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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第十話 内なる修羅

               第十話 内なる修羅
トウマは偵察の用意に当たっていた。皆それは知っていたがあえて見に行きはしない。ただ静かな沈黙を彼の前では守るだけだった。しかし彼の前以外では。
「あったまくるんだよ!」
シンであった。激昂する声をあげる。
「何だよ本当にあの態度!」
そう叫ぶ。見ればカガリも同じである。
「全くだ!」
今回はシンに対して怒ってはいない。ミナキに対してである。
「トウマを何だと思っている!そして何様だ!」
「珍しく意見が合うな」
それにシンも気付いた。
「御前も頭にきてんのかよ」
「当然だ!」
カガリはその激昂した声で応える。
「ぶん殴ってやる。本当に」
「ああ、俺もだ!」
シンもそれに同意する。
「今から!この手でな!」
「私も行くぞ!」
「だから待つんだ」
そんな二人をアスランが止める。彼は冷静な顔を作っている。作っているのだ。
「幾ら何でも暴力は」
「何甘いこと言ってるんだよ、アスラン」
しかしシンはその言葉に賛成しようとしない。
「御前だってあの女には頭にきてる筈だぞ」
「だったらどうしてだ!」
「確かに俺もミナキさんには不愉快なものを感じている」
アスランもそれは認めた。
「シンともカガリとも同じさ、それは」
「だったらどうして!」
「私達を止める!」
「ミナキさんを殴って何か解決するか?」
アスランはそう二人に問うてきた。
「何っ!?」
「それで二人共気が晴れるか?晴れないな」
「あ、ああ」
「それはな」
二人はその言葉を聞いて俯いた。そのその通りだからだ。
「それでも」
「あんな女。許せる筈がない」
「だからそれはわかるんだ」
アスランはあくまで彼等に同意する。しかし。
「俺だって殴りたいものだ、ミナキさんを」
「だろ!?」
「だったら今から」
「だからそれで何も解決しないんだ」
アスランは暗い顔で二人に語る。
「トウマさんの心だって救われない」
「トウマさんの」
「問題はそこなんだ」
暗い顔のまま語る。
「ミナキさんはどうでもいいんだ。トウマさんこそが」
「そうだったな」
カガリも今それに気付いた。彼女とて愚かではない。
「トウマがどうにかならないと結局は」
「わかったな。だからここは堪えるんだ」
「くっ」
「シン、御前は間違ってはいない」
アスランは壁を殴りつけたシンに対して言った。
「トウマさんが心配なんだな」
「ああ」
シンもその言葉に頷く。
「あんなふうに言われて追い出されてって。何なんだよ」
「確かに酷い話さ」
アスランも俯いた。顔もさらに暗くなっていた。
「けれどな。今ここで俺達がミナキさんをどうにかしても」
「トウマさんはどうにもならないんだよな」
「そうだ。あのままだ」
また言った。
「どうにもなりはしないんだ」
「じゃあどうすればいいんだ」
カガリがアスランに顔を向けて問うた。
「このままトウマが消えていいのか!?」
「・・・・・・そう思っているのはミナキさんだけだ」
アスランは苦い声を吐き出した。
「ミナキさんだけだ。他には誰も」
「そうか」
「カガリは。絶対に嫌なんだな」
「御前と同じだ」
「そういうことだ。俺はトウマさんを知っているつもりだ」
アスランは今壁を見ている。しかし見ているのは壁だけではなかった。
「ミナキさんよりもな。頑張ってるよ」
「頑張ってるだけじゃ駄目とは言わないんだ」
「俺はそんなに偉くない」
アスランはシンに告げた。
「それに努力していれば報われる。誰かが言ったな」
「それが人間だってな」
シンも言う。
「実際にトウマさんは実力出してきている。それでどうして」
「だからわかっていないのはあの女だけだ!」
カガリはまた激昂した。
「あの女・・・・・・私は許さないぞ!」
「また騒ぎになる」
アスランは言う。
「その時にまたミナキさんは言うだろうな」
「どうせな」
シンの言葉は嫌悪感をこれ以上はないという程に露わにさせていた。
「だからこそあの女だけは」
「自分では気付いていないんだよ」
それまで椅子に座り一言も発していなかったキラがシンに言った。
「キラ・・・・・・」
「あの人は。自分が何を言っているのか」
「だからといって許されるのか!?」
シンはそれを問うた。
「トウマさんに対する言葉は」
「いや、それはないよ」
それはキラも言う。
「あんなことを言っていい人なんて誰もいないから」
「けれど御前はそれを受け入れるのか」
「アスランと同じだよ」
キラも言った。
「それでトウマさんがどうかなるわけじゃないから」
「トウマ君が救われればそれでいいんだよ」
ユウナがまだ怒っているシンとカガリに対して言葉をかけてきた。
「それでね。それだけでいい」
「だからね。今は彼女を今よりも硬化させないことも大事なんだよ」
「ユウナさんの言葉が正しいな」
「そうだね」
アスランの言葉にキラが頷いた。
「だから二人共。今は」
「・・・・・・わかった」
「忌々しいがな」
「カガリ。けれどわかっているだろう?」
ユウナは今度はカガリに声をかけた。
「ここは堪えるしかないんだ」
「それでトウマが追い出されてもなんだな」
「それはさせないよ」
ユウナの声が少し強くなった。
「彼はやっぱりロンド=ベルに必要だからね」
「そうか」
「彼はきっと素晴らしい戦士になります」
アズラエルもいた。珍しくその顔から笑みは消えていた。
「その彼を手放したくはありませんしね」
「それでも今はミナキには何も言えない」
「嫌な状況だ」
シンとカガリはまた言った。
「けれどな。そんなに言うんだったら耐えてやるさ」
「トウマの為にな」
「頼む」
アスランが二人に少し頭を下げた。
「トウマさんの為にも」
「それにしても。トウマさんも大丈夫かな」
キラがふと呟いた。
「落ち込んでいるってことかな」
「いえ、何か少し違うみたいです」
キラはそうユウナに言葉を返した。
「違うって?」
「何かおかしくないですか?今のトウマさん」
