スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇
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第百二十五話 刹那の夢
第百二十五話 刹那の夢
パキスタン北方でもネオ=ジオンを破ったロンド=ベルはそのまま北上する。そして遂にネオ=ジオンの地上の拠点であるタシケントへと迫っていた。
「それにしてもよ」
ジュドーが移動中にふと呟いた。
「この辺りってな色々あるよな」
「そういえばそうね」
ルーがそれに頷く。
「昔はグン=ジェム隊がいたし」
「そこで八卦集とも戦ったしね」
エルが言う。
「あの時が何かもう遠い昔みたいだよね」
「そうだよな。あまり経っていねえってのにな」
イーノとビーチャも口を開いた。
「それでまた戦うし。それが終わったらまたヨーロッパだしね」
最後にモンドが述べた。
「同じことの繰り返しってやつか?」
「何か嫌な感じ?」
「そうだな。何かな」
プルとプルツーが言う。
「やっぱり戦争を終わらせたいよな」
「そうよね。戦っているのなら」
シーブックとセシリーも彼等と同じ意見であった。
「やっぱり」
「いや、同じことの繰り返しにはなってはいない」
カミーユがここで出て来た。
「カミーユさん」
「そうなんですか?」
「ああ、ちゃんとな。戦いは進んでいる」
「宇宙じゃ大規模な反攻作戦を検討しているらしい」
マサキもそこにいた。美久を隣に置いて語る。
「ティターンズに対して」
「ティターンズに」
「うん、まだ計画の段階だけれどね」
「そうなんですか」
「けれどティターンズだけじゃないですしね」
ウッソが言った。
「他にもザフトやネオ=ジオンも宇宙でも健在だし」
「地球にはミケーネ帝国もいるぜ。あいつ等今も日本にいるしな」
オデロも口を開いた。
「まだまだ予断を許さないってことだな」
「そうだな」
オデロはトマーシュに応えた。それだけ今は大変な状況なのである。彼等自身が最もよくわかっていることであった。
「それでもここで勝てばまずはネオ=ジオンの地上の勢力を完全に駆逐できる」
「返す刀でティターンズを」
「そうだ。それでミケーネを倒したら」
「地上に残っている敵の勢力は殆どなくなるわね」
「ああ、その通りだ」
カミーユはフォウにこう語った。
「だから今が堪え時なんだ。色々あるけれどな」
「それでもあれだな」
「はい」
カイの言葉に顔を向けてきた。
「バルマーがまだいるしな」
「バルマーが」
「それに原種もまだいるだよ。油断したら危ないぜ」
「そうだな。だから俺達もロンド=ベルに合流したし」
ハヤトも言う。
「希望を持つのはいいけれどな。そこに辿り着くまでにはまあ苦難があるな」
「それを乗り越えてこそだからな」
スレッガーとリュウも。昔からの戦士達もそこに集結していた。
「けれどまあ一年戦争の時よりはましだぜ」
カイはまた言った。
「あんな人が死ぬ戦争ってのはな。もう見たくはない」
「全くだ。今もかなりの犠牲者が出ているけれどな」
リュウがそれに応える。
「それでもあの時に比べれば。混沌としていても」
「混沌か」
隼人がそこにやって来た。そしてポツリと呟く。
「それにしても最近、バルマー戦役からそうだよな」
「ああ」
それにトッドが頷く。
「俺もバイストンウェルとこっちを行き来してるしな。ラ=ギアスにも行った」
「偶然なのかな、これは」
「それはどういう意味だ、隼人」
リュウがそれに問う。
「何かあるっていうのか?」
「いやね、考えてくれませんか」
彼は言う。
「偶然ガイゾックやらそんなのが来たり使徒が出て来たり。偶然がこんなに続くのかって」
「言われてみればそうだな」
竜馬もそこに来ていた。そして隼人のその言葉に頷く。
「偶然にしては出来過ぎている」
「誰かがシナリオを書いている・・・・・・まさかな」
「いや、有り得るかも知れない」
隼人にマサキが言った。
「若しかしたらだけれど」
「じゃあそれは一体誰なんだ?」
弁慶がそれに問う。
「いるとしたら神様みたいな奴なのか?」
「そこまでは僕もわからないけれど」
マサキもそこまではわからなかった。
「けれどおかしいのは事実だよね、何か偶然が置き過ぎている」
「グランゾンじゃねえよな」
武蔵がふと言った。
「未来に行く時になったみたいね」
「いや、多分グランゾンは関係ないと思う」
マサキはそれに答える。
「けれど彼は何かに気付こうとしているのかも」
「何かか」
「うん」
シュウのことに話は移っていた。
「やっぱり何かがおかしいから。これだけの偶然が続くのは」
「さっき神様って言ったよな」
忍がマサキに問う。
「はい」
「若しこんなことをする神様がいたらそいつはとんでもねえ野郎だぜ」
「そうだね、忍の言う通りだ」
沙羅がそれに頷く。
「悪意ってのを感じるよ」
「悪意か。言われてみれば」
雅人もそれを聞いて考える顔になった。
「ドロドロとしたな。若しいるとすればだがな」
