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FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)

作者:天根
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原作開始前
  EP.1 砂浜の少女

 
前書き
 初めまして、天根です。
 息抜きとなりますので、更新が空いてしまうかもしれない事を先に伝えておきます。申し訳ありません。
 何とかこちらも短期で更新できるようには努力いたします。
 では第1話です。よろしくお願いします。
  

 
 
 とある海辺のとある洞窟に、ある一人の少年が横たわっていた。
 彼の名はワタル・ヤツボシ。 歳は12、目の色と髪色は黒、それもいわゆる真っ黒と言われるような黒だ。
 なぜこんな歳の子供がこんな処にいるのかというと、旅の途中の彼が寝床として見つけたからだ。
 なぜ旅をしているのかは理由があるのだが、それは別の機会に話そう。
 さて、彼が眠りに落ちようとしていたその時だ。
 
「――――――――――!!」
「……なんだ?」
 
 どこかから微かに女の子の叫び声が聞こえてきたのだ。
 その叫び声を聞いた彼は洞窟を出て、声の主を探した。
 理由なんてない。ただの気まぐれだった。
 
「あれは……女の子、か?」
 
 そして、10分ほど歩いただろうか? 浜辺に緋色の髪の少女が横たわっているのが見えたワタルは、その子に近づいた。
 その子の胸が動いていることから、その子が生きていることは分かった。
 
「ハァ、仕方ないか……」
 
 しばらく考え、このまま見殺しにするのは気が引けたため、寝床の洞窟に担いで連れて行った。
 
「……酷い傷だな、俺とそんなに変わらないのに……しかも目は……俺の手には負えないな」
 
 その少女の体には無数の傷があり、手持ちの応急器具をほとんど使いきってしまった。
 しかも右目は使い物にならなくなっており、ワタルの手では治せなかった。
 
「さて……これからどうするか……まずはこの子が起きないとどうしようもないか」
 
 手当が終わっても、彼女は起きる気配を見せなかったため、使っていた毛布をその子にかけると、ワタルは壁に寄りかかって眠りについた。
 
    =  =  =
 
「――――う、ううん……ッ、ここは、ッ! ――――!?」
 
 翌朝、緋色の髪を持つ少女は目を覚ましたのだが……ここが浜辺でない事に気が付いて慌て、次に体中の痛みに悶えた。
 
「痛てて……ん? あれ、手当されてる? 誰が…………ッ!」
 
 カツン、カツン……
 
 少女は体中の傷の手当てがされており、毛布が掛けられていることから誰かに助けられた事に気付いた。
 でも今は、周りには誰もいなかったため、どうしたものかと思った。
 そのとき、人の歩いてくる音がしたため、身構えた。
 
「―――――まあ、こんなものか……っと、目が覚めたか」
「お前は……だれだ? ……(キュルルルル)ッ――――」
「……あー、食べながらでいいだろ、それは」
 
 洞窟に入ってきた少年、ワタルは手に持っていた果物を少女に見せるとそう言った。
 その瞬間、辺りにキュルルルル、と音がしたため、彼は笑いながら顔を赤くしている少女に果物を渡した。
 少女が怪しそうに見ていると、ワタルは笑って先に果物に口を付けた。
 
「何も入れてやしないよ。……(シャクッ)……ほらね?」
「――――ッ、……あ、ありがとう……ッ!――――」
 
 少女は先の失態を取り返すように礼を言うと、果物に口を付けた。一口かじると顔を綻ばせて急ぐように食べ始めた。
 
「……たくさんあるからそんなに急がなくても……」
「ッ!? ゴホッゴホッ!」
「ほら、言わんこっちゃない……ほら、飲め」
 
 案の定のどに詰まらせため、ワタルは水筒を少女に渡した。
 少女は慌てて飲むとようやく落ち着いたようだった。
 
「……ハア、すまない」
「……何、気にするな……落ち着いたか?」
「ああ……その、あなたは誰なんだ?」
「俺かい? 俺はワタル・ヤツボシ。今は……訳有って大陸中を旅している魔導士さ、君は?」
「……エルザ。エルザ……スカーレット……」
 
 ワタルは、少し詰まったエルザの様子から、こいつも訳有りみたいだな……、と思い、次の質問に移った。
 
「そうか……じゃあエルザ、何故あんなところで倒れてたんだ?」
「それは……その……」
「……『ジェラール』、に関係しているのか?」
「ッ、どうしてそれを……!?」
 
 エルザはひどく驚いてワタルに尋ねたが……
 
「寝言で言ってたぞ」
「く……」
 
 知らない男に寝言を聞かれていた事を知り、言葉に詰まってしまった。
 
「……まあ、言いたくないなら聞かないさ……これからどうする気だ?」
「待て、私にも聞かせろ。何故私を助けたんだ?」
「何故って言われてもな……」
 
 ワタルは少し考えるとこう言った。
 
「ここで休んでたら叫び声を聞いてね、それで何かと思ったら君が倒れてたんだ。だから助けた」
 
「だからそれを何故かと……」
 
「君は目の前で死にかけている同い年くらいの子供を見捨てて、その後気持ちよく過ごせるか?」
「それは……」
「ならそういうことだ……もう一度聞こう、これからどうする?」
 
 続いたワタルの質問に対し、エルザは、今度は素直に答えた。
 
「……妖精の尻尾(フェアリーテイル)に行こうと思う」
「妖精の尻尾?」
「ああ魔導士ギルドの一つだ……そういえばお前も魔導士、と言ったな。妖精の尻尾を知っているか?」
「いや、知らないな……俺は東の方の出身だから、ここから西、フィオーレのギルドだとは思うが……」
「……あなたもどこかのギルドの一員なのか?」
 