キラは不安げな顔で言う。
「変な闘志を感じますし」
「闘志ねえ」
ユウナはキラからその言葉を聞いて眉を顰めさせる。
「そういえば変な感じもするね」
「今までのトウマさんにはなかったですよね」
「うん」
ユウナはその言葉に頷く。
「それまではただ必死なだけだったけれど」
「今日のトウマさんは何か」
「危ないかな、一人だと」
ユウナは怪訝な顔になった。
「どうすればいいかな」
「僕が出ましょうか」
キラが申し出て来た。
「ここは」
「いや、キラ君は残っておいて欲しいな」
「どうしてですか?」
「君も冷静じゃないからだよ」
ユウナはそうキラに告げた。
「自分でわかっていると思うけれど、それは」
「ええ」
ユウナのその言葉に頷く。
「それは認めます。やっぱり」
「そうだね。だから君は待機しておいて欲しいんだ」
「わかりました。それじゃあ」
「当然君達もです」
アズラエルはシン達三人にも言う。
「ここは待機してトレーニングでもしておいて下さい」
「わかりました」
アスランがアズラエルに応える。
「じゃあシン、カガリ」
「・・・・・・ステラ達のところに行って来る」
「ジュドー達と約束がある」
二人はそう理由をつけた。そうして立ち去ろうとする。
「そこでするさ」
「悪いがな」
「そうか。じゃあ俺もディアッカ達のところへ」
「キラ君、そういえば」
「はい」
アスラン達三人が去ろうとしたところでユウナはキラにも声をかけた。
「サイ君達が呼んでたよ」
「サイがですか」
「何でも飲むそうだし。どうかな」
「お酒ですか」
「いつも飲んでるじゃないか」
そうキラに言う。
「何も嫌がる必要はないんじゃないかな」
「わかりました。それじゃあ」
キラも彼の言葉に頷いた。そうしてその場を去るのだった。
アスランもシンもカガリももう部屋にはいなかった。残っているのはユウナとアズラエルだけになっていた。二人もどうにも難しい顔をしたままだった。
「因果なものですね」
アズラエルが先に口を開いた。
「こうしたことを制止しなければいけないとは」
「じゃあアズラエルさんも」
「僕だって感情はありますよ」
笑ってこう述べる。
「ましてや価値観とかモラルもね。ですから」
「ミナキ君には賛成できませんか」6
「全く」
アズラエルははっきりと言い切った。
「正直あの場面はむっときましたね」
「そうですか」
「顔には出さないつもりでしたが。それにしても」
「トウマ君には降りて欲しくはないですが」
「それも一体どうなるか。わかりませんね」
「問題は彼自身です」
ユウナはこう述べた。
「落ち込んでなければ問題はないでしょうけれど」
「今は無理ですね」
アズラエルはシビアなことを言うのだった。
「あれで落ち込まないというのは有り得ません」
「そうですね。やはり」
「誰かが励ましても。果たして」
「難しい話です」
「もっとも彼にロンド=ベルを去ってもらうつもりはありません」
アズラエルはこれに関しても言い切るのだった。むしろこちらの方が言葉も表情もしっかりとしたものであった。かなり強くなっていた。
「決してね」
「では僕もその方針でいきましょう」
実はユウナは最初からそのつもりだった。
「彼にはいてもらわないと」
「そういうことです」
笑顔でそう言い合うのだった。この時トウマは大空魔竜の格納庫から出撃しようとしていた。ここでボルフォッグ達に囲まれた。
「あれ、何であんた達」
「いえ、実はですね」
「俺達ここにずっといるからよお」
まずはボルフォッグとゴルディマーグが彼に声をかけてきた。
「トウマ隊員に偶然御会いしたわけです」
「たまたまだぜ」
「そうか、たまたまか」
演技だとわかっていたがそれでもトウマは彼等の言葉を受けた。悪い気はしなかった。
「そのたまたまにですね」
「僕達からのプレゼントがあるんだ」
今度が氷竜と炎竜が彼に言う。
「プレゼント?」
「そうさ、これさ」
「よかったら受け取ってくれ」
それはGGGの隊員証だった。マイクがトウマの胸にそれを付ける。
「トウマこれでマイク達の仲間ね!」
マイクは目を笑わせてこう言った。
「いっつも心は一緒だよ!」
「心は一緒か」
「そういうこと」
「いつも同じですよ」
光竜と闇竜がトウマに対して言う。
「ですからトウマ隊員」
「勇気を忘れるんじゃねえぜ」
「ああ、わかった」
ボルフォッグとゴルディマーグの言葉である。それを受けたトウマは晴れ渡った顔で彼等に応えた。今まで沈んでいた顔が嘘のようであった。
「じゃあ。まずは頑張って偵察行って来るぜ」
「御願いしますね」
「気合入れていけよ」
「ああ!」
トウマは笑顔でその言葉に応える。そうして沈んだ気を取り直して偵察に出るのであった。
トウマはまずは単身で偵察に出た。だがすぐに一個小隊が彼のところにやって来た。
「何処の小隊だ、一体」
「よおトウマさん」
「寂しい思いしていない?」
「来たぞ」
何とオルガ、クロト、シャニの三人だった。劾も一緒である。
「何であんた達まで」
「流石に一人じゃ危ねえだろ?」
オルガがトウマに答える。
「だから僕達もさ」
「来たんだ」
「どうしてもって言うからな」
劾がそう述べてきた。
「それで来たというわけだ」
「そうだったのか」
「俺達がいれば何の問題もねえぜ」
「トウマは寝ていていいからさ」
「任せろ」
三人はそれぞれ言う。トウマはそんな彼等の言葉を受けてまた笑顔になった。彼等の心も同時に感じたからだ。
「悪いな、何か」
「御礼は本でいいぜ」
「僕はゲームソフト」
「新しいCD」
「・・・・・・何か結構安いものばっかりだな」
「こいつ等はそういったのだけあれば文句は言わない」
劾がそうトウマに述べる。
「出撃かトレーニングの間はずっとそうだ」
「そうなのか。そういえば見ないと思ったら」
この三人は普段は案外大人しいのだ。ただ身体が異常に頑丈で身体能力が超人的なだけである。それと頭が少しあれなだけなのである。大した違いは一応はないのだ。
彼等と話をしながら偵察を続ける。話せば意外と悪い連中ではなかった。むしろ気さくな方である。この時ふとオルガがトウマに尋ねてきた。
「ところでトウマさんよ」
「何だ?」
「あんた何で戦ってるんだ?」