亮も言う。彼等はこの時銀河、いや全ての世界の裏で蠢く何かを感じているのであった。
彼等がその何かを感じていた頃サコンやリツコ達はあるもの発見の報告を聞いていた。
「これがなのね」
「はい」
サコンがリツコに答える。パソコンのモニターに何かが映っていた。
それは研究所の資料である。既に廃棄されたものであろうか。
「何、これ」
ミサトはその資料を見て顔を顰めさせていた。
「死体の山に生体サンプルばかり・・・・・・一体何が」
「強化人間の研究所ね」
リツコは述べた。
「クローン技術を使って研究していたみたいね」
「クローン技術を」
「そう。そして孤児に色々と薬物を投与して。それで研究していたみたいよ」
「ブルーコスモスが?」
「いえ、ここは僕の知らない場所です」
そこにいたアズラエルが答えた。
「それに僕はこんなに採算の合わないことはしないです。クローン一人作るのにもかなりコストがかかります。僕はあくまでシュミレーションと動物実験の結果を死刑囚に行っていただけで」
それがあの三人だというのだ。
「ですがこれはね。知らないですね」
「そうなの。じゃあ」
「これは一体誰が」
「ジブリール君でしょうね」
「彼がですか」
「おそらくは。この施設があったのはマルタ島ですよね」
「はい」
「では間違いないです。あそこは彼の勢力圏でしたから」
「じゃあやっぱり」
「彼が」
「おそらくは。けれどこの資料が手に入ったのは大きいのではないですか?」
サコンを見て問う。
「貴方達にとっては」
「ええ」
サコンはそれに頷いた。
「その通りです。これを調べていけば彼女についてはどうにかなるかも知れません」
「けれど時間がないわよ」
ミサトが言う。
「それでも大丈夫なの?」
「時間がないのは何時でもよ」
リツコの言葉はいつもと変わらない様子であった。
「だからね。今度も」
「期待しているわよ」
「任せて。そうしたらあの子も喜ぶでしょうね」
「シン君ね」
ミサトは彼の名を口にしてすっと笑った。
「あの子もあれで結構いい男になれる素質があるのよね」
「あら、タイプだったのかしら」
「ま、まあそうね」
微妙な顔をしてそれに応える。
「ああいう子も好きよ」
「へえ、葛城三佐は少年がお好きだったのですか」
アズラエルはそれを聞いて面白そうな声をあげる。
「それはまた」
「ミサトは昔から守備範囲が広いんですよ」
「ちょっとリツコ」
その言葉にはクレームを入れる。
「誤解されるようなこと言わないでよ」
「けれど嫌いじゃないでしょ」
「まあね」
嫌々ながらそれを認めた。
「キラ君も結構好きよ」
「アムロ中佐もね」
「あの人はまた別よ」
ミサトは言う。
「憧れのタイプね」
「どうしてかしらね。貴女って昔からアムロ中佐のファンだったわよね」
「格好いいじゃない」
それがミサトの言い分であった。
「エースで分別があって落ち着いていてね」
「昔はそうじゃなかったらしいわね」
「ブライト艦長がよく言うわよね。どうしようもない奴だったって」
「そうそう。意外だけれど」
「それがああなるなんて。不思議ね」
「男の子ってのは奇麗になるのよ」
「それは意味が違うんじゃなくて?」
「奇麗なのは顔だけじゃないのよ」
流石にミサトはわかっていた。
「心もね。そうなるのよ」
「いい言葉ね」
「そうでしょ。だからシン君も有望株よ」
「じゃあ私も男の子に注目してみようかしら」
リツコもそう思いだした。
「そうしたら何か面白いかも」
「いいんじゃない?猫以外にもね」
「ふふふ」
まだステラのことは完全にはわからないが何かがわかろうとしていた。だがシンがそれを知らないのが事件のはじまりとなってしまうのであった。
ネオ=ジオンは今タシケントにおいて様々な準備に追われていた。
「並行して進めていけ」
全体の指揮にあたるグレミーが周りに命じる。
「防衛ラインもな。わかったな」
「はっ」
「そしてシャトルの方はどうなっているか」
「幸い数は充分にありましたので」
「そうか、ならいい」
部下の一人のその報告に満足して応える。
「いざという時には宇宙軍にも連絡を取るぞ」
「はい」
「アクシズまでの道も今では険しいからな」
「ティターンズもプラントもいますし」
「そういえば最近プラントはどうしているか」
「今は自国領に閉じ篭っています」
「戦力の回復を図っているのか?」
「おそらくは」
「北アフリカとスピットブレイクのことが響いているか。どうやら予想した通り継戦能力は低いようだな」
「はい。彼等のネックは人口です」
「そうだな。では彼等は今は攻勢には出ないか」
「おそらくは。どうやら連邦とも水面下では和平の道も話しているそうです」
「ふむ」
「少なくとも今は大規模な軍事行動は起こさないでしょう」
「わかった。だが警戒は緩めるな」
「わかりました」
「彼等がいなくとも連邦とティターンズが健在なのは変わらないからな。バルマーもいる」
「はい」
「敵は多いからな。そして原種も」
ネオ=ジオンもまた多くの敵を抱えているのが実情なのである。
「いる。退路も容易ではないだろうな」
