが。それでは皆さん」
「ああ」
アキトがルリの言葉に応えた。
「戦いだな」
「そうです。もう一度ラミアさんとアクセルさんを私達のところに招き入れる為も」
「ふん、話には聞いていたが」
リーはハガネの艦橋においてその不機嫌な顔をさらに不機嫌にさせていた。
「これがロンド=ベルか。甘いな」
「そうか?いい感じじゃないか」
だがブレスフィールドは彼とは違う意見であった。
「こうでなくちゃな。面白くはない」
「戦争において面白さなぞ不要だ」
しかしリーはその考えをこう切り捨てた。
「そんなものはな」
「相変わらずだね、この艦長は」
アカネがそんなリーに対して言う。
「どうしたもんだか」
「話はいい。だが決まったことなら私も異論はない」
こう述べてハガネを前に出させる。
「全軍攻撃開始。あの二人は生かしたまま捕らえる。いいな」
「了解っ」
「まあそういうことで」
こうして何はともあれ戦いははじまった。反転する形で大阪湾に入るシャドウミラーに大してロンド=ベルが迎え撃つ。こうした形で戦いとなるのだった。
ロンド=ベルの先陣を切るのはジャーダとガーネットであった。彼等は自分達の乗るヒュッケバインからそれぞれスラッシュリッパーを出していた。
「いいな、ガーネット!」
「何時でもね!」
ガーネットはジャーダのその言葉に応える。二人の動きはシンクロしていた。
「よし!じゃあ行くぜ!」
「これがまずはじまりよ!」
そう言い合いながら二つのスラッシュリッパーを放つ。それが敵の第一陣を切り刻む。それを受けてシャドウミラーの数機の機体が真っ二つになり大地に落ちるのであった。
それを合図にロンド=ベルは総攻撃に入る。勢いは彼等にあった。10
「喰らえっ!」
アウルが矛を振り回し周りの敵を切り裂く。忽ちとして敵のマシンの首や胴が乱れ飛び四散していく。その横ではスティングが変形させた形態から攻撃を浴びせている。
「シャドウミラーは強い。けれどな!」
目の前に迫る敵に対するオールレンジ攻撃だ。それで敵を屠る。
「俺達だってな!」
「アウル、スティング」
ステラはガイアガンダムを突っ込ませながら二人に声をかけてきた。
「どうしたんだ、ステラ」
「ラミア、いない」
「何っ!?」
それを聞いてスティングは声をあげてきた。
「どういうことなんだ!?さっきまでいたのに」
「けれどいない」
しかしステラは言う。
「何処にも」
「レーダーに反応は!?駄目だ」
「いないぞ、俺のにも」
アウルもアビスのレーダーを見るが反応はなかった。
「何処にもいない!?」
「何が何なのか」
「ちょっと待って、さっきたいたわよ」
「そうよ」
アサギとジュリが三人に突っ込みを入れる。
「それでいないなんて」
マユラもいる。三人も必死にレーダーを探るがアンジュルグの反応は全くなかった。
「いない!?」
「何処にも」
「けれど絶対いるわ」
三人娘は探る。だがやはりレーダーにはいない。
「いないのならよ!」
「出るようにすればいいんだよ!」
「その通り」
オルガ、クロト、シャニは相変わらずの調子で敵を薙ぎ倒していく。
「こうやってなあ!」
「抹殺!」
「死ね」
そう言いながら敵をどんどん倒していく。その三人の前に何者かが出て来た。
「んっ!?」
「御前は!?」
「御前等が最初の相手とはな」
それはアクセルであった。彼は拳をフォピドゥンに対して突き出してきた。
「相手にとって不足はない。死ぬんだな」
「こいつ・・・・・・何時の間に」
「おいシャニ!」
「よけろ!」
オルガとクロトは驚いてシャニに声をかける。だがシャニはそれより早くフォピドゥンを横に逸らさせてこの拳をかわしたのであった。
「なっ、俺の攻撃を」
「御前、やっぱり敵」
シャニは今の攻撃を見てそう判断した。
「敵・・・・・・殺す」
「そうかよ、敵かよ!」
「じゃあ抹殺してもいいんだよね!」
後の二人も二人でこう判断する。そうしてアクセルを取り囲み倒そうとする。
「死ねっ!」
「必殺!」
三人がかりで攻撃を浴びせる。オルガは遠距離から、クロトは接近して。シャニも間合いを離して攻撃に入っていた。その巨大なビームを放つ。
「フン、フレスベルグが」
アクセルも彼の攻撃は知っていた。その名を言う。