 エルザの質問に、ワタルは少し顔を悲しそうに歪めるとこう言った。
 
「…………2年程前は、な」
 
 昔の話だ、と悲しそうに言うワタルに、エルザはこれ以上聞くことはできず、黙ってしまった。
 
「……一緒に行くか?」
「え?」
 
 ワタルの急な提案に、エルザは聞き返した。
 
「俺も西の方に行こうと思ってたんだ。行く方向が同じなら人数は一人より二人の方がいい」
「でも……」
「フィオーレまでは歩いて1ヶ月は掛かるぞ。俺は2年くらい一人旅をしているけど、流石に女の子一人はちょっと危険だと思うぞ。……それとも俺は信用できないか?」
「そんなことは……」
 
 再び言葉に詰まったエルザに対し、ワタルは話を進めた。
 
「じゃあ、決まりだな……歩けるか?」
「あ、ああ……そういえば、傷の治療の礼を言ってなかったな……ありがとう」
「ん? ああ、気にするなよ、そんなこと」
「……その……見た、のか?」
「? 何を?」
 
 ワタルは、エルザが何を言っているのか分からなかったため、尋ねた。
 
「……なんでもない!」
「……何だ? っておい、そんなに走ると傷が開くぞ!」
 
 そう言うとエルザは顔を赤くして走りだし、ワタルも後を追って走った。
 こうしてワタルとエルザの二人旅が決まり、二人はまず情報取集に、と近くの町の方に歩いて行った。
 目的地は妖精の尻尾(フェアリーテイル)。二人のとっては、家、とも呼べる場所になるギルドである。
 
    =  =  =
 
「……旅云々の前に服を買わないとな……」
「え?」
「その格好で歩き回るつもりか?」
「あ……」
 
 今のエルザが身に着けているものは、ボロボロの服……とも呼べるかすらどうか怪しい布切れだ。
 治療に使った包帯もあるが、そのままだと一ヶ月持たないだろう……というのはワタルにも、エルザにも分かった。
 
「何か買ってくるから洞窟で待ってろ」
「……お金はあるのか?」
「小さい町で、ちょっとした何でも屋をやって回ったからな……少しなら大丈夫だ」
「……じゃあ、頼む。すまないな……」
 
 気にするな、と言ってワタルは歩き始めた。
 残されたエルザは毛布に包まりながら考えた。
 
――なんでワタルは私に色々世話してくれるんだろう?
 
 エルザは少し前まで、カ=エルムの近海に秘密裏に建設されている塔で働く奴隷だった。
 そして反乱を起こしたはいいが、自分たちのリーダー的存在とも言えるジェラールが黒魔導士・ゼレフの亡霊に囚われて乱心、エルザは一人で「仮初の自由を堪能しろ」と言われて塔から放り出されたのだ。
 ジェラールは自分たちのリーダー的存在だったから、エルザのショックは大きかった。
 それ故に、ワタルの真意が分からなかった。見ず知らずの自分を保護、治療し、旅の道連れにしてくれる、と言ったワタルの事を信じてもいいのか、エルザは揺れていた。
 
――信じたい。でもまた裏切られたら……
 
 その時、悲しそうな顔をしたワタルの顔がエルザの脳裏に浮かんだ。
 
――あの顔を見た時、この人は大丈夫だ、裏切ったりしないって思えた。……なんでだろう?
 
 エルザは、悲しそうなワタルの顔に安心感を覚えた。何故、と思ったが……答えは思ったより簡単に出た。
 
――そうか……同じなんだ、私と……
 
 指導者のジェラールに裏切られた自分と、ワタルの悲しげな顔が重なったのだ。
 ジェラールや仲間の事を考えると心がひどく傷んだが……今は一人じゃないと思える事で、乗り越えられるんじゃないか、とそう錯覚した。
 早く顔が見たい、そう思えるほどに、彼女はワタルに惹かれるものを……このときは無意識だが感じていた。
 そして、1時間ほど経っただろうか。
 
「お待たせ、買ってきたよ」
「お、おかえり、遅かったな……」
「他にも買い物があったからな」
「そ、そうか……」
 
 時間がかかったのは包帯や薬など、消耗品を買ってきたからである。
 自分のためだ、と彼女は分かっていたため、申し訳ない気持ちになった。
 
「だからそんな顔するなって。ほら、服買ってきたから、着替えろ」
 
 そう言って後ろを向いたワタルが差し出したものは、白のワンピースだった。
 エルザは礼を言うと着替え、そしてワタルに声を掛けた。
 
「あ、ありがとう…………もういいぞ」
「ん、了解……おっ、似合ってるよ」
「そ、そうか?」
「ああ、本当だ」
「似合っている、か……そうか、そうか……」
 
 似合っている、と言われたのは初めてだったため、エルザは恥ずかしがって顔を赤く染めた。
 
「? ……まあ、いいや。それで、だ。やっぱりフィオーレには歩くと結構かかるそうだ。……それでも行くんだろ?」
「ああ……フィオーレのマグノリアにあるギルド。そこが妖精の尻尾、ロブおじいちゃんの言っていたギルドだ」
「……マグノリアに有ってよかったな。フィオーレの東部にある町だ……というか、マグノリアにあるって知ってたんだ」
「……今思い出したんだ」
「……そうか、じゃあ行こう」
 
 ワタルはロブおじいちゃん、という単語に引っ掛かったものの、エルザの悲しそうな顔を見て、追及するのはやめた。
 そして荷物を背負うと、エルザに声を掛け、洞窟を後にした。
 
 
 

 
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