「一度宇宙に出てしまえばモビルスーツも出せるのですが」
「ではきりのいいところで退こう」
グレミーはそれを聞いて述べた。
「命があればどうとでもなるからな」
「了解です。それでは」
「まずはタシケント防衛を第一に考える」
「そして状況が芳しくなければ」
「そういうことだ。わかったな」
「了解」
ネオ=ジオンは防衛と撤退、この二つで危機にあたろうとしていた。その中で彼等が待っているのは。ロンド=ベルの攻撃であった。それから逃れられないことは彼等もわかっていたのだ。
ロンド=ベルはタシケントのすぐ側まで到達していた。既に戦闘態勢に入っていく。
「皆用意はいいな」
大文字が全員に問う。
「これからタシケントへの攻撃を行う」
「了解」
「ここで勝てればネオ=ジオンはまた地上での勢力を失う」
「今度は来ないようにさせる為にもな」
「正念場になるわね」
ビルギットとアンナマリーが述べた。
「だからこそだ。全機発進」
出撃命令が下る。
「包囲し一気に攻める。いいな」
「了解」
皆それに頷く。そして出撃して攻撃に入った。
既にネオ=ジオンは防衛態勢を整えていた。多くのミサイル砲座やビーム砲座もあった。だがそれ等が真っ先に潰されていった。
「これならどうだ!」
ダバがエルガイムマークⅡのバスターランチャーを放つ。それで砲座陣地を薙ぎ払っていく。
それで防御力が瞬く間に落ちていく。そしてそこに隙が生じたのを見てロンド=ベルのマシンが突入する。こうしてロンド=ベルとネオ=ジオンの地上での最後の戦いがはじまったのであった。
「ガトー、これで!」
「退くつもりはない!」
コウとガトーはまた戦闘に入っていた。両者はその中で言い合う。
「ジオンの大義を果たすまでは!」
「それで多くの犠牲が出てもか!」
「大義の前の犠牲だ!」
ガトーは言い切った。
「犠牲は止むを得んのだ!」
「それは御前もか!」
コウはその言葉に問う。
「御前も犠牲になるというのか!」
「無論だ!その為には命なぞ惜しくはない!」
それがガトーの考えであった。
「私は義があればいいのだ!」
「そうか、なら俺は!」
コウはそのガトーに向かっていく。
「その犠牲を防ぐ為に戦う!御前とな!」
「ならば来い!」
ガトーは叫ぶ。
「ジオンの大義を果たす!」
二人は一騎打ちに入った。マシュマーとキャラはギャブレー、レッシィと対峙していた。
「ううむ、この男」
マシュマーはギャブレーを見て呟く。
「他人とは思えぬな」
「声が違うじゃないか」
キャラがそれに突っ込みを入れる。
「いや、声は今はいい」
「いいのかい」
「既に向こうに一人いるしな」
ライトのことである。
「それはいい」
「そうなのか」
「それでだ」
またギャブレーに顔を戻す。
「あの男、どうして私に似ているのだろうな」
「頭の構造じゃないのかい?」
キャラは言う。
「そのせいだろ」
「何か引っ掛かる言葉だな」
「そうかね」
「まあいい。ギャブレット=ギャブレー殿だったな」
「如何にも」
ギャブレーもそれに応えた。
「貴殿と太刀を交えたい。よいか」
「無論。その為に来たのだからな」
ギャブレーもそれに頷く。
「では参る」
「うむ、いざ尋常に」
「勝負!」
二人は同時に前に出た。そして斬り合いをはじめたのであった。
「なあそこのヘビメタの姉ちゃん」
「あたしのことだね」
キャラはレッシィの言葉に応えた。
「そうさ。丁度お互い手が空いてるしさ」
「ああ、いいよ」
キャラは笑ってそれに返した。
「じゃあ容赦はしないよ」
「こっちこそね。それじゃあ」
「派手にやらせてもらうよ!」
ファンネルが放たれる。今二人の戦いもはじまったのであった。
ネオ=ジオンの指揮にあたるグレミーはその中であることを思っていた。それは自機のことであった。
「やはりバウでは限界があるな」
彼はそのバウのコクピットの中で呟いていた。
「クインマンサを用意しておくか。さもないとハマーンには勝てないな」
指揮を執りながら思っていた。戦いはすぐにネオ=ジオンにとって劣勢になろうとしているのも見ていた。
それが決定的になったのはフリーダムとジャスティスの突貫によるものであった。
「アスラン!」
「わかってる!」
目の前に展開しているサイコガンダムマークⅡの部隊に二機で突っ込む。まずはキラがレール砲で前に進むアスランを援護する。
それを受けたアスランはサイコガンダム達を斬り裂いていく。そしてキラが今度はフルバーストを放ち止めをさしていった。
これでサイコガンダムの部隊が動けなくなった。これはかなり大きかった。
重火力のサイコガンダム隊の戦闘不能はそのままネオ=ジオンの戦力低下に直結した。その穴にレイのレジェンドが素早く入って来た。
「今度はこれだ」
ドラグーンを放つ。敵の小隊を次々に取り囲み撃破していく。ビームの嵐が荒れ狂い敵を薙ぎ倒していくのである。
敵の戦力がさらに落ちる。そこへシンのデスティニーも突入してきた。
「あいつだけにやらせるか!」
そう言いながら突っ込む。目の前のドーベンウルフ隊に攻撃の目を向ける。