「その攻撃でも俺は倒せん」
「じゃあ僕のはどうさ!」
ここでクロトがそのミョッルニルを振り回しアクセルに振り下ろす。
「これはかわせないよね!」
「俺もいるぜ!」
オルガは総攻撃をかけてきていた。
「あんた、悪いがここで死んでくれよ!」
「そうそう、裏切り者だしね!」
「・・・・・・死ね」
そう言い合いながら攻撃を仕掛けている。
「ここでなあっ!」
三人の攻撃はほぼ同時だった。イライジャも劾も満足する程の。しかしその攻撃に対してアクセルは。また姿を消してみせたのであった。
「何ィ、消えた!?」
「馬鹿な、今ここでなんて!」
「しかも俺達の攻撃を」
三人の攻撃もまたかわしていたのであった。そのうえで姿を消した。だがそれは一瞬のことで今度はクサナギの前に出て来ていた。
「ってこっちに来たのかい!?」
ユウナはアクセルの姿を見て泣きそうな声をあげた。
「どうしてここで」
「ユウナ様、どうしてもこうしてもありません」
そのユウナにトダカが言う。
「来たからには仕方がありません」
「対空砲火、急いで!」
ユウナも必死に指示を出す。
「さもないとやばいよ!」
「あの、それでもですね」
今度はキサカがユウナに言ってきた。
「もう少し落ち着かれては」
「そ、それはそうだけれど」
わかってはいても怯えから焦ってしまっていたのだ。
「どうにもね。今は」
「まあ仕方ありませんね」
アズラエルは平然と艦橋の一席に座って述べる。
「もう目の前に来ているんですし」
「貴方はまた随分落ち着かれていますね」
「有り得ないことには慣れていますので」
いちいち驚くことはないというのだった。
「撃沈されても退艦すればいいだけですしね」
「オーブはそうはいかないのですよ」
これはオーブの事情であった。なおユウナはそのオーブの首相である。
「このクサナギを修理するお金だけでも考えただけで泣きそうになるんですから」
「そうなのですか」
「財政難ですから」
ついこの前戦火に覆われたからそれは当然であった。
「ですから若し撃沈されたら」
「大変ですね、オーブも」
「だからです」
ユウナの焦りの理由はそこであった。
「クサナギは。何としても守らないと」
「といいましても」
ここでモニターを見ると。
「既にアンジュルグもこちらに」
「って、ええっ!?」
最早言葉になっていなかった。
「どういうことなんだ!?二人して!」
「ですからユウナ様ここは」
「落ち着かれて下さい」
「けれどまずいよ、これって」
流石に二機となってはユウナもやっと取り戻しかけていた冷静さを吹き飛ばさざるを得なかった。
「二機も一変にって」
「いや、好都合だ」
「キョウスケ君」
その声はキョウスケからのものだった。
「二機いるということはな」
「そういうことね」
エクセレンの声も聞こえてきた。
「俺達がいく」
「ユウナさんは安心していいわよん」
「そ、そうか」
まずはほっとするユウナであった。
「君達が来てくれるんだ。おかげで命拾いしたよ」
「命拾いってな、おい」
カガリがユウナに通信を入れてきた。
「御前はもうちょっと胆力をつけろ」
「けれどね、カガリ」
ユウナはいつものユウナに戻っていた。
「クサナギにはオーブの多額の軍事予算がかけられているんだよ。それに乗組員だって一杯入るし」
「その命もあるのか」
「そうだよ。だから沈められたら泣くしかないよ」
ユウナの言葉は軍人、政治家としてのものであった。幾分官僚的ではあるが。
「だから。ここは本当に助かったよ」
「しかし言葉が情けないぞ」
「ま、まあそれは」
それは自分でも否定できなかった。
「謝るけれど」
「少しは胆力を身に着けろ」
ユウナに最もないものであった。
「さもないといちいち心配で見ていられないぞ」
「それは僕の台詞だけれどね」
流石に今の言葉にはユウナも言い返した。
「本当に。誰がお嫁さんに貰ってくれるのかな」
「全くです」
「このままでは本当に誰も」
「・・・・・・あのな、御前等」
キサカもトダカも言うのでカガリもバツの悪い顔を見せてきた。
「そんなに私が結婚できないと思っているのか」
「だってねえ」
「そうです」
しかし三人はまだ言うのだった。