そうトウマに問うてきたのだ。
「俺か」
「ああ。何か理由があるんだろ?」
「そうだよね」
クロトもそれに頷く。
「僕達みたいにさ、兵器扱いじゃないんだし」
「理由はある」
シャニも言う。
「それを知りたい」
「そうだね、知りたいよ」
「実はなあ」
トウマは三人に言われてそれについて話をはじめた。
「俺は。ある人に助けられたんだ」
「ある人?」
「バイトしていた時な。たまたまそこで誘導にあたっていた兵隊さんに」
あの時のことを彼等に言う。
「その人達は俺とミナキを安全な場所に誘導させてな。その後怪我人を助けていたんだ。そういうのを見ていたらな」
「自分も」
シャニはそれを聞いて呟く。
「そういうことさ。やっぱりああいうのって凄いよな」
「そうだな」
オルガが最初にその言葉に頷いた。
「そうそうはできねえぜ、やっぱりよお」
「僕達はただ戦っているだけれどね」
クロトは今の自分のことを正直に述べた。
「やりたいように」
「うざい奴は潰す」
シャニもまた。
「それだけだ」
「あんた達はまた何か極端だな」
「だが気持ちはわかるな」
ここで劾が彼等をフォローして述べる。
「こいつ等は御前を」
「ええ、よくわかります」
そう彼にも言葉を返す。
「だから有り難いです」
「あの女のことは気にするな」
劾もまたミナキについて言及する。
「わかったな」
「すいません」
「それでだ。どうやらまずいことになった」
「ええ、そうですね」
それについてはトウマもわかった。
「レーダーに反応です」
「数は・・・・・・かなりだな」
「へっ、大したことないね」
「そうだな」
「平気だ」
クロト、オルガ、シャニにとってはそうであった。彼等のガンダムの圧倒的な力からすれば。
「トウマさんさあ」
シャニがトウマに声をかける。
「気楽にやっていいよ」
「僕達が暴れ回るから」
クロトはもう戦闘態勢に入っている。レイダーが変形して敵を探している。
「無理はしなくていいよ」
「そういうことだぜ」
オルガも構えはじめていた。
「どでかいのどんどんぶっぱなしてやるぜ!」
「それはいいが三人共」
劾がここで三人に忠告をした。
「燃料や弾薬のことを考えておけよ」
「むっ」
「そんなの別に」
「気にしなくてもいいじゃねえかよ」
「そうはいかない。我々は今は偵察だ」
劾はまた三人に言う。
「本隊には連絡は取った。それまでな」
「わかったよ」
三人は渋々ながらその言葉に頷くのだった。
「じゃあそれまで」
「大人しく」
「戦うとするか」
「トウマ」
劾はまたトウマにも声をかけた。
「御前もだ。いいな」
「ええ」
トウマはレーダーを見ながら彼に応えた。
「わかりました。それじゃあ」
「敵はかなりの数だ」
レーダーに映っているだけでもかなりのものだ。彼等はそれを見ていたのだ。
「だからだ。無理は禁物だ」
「わかっていますけれど」
「あの女の言葉は気にするなと言った筈だ」
劾はまた言う。
「いいな」
「ええ」
頷きはするがその返事は空虚だった。そうしてその空虚を抱いたまま敵に向かうのだった。
敵は正面から来た。まずは三人が仕掛ける。
「おらおらおらあっ!」
「必殺!」
「死ね」
三人にしては大人しい攻撃が繰り出される。だがそれですらかなりの威力で百鬼帝国のマシンは次々に完膚なきにまで粉砕されていく。
「セーブしていてもよ!」
「この程度は」
「できるんだよね!」
オルガもシャニもクロトもかなりの戦闘力を見せている。さながら戦略兵器のように敵を倒していく。だがトウマはそうはいかなかったのだ。
やはり動きが鈍い。そうして攻撃の照準も甘い。劾もそれを見ていた。
「トウマ、大丈夫か」
「ええ、大丈夫です」
トウマは敵に攻撃を仕掛けながら応える。
「この程度で」
「そうは見えないがな」
劾はまたトウマに告げた。
「今の御前の動きが」
「けれど」
「だから言っている。焦るな。そして」
「そして?」
「迷うな」
そうトウマに言うのだった。
「もう一度言う。迷うな」
「俺は別に」
「いや」
劾はまた言った。
「それでもだ。いいな」
「ですか」
「とにかくだ。今は落ち着け」
また言葉が出る。
「下手をすれば。嫌な予感がする」
「俺にですか」
「あの三人を見ろ」
今度は奮戦しているオルガ達を指し示した。
「あの三人が暴走し易いのは知っているな」
「はい」
これについては言うまでもなかった。エクステンデッドマンでなくなろうとも彼等の戦闘本能の激しさはあまりにも極端だ。彼等もそれはよく知っているのだ。
「あのシステムもな」
「LIOHは」
「絶対に何かある。できれば使わない方がいいだろう」
「けれど」
しかしトウマは言った。
「どうした?」
「あれがないと雷鳳は」
「戦えないというのか?」
「ミナキはそう言っています」
こう劾に告げた。
「だから」
「何もわかっていないだけだ」
劾は今のトウマの言葉を聞いて忌々しげに言い捨てた。
「彼女は何もな」
「そうなんですか?」
「そうだ」
また言い捨てた。
「一番わかっていない。君よりもな」
「まさか。だってミナキは」
「一番システムLIOHに関わっている」
トウマの言葉の機先を制してきた。
「そう言いたいのだな」
「ええ、その通りです」
その言葉にこくりと頷いた。
「それなのに一番わかっていないなんてそんなことが」
「そんなものだ」
今度は一言だが深い言葉になった。
「そんなもの!?」
「そうだ、人間なんてな」
何処か達観した響きがそこにあった。
「一番側にいるからこそ見えない場合もある」
「ミナキもそうなんですか」
「俺はそう思う」
あくまで自分は、としてきた。
「俺はな。他の奴等はどう見ているかはわからないが」
「はあ」
「だからだ。システムLIOHには注意しろ」
またトウマに告げる。
「できるなら。使うな、いいな」
「けれど」
「わかっている」
今度はトウマを肯定してきた。
「今の君はそれを引き出せないとまた厄介なことになる」
「俺、やっぱり」
「といってもロンド=ベルを辞めることはない」
それは彼もフォローするのだった。
「彼女はあまりにも何もわかっていない。そんな彼女の言葉は何も聞くな」
「けれど」
