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魔法使いへ到る道

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1.いっちねんせ~になったら(ry

 そして時は流れて。童貞卒業を誓ったあの日から早一年。思えば長い道のりだった。頑張って子どもっぽい振る舞いをしたり、近所の子どもたちと遊び呆けたり、いい学校に入るために勉強をしたり。いやー、大変だったぜ。わっはっは。
 ……正直に言います。大して苦労しませんでした。
 学業面は言うまでも無い。余裕のよっちゃんだった。それに元々精神年齢が非常に低かったお陰で子どもの振りもガキ共とのコミュニケーションもうまくいった。なんか兄貴分的なポジションに収まってたのにはびっくりした。案外悪い気はしなかったので、これからはそういう路線を進んでいきたいと思います。
 そして、そんな俺ももう小学一年生!なんと私立だぜ、私立。私立聖祥大附属小学校…だっけか。やったね、大学までエスカレーターだ!中学からは男女別という謎設計だけど構うもんか。
 今思えば、俺は小学生のときどんな子だったんだっけ?六年という期間のほとんどを忘却しているなんて、なんか損した気分になるな。習ったこととかはほぼ覚えているというのに。
 いや、違うのかな?忘れているけれど、改めて似たような問題を目にしたとき成熟した頭脳ではほぼノータイムで答えをだ導けるから思い出していると錯覚しているだけなのかな?
 ………ああ、眠い。体が小学一年生だからか、あまり夜更かしできない。布団に入ればすぐに眠くなってしまう。子どもの体というのも案外不便なものだぜ。……あれ?布団に入ってすぐに夢の国に旅立てるのは以前からだった…よう、な……zzz。


 次の日。入学式は校長先生の話が長かったので眠ってしまった。膨大な経験を積んだ俺には背筋を伸ばしたまま眠ることも動かなければいけないときに瞬時に目覚めることも容易だった。でもさすがに周りのやつらには気付かれてしまい注意されたが、それをきっかけに何人かと仲良くなることができた。結果オーライである。
 そして現在。すでに入学式は終了し、初めてのホームルームでの自己紹介も終了。クラスのみんなが着慣れない制服と見慣れない面々の中にいるせいで不安がり教室中がざわざわとしている。
そんな中俺は、姓名の関係から必然的に決定された席に座り、頬杖をつきながらあくびをしている。眠いわけではない。ただ退屈なのだ。
「せんせー、おしっこー!」
 前のほうの席に座っているイガグリ頭の少年が元気よく手を上げる。その姿にみんなは笑い、先生は苦笑いしながら少年の手を引いて教室を出て行った。
 誰かがお決まりの先生をお母さんと間違えるってのをやってくれないもんだろうか。一度でいいから見てみたい。
「ねえねえ」
 っと、前の席の女の子が話しかけてきた。そこら辺のマセガキなら女の子と話すのに緊張して口ごもったりするんだろうが、俺は違う。場数が違うのだよ!
「んー、なーに?」
 豆知識。この頃の子どもはどうあがいても舌足らずになってしまいます。