「邪魔だっ!」
巨大なビームライフルを出してそれで放つ。光が狼達を吹き飛ばし瞬く間に戦闘不能にしていったのであった。
「う、うわああああっ!」
「脱出だあ!」
ネオ=ジオンのパイロット達は為す術もなく脱出していく。これでまた戦局が大きく傾いたのであった。
「グレミー様」
「わかっている」
グレミーは部下の言葉に頷いた。
「これ以上の戦闘は無意味だ」
「はっ」
「撤退する。ダメージを受けている者から下がれ」
「わかりました」
ネオ=ジオンは撤退を開始した。だがロンド=ベルの動きはグレミーの予想よりも速く、そして攻撃は熾烈だった。撤退は思うようにはいかなかった。
「まずいな」
「どうされますか?」
「木星トカゲも数が減っているな」
「はい」
「だがそれに頼るしかあるまい。いざとなれば無人モビルスーツを出せ」
「わかりました」
何があっても宇宙へ帰ろうとする。既にシャトルの発進が行われていた。
だがその中で。一機のモビルスーツが姿を現わした。
「あれは・・・・・・」
「まさか」
「お兄様、また」
「アイナ、来い!」
ギニアスであった。彼はまた戦場に姿を現わしてきていたのだ。
「ここは通さぬ!そして今度こそ裏切りの代償を支払ってもらう!」
「あんた、まだそんなことを」
「シロー、駄目よ」
言おうとするしローをアイナが止めた。
「しかし」
「もういいの。だから」
彼女は言う。
「こうなったら私の手で」
「そうか・・・・・・いや」
シローも言う。
「俺も一緒に行く。それならいいな」
「・・・・・・有り難う」
「サハリン少将」
グレミーが彼に通信を入れる。
「まさか自ら楯となられるのか」
「楯!?何のことだ」
今彼は友軍のことは考えてはいなかった。
「違うと?」
「このアプサラスの力、見せてやるだけだ。そして」
またアイナを見据えていた。
「アイナを!今度こそ!」
「・・・・・・駄目か」
グレミーは彼が狂気に支配されているのを見て取った。そしてこれ以上の言葉は無駄だと悟ったのであうる。
だがこれを利用することにした。すぐに指示を下す。
「総員このまま撤退する」
「ですが」
周りの者はギニアスのことを述べようとする。しかしグレミーはここで言った。
「少将は自ら楯となられ我々を撤退させるおつもりなのだ」
「何と」
「閣下・・・・・・貴方は・・・・・・」
この言葉はグレミーの配慮でもあった。
「では撤退だ、閣下の御気持ちを無駄にするな!」
「了解!」
ネオ=ジオンは素早く撤退に移る。そして瞬く間に撤退を軌道に乗せていた。
「早いな」
シナプスはその様子を見て呟く。
「これは間に合わんか」
「ですね」
ジャクリーンがそれに頷く。
「あまりにも動きが早く」
「それにだ」
シナプスは次に前を指差した。
「あのアプサラスをどうにかしないとな」
「はい」
「アイナ!そこか!」
ギニアスはアイナのドーベンウルフに気付いた。
「ここで倒す!覚悟しろ!」
「お兄様、やはり」
兄を見上げる妹。その目には深い哀しみがあった。
「ここで私達は」
「死ねっ!」
妹に向けてビームを放つ。
「そしてこのアプサラスの素晴らしさを知らしめるのだ!」
「けれど私は」
哀しみをたたえた顔が急に変わった。
「ここで死ぬわけにはいかない!」
キッとして言う。ドーベンウルフを前に動かす。
「なっ!」
「お兄様、せめて私の手で!」
「アイナ様・・・・・・」
見守るノリスは今彼女の哀しみを見た。それに何も言えなかった。
「アイナ!」
そこにシローも来た。
「一人じゃない!俺もいる!」
「シロー・・・・・・」
「動きを合わせてくれ」
シローはドーベンウルフの横に来た。そして言う。
「アイナは右だ!俺は左!」
「ええ、わかったわ」
「左右から真下に入る、そして」
「そこから攻撃ね」
「そうだ。やれるな」
「ええ」
恋人の言葉にこくりと頷く。
「合わせるわ。お願い」
「よし、行くぞ!」
二人のマシンは同時に動きだした。
「一機増えようとも!」
ギニアスにはもうシローの存在も目には入っていなかった。
「どうということはない!死ね!」
「こんなもので!」
シローはジグザクに動きアプサラスの執拗な攻撃をかわす。アスファルトが砕け閃光が辺りを覆う。
「やられるか!」
「シロー、今よ!」
アイナの声がする。
「上!」
「よし!」
アプサラスの真下に来た。今が好機であった。
「お兄様、これで!」
「覚悟しろ、ギニアス=サハリン!」
EZの全弾発射とドーベンウルフのメガランチャーが上に放たれる。それはアプサラスの巨体に次々と吸い込まれていく。
「何だとっ!?」
それを受けたギニアスは声をあげる。
「アプサラスの出力が低下している。まさか」
「これで終わりだ!」
「お兄様、お覚悟!」
「馬鹿な、認めんぞ!」
ギニアスは墜落していくアプサラスの中で叫んでいた。
「私のアプサラスがまたしても敗れるなぞ。そんなことは」
「まだ妄執にしがみついているのか」
ショウがそれを見て呟く。
「何て奴だ」
「あの人のオーラ、凄い歪になってる」