「何かあれば皆で止める」
劾の言葉がきつくなった。これもまた本心であった。
「だからだ。いいな」
「そうですか」
「とにかく今は自分の力で戦ってくれ。いいな」
「わかりました」
わからないまま頷く。そうして彼もまた戦いに入るのだった。
やはりオルガ達の力は圧倒的だった。僅か三機で空と大地を埋め尽くさんばかりの百鬼帝国のマシンを充分引き止めていた。
「数がありゃいいってもんじゃねえぜ!」
オルガが派手に一斉射撃を行う。
「むしろ数がありゃあよお!」
「それだけ僕にやられる奴がいるってことさ!」
クロトはミョッルニルを左右に振り回し敵を粉砕していく。
「必殺!抹殺!」
「数があってもうざいだけだ」
シャニはフレスベルグを放った。曲がるビームが敵を屠って消し去っていく。
「うざい奴等は消えろ」
「何かすげえなあ、おい」
「トウマさんさあ!」
クロトがトウマに声をかけてきた。
「静かにしていていいから!」
「ここは俺達がやらせてもらうぜ!」
オルガもトウマに言う。
「偵察に専念してくれよ!」
「もっとも」
シャニが続く。
「ここでこいつ等全員死ぬ」
「いや、それでもな」
トウマは三人の派手な暴れぶりにいささか引きながらも応える。
「俺のところにも来ている。だから」
「僕そっち行こうか?」
「俺が行く!」
「いや俺が」
彼等も彼等なりにトウマに気を使っている。ただの戦闘機械ではないのだ。
「いいさ。俺だってやらなくちゃいけないんだからな」
「そうなんだ。じゃあ」
「俺達は俺達でやるぜ」
「それでいいか」
「ああ、そっちはそっちで頼むぜ」
トウマも言葉を返す。
「俺は俺で!食らえ!」
目の前の敵をいきなり蹴りで屠った。
「そして!」
また敵を一体。今度は拳で。
「やれるだけはやる!何があっても!」
「だが」
劾はそんな彼を見て一人呟くのだった。彼も既に戦闘に入っている。
「まずいな。やはり」
トウマを怪訝な顔で見ながら戦闘を行う。百鬼帝国は次々と新手を繰り出してくる。
三人と劾、そしてトウマでやっとだった。トウマにも負担が増す。
「くっ、まだ出るのか!」
「さあ、行くのだ!」
ヒドラーが後方から指示を出していた。
「例え少数でも手を抜くな!」
「言ってくれんじゃないの!」
クロトがそのヒドラーに対して叫ぶ。
「このチョビ髭!」
「あんた、誰かにそっくりなんだよ」
オルガとシャニも言う。
「何っ、わしを誰だと思っている!」
「どう見たってあれじゃないか!」
「おっさん、前世総統だったろ!」
「ばれてるんだよ」
「何を訳のわからんことを!地上人共め!」
同じレベルで喧嘩をはじめた。
「わしは百鬼帝国のヒドラー元帥だ!それ以外の何者でもないわ!」
「嘘だね」
「ああ、嘘だ」
「嘘はよくない」
また三人は言い返す。
「訳のわからんことを!貴様等は後回しだ!」
破壊的な戦闘力を持つ三人とそのガンダムをまずは避けることにした。これは理性的な判断であった。彼は冷静さを保っていた。
「まずはあのマシンを狙え!」
「百鬼ブラーーーーーーーイ!」
鬼達がその指示に応える。そうして雷鳳に一気に向かうのだった。
「くっ、やはりそちらか!」
劾は百鬼帝国の動きを見て声をあげた。
「だがこちらも」
動けなかった。彼もまた多くの敵を相手にしていたからだ。
トウマに敵が殺到する。彼も次々にその相手をするが。
「な、何て数なんだ」
あまりにも数が多い。それを通常で凌ぐのには無理があった。
「やっぱりここは」
システムLIOHを解放しようとする。そして彼はそれを実行した。
「これで!」
何かが起こった。戦闘力が飛躍的にあがり敵を次々と屠っていく。それはまるで鬼神のようであった。しかしだ。
敵が一機側面から狙う。間に合わなかった。
「しまった!」
「ははははは!もらったぞ!」
勝利を確信したヒドラーは高らかに笑う。
「これでまずは一機だ!」
「くっ!」
「トウマ君!」
劾が叫ぶ。三人も顔を凍りつかせる。どう見ても間に合わなかった。だが。
何かが来た。そしてその百鬼帝国のマシンを切り裂く。それと共に疾風が姿を現したのであった。今まさに。
「間に合ったな」
「レーツェルさん」
ヒュッケバイントロンベだった。それに乗っているのは一人しかいなかった。
「間一髪だったがここは結果を重視するべきか」
「どうしてここに」
「さっき通信が入ったのは知っている筈だが」
レーツェルはそうトウマに言葉を返した。
「それで来たのだよ。私達が先にね」
「私達!?」
「そう」
トウマに言葉を返す。
「ここに来たのは私だけではないのだよ」
「じゃあ一体誰が」
「それは」
「覇ッ!」
また疾風がやって来た。百鬼帝国のマシンを両断して戦場に姿を現わした。
「この世に悪ある限り俺は戦う」
戦士の声がした。
「誰だ貴様は」
「俺の名か」
ヒドラーの問いに言葉を返す。
「俺の名を今聞いたのはそちらか」
「そうだ」
ヒドラーはまた言った。
「その私だ。このヒドラー元帥だ」
「そうか。名乗ったな」
ヒドラーの名乗りを今受けた。
「ではこちらも名乗ろう」
「誰だ!」
「我が名はゼンガー=ゾンバルト」
遂に戦士は名乗った。
「悪を断つ剣なり!」
「悪だと!」
「そうだ、悪をだ!」
ゼンガーは高らかに叫んだ。
「今ここで断つ!覚悟せよ!」
「くっ、ならば!」
ヒドラーはさらに軍勢を出してきた。
「この数ならばどうだ!」
「笑止!」
ゼンガーはその数を見ても動じはしない。
「数では俺は退けることは適わぬ!俺を退けられるのは!」
「何だというのだ!」
「心だ!」
彼は叫んだ。
「俺を退けるのは心だ!それ以外にはない!」
「馬鹿なことを言うわ!」
ヒドラーはゼンガーのその言葉を一笑に伏した。
「戦争は数よ!まずはそれだ!」
「ならば来るがいい」
ゼンガーの言葉が風雲となった。
「数だけでは勝てぬということを見せてやろう!」
「知れた口を!」
ヒドラーも激昂を見せてきた。
「ではそれ見せてみせよ!」
「では見せよう!」
ゼンガーま動いた。青い竜巻と化して。6
「我が剣の冴えを!今ここに!」
「友よ!」
レーツェルも共に前に出た。
「今こそ動く時」
「うむ!」
「私も共に動こう。今このトロンベと共に!」