「誰が貰ってくれるのかと。今のままでは」
「私達の悩みはそこです」
「この様な男女を」
「御前等、よりによって男女か!」
流石に今のトダカの言葉はなかった。
「幾ら何でも酷いだろ!」
「いや、本当にこのままだと心配なんだよ」
ユウナの言葉はさっきアクセルとラミアが出て来た時よりも深刻なものであった。
「カガリが結婚できないとオーブの王家は」
「一体どうなるのか」
「誰か貰ってくれる奇特な方はおられないものかと」
三人の言葉は続く。
「いるかな、本当に」
「奇跡でも起これば」
「全く。このままでは」
「・・・・・・何でそこまで言われないといけないんだ」
いい加減カガリもこう言いたくなった。
「私はそんなに駄目なのか」
「駄目じゃなくてね」
「流石にそれでは」
「相手が」
「・・・・・・もういい」
流石にもう黙ってしまった。
「私は戦場に戻る。いいな」
「そうだ、あの二人だよ」
ユウナはアクセルとラミアに話を移した。
「ナンブ中尉、ブロウニング中尉」
二人に通信を入れる。
「そっちはどうなっているかな」
「今のところ俺達二人で防いでいます」
キョウスケが答えてきた。
「任せてよん」
「そうか。そっちは大丈夫かい」
「はい、ですが」
しかしここでキョウスケは言う。
「周りにかなりの敵が」
「そうか。じゃあそっちはこっちでも引き受けるよ」
そう言って対空射撃を強くさせた。
「さて、それにしても」
あらためてユウナは周囲を見回した。冷静さは戻っている。
「相変わらず数で来るね」
「そんなことは最初からわかっておろう!」
「その通りだ!」
カットナル、ケルナグールから声がかかってきた。
「何を今更言っておるか!」
「だから御主はなあ!」
「ううむ、彼等からも言われるとは」
ユウナにとってはいささか意外なことであった。
「どうしたものかな」
「ユウナ殿」
しかもブンドルもそれに加わるのだった。
「一つ言っておこう」
「何でしょうか」
「多くの敵を前に果敢に戦う」
ブンドルがまず言うのはそれであった。
「そのことこそが」
そして赤い薔薇を掲げて。
「美しい・・・・・・」
「そうなのですか」
「そうだ。だから今この状況を楽しむのだ」
ブンドルはこうも言う。
「おわかりか」
「わかりました。それでは」
「そうだ。私もまた今この戦いを楽しんでいる」
彼にとっては美しいことがまず条件だ。だから楽しめるのだ。
「わかるな」
「はい。それじゃあ」
「流石にあの二人が来た時は楽しませんでしたね」
「どうなるかと思いましたが」
またキサカとトダカが言う。
「何とか助かりましたし」
「さて、ナンブ中尉とブロウニング中尉は大丈夫でしょうか」
「御二人なら大丈夫ですよ」
アズラエルが二人に言ってきた。
「御安心を」
「よくおわかりですね」
「勘というものです」
にこりと笑って述べるのだった。
「だからわかるんですよ」
「勘ですか」
「僕の勘はよく当たると思いますが?」
アズラエルはユウナにこう返した。
「そこはどうでしょうか」
「まあそうですが」
ユウナもそれは否定しない。
「けれど。あまり勘に頼るのも」
「いいではありませんか。戦いにはそれも必要ですよ」
なおアズラエルは軍人ではない。ロンド=ベルでは多い話だが、
「さて、その勘がまた教えてくれます」
「何と?」
「また十機程こちらに来ますね」
「むっ、確かに」
トダカの顔が険しくなった。
「レーダーに反応。前方から十機です」
「十機ですか」
「安心して下さい、ユウナさん」
しかしここでタケルが出て来た。
「俺とコスモクラッシャーで防ぎますから」
「頼んでいいかな」
「どうぞ」
こうも言うのだった。
「十機ならいけます」
「そう、悪いね」
「いえ、そっちも大変でしょうし」
それは否定できなかった。対空射撃で精一杯といった状況なのだ。
「こっちで引き受けられるものは引き受けます」
「頼むよ」
彼等も彼等で激戦の中にいた。そしてキョウスケとエクセレンであるが。それぞれアクセル、ラミアと激しい一騎打ちを繰り広げていたのであった。
「まさかここでも御前と戦うとはな」
「何っ!?」
キョウスケは今のアクセルの言葉に反応を見せた。同時に彼の拳を受け止める。