チャムはそれをはっきりと感じていた。
「何てオーラ、それに」
「終わりです」
シーラも言った。
「彼は今自滅します。自身の心により」
「自滅なのですか」
「はい」
ノリスの問いに頷く。
「心を制御出来なかった為に。それで」
「ギニアス様・・・・・・」
「まだだ、まだ!」
ギニアスは墜落していくアプサラスの中で叫んでいた。
「私は・・・・・・アプサラスは!この程度では!」
炎に包まれ空中で大爆発を起こした。それがギニアス=サハリンの最期であった。
「お兄様・・・・・・」
アイナは兄の最期を見届けていた。その目に涙が宿る。
「どうして・・・・・・こんなことに・・・・・・」
「アイナ・・・・・・」
シローが彼女の側にやって来た。そして声をかける。
「うまくは言えないけれど」
「いえ、いいわ」
そんな彼に応える。
「有り難う」
「・・・・・・ああ」
アプサラスの撃墜で戦闘は終わった。ロンド=ベルはネオ=ジオンを地上から駆逐し中央アジアを完全に奪還した。そして北極圏にいるティターンズとの戦いに向かうことになったのであった。
「アイナさん、泣いてたわね」
「はい」
ミネルバの女性パイロット達は自動販売機の前の休憩所に集まっていた。フィリスがルナマリアの言葉に応える。エルフィやメイリンも一緒にいる。
「やっぱりショックだったのね」
「実のお兄さんでしたからね」
エルフィも応える。
「やっぱり」
「そうよね。それでもアイナさんは攻撃した」
「あんなに優しい人が」
メイリンは俯いていた。彼女達も女だからそれがわかったのだ。
「あえて銃を引いたのね」
「そしてシローさんもそんなアイナさんを」
「何ていうかさ」
ルナマリアはここで言った。
「あたし今までナチュラルって何処かで馬鹿にしていたんだ」
「そうだったの」
「ええ、正直に言うとね」
妹に対して答える。
「けれどね。アイナさん見て」
「考えが変わりましたか」
「ええ。何かね」
フィリスにも言う。
「あたし達と変わらない。いえ、人によってはあたし達より凄いって」
「ナチュラルでもコーディネイターでも変わらないですね」
エルフィは呟く。
「その心は」
「能力の問題ではなくて」
「そうなのよね。同じ人間なんだから」
メイリンは呟く。
「あたし達もアイナさん達も」
「一矢さんってエリカさんがバーム星人だってわかっても取り戻そうとしたのよね」
「はい」
エルフィがルナマリアの言葉に答える。
「そうです」
「星が違うのも。そんなものなのね」
「一矢さんは素晴らしい方です」
フィリスは一矢を見ていた。
「そしてエリカさんも」
「・・・・・・あたしはあんなに凄くはなれないわ」
もうルナマリアは赤服であることを問題とはしなくなっていた。
「あそこまで一途に誰かを愛して、それを手に入れられない」
「はい」
「私も」
「わたしも」
それはここにいる面々の誰もが同じであった。
「あそこまでは」
「本当にさ」
ルナマリアはまた述べた。
「コーディネイターとかナチュラルとかってちっぽけなものだったのね」
「そうね」
メイリンが応える。
「そんなのを越えて。それで」
「戦いを終わらせる。それがラクス様の御考えです」
「その中心になるのがあれよね」
「はい、SEEDです」
フィリスは答えた。
「私もまたそうですが」
「人類の新たな可能性だっては聞いたわ」
その説明はルナマリアも受けた。
「それをどう使うのかよね」
「そうです」
「今のところキラとアスランは上手く使っているわね」
「そうね」
メイリンもそれはミネルバの艦橋で見ていた。
「けれどあいつはね」
「そうね、あいつは」
「シンさんはまだわかっていないのです」
「SEEDのことを」
「はい」
フィリスは述べる。
「まだ何も」
「あいつは強情だしね。それに一つのことしか考えられないし」
「今でもね。あの娘につきっきりよ」
「ステラさんですよね」
「そう、彼女に」
エルフィに言う。
「どうしたものかしらね」
「難しいです」
フィリスにもそれはわからなかった。
「どうなるのか。サコンさん達が間に合ってくれれば」
「そうですね」
彼女達は今ロンド=ベルの中で多くのものを見ていた。
シンは今タリアとミネルバの医師の話を聞いていた。壁に隠れての盗み聞きであるが。
「サコン君達の方はどうなの?」
「正直手間取っています」
「そうなの」
「何か難解な部分が多いらしくね」
「彼等でそうなるとはね」
タリアにとってもそれは意外であるらしかった。溜息が声に混じっていた。
「それでね」
「はい」
「時間はあと何日なの?」
「このままでは数日ですね」
「数日・・・・・・」
シンはその言葉に顔を青くさせた。
「延命処置も限界ですし」
「そんな・・・・・・ステラ・・・・・・」
それでシンの頭の中は真っ白になってしまった。
「このままじゃ」
「それでも何とかしたいっていうのがサコン君達の考えね」
タリアのこの言葉はもうシンの耳には入っていなかった。
「どうしてもね」
「何とかできればいいのですが」
「彼等に期待しましょう」
「無理だ」