「頼む!」
二人はそのまま動きを合わせた。その動きはさながら二つの竜巻であった。
「参る!」
「我が心と共!」
二人は疾風の様に前に出た。そうして敵を次々と屠っていく。彼等はまさにその動きで戦争が数だけではないということを示したのだった。
敵は次々と消えていく。ヒドラーはそれを見て歯噛みせずにはいられなかった。
「おのれ!小癪な!」
「小癪なとは心外だな」
レーツェルは不敵に笑って彼に言葉を返した。
「実際にこちらが数だけではないということを見せているのだからな」
「その通りだ!」
ゼンガーが目の前の敵を両断して答えた。
「数ではない!心があってこそ!」
「心だと!」
「それを今見せている!貴様と!そして!」
トウマを見る。彼もまた必死に戦っていた。
「これからの世界を救う若者に!何が最も貴いのかを!」
「この世で貴いものはただ一つよ!」
ヒドラーにとってはそうであった。鬼達にとっては。
「我が百鬼帝国の悲願!地上での永遠の繁栄よ!」
「そんなものの為にか!」
「知れたことを言うな!」
ヒドラーは感情を露わにして反論してきた。
「貴様等に何がわかる!我等のことがな!」
「わかっていると言ってもわかっていないと言うのであろう」
ゼンガーもそれはわかっていた。
「では言おう!貴様等には貴様等の正義があるとな!」
「そうだ!」
ヒドラーもそれを肯定してみせた。
「その為に!我等とて手段は選ばんのだ!」
「かつての恐竜帝国と同じようにか」
レーツェルはそれを知っていた。だからこその言葉であった。
「そうして地上を目指すか。彼等と同じように」
「我々もまた同じなのだ」
ヒドラーの今の言葉は何処か自嘲が入っていた。
「地上に出なければ!滅ぶしかないのだ!」
「ではこちらも受けて立とう!」
ゼンガーはヒドラーのその言葉を受けたうえで叫んだ。
「我等人類を守る為!貴様等を防ぐ!」
「やってみせよ!ここでな!」
ヒドラーはさらに援軍を繰り出した。それはこれまでにない数であった。
「多い」
シャニはその敵を見て呟いた。
「何処まで出るんだ」
「多い少ないはもう関係ないさ」
そう言うクロトにも流石に疲れが見えはじめていた。
「ここまで来たらさ。もう」
「遠慮はする必要はねえだろうよ」
オルガは不敵な笑みを浮かべていた。
「だろう?劾さんよ」
「御前達まだ戦えるのか?」
劾はそれを受けて三人に問い返すのだった。
「燃料も弾薬もかなり消耗している筈だが」
「楽勝!」
「まだ派手に暴れられるぜ!」
「いける」
三人は平気な顔をあえて作って答えた。彼等も意地があった。
「そうか。ではできるだけ頼むぞ」
そう声をかけたうえで今度はトウマに顔を向けて言った。
「いけるか?」
「ああ、何とか」
トウマもそれに応えて述べた。敵に囲まれながらも善戦している。
「俺だって。無理はしなくても」
「そうか。ならいい」
「やれます。ですから」
「よし、ではこのまま戦う」
劾は断を下した。
「ゼンガー、レーツェルと共にな」
「済まぬ」
「足手纏いになったか」
「いや」
劾は二人のその言葉は否定した。
「それはない。助かっている」
「そうか」
「だがここで踏ん張らせてもらう。本隊が来るまで」
「おい、それはもういいぜ!」
ここで豹馬の声がした。
「むっ!?」
「間に合ったか!遅れて済まねえ!」
「来たか」
「待たせたな!」
まずはコンバトラーとダイモスが姿を現わした。続いて他の面々も。
ロンド=ベルは颯爽と姿を現わした。そうしてトウマ達の援軍に来たのであった。
「やいやい!」
豹馬が先頭に立って突き進む。
「随分好き勝手やってくれたようじゃねえか!」
「だがそれもここまでだ!」
続いてゲッターが。竜馬がそこにいる。
「俺達が来たからにはそれはさせない!」
「百鬼帝国!」
隼人も叫ぶ。
「早いうちに敵の数は減らさせてもらう」
「観念しやがれ!」
続いて弁慶も。
「俺達の未来の為に!」
「戯言を言うか!」
ヒドラーもまた三人の言葉を受けて叫ぶ。
「我等の栄光ある未来の為に。そして偉大なる大帝ブライの為に」
その叫びは心からの叫びであった。
「退くつもりはない!覚悟せよ!」
「よし!それなら!」
竜馬がそれを受けてゲッターを突っ込ませる。
「行くぞ!隼人!弁慶!武蔵!」
「わかった!」
「やってやるぜ!」
「鬼退治だ!」
武蔵もブラックゲッターで突っ込む。二機のゲッターはさながら獣を彷彿とさせる動きで縦横無尽に暴れはじめた。それは百鬼帝国の想像を上回るものであった。
「くっ、何という力だ」
「これがゲッターの力だ!」
武蔵が彼に対して言う。
「御前等を倒す力だ!」
「おのれ!ならば!」
ゲッターに攻撃を集中させようとする。しかしそこにトウマが来た。
「俺だってなあ!」
「では貴様から倒してやろう!」
ヒドラーは反射的にトウマに攻撃を向けた。
「こうなれば敵は少しでも減らしておくわ!」
「いけません」
それを見てルリが言った。
「このままではトウマさんが」
「じゃあルリルリ」
ハルカがルリに対して問う。
「ナデシコはもう決まりね」
「宜しいですか、艦長」
「はい」
ユリカもルリと同じ考えであった。
「雷鳳に援護射撃です」
「わかりました」
メグミがそれに頷く。
「それじゃあ」
「折角何とか残ったんですから」
ユリカもトウマのことは気にしていた。
「それで万が一があっては困ります」
「そうです」
ルリがユリカのその言葉に頷いた。
「トウマさんも頑張って欲しいです」
「その通りです。それにしてもルリちゃん」
「何ですか?」
「貴女結構熱血漢好きなのね」
ユリカはそうルリに言うのだった。
「一矢君とか」
「一途な人は好きです」
ルリもそれを認める。
「一矢さんみたいにあそこまで一途にエリカさんを愛せたら。本当に素晴らしいことです」
「そうね。それを考えると変わったわね」
ユリカは今のルリの言葉ににこりと笑ってみせた。
「ルリちゃんも」
「私もわかりましたから」
その顔は微かに笑っていた。
「私も馬鹿なんだって。同じなんだって」
「そうね。ロンド=ベルは皆馬鹿よ」
ユリカも笑って述べる。
「私もです」
「そうですね。だから私も好きなんです」
