Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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無印編
第二十三話 考察
side クロノ
士郎達がアースラに滞在することになったため、その関係データを本局に送るのをエイミィに頼むためにオペレータルームに入る。
「ありゃ、クロノ君、どしたの?」
「士郎達のアースラ滞在と協力者としての認定データを本局に送ってほしくてね」
「なるほど、了解。データは持ってきてる?」
「ああ」
頷きつつ端末を渡す。
エイミィは端末を操作パネルに差し込み、操作ししていく。
その横の画面にはデータを集めてたのかフェイト・テスタロッサの姿があった。
「よし。送ったよ~って、フェイトちゃんが気になる?」
「ん? ああ。いまだに居場所は掴めてないんだろう?」
「そう、あのレベルの魔導師だからすぐに出てくるかと思ったんだけど全然尻尾が掴めなくてね。
フェイトちゃんの戸籍情報もなかったから、当然母親の情報もなし。
テスタロッサの姓で該当人物がないか管理局のデータベース検索してるけどさすがに数が多くてこっちはすぐには」
なかなか難しいか。
いや、情報が少ないという意味ではあいつもかなり少ない。
模擬戦でも感じた事だが、どうにも得体が知れない。
「ところで私としてはアースラの切り札と管理外世界の魔術師の戦いにも興味があるんだけど、そこはどうなの?」
「……どうといわれてもな。
アレは士郎は本気じゃなかった」
「でもクロノ君もそうでしょう?」
「まあ、そうなんだが」
エイミィの言うとおり僕ももちろん本気じゃなかった。
間違えてもアースラを壊すわけにはいかないし、非殺傷設定がなくてハンデを背負った士郎に本気でやるわけにいかなかった。
だからこそお互い本気ではないとはいえ、士郎の得意そうな接近戦ではじめは勝負を受けた。
「接近戦では勝てないだろうな」
「やっぱり強いんだね、士郎君」
「強いという事もあるんだが、経験の違いだろう」
魔導師として中距離を主体に訓練してきた自分。
デバイスを持たないがゆえに魔力を秘めた武器を使う士郎。
それぞれの技術の違いだ。
そして士郎が持つ武器は自身の技量に大きく左右される。
あの巨大な岩の剣などいい例だろう。
使えばその威力から並の魔導師ならシールドごと分断されかねない。
だがあの大きさである。
普通は振り上げることさえ困難なモノ。
それを使いこなす技能があって初めて意味がある。
何かおかしい……
そんな事を考えていると
「あら、二人ともどうしたの?」
艦長が部屋に入ってきた。
「いえ……」
「クロノ君と士郎君の実力について少し論議を」
「ああ、模擬戦の事ね」
「はい」
エイミィと僕の言葉に顎に手を当てて少し考え込む艦長。
「クロノ、模擬戦を思い返して何かおかしいところはない?」
「おかしいところですか?」
「そう、よく考えてみて」
艦長の言葉に模擬戦を思い返す。
杖を構えた僕に対し、無手で構えない士郎。
「来ないのか? それとも私から行こうか?」
「ふん。来い!」
いやらしい笑みを浮かべ挑発してくる士郎の誘いには乗らず出方を待つと士郎は外套から鞘に入った剣をとりだして見せる。
そして、予備動作もなしに一気に踏み込んできた。
鞘から剣を抜いてからくると思った僕は反応が一歩遅れるが防ぎきる。
そこからも僕の予想を裏切っていた。
剣を引いた次に来た攻撃は鞘による打撃。
そこから剣、鞘と来てしまいには蹴りだ。
今のミッドではあまり見ない古典的な技術ではあるが、士郎の事を剣士かと聞かれれば正直首を傾げる。
さらに飛んで魔力弾を放てばかわして突っ込んでくるかと思えば、剣を捨て壁や天井を走るという非常識ぶり。
それに魔力弾を平然と掠めるようにかわし、放つ細身の剣。
恐らく剣の投擲も手加減をしていたのだろう。
軌道は直線ではなく曲線を描いていた。
だが曲線の軌道を描いていても、本気ではないとはいえかなりの速度であるスティンガースナイプを捉えていた。
さらに僕に放たれたものも確実に僕を捉えており、かわすなり防御するなりする必要があったのも事実。
さらに死角からのスティンガースナイプにも反応していた。
非常識な岩の剣を平然と振り、こちらへ投げ、それをかわし反撃しようとしてもまるで予定調和のように構えていた。
「予定調和?」
そうだ。
まるでそうするのがわかっていたかのように足元には弾いた剣があった。
僕の行動を予測したかのような動き。
それに僕の魔力弾などを冷静に捉えて当然のようにギリギリでかわすなど普通は出来ない。
できるとすれば過去の経験を伴うという事だが。
「クロノ?」
「今気がつきましたが、ひとつ大きくおかしなところが」
僕の言葉に興味深そうに耳を傾ける艦長とエイミィ
「九歳という年齢の割に経験が多く思えます。
模擬戦の時も僕の動きを読んでいました」
「ん? それってクロノ君よりも経験が上ってこと?」
「可能性としてですが……」
だがそうなると明らかにおかしい。
魔導師としての訓練を開始した時から含めれば僕の経験は士郎やなのはの年齢と同じになる。
仮に士郎が僕が訓練を開始した年と同じ年の時に修練を積んだとしても四年。
その四年で士郎と同じ事が出来るかといえば絶対に出来ないと答える。
なら修練ではないとすれば?