シンはそれを聞いて呟く。
「そんなのはもう」
「それしかないわね」
「ええ」
「それまでは何としても」
「延命処置を続けましょう」
「ステラ・・・・・・」
シンは物陰で彼女の名を呟いた。
「このままだと彼女は」
ここでシンは過去の忌まわしい記憶を思い出した。
川辺で家族とキャンプをしていた時川に落ちた妹を助けられなかったことを。マユは父に助けられたがそのことは今でもはっきりと覚えていた。
「もうあんな思いはしたくない・・・・・・!」
家族を、即ち人を護る為に彼は戦っていた。ステラにもそれは誓っている。その彼が動かない筈がなかった。そして彼は動いた。
一人医務室へ向かう。そのまま行動に移った。
「ちょっとあんた」
ルナマリアは廊下で擦れ違ったシンを必死に止めようとしていた。
「何考えてるのよ」
「見ればわかるだろ」
シンはそう言うだけであった。彼はベッドに横たわったままのステラを前に引いていたのだ。
「彼女を返す」
「返すってティターンズに!?」
「そうだ」
返事はむべもない。
「何言ってるのよ。そんなことしたらどうなるか」
ルナマリアはそんな彼を必死に止めようとする。
「銃殺よ、銃殺!」
「わかってるさ」
「だったらどうして」
「どうだっていいだろ!御前に関係ないだろ!」
「相手はティターンズよ!」
ルナマリアは正論であった。だがこの時のシンには正論なぞどうでもよかった。
「そんなことしたら」
「だから何だって言うんだ!」
その正論を突っぱねた。
「ステラは今死にそうなんだぞ!」
「それはサコンさん達が今やってるじゃない」
「信じられるものか!」
これがシンの本音であった。
「ナチュラルのやってることなんて!」
「その娘もナチュラルじゃない。一体何を」
「とにかく見捨てるなんて俺には出来ない」
シンはあくまで聞こうとしない。
「何があってもな」
「シン・・・・・・」
ルナマリアを無視して格納庫に向かう。だがそこに兵士達が通り掛かった。
「待て、彼女は」
「・・・・・・・・・」
シンはそれに答えようとしない。そのまま向かう。
「おい!」
「止まれ!」
それを兵士達が呼び止める。
「どういうことなんだ、説明しろ!」
「さもないと」
しかしそこに誰かがやって来た。レイであった。
「なっ、レイ!」
「御前、一体!」
「シン!」
レイは兵士達に向かいながらシンに声をかけてきた。
「レイ・・・・・・」
「御前は帰って来るんだな」
「あ、ああ」
シンはそれに答える。
「勿論だ。けれど」
「なら行け」
彼は言う。
「そしてその娘を」
「・・・・・・いいんだな?」
シンはそう言うレイに対して問う。
「それで」
「構わない。さあ早く」
「わかった。じゃあ」
「またな」
「ああ、またな」
ゲートを開けてそのままデスティニーに乗る。無論ステラも一緒である。
「じゃあ行こう、ステラ」
デスティニーが羽ばたいた。そして何処かへと向かって行く。
「な・・・・・・」
「どういうことだよ、これ」
エルフィとディアッカがそれを見て呆然とする。
「スクランブルか!?」
「いや、違う」
アスランがそれに答える。
「シンの奴・・・・・・どうして」
「緊急事態よ」
タリアが彼等のところに来て言った。
「シンがあの捕虜の女の子を連れて」
「脱走ですか!?」
ニコルが不吉な言葉を発した。
「まさか」
「可能性は高いわ。少なくとも捕虜を」
「ですよね」
フィリスの顔が暗くなる。
「シンさん・・・・・・どうして」
「あいつは・・・・・・思い詰め過ぎなんだ」
アスランが俯いて述べた。
「だから今も」
「けれどどうするんだよ」
ディアッカが言う。
「このままだとよ」
「とりあえずはアークエンジェルから一機出たわ」
「誰ですか、それは」
「フリーダムだけれど」
「おい、それまずいぜ」
ディアッカはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「キラとあいつは」
「ですね。下手をしたらシンは」
「・・・・・・俺も行く」
アスランがここで言った。
「アスラン、貴方もですか」
「ああ。何かあった時は俺がシンを止める」
彼はこうまで言い切った。
「だから今は」
「わかったわ」
タリアはそれを認めた。
「じゃあアスラン、すぐに」
「わかりました」
アスランはこくりと頷いた。そして。
「ジャスティスで」
「ええ」
「アスラン」
だがここでハイネが声をかけてきた。
「どうしたんだ?」
「ジャスティスは今整備中だ」
「えっ」
「セイバーが空いている。使え」
「済まない」
「それにあれの方が足が速いしな。間に合わせるんだ」
「わかった」
「何はともあれ最悪の事態だけは避けないとな」
ミゲルも言う。
「あいつを止めないと」
「大変なことになるぜ」
「だからだ。今から行く」
またディアッカに応えた。
「じゃあアスラン悪いけれど」
ジャックが最後に声をかけた。
「お願いするよ」
「わかった。セイバー出る!」
アスランが乗るセイバーが出撃した。そのままシンを追う。
「シン、早まるなよ」