笑みがさらに深くなる。
「ロンド=ベルもトウマさんも」
「さあ、それじゃあミサイル発射です」
ユリカはまた言う。
「攻撃目標百鬼帝国マシン、トウマさんの周り」
「トウマ君よけちゃってね」
ハルカが軽い調子でトウマに声をかける。
「危ないから・・・・・・って!?」
ここで異変に気付いた。
「トウマ君、返事は?」
「・・・・・・・・・」
返事はなかった。明らかにおかしい。
「どうしたのかしら。ちょっと」
また声をかける。だがやはり返事はなかった。
「応えてよ。どうしたの!?」
「絶対におかしいですよ」
それを見てハーリーが言った。
「トウマさん、返答して下さい、早く」
「危険です」
ルリはすぐに異変を察した。
「トウマさんに何か起こっています」
「何かが!?」
見れば雷鳳は異常な暴れ方を見せていた。周りの敵を叩き潰している。それは今までのトウマの戦い方とは明らかに違っていた。
「あれは一体」
「くっ、何だあれは!」
ヒドラーもそれを見て声をあげた。
「異常な強さではないか!あいつに攻撃を集中させよ!」
「あれにですか」
「そうだ!全力でだ!」
残りの全ての予備戦力を向けさせようとする。
「よいな!」
「わ、わかりました」
「それでは」
部下達もそれに頷く。そうして予備戦力を全て向けたが。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
普段のトウマではなかった。すぐにその向けられた戦力も粉砕してしまったのだった。さしものヒドラーもそれを見て顔を強張らせるのだった。
「駄目だ」
すぐに決断を下した。
「あのマシンは倒せはできぬ」
「では閣下」
それを受けて参謀達が問う。
「ここは撤退ですか」
「無人の機体だけ残しておけ」
足止めの為であるのは言うまでもない。
「よいな」
「はっ」
「わかりました。それでは」
部下達もそれに頷く。こうして百鬼帝国は無人機だけ残して撤退したのだった。
その無人機が問題だった。トウマに攻撃を集中させてきたのだ。トウマはその無人機を相手に奮闘していた。その奮闘自体には問題はなかった。
だが彼自身は異変に気付いてはいなかった。雷鳳自体の異変に。
「うおおおおおおおおおおっ!」
倒せば倒す程雷鳳の力が増していく。まさに鬼神の様になってきていた。
それに皆気付きだした。まずレーツェルが言った。
「まずいな」
「うむ」
ゼンガーがそれに頷く。
「このままでは彼が持たないぞ」
「トウマ!」
ゼンガーが彼の名を呼んだ。
「落ち着け!気を鎮めよ!」
だが返答はない。鬼の如く敵を殴り倒し蹴り倒すだけであった。そして敵を倒し終えると今度はゼンガー達に向かって来たのであった。
「来たか」
「ならば!」
ゼンガーがそれを見てすっと前に出た。
「えっ、何」
ミナキはそれを見て血相を変えた。
「何するの、一体」
「何するのって決まってるでしょ」
ミサトが横から言った。
「このままだとトウマ君が」
「駄目よ、そんなの!」
ミナキはミサトの言葉を聞いて叫んだ。
「雷鳳が!このままじゃ!」
「ちょっと待ちなさい!」
今の言葉は流石に聞き捨てならなかった。
「貴女トウマ君がどうなってもいいの!?」
「そんなことより雷鳳が!」
彼のことは完全にどうでもいいといった感じだった。
「壊れたら!お父様が!」
「いい加減にしなさい!」
今度はリツコが叫んだ。
「えっ・・・・・・」
「貴女は彼が見えないの!」
普段はクールな彼女が叫んだのは効果があった。ミナキも動きを止めてしまった。
「彼は貴女にあんなこと言われてもまだ頑張っていたのよ!」
「けれどそれでも彼は」
「不適格とでも言うつもり!?」
ミサトもミナキを睨んでいた。
「だから切り捨てる。そう言うつもり?」
「私は別に」
そう言われるとミナキも反論できない。自覚していなかっただけなのだから。
「そんなことは」
「言っていたわ」
ミサトはミナキを睨み据えて言うのだった。
「あの時。だから皆怒ったのよ」
「・・・・・・そうだったの」
「貴女、人として最低よ」
ミサトもこれまでにないきつい言葉を口にする。
「最低・・・・・・私が」
「そうよ」
また言う。
「そうして人の努力も気持ちも見られない人間ってのはね。最低なのよ」
「シンジ君いるわね」
リツコはシンジを出してきた。
「ええ」
「彼なんか最初はどうしようもなかったわ」
「シンジ君が」
今では立派なロンド=ベルの一員の彼もである。かつては気弱でとても戦えない少年だったのだ。今ではロンド=ベルの中で心優しい少年として頑張っているが。
「彼だってそうだし」
「キラ君だって」
「キラ君まで」
「けれど皆頑張ったのよ」
ミサトは彼等を出してミナキに言う。
「必死ね。トウマ君だって」
「それは・・・・・・」
「見ていなかったわね、彼の努力を」
ミサトはわかっていた。今それを突き付けたのだ。
「だからあんなことが言えたのよ」
「それでもシステムLIOHは」
「あれね」
リツコはそれを何でもないといった感じで言い捨てた。
「あれを見なさい」
「あれを?」
「そうよ」
モニターを指差していた。ミナキはそれに従いモニターを見た。
「あれがそのシステムLIOHよ」
「嘘・・・・・・」
ミナキはモニターを見て絶句した。そこにいたのだ。
敵味方関係なく無差別に攻撃を繰り出す雷鳳だった。敵を倒し終え今度はゼンガーの乗るダイゼンガーに攻撃を仕掛けていたのだ。さながら鬼神の様に。
「おおおおおおおおおおっ!」
「どうして!?どうしてこんな」
「貴女はシステムLIOHのことが何もわかっていなかったのよ」
リツコは冷徹とも取れる声でミナキに言うのだった。
「あのシステムは。平和をもたらすものではないわ」
「じゃあ一体」
「狂気をもたらすものよ」
それがリツコの答えだった。
「今トウマ君はそれに取り込まれているわ」
「嘘よ、じゃあお父様は」
「トオミネ博士ね」
ミサトがミナキの父について言及してきた。
「お父様を知っているんですか!?」
「ええ、有名だったから」
あえて今こう述べたのだった。
「確かに優秀だったわ」
「はい」
「けれど」
「えれど?」
優秀と定義したうえでの言葉であった。