九歳の子供が模擬戦で僕の動きを読めるぐらいの実戦経験がある?
それこそまさかだろう。
そういう事になると見た目と年齢が一致してない可能性も捨てきれない。
「はあ、士郎君については謎だらけね」
「う~ん、一体何なんだろう。ある意味フェイトちゃんよりも謎かもしれないですね~」
エイミィの言うとおりだ。
謎の過去。
九歳という年齢に見合わない戦い慣れた様
そして、術式もわからない魔術
これだけわからないと、もはやどうしようもない。
「とりあえずは士郎君の事は保留としましょう。
まずはフェイトさんとジュエルシードを最優先で」
「了解です」
「はい」
艦長の言葉にうなずく。
確かに今はフェイト・テスタロッサとジュエルシードが最優先だ。
だがそう言ったはずの母さんの表情が気になった。
side リンディ
部屋に戻り、お茶を入れて一息つく。
「年齢と見合わない戦闘技術……ね」
ある意味クロノの見解は当たり前なのかもしれない。
私が士郎君の内面をほんのわずかだが見てしまった。
底の見えない暗い闇を秘めた赤い瞳
確かに九歳とは思えなかった。
だけど
「……疑いたくなかったのよね」
もし本当は子供じゃなかったとしても
私なんかじゃわからない何かを背負ってきた彼と戦う事だけはしたくなかった。
だから
「そうね。信じるしかないわよね」
彼の事を信じよう。
さてもうひと頑張りしましょうか。
体を大きく伸ばして部屋を後にした。
side 士郎
俺達のアースラの生活も最初の二日は静かなものだったが、三日目
「見つけたのか?」
「ええ、それも二つ同時よ」
昼過ぎにリンディ提督に呼び出され、ブリッジになのはとユーノ、俺の三人で行き、状況を確認する。
なんでも二つ同時にジュエルシードを補足。
一つはすでに鳥が取り込み動き出している。
そして、もう一つは
「発動直前。だけどこのままにしてたらフェイトちゃんに奪われちゃうよ」
エイミィさんの言うとおりだ。
こちらの動きを警戒しながら動いているフェイトを未だに管理局は補足できていない。
なのはが鳥の相手をしている間に奪われる可能性が高い。
「なのは、ユーノは鳥の相手をしてくれ。
俺がもう一つの方に行く」
正直万が一に備えて俺もなのはと共に行きたいが、ジュエルシードの確保が優先だ。
それにどちらかにフェイトが来る可能性も高い。
「士郎、勝手に」
「わずかな遅れで取り逃すことすらある。
俺は封印は出来んが、確保するだけなら問題はない。
なのはがもう一つの封印を終えた後にこちらに来てくれればいい。
クロノを出して緊急時の手札が減るのは問題だろう」
「……そうね。いいでしょう。
なのはさんとユーノ君はジュエルシードを取り込んだ鳥の方を、士郎君はもう一つの方をお願いします」
「「はい」」
「心得た」
リンディ提督の言葉に先に転送ポートからなのは達が出撃し、次に俺が転送される。
俺が現場に転送されると同時に青い光の柱が現れた。
どうやら何かを取り込むかして発動したようだ。
野犬でも取り込んだのか虎を超える大きさの四足歩行の獣がいた。
俺がここにいればフェイトが来ても何とかは出来る。
それにアースラに滞在中は下手に実力を見せるわけにいかないので体を動かしていない。
トレーニングルームはあるにはあるが、監視されている可能性があるのに下手な事も出来ない。
というわけで
「運動不足の解消ぐらいには使えるといいのだが。来い、駄犬」
俺の言葉を理解したわけではないだろうが、雄叫びをあげて飛びかかってくる獣。
少し付き合ってもらうとしよう。
side リンディ
なのはさんもユーノ君も優秀ね。
鳥を自由に飛ばさせないように転送と同時に魔力弾を上から落とし、飛行高度を下げさせる。
高度が下がったらユーノ君のバインドで動きを封じ、なのはさんが封印する。
「なかなか優秀だわ。このままうちにほしいくらいかも」
そして、なのはさん達とは別格なのが士郎君。
ジュエルシードを取り込んだ獣が飛び掛かってきても怯えることなく半身をずらしてかわす。
まるで体の調子を確かめるような感じね。