彼は心の中で願っていた。
「馬鹿な真似だけは」
全速力でシンに向かう。彼がようやく辿り着いた時シンはキラの制止を聞き入れず一直線に何処かに向かっていた。
「止めるんだ、シン!」
「五月蝿い!」
キラの話を全く聞き入れず先に進んでいた。
「俺はステラを救う!だから!」
「それはサコンさん達が!」
「あいつ等に何ができる!」
やはりサコン達を全く信じてはいなかった。
「あんな連中にステラが救えるものか!」
「どうして信じないんだ!」
「信じられるものか!」
これがシンの言い分だった。
「じゃあ御前は信じているのか!」
「勿論じゃないか!」
キラは言う。
「仲間なんだから」
「仲間か」
実は今までもあまり意識はしていない。
「あいつ等が」
「そうじゃないの?」
「違う!」
それを頭から否定する。
「俺にとって仲間はミネルバの奴等だけだ!他の奴等は違う!」
こうまで言い切る。
「御前もだ!御前も仲間じゃない!」
「うっ・・・・・・」
「邪魔をするなら撃つ!」
そして叫んだ。
「仲間でないんだからな!」
「シン!」
「黙れ!今はステラが!」
それが第一だった。一直線に向かい続ける。
「時間がないんだ。けれどもうすぐだ」
「もうすぐ」
「ステラ、もう少しだよ」
自分の上で弱々しい顔で横たわるステラに優しい声をかけた。そうした顔もあるのだということを今見せていた。
「もう少しで君は」
「シン・・・・・・」
「シン!」
「黙れ!」
それでもキラの言葉は聞き入れない。
「御前には関係ない!ついて来るな!」
「戻らないと駄目なんだよ!」
キラはそれでも言う。
「君は!さもないと彼女も!」
「そのステラを救うんだ!」
少なくともシンはそう信じていた。
「だから俺は」
「なら戻れば」
「このままあいつ等に任せておけるかよ!」
結局は同じであった。
「そんな位なら!」
「やっぱりそのまま行くんだね、君は」
「ああ」
それには頷く。
「邪魔をするな」
「君もまた」
「何が言いたい?」
キラの言葉が変わったのに反応を見せた。
「一体何を」
「君も僕と同じなんだね」
これはシンにとっては思いも寄らない言葉であった。
「何だとっ!?」
「他のものが見えなくなっているんだ。あの時の僕と同じで」
「何を言っているんだ」
「・・・・・・もう僕には君を止められない」
こうも言った。
「だから・・・・・・」
「ふん、最初からこうすればよかったんだ」
シンにはキラの心はわからなかった。わかるつもりもなかった。
「五月蝿い奴だ、全く」
そして先に進む。
「じゃあステラ」
またステラに優しい声をかける。
「もうすぐだからね」
「もうすぐ・・・・・・」
「そうだよ。君は助かるんだ」
「助かる・・・・・・ステラ助かる」
「そうだよ。だから行こう」
ステラにも言う。
「いいね」
「うん・・・・・・」
キラを振り切りそのまま言った。そしてある場所に辿り着いた。そこには連邦軍の赤いモビルスーツと青いモビルスーツが待っていた。
「あれだな」
シンはその姿を確認した。そのすぐ側に着陸した。
「シン=アスカだ」
「ロウ=ギュールだ」
「イライジャ=キールだ」
三人はそれぞれ名乗り合った。
「あんた達がティターンズの人間なんだな」
「ああ」
「その通りだ」
ロウとイライジャはそれに答える。
「そうか。あんた達がか」
憔悴しきったステラを抱きかかえたシンは彼等に目を向けていた。
「あのティターンズなのか」
「といっても別に鬼でも悪魔でもないさ」
「同じ人間だ」
「そうか」
だがシンにはやはりコーディネイターとナチュラルという壁がまだ心の中にあった。それは容易には消せないものであった。
「それでステラだけれど」
「わかってる」
ロウがそれに応える。
「こっちに返してくれるんだな」
「そうだ」
シンはそれに答えた。
「けれど死なせたくないから返すんだ」
そしてそのうえでこう述べた。
「だから約束してくれ。もう二度と彼女を戦闘に出したりしないと」
「戦争にか」
「そうだ。このままだと彼女は」
「ロウ」
イライジャはシンのその言葉に難しい顔をしていた。
「言うか?」
「言うしかないだろ」
ロウはそれに頷いた。そしてシンに伝えた。
「俺達はな。彼女の監視役なんだ」
「監視役・・・・・・」
「そうだ、エクステンデッドのな。監視役なんだ」
「俺達二人が彼女ともう二人の監視役をやっている」
「彼女は特別な装置がないと生きられない。他の二人も」
「それはもうわかっている」
シンはそれに対して言う。
「けれどあんた達が監視役だったのか」
「そうだ。彼女はそれがないと生きられない」
「そしてその装置はティターンズにしかない」
「そんな・・・・・・だったら」
「何とかしてはみる」
ロウは硬い声でこう述べた。
「ジブリール副理事に掛け合ってな」
「君の話は聞いた。だから」
イライジャも言う。
「それは約束しよう」
「約束してくれるんだな」
シンはその言葉にまた問うた。
「本当に」
「ああ」
「俺達もな。もうティターンズには」