「心がなかったわ」
「心が・・・・・・」
「よくある話ね」
ミサトはここで一旦溜息をついた。
「優秀であっても心が伴っていないのは」
「どういうことなんですか!?お父様は何を」
「あのシステムLIOHはね」
「はい」
「簡単に言うとバーサーカーシステムなのよ」
ノーベルガンダムを出してきた。
「アレンビーの話は聞いているわね」
「気持ちが昂ぶると闘争本能に心が捉われて」
「そういうこと。システムLIOHも今は同じね」
「じゃあトウマは」
「そうよ」
そうミナキに告げた。
「闘争本能に心を奪われているわ。完全に」
「そんな。トウマが・・・・・・」
「トオミネ博士は世に認められなかったわ」
今度はリツコがミナキに告げた。
「それを恨んでシステムLIOHを開発して」
「じゃあLIOHは」
「人の心を利用して暴走させるシステムだったのよ。それに捉われると」
「まさか!?」
「そうよ、命が危ないわ」
リツコはモニターを見ながらあえてクールに言う。しかしその目はトウマから離れはしない。彼女もまたトウマを心から心配しているのだ。
「このままだと」
「早く何とかしないと」
ミナキはここでようやく悟った。システムLIOHの危険さと今まで自分がしてきたことを。
「さもないとトウマが」
「落ち着きなさい」
ミサトが忠告する。
「けれど」
「落ち着きなさいって言っているのよ!」
ミサトはまたしても激しい声をあげた。
「今ここで貴女が騒いでも何にもならないわ」
「はい・・・・・・」
「ゼンガーさんに任せなさい」
強い声のままミナキに告げる。
「いいわね、それで」
「それしかないですか」
「ええ、ないわ」
ミサトはまた告げた。
「わかったらそこで見ておくの。いいわね」
「わかりました」
ミナキは俯いて答えた。そう答えるしかなかった。
「今ここで」
「ゼンガーさんを信じるのよ」
リツコは穏やかな声を出した。
「あの人ならきっと」
「はい」
ミナキは俯いたままリツコのその言葉に頷くのだった。
「信じます。ゼンガーさんを」
モニターではトウマが異常なまでに激しい攻撃をゼンガーに浴びせている。その周りではスティング達が戸惑いながら展開していた。
「どうしちゃったんだよトウマさん!」
「返事しろよおい!」
スティングとアウルが必死にトウマに呼び掛ける。しかし返答はない。
「駄目だ、返答がない」
「いかれたな、絶対に」
「おい、三人共!」
そこにシンが飛んで来た。文字通り。
「そこにいたら危ないだろ!ステラ!」
「う、うん」
シンはすぐにステラの前まで来た。彼女を庇っているのは明らかだった。
「ここいるな!早く安全な場所に!」
「わかったわ。それじゃあ」
「君に何かあったら俺が」
「おい、ちょっと待てよ」
「そうだよ」
そんな彼を見てスティングとアウルが突っ込みを入れた。
「俺達はいいのかよ」
「幾ら何でもそれはないんじゃないのか?」
「あっ、御免」
二人に言われてやっと自分でも気付く。
「忘れてた。御前等もいたんだな」
「いるよ」
「一緒にな」
「じゃあ安全な場所に」
シンは今更のように二人にも声をかける。
「わかってるさ」
「全く。まずはステラからかよ」
「いいだろ、別に」
シンも開き直ってきた。
「俺はステラの為に戦ってるんだからな」
「あとマユちゃんの為だよな」
「ったく、もてる男は羨ましいよ」
「俺は別にもてては」
「ステラ、シン好き」
その後ろからステラが言わなくていいことを言う。
「だから一緒に」
「あ、ああ」
「ほら、やっぱりな」
「お熱いこって」
「だから俺は!」
シンもムキになって反論する。
「別にその、ステラは」
「いいからシン」
見るに見かねたアスランが後ろから声をかける。
「ここは早く行け」
「おっと、そうか」
アスランに言われてやっと状況を思い出す。
「このままじゃ巻き込まれるな」
「そうだ。今のトウマさんは手に負えない」
アスランの声は苦々しげだった。
「ゼンガーさんに任せるしかない」
「わかった。じゃあステラ」
「うん」
ステラが頷いたのを確認するとスティングとアウルにも声をかけた。
「御前等も」
「やっぱりついでかよ」
「何だかな」
そんなことを言いながらも彼等も退く。その間にもトウマはセゼンガーに破天荒な攻撃を浴びせ続けていたのであった。
ゼンガーはそれをかわす。かわすと共に隙を狙っていた。
「まだだ」
彼はトウマの攻撃をかわしながら呟く。
「まだその時ではない。まだ」
「がああああああああああああっ!」
隙を窺うその間もトウマの攻撃は続く。まさに獣そのものの攻撃だった。
「トウマ!その心を鎮める為に」
ゼンガーはその彼に対して言うのだった。
「今ここに!」
隙が見えた。今だった。
「我が剣を示そう。チェストーーーーーーーーーーッ!」
示現流が炸裂した。雷鳳を一閃した。
「!!」
「どうなった!」
皆雷鳳が動きを止めたのを見た。その直後だった。
爆発が一度起こった。そうして雷鳳はその中で崩れ落ちたのだった。
「トウマ!」
「トウマさん!」
皆トウマを気遣い雷鳳に駆け寄る。ゼンガーはその彼等に対して静かに告げた。
「心配無用だ。急所は外した」
「けれど」
「トウマさんは」
「気を失っているだけだ」
ゼンガーはまた彼等に告げた。
「気にすることはない。わかったな」
「そうですか」
「だったらいいですけれど」
「すぐに医務室に連れて行こう」
レーツェルが述べてきた。
「何はともあれ手当てが必要だ」
「ええ」
「それじゃあ」
トウマはすぐに大空魔竜の医務室に運ばれた。サコン達がその手当てにあたることとなった。その中でミナキは自身の父について聞かされていた。
「じゃあお父様は」
「そうよ。自分の研究を認めさせる為にね」
ミサトが説明していた。
「それはさっき話したわよね」
「はい」
ミサトの言葉にこくりと頷く。
「それでシステムLIOHを」
「システムLIOHは確かに強力よ」
リツコが答えた。
「けれどあれはあってはならないシステムなのよ」
「赤木博士」
そこにレインが来た。
「レインちゃん、わかった?」
「はい、システムLIOHは予想以上に危険です」
