とある完全模写の物語
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信じたその先
少年とインデックスに施された脳に作用するであろう魔術、ルーンを見つけ、火織達を待つこと数分、火織達がようやく来たので神童は火織達にこの数分の間に何があったのかを話した。
当然火織達の反応は神童同様、複雑なものであった。
自分が所属している組織にだまされ続けていた、ということは相当ショックが大きいのだ。
しかし、今はそれどころではない。組織、ネセサリウスに騙されていた、と言うことも深刻な事態だが、今はそれよりもインデックスの事の方が大事だ。
神童から話を聞いた火織とステイルは疑いを隠せなかったが、実際、インデックスの口内に刻まれた一文字のルーンを見て、その疑心も確信へと変わった。
そして今、このルーンをどうするか、皆で考えているのだが、いい案が思い浮かばない。
インデックスに刻まれている文字は魔術的なものなので、当然学園都市がどうこうできる問題ではない。となると、この文字を刻んだ魔術側がどうにかするしかないのだが、魔術の知識に詳しいステイルでもどうすればいいか思い悩んでいた。
神童も神童でステイルには及ばない魔術の知識を絞り、どうにか出来ないかと考えていたが、いい案は浮かばない。
と、そんな時、自分の右手をずっと見ていた少年が神童に話しかけた。
「なぁ…俺の右手を使ったら駄目か?」
少年の言葉に神童達は理解が及ばないが、右手、というワードに思い浮かぶ節があった。ステイルは少年が住むマンションで、神童達は高層ビル密集地で、少年の右手について思い当たる節があるのだ。
神童は思い出す。自分の力を打ち消したあの力を。ステイルは思い出す。自分の魔術を打ち消したあの力を。
そのことを思い出した二人は、確かにあの力なら、と思うが、それと同時に明確な効果が判明していない謎の力をこのルーンに当てていいものなのかと考える。
「…疑問に思っていたんだがお前の右手はなんなんだ?今までに一度も見たことのない力だぞ」
「正直俺にも正確なことは分からないんだ。ただ、この右手は異能の力だったら何でも消しちまう。この学園都市の超能力でも、お前らの魔術でもだ」
一見、少年の言っている事は滅茶苦茶だが、それを実際目の当たりにした神童達は少年の言葉を信じるしかない。
しかし、結局の所、少年自身が自身の右手のことに関して理解していないので、安全とは決して呼べない。その事に対し、再び神童はどうするべきか考える。
と、その時、部屋の中にインデックスの苦しそうなうめき声が響く。
「インデックス!」
その声を聞いただけで、皆声を上げ、インデックスの側へと駆け寄る。そこで皆の視界に写るのは何かに体を蝕まれ、痛みに耐えるためか歯を強く食いしばるインデックスの姿だった。
「ステイル…もう迷ってる暇はない。こいつの右手を使い、無理やりルーンを壊すか、それとも記憶を消すか…このどちらかを取らなければインデックスは死ぬ」
「ッ!」
ステイルも分かっているのだ。神童の言った二つの手段しか残れされていないと、そのどちらかを取らなければインデックスは死ぬと。
当然ステイルはインデックスが記憶を失わずに済むならば、それに越した事はない。だが、今まで自分達を騙していたネセサリウスがそう簡単にルーンが壊せるようにしているとは思えないのだ。
恐らく、このルーンを壊した先には何かある。そうステイルは考えずいはいられない。
それは神童も同じように考えてはいるが、神童はもうインデックスが苦しんでいる姿を見ていられないのだ。先ほどどちらかの選択を取るしかない、とステイルには言ったが、神童自身としては、すでに答えは決まっている。最後まで少年を信じることにしたのだ。
「僕は…」
「俺はこいつの右手に賭けるぞ。その後何かしろ来るならまた対処すればいい」
「…君の意見にしては随分と投げやりじゃないのか?」
「インデックスが救われるのなら危険な橋も渡ってやろうじゃないか。これでネセサリウスから追い出されようともな」
今回神童たちが行うのは明確な反逆行為だ。
このルーンを破壊する行為が少年一人によって行われ、それに巻き込まれた形になればまだしも、今回のこれは神童達から少年の方に頼んでいるのだ。例え神童達が長年騙されていたとしても、それは理由にはならない。
ここで少年の右手を使い、インデックスが助かったとしても、その後ネセサリウスに反逆者として追われるかもしれない。その可能性は十分にありえる。
「君はいいのかい?」
「もう決めた事だ」
ステイルは神童の真っ直ぐな言葉を聞き、自分も決心する。例えネセサリウスから命を狙われようと、今自分の目の前で苦しんでいるこの子を守ると。
「僕も君の案に乗ろう」
ステイルも少年の右手を使うことを了承する。これであと一人、了承を得ることが出来れば、インデックスはどうなるにしろ、今までになかった進展を迎える事になる。突然三人の目の前に現れた少年の手によって。
「光輝…その少年の力は本当に信用できるものなのですか?」
「何度も言うが、これは俺の直感に過ぎない。絶対の安全なんて何処にもない。ましてや今から俺が行うことに乗ればそれはネセサリウスへの反逆にも繋がる」
神童の言葉を聞き、火織は眉間に皺を寄せる。
そして目を瞑り、小さく息を吐き出した後に神童の瞳を真っ直ぐ捉えた。
「私が彼女を救うのに臆すると思っているのですか?それに…私は光輝についていくと言ったでしょう?」
「…そうだったな」
神童は火織との出会いを思い出し、そして少しだけ笑みを零した。
しかし、その笑みは一瞬で消え、次には真剣な表情へと変わる。これで神童達三人の考えは纏まった。
もう彼らは後には引けないだろう。ここでネセサリウスを裏切る事によってどうなるかは分からない。もしかしたら自分達がいた場所には戻れないかもしれない。仲のよかった友人達に会うことは出来ないかもしれない。最悪魔術側に追われる可能性だってあるのだ。
思い浮かぶ未来は最悪のものばかり…。
だが、例え自分達三人の未来が暗かろうが、目の前で苦しむ親友を見捨てることなんて、この三人には出来なかった。
「話は纏まったみたいだな…準備はいいか?」
少年の言葉に三人は小さく頷き、何時何が来てもいいように態勢を整える。
そして少年の右手がゆっくりとインデックスの口内に入ってゆき、その数秒後、少年の小さなうめき声と共に何かが壊れる音がその場にいた全員の耳に入った。
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