 それは小学校に入学してしばらく経ったある日のことであった。
『―――!―――!』
「ん?なんだなんだ」
 その日最後の授業を終えホームルームも完了。全員で元気よくさようならをした後、俺はしばらく友達と話し、さあもう帰ろうとかばんに手を伸ばした時、教室の隅っこでなにやら大きな声が聞こえてきた。
 見ると、なにやら女の子二人がけんかを……いや、片方が片方のカチューシャを取り上げていじめているようだ。
 いじめている方が、確かアリサ・バニングス。二三言しか話したことはないけど、普段の態度を見る限り成績は優秀。けれど友達を作るのが苦手なのか一人でいることが多い。
 もう片方が月村すずか、だったか。こちらも成績は優秀。物静かな性格なのかお喋りする子はいるもののあまり深く接せずよく本を読んでいる。
 うーむ。なぜこんな二人がけんかを……おっと、いかんいかん。なにはともあれけんかを止めないと…っと?
 場を収めようと席を立った俺の目に映ったのは、何処からかつかつかと歩いてきた一人の女の子がけんかをしている二人に近づき、そしてアリサの頬をぶっ叩いた、っておい。
 呆然と頬を押さえるアリサに向けて、その少女は、
「痛い?でも大事な物をとられちゃった人の心はもっともっと痛いんだみょっ!?」
 スパーン、と小気味いい音を鳴らして頭を引っ叩いたらなんか斬新な語尾になった。
 やれやれ、驚いた。この子は…高町なのは、だ。前述の二人よりは言葉を交わしたことがある。が、まさかこんなぶっ飛んだことをするとは思わなかった。頬はだめだろ頬は。
 頭を抑え涙目で睨むなのは。何か言いたげな表情だが、こちらとしても物申したいことがある。
「このバカちんが。確かに大切なものをとられたら辛いけど、それでもやっぱり叩かれたら痛いんだよ」
 なのはの頬っぺたを掴みむにむにしながら言う。反論したそうだが変な顔になっているせいでうまくしゃべれていない。にしても、よく伸びるほっぺだぜ。
 限界まで引っ張った頬をぱっと放し「あうっ」身体の正面をなのはからアリサに変え、その勢いのまま今度はアリサの頭を叩く。なのはの時と比べて威力は四割減くらい。
「お前もだ。一方的に誰かを傷つけるなんて一番やっちゃいけないことなんだぞ」
「……あの、それなら一番ひどいのはキミなんじゃ…」
 おずおずと。恐る恐るといった感じに発言するすずか。普通の人が聞けば至極真っ当だと思い息巻いて俺を糾弾してくるのだろうが、生憎ここにはまだそんな嫌な大人になっていない純粋な子どもしかいないのだ。
 加えて、用意周到な俺は効果的な言い訳もすでに準備してある。
「何を言っているんだ。確かに叩かれたら痛いけど、叩いた俺の心も痛いんだ!」
 一部の隙もない完璧なロジックだった。なのはとアリサとすずか、それに周りで様子を見守っていた同級生たち全員がポカーンとしている。
 とりあえず、当初の目的であるけんかの仲裁は完了したのでさっさと家に帰ることにする。今日は見たいアニメがあるんだ。カバンの取っ手を握りなおし、
「じゃあなお前ら。けんかなんか止めて仲良くしろよ」
 言い残して、教室の出入り口をくぐる。
 玄関に向かう道すがら、ウチのクラスの奴に手を引かれて廊下を走る先生とすれ違った。教師が投入されたのだから、これでこの件は完全に終了するだろう。よかったよかった。


 翌日のことである。
「あ!やっと来たわね」
 廊下で会う同級生と挨拶を交わしながら教室に入ると例の三人娘、なのは、アリサ、すずかが駆け寄ってきた。何か言おうとしたので押しとどめ、とりあえずは自分の席に向かう。
「なんだお前ら、揃いもそろって。そのようすだと仲直りはできたようだな」
「ええ。アンタが帰った後先生が来てね、それから怒られたりパパたちも呼ばれたりして大変だったんだから」
 親御さんまできたのかよ。それはきっとこの頃の子どもにはそこそこ堪えたのではないだろうか。
「で、結局何なんだよ。俺になんか用があるんじゃないのか」
「あ、それなんだけどね…」
「ちょっとアリサちゃん。ずるいよ、一人だけお話して」
「そうだよ。私たちだって関係あるんだからね」
 一人だけぐいぐいと前に来ていたアリサだったが、両サイドの二人に言われ引き下がった。続いたのはすずかだ。
「えっとね、今日はキミに昨日のお礼をしたかったんだ」
 柔らかな笑みを携えそう言うと、残りの二人に目配せをして小さく「せーの」で
「「ありがとうございました」」
「まあ…その、ありがと」
 なのはとすずかはきれいに合ったのに、アリサだけは小さくもごもごとしていた。恥ずかしかったようだ。
 さっそく二人が文句を言い出したので、気持ちは伝わったから十分だ、と治めといた。
 わざわざお礼を言うためだけにとか律儀な子達だなー、と思い感心していると、なんと用件はまだ終わっていなかったのだ。
「あのね、その…わたしたちと、お友達になってほしいの」
「お、おう。いいけど」
 もじもじしたなのはにお願いされてよく考えずに了承した俺。改めて真正面からそういわれると非常に照れくさい。OKした途端三人の表情が輝いたのを見てさらに照れた。羞恥プレイだろこれ。
「私は高町なのは!よろしくね」
「私は月村すずか。よろしくお願いします」
「アタシはアリサ・バニングスよ!よろしくしてあげるわ!」
 やはりアリサだけ方向性が違った。アリサちゃんは素直じゃないなぁ、と二人に言われ顔を真っ赤にしている。
 と、ここまでしっかり自己紹介も踏まえて挨拶されたんだ。俺も応えないとな。
 三人の顔を順番に見ながら、ニカッと笑って俺は言った。

「俺は八代健児―――よろしくな!」  
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