「それはどういうことだ」
「向こうの世界の御前とも戦っていたということだ」
それがアクセルの返事であった。
「こう言えばわかるかな」
「そうか。俺もまた複数の世界に存在しているのか」
キョウスケもそれを聞いて察したのだった。
「どうやら俺もまた一人ではないのか」
「そうだ。しかしこちらの世界にいる御前は」
また拳を繰り出してきた。
「俺が倒す。この拳でな」
「残念だがそうそう簡単にやられるつもりはない」
今度はアルトアイゼンを右に捻ってその攻撃をかわした。
「それに貴様を」
「俺を。どうするつもりだ」
「連れて帰る義務がある」
「戯言を」
アクセルはその連れて帰るという言葉に冷笑で返した。
「俺はシャドウミラーの人間だ。何故それで帰る必要があるのだ」
「自分で勝手にそう思っているだけだ」
しかしキョウスケはまだ言うのだった。彼は今は攻撃を仕掛けない。
「御前の居場所は本来はシャドウミラーではないのだ」
「まだ言うのか」
「何度でも言う」
キョウスケも負けてはいない。
「戻って来い。過去は問わない」
「では俺も何度でも言おう」
またしても拳を繰り出してきた。
「俺はシャドウミラーの人間だ!」
その拳と共に叫ぶ。
「そのシャドウミラーの名によってナンブ=キョウスケ、貴様を倒す!」
「これも言った筈だ」
キョウスケの目が光った。
「俺とてもそう簡単にやられるつもりはないとな」
「ぬうっ!」
「貴様の攻撃は既に見切っている」
拳と拳が撃ち合う。力は互角だった。
その力と力が拮抗する中で。またキョウスケは言うのだった。
「貴様では俺は倒せはしない」
「馬鹿なことを言え!」
その言葉にそれまで何とか冷静を保っていたアクセルの心の均衡が崩れた。
「俺は貴様を倒す。あの世界にいた頃から!」
叫びながら攻撃を繰り出してきた。
「俺の望みだ。だからこそ必ず!」
攻撃をさらに続ける。二人の戦いは激しさをましていく。
その隣ではエクセレンとラミアが遠距離射撃を互いに繰り出していく。アンジュルグの素早い動きにエクセレンも苦戦しているようであった。
「もう、速いわねん」
射程を測りながら呟く。
「速いのは好きじゃないんだけれど」
「一つ聞こう」
アンジュルグからラミアが彼女に問うてきた。
「何かしら」
「何故急所を狙わない」
ラミアが問うのはそこであった。
「狙えば一撃で倒せるというのに。何故だ」
「それは決まってるじゃない:」
エクセレンはこうラミアに返してきた。
「帰って来て貰う為よん」
「帰るだと!?」
それはラミアにとっては思わぬ言葉であった。
「私にか」
「他に誰がいるのよ」
いつものにこにことした軽い笑みでラミアに答える。
「あとアクセル君もね」
「馬鹿な。私はシャドウミラーの兵器」
その認識なのだ。
「それがどうして帰るというのだ」
「素直になればわかるわよん」
エクセレンはまた言う。
「ラミアちゃんの心にね」
「心・・・・・・」
ラミアには聞き慣れない、少なくともシャドウミラーでは聞くことのない言葉であった。
「そんなものが私にあるのか」
「誰にだってあるわよん」
またエクセレンは言う。
「だって人間なんだから」
「馬鹿な」
ラミアは気付いてはいなかった。今の己の顔と声が強張っていることに。
「そんなわけがない。私は兵器だ」
そのことを自分でも言う。
「それでどうして。心なぞ」
「あのね、ラミアちゃん」
またエクセレンは彼女に対して告げる。
「誰にだって心はあるのよ」
今度は表情も言葉も真面目なものになっていた。
「誰にだってね。人間だったらね」
「私が人間だというのか」
「他の何だっていうのよ」
また言う。
「人間以外の何だってないじゃない」
「私が・・・・・・」
その時ラミアの心に何かが宿った。いや、思い出したのだった。
「人間なのか」
「わかったらさっさと戻って来なさい」
また告げてきた。
「いいわね。部屋は用意してあるから」
「違う!」
しかしラミアはその言葉を拒んだ。
「私は兵器だ。W17だ」
ヴィンデルに与えられた名前を自分で言う。
「それ以外の何でもない。その私が」
「もう、分からず屋ね」
エクセレンはそんなラミアの言葉を聞いて顔を顰めさせる。