そういえばアースラに来て、模擬戦以降本格的に体を動かすのは初めてだったはず。
多分準備運動を兼ねてなんでしょうね。
飛び掛かってくる獣をかわすこと五回。
そして再び咆哮し、飛び掛かってくる獣を今度も同じようにかわすのかとおもったら違った。
今度は半身を引くのではなくて一歩踏み込んでって
「なっ!」
「ちょっ!」
クロノとエイミィが声を上げるのも仕方がない。
獣の突撃に無手のまま迎え撃った。
「いい加減、耳障りだ」
振り上げた手が凄まじい勢いで振り下ろされ、ジュエルシードを取り込んだ獣の顔面に叩き込まれた。
そして、凄まじい音と共に地面に叩きつけられる獣と陥没する地面。
「な、なんて馬鹿力」
クロノの言葉に同感ね。
なんとか必死になって起き上がろうとする相手。
だけど
「あ、あれじゃ、まともに動けないよね」
エイミィの言うとおり、先ほどの一撃で脳震盪でも起こしたのか体を起しても再び地面に崩れ落ちている。
あれで平然と立ち上がれるとすればなのはさんでは手に負えないかもしれないけど
「しかしあんな一撃まともに受けたくもないな」
「ああ、そうだね。
この前クロノ君もそうだったけど、士郎君も本当に手を抜いてたんだね」
クロノとエイミィがそんな話をしている。
やはりあれだけの力を持っているのだから真正面から戦うのは避けたいところね。
今回もジュエルシードを取り込んだ動物だから生きてはいるけど、生身であんなのは受けたくもない。
いや、先日の模擬戦の事も考えるなら、バリアジャケットなど役には立たない。
士郎君が岩の剣を使って戦えば武装局員でも一瞬で間合いに踏み込まれて、一撃で肉塊に変えられるでしょうし。
なによりもその力以前に魔法もなにも使わないでジュエルシードを取り込む獣を一撃で動けなくするなんて非常識としか言いようがない。
しかも相手が動けないとわかっていても視線を外さず獣を見下ろし警戒をしている。
とここで
「士郎君!」
なのはさんとユーノ君が現れるとこれ以上警戒する必要はなくなったと視線をなのはさんに向ける。
「えっと……これって」
起き上がろうにも起き上がれない獣を見て、なのはさんが困惑の表情を浮かべる。
その気持ちはよくわかるわ。
私もこうして映像を見ていないで獣を見たら何をしたのか理解できなかっただろう。
「とりあえず動けないようにした。封印を頼む」
「は、は~い」
なのはさんに封印を任せている時、士郎君はどこか遠いところを見ていた。
side 士郎
大した運動にはならなかったな。
もっともこの陥没した地面を見れば単純な力は凄まじいという事が管理局にも伝わるだろう。
これだけで今回は良しとしよう。
なのはに封印を頼み、ふと懐かしい匂いがした方に視線を向ける。
いた。
フェイトとアルフだ。
だがこちらに近づく事はない。
管理局を警戒しているためだろう。
「士郎君、封印終わったよ」
「ん? ああ、帰ろうか」
なのはに呼ばれ、フェイトから視線を外して、なのはと向かいあう。
平然を装っているがどこか残念そうだ。
おそらくフェイトと会える事を期待したのだろう。
やはり出来る限り早い方がいいだろうな。
「お疲れ様、今ゲートを作るからそこで待ってて」
「は~い」
オペレータとなのはの会話を聞きつつ、再びフェイトがいたほうに視線を戻すがもうそこにはもういなかった。
なのはとフェイトがこのままというのは問題だ。
どこかで決着なり、話しをするべきだろう。
でなければ、お互い後悔することになるだろうからな。
なによりフェイトが今どのような生活を送っているのか全く見えないという事もある。
フェイトに虐待をした母親と共にいるのか、それともアルフと二人でどこかに潜伏しているのか。
どちらにしろ、少しでも早くこの件が片付くように願うとしよう。
これが終わり、少しでも早く二人が笑顔でいれる様に
俺の誓いを守るために
後書き
今週三話目でした。
それではまた来週。
ではでは
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