答えるレインの顔が強張っている。それが何よりの証拠であった。
「システムLIOHは使う人間を常に死と隣り合わせの危険な状態に置きます」
「死と・・・・・・」
死と聞いてミナキの顔が蒼白になった。
「そうして次第に使う人間を追い詰めていき」
「それでどうなるの?」
問うミサトの顔も強張っていた。
「聞いているだけであのバーサーカーシステムより危険なのはわかるけれど」
「さっきのトウマ君ですが」
「ええ」
レインの話は続く。ミサトとリツコ、そしてミナキはさらに彼女の話を聞く。
「彼はシステムLIOHのファィナルモードに入っていました」
「ファイナルモード!?」
「それは何!?」
「システムLIOHの力を全て使った状態です」
「あれが・・・・・・」
それを聞いてミナキの顔がさらに蒼くなった。
「あれがシステムLIOHの」
「パイロットの闘争心を極限まで出したうえでその能力を最大限まで引き出しますが」
「副作用があれね」
ミサトの顔は暗く固まっていた。
「あのトウマ君なのね」
「そうです。敵味方関係なく襲い掛かるようになり」
それだけではないという。
「パイロットの命を全て搾り取ります」
「命を」
「そうです。つまり特攻用のモードです」
「恐ろしいものを考えついたものね」
リツコも流石に言葉がなかった。
「そこまでだったなんて」
「じゃあ私は・・・・・・」
ミナキの表情が崩れていく。
「そんなものをトウマに・・・・・・」
「やっとわかったようね」
ミサトはそのミナキに顔を向けて言うのだった。
「自分の今までに。もう少しで取り返しのつかないことになっていたわよ」
「はい・・・・・・」
泣いていた。涙で顔が崩れている。
「私はトウマに・・・・・・。トウマに酷いことを」
「わかったのならいいのよ」
ミサトは優しい声になっていた。
「人間っていうのはね。何度も頭を打つものよ」
「頭を・・・・・・」
「逆に言えば打たないとわからないのよ」
こうも言った。
「痛みと共にわかるのよ。少しずつ」
「そうなんですか」
「そうよ。だから今はトウマ君に謝ればいいわ」
「はい・・・・・・」
ミサトのその言葉にこくりと頷く。泣きながら。
「トウマ君もきっと許してくれるわ。安心して」
「わかりました。けれど」
「彼はきっと戦うわ」
今度はリツコが告げた。
「倒れない限りは。それも安心していいわ」
「けれどもう」
ここでミナキは言うのだった。
「トウマには。彼には」
「システムLIOHね」
「はい。私はあれを封印します」
涙をそのままにしての言葉であった。
「お父様の残した悪魔の遺産を」
「それでいいのね」
「はい」
こくりと頷いた。
「決めました。もう」
「わかったわ。じゃあそうしなさい」
リツコはミナキのその考えを受け入れた。
「貴女の望むように」
「有り難うございます。それじゃあ」
ミナキはミサト達に頭を下げてからその場を後にした。ミサトはそんな彼女を見送りながらリツコとレインに対して言うのだった。
「彼女も。やっとわかったわね」
「そうね」
リツコがミサトのその言葉に応える。
「頭を打ってね」
「頭を打つことも大事よ」
ミサトはあえてこう表現した。
「痛みがないと人間はわからないから。彼女にも言ったけれど」
「その辺りは豊富な人生経験がものを言うわね」
「まあそうね」
笑ってそれを認めるのだった。
「何かとね。それはレインもよね」
「私もですか」
「だってそうじゃない」
くすりと笑って彼女に言うのだった。
「ドモン君と一緒なんだから」
「まあそれは」
その言葉に照れ臭そうに俯く。
「ドモンだってあれで気を使って」
「そうかしら」
「そうは思えないけれど」
ミサトもリツコもその言葉には懐疑的であった。
「いえ、本当に。あれでかなり」
「だったらいいけれど」
「ドモン君がねえ」
二人はまだ懐疑的なままであった。その様子で言葉を続けるのだった。
「まあいいわ。それでね」
「はい」
「トウマ君身体は大丈夫なの?」
「はい、命に別状はありません」
レインはその問いにモ素直に答えた。
「次の戦いにも参加できそうです」
「それはまたかなり丈夫ね」
「何か本当にガンダムファイターみたい」
「実際に彼の身体能力はかなりのものです」
レインはこうも述べた。
「回復力も。ですから」
「そう。じゃあやっぱりいてもらわないと困るわね」
「そうね」172
レインの言葉にミサトが、ミサトの言葉にリツコが頷いた。
「これから戦いが激しくなってくるでしょうし」
「あの二つの勢力あったじゃない」
リツコがまた言う。
「ゲストとインスペクター?」
「ええ。敵機の残骸を調べていたのだけれど」
「何かわかったの?」
「彼等の言葉通りね」
リツコはまずはこう言ってきた。
「地球の技術をかなり使っているわ」
「地球の」
「ええ。そこに彼等も技術も使ってね。それでかなりの性能を出しているわ」
「そうだったの。やっぱり」
それを聞いたミサトの顔が引き締まる。
「嘘は言っていなかったのね」
「残念だけれど捕虜は得られなかったけれど」
「彼等の中まではわからないのね」
「そこまではね。けれど敵機だけでもかなりのものがわかったから」
「よしとしておかないとってわけね」
「ええ。それで」
まだ言う。
「彼等はやっぱり同じ文明圏みたいね」
「それも敵機からわかったのね」
「同じ種類の機体だったし」
次に言及されたのはそこであった。
「言うならばロンド=ベルとティターンズ位の違いかしら」
「だったら技術的には全然違いはないわね」
むしろザフトよりも違いはない。そこまで違いがないとはミサトも思っていなかった。
「また極端ね」
「とりあえず彼等についてわかったのはそれだけ」
リツコはここまでで話を終えた。
「悪いけれど」
「いえ、今はそれで充分よ」
ミサトは微笑んで旧友にそう述べた。
「今はね。それじゃあ」
「ええ。次の戦いにね」
「向かいましょう」
トウマも無事であることが確認されとりあえずは危機は乗り切った。ロンド=ベルはすぐに次の戦いに目を向けるのだった。

第十話完

2007・9・20  
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