「そんなのだと苦労するわよ。もうしてるみたいだけれど」
「五月蝿い!」
エクセレンの言葉を必死に拒みながら弓を放ちに入った。
「これ以上私を惑わせるな!これ以上の言葉は!」
「むっ、ちょっとやばいわね」
照準が正確なのを見て取ってその顔を顰めさせた。
「こっちもやられるわけにはいかないし。悪いけれど」
オクスタンライフルを構える。それで撃つ。
「手加減はしたつもりだけれど。どうかしら」
「ぬっ!?」
それがアンジュルグの右腕を破壊した。右腕は四散して落ちアンジュルグは戦闘能力を喪失してしまった。
「しまった・・・・・・」
「さあ、どうするのかしら」
右腕を破壊したところでまたラミアに問うた。
「戻るの?それとも残るのかしら」
「残るも何も」
ラミアは必死に何かを否定するようにしてエクセレンに返すのだった。
「私はシャドウミラーのW17だ。だからこそ」
そこまで言うとアンジュルグに異変が起こった。不意に浮力を失ったのだ。
「あら、やり過ぎたかしら」
「!?落ちる」
「ラミアちゃん、脱出しなさい!」
「誰が!」
この期に及んでもエクセレンの言葉を拒む。
「御前の言葉を聞くつもりなら!」
「しまった、このままじゃ!」
「大丈夫だ」
しかしここでレーツェルが出て来た。
「私が行こう」
「恩に着るわ、少佐」
「行くぞ、トロンベ!」
そう声をかけて黒いヒュッケバインを進ませる。
「ここで取り戻せれば」
だがそうはいかなかった。不意にそこにエキドナのラーズアングリフが出て来たのだ。
「あのマシン!?」
「まさか」
「残念だけれどW17を渡すわけにはいかないわ」
そう言ってアンジュルグを抱き抱えるのだった。
「危ないところだったわね」
「エキドナか」
「いい、テンペスト」
エキドナはテンペストに声をかけてきた。
「今日はこれで撤退させて」
「退くというのだな」
「ええ。アンジュルグもダメージを受けたし」
まずはそれが理由であった。
「それに部隊の消耗も激しいわ。これ以上の戦闘は危険よ」
「そうだな。確かに」
テンペストも部隊を見てそう判断するのだった。
「では。下がるとするか」
「ええ。後詰は私が回るわ」
「いや、俺が行く」
だがテンペストはそれを退けるのだった。
「いいのね、それで」
「御前はW17を保護してすぐに撤退しろ」
こう彼女に提案した。
「すぐにだ。いいな」
「その言葉、受け取らせてもらうわ」
そしてエキドナも彼のその言葉を受けるのだった。
「貴方のヴァルシオンならそれも可能でしょうしね」
「このヴァルシオン」
テンペストはヴァルシオンの力を感じていた。
「これならば妻も娘もな」
「それは」
それ以上言うことは止めたのだった。
「言わない方がいいわよ」
「そうだったな。済まん」
「わかってくれればいいわ。とにかく後詰は御願いね」
「わかった。それではな」
「ええ。お先にね」
エキドナはラミアを抱えて戦場を離脱する。それと共にシャドウミラーの将兵も撤退に入る。テンペストと彼の直属部隊が戦場に残り敵を寄せ付けないのであった。
「テンペスト!」
ゼンガーがその彼に声をかける。
「まだ戦うというのか!」
「この命尽きるまでだ!」
クロスマッシャーを放ちながら彼に応える。
「若しくは連邦が崩壊するまで。俺は戦う!」
「あのことは忘れよ」
ゼンガーはクロスマッシャーをかわしながら彼に言うのだった。
「もう。終わったことだ」
「俺にとってはそうではない」
しかしテンペストは彼のその言葉をはねつけたのだった。
「俺にとってはな。家族は」
「そうか。あくまで過去に生きるのか」
「何とでも言え」
またゼンガーの言葉を拒む。
「俺は。そうした男なのだからな」
「ならばよい」
ゼンガーもそんな彼を否定しはしなかった。
「それならばな。過去に生きるのもまた人だ」
「否定しはしないのか」
「俺は人の生き様を否定することはない」
それがゼンガー=ゾンボルトであった。受け入れることができる男なのだ。
「ならば来い!受けて立とう!」
「残念だが今日はそうもいかん」
「後詰だからか」
「そういうことだ。それではな」
既に主力は撤退し終えている。後は彼等だけだったのだ。
