八条学園怪異譚
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第十七話 舞と音楽その一
第十七話 舞と音楽
二人は日下部に案内されながら農業科の奥に向かっていた。その中を歩いていてまず愛実が首を傾げさせて言った。
「あの、何か農業科って」
「そうよね」
聖花も愛実が言いたいことを理解して応える。
「広いとは聞いてたけれど」
「想像以上よね」
「うちや普通科よりも広いわよね」
「それもずっとね」
自分達が通っている商業科や普通科と比較して述べる。
聖花は自分達の周り、夜の農業科を見てまた言った。
「あそこにある建物って」
「あれ?」
「そう、あれ」
右手にある六階建ての校舎に見える建物を指し示しての言葉だった。
「あれって何かしら」
「ううん、何かしらね」
愛実も聖花のその言葉に難しい顔になる。
「あれは」
「校舎かしら」
「そうじゃないの?外見みたらそのままだし」
「そうよね」
「いや、あれは校舎ではない」
ここで日下部がこう二人に言ってきた。
「あれは寮だ」
「あっ、そうなんですか」
「寮なんですか、あれ」
「そうだ、寮だ」
こう二人に説明する。
「八条大学農業科の寮だ。傍に建物が二つあるな」
「あの横にある二つですか」
「あれですね」
どちらも一階建てである。屋根も平たい。
「ううんと、あれはお風呂場と食堂ですか」
「それですか?」
「そうだ、大学の食堂と風呂場だ」
やはりそうだと答える日下部だった。
「新鮮な農学部の食材を食べることが出来風呂にはサウナもある」
「中々快適ですね」
「設備いいんですね」
「寮の中にはクーラーや暖房もある。尚建てるにあたって自衛隊が協力した」
「つまり日下部さん達がですか」
「協力したんですね」
「その通りだ、とはいっても協力したのは陸自さんだ」
日下部のいた海上自衛隊ではなく彼等だというのだ。
「こうしたことはやは陸自さんだ」
「海自さんとか空自さんじゃなくてですか」
「陸自さんなんですね」
「施設の専門家と言ってもいい」
日下部は陸上自衛隊についてかなり肯定的に述べる。その口調は痰痰とはしているが肯定していることは間違いない。
「ブルドーザーもショベルカーも見事に動かしてくれて人の動きもいい」
「つまり工事現場の人達ですね」
愛実は陸上自衛隊をこう認識して述べた。
「つまりは」
「そうなるな。彼等は銃よりもスコップを持つ方が多い」
「実際はそうなんですか」
「戦争をするには戦場を構築することが必要だ」
その中に施設もあるのだ。
「今の陸自さん、私がいた頃からだが」
「皆さんスコップを持っておられたんですか」
「全員が工兵だ」
それが今の陸上自衛隊だというのだ。
「しかも国民が頼めば非常に好意的に引き受けてくれる」
「いい人達でもあるんですね」
「三つの自衛隊の中で最も国民に協力してくれる自衛隊だ」
自分がいた海上自衛隊以上だというのだ。
「映画の撮影でも全面的に協力してくれる」
「そういえば特撮番組とかでも」
聖花は自分が好きなそのジャンルの話から考えた。
「陸自さんって好意的ですね」
「そういうことだ、だからあの寮にしても他の校舎にしてもだ」
「陸自さんが協力してくれたんですか」
「建てるのに」
「そうだ。だからあの寮も自衛隊の隊舎を参考にしている」
「それで校舎みたいなんですね」
「自衛隊形式だから」
二人は日下部の話を聞きながら夜の中に浮かぶその六階建ての白い建物を見て頷いた。それは確かに大きい。
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