「去らせてもらおう。さらばだ」
「ちっ、待ちやがれ!」
勝平が追おうとする。しかしそれはゼンガーが制止した。
「止めておけ」
「何でだよ、少佐!」
「もう間に合わぬ」
そう言ってまた彼を止める。
「既にな。下手に追っても返り討ちに遭うだけだ」
「ちっ、じゃあこのまま見ているだけかよ」
「そうだ。既に目的は果たした」
こうも彼に言う。
「だからだ。ここは追ってはならない」
「わかったよ。じゃあ戻るんだな」
「戦いは終わった」
一言で告げた。
「だからだ。それでいいな」
「ああ」
憮然としていたがゼンガーのその言葉に頷いた。大阪湾でのシャドウミラーとの戦いは結果としてはロンド=ベルの勝利だった。しかし彼等はその目的を半分しか果たしてはいなかった。
「今回は駄目か」
「やっぱり頑固ね」
キョウスケとエクセレンがこう話をしていた。
「何度も言わないと駄目みたいね」
「覚悟はしている」
キョウスケは静かに応えた。
「それこそ何度でも言うつもりだ」
「案外キョウスケもしつこいのね」
またいつもの調子になるエクセレンであった。
「私にはそんなことは全然ないのに」
「何を言っている」
しかしキョウスケはそれには取り合わない。
「俺はあの二人を連れ戻す。それだけだ」
「もう、つれないわね」
「つれないのもつれあうのも関係ない。だがまだ機会はある」
「そうですよね」
彼の今の言葉に頷いたのはアクアであった。横にはヒューゴもいる。
「やっぱり彼等は。シャドウミラーにいて欲しくないです」
「いて欲しくない、か」
「仲間だったのよ」
こうヒューゴに返すのだった。
「やっぱり。戦うのは」
「しかしだ」
金竜もやって来た。そうして言うのだった。
「敵であるからには戦わないといけないからな」
「それはそうですけれど」
アクアもそれは認める。
「そうした意味であの三人の対応は正しい」
「オルガ君達ですね」
彼等はあの時本気でアクセルを倒そうとした。アクアもそれは知っている。
「あの時は何考えてるのよ、って思いましたけれど」
「だが。連れ戻すのならいい」
金竜はこうも言うのだった。
「連れ戻すのならな」
「それはいいんですか」
「あの三人はまた置いておく」
そもそも理性に非常に乏しいこともわかっているからだ。薬がなくなっても元々ハチャメチャな人間であるということも既に知られているのだ。
「しかしだ。あの二人を何度でも説得したいな」
「そうですよね。やっぱり」
「しかし。それは非常に困難だ」
これはヒューゴの言葉だった。
「それでもやるしかないがな」
「そうよね。けれど」
ここでアクアはあることに気付いた。
「ヒューゴ、あんたの声って」
「どうした?」
「金竜大尉とそっくりなんだけれど」
「そうなんだよね」
それにフィジカが頷く。
「だから時々間違えるんだよ」
「やっぱり」
「そんなに似ているか?」
金竜にはその自覚はない。
「俺は別に」
「俺もだ」
ヒューゴにもそれはない。
「似ているとは思わないが」
「そういえばアクアも」
「はい」
ダッカーの言葉に応える。
「あの妖精の娘と声が似ているな」
「プリメーラちゃんですよね」
「ああ。同一人物かと思ったぞ」
実はアクアにもそうした相手がいるのだ。
「あともモコナもだな」
「それも言われます。やっぱり似ていますか」
「外見は全然違うけれどな」
流石に外見までは似てはいない。
「声がそうなんだよな」
「私もそういう相手が出て来たってことですよね」
「まあそうだな」
ダッカーは今の言葉に頷いた。
「流石にゼンガー少佐にはいないみたいだがな」
「ですね。流石に」
それに同意して頷くアクアであった。
「とにかくだ」
ここで金竜が話を戻す。
「ラミアに関してはこれからも粘り強くいくしかないな」
「アクセルさんも」
「気と二人は戻って来る」
そういう確信があるのは確かだ。
「だからだ。いいな」
「はい。それじゃあ」
皆金竜のその言葉に頷く。彼等はまだ諦めてはいなかった。
諦めないまま次の戦いに挑む。二人を信じながら。

第四十五話完

2008・2・24  
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