二人はここで暗い顔になった。
「愛想が尽きようとしているしな」
「彼女達が何処かで生きられれば」
「そうだったのか。あんた達っていい奴だな」
「だが君はいいのか?」
イライジャはシンに問う。
「ステラはそちらの捕虜だった筈だ。それを君は無断でここまで連れて来た」
その推理はそのものズバリであった。恐ろしいまでに的確であった。
「君は下手をすれば銃殺だ。それでも来たのか」
「ああ、そうだ」
シンはおくびなくそれに頷いた。
「ステラの為だ。だから」
「そうか、命を賭けてか」
「君はそこまでステラのことを」
「だから頼む」
シンはそのうえでまた二人に言った。
「ステラのことを。お願いだ」
「わかった。じゃあ」
「彼女を」
「さあステラ」
抱いているステラに顔を向けた。
「今」
彼女をロウに手渡す。これでステラはティターンズに戻った。
「有り難うと言っておくぜ」
ロウは何故かやりきれない声であった。
「後は俺達の仕事だ。やってみる」
「頼む」
「何とかな。してみるさ」
「もうティターンズには」
二人はそう言い残して去ろうとする。だがシンはここで彼等を呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ」
「どうしたんだ?」
「これを」
そっと貝殻が入ったガラス瓶をステラに差し出してきた。
「それ・・・・・・」
「覚えてるかい?これ」
ステラを何時になく温かい目で見て言っている。
「君に貰った貝殻。ずっと大事にしてるから」
「シン・・・・・・」
「これからもずっと大事にしてるからね。ずっと」
そこまで言って背を向ける。そして立ち去ろうとする。
だが今度はステラが呼び止めた。
「シン」
「何?」
「また会える?」
振り向いたシンにそう問うた。
「また何時か」
「う・・・・・・うん」
これは彼の願いの言葉であった。
「また会えるよ。きっとね」
「そうだな。また会おう」
「君とは戦場以外の場所でな。皆で」
「あんた達もいい奴なんだな」
ロウとイライジャのその言葉が心に染みた。
「出来ればこんなところで会いたくはなかったな」
「そうだな」
「全くだな」
四人はやりきれない空気に包まれた。だがシンはそれを振り切りデスティニーに乗り込んだ。そしてその場を後にするのであった。
「問題はこれからだな」
イライジャがロウに対して言った。
「ジブリール副理事が納得してくれるかな」
「やってみるさ」
ロウは硬い決意を声に滲ませてきた。
「絶対にな。何があっても」
「そうだな。彼の為にもな。けれどな」
イライジャはまた言った。
「若しもの時はどうする?」
「若しもの時!?」
「そうだ。副理事がそれでもステラ達を使うとなれば」
「どうするかな、その時は」
「心配は無用ですよ」
「!?」
「誰だあんたは」
そこに紫の髪と目の男が姿を現わしてきた。
「どうしてここに」
イライジャは彼に問う。
「そもそもあんたは」
「いや、待て」
イライジャは警戒するロウに対して言った。
「彼は大丈夫だ」
「何でそう言えるんだよ」
「シュウ=シラカワ博士だぞ」
「何っ」
その名を聞いてイライジャは顔を強張らせた。
「シュウ=シラカワ博士。彼がか」
「はい、そうです」
シュウは静かな声でそれに答えた。
「私がそのシュウ=シラカワです」
「そのシラカワ博士が何の用なんだ?」
ロウはあらためて彼に顔を向けてきた。
「何か考えがあるみたいだけれどな」
「彼女のことでお話したいことがありまして」
「ステラのことでか」
「そうです。そして他の二人のことでも」
「あいつ等もか」
「そうです」
彼は答える。
「彼女達は助かります。元に戻ることがもうすぐ可能なのです」
「それは本当か!?」
「ロンド=ベルでそのことを研究しています。数日のうちに」
「数日かよ」
「じゃあもうすぐか」
「そうです。どうされますか」
シュウは二人に問う。
「貴方達は彼女達を救いたいのですよね」
「ああ」
二人はシュウに対して頷く。
「最初はそうじゃなかったが」
「ずっと一緒だったからな。今じゃな」
「わかりました。ではお考え下さい」
シュウは二人にそう言うだけであった。
「これからどうするのかは」
「自分達でか」
「そうです。手遅れにならないうちにね」
言い伝えた。
「宜しいですね」
「ああ」
「数日のうちにか」
「そういうことです。では」
シュウはそこまで言うと風の様に姿を消した。まるで幻の様に姿を消したのであった。
「なあロウ」
イライジャがまたロウに声をかけてきた。
「とりあえず数日だ。考えてみるか」
「ああ」
ロウはそれに応える。だが二人にもステラ達にも時間がなかった。それが明けない夜へのはじまりとなるのであった。
一人で戻るシン。その前にアスランのセイバーが立っていた。
「アスランか」
「馬鹿だ、御前は」
アスランは苦がい声でシンにそう述べた。
「どうしてこんなことを」
「何とでも言うといいさ」
シンはそれを受けるつもりだった。
「何をしたのかはわかっているからな」
「どうしてだ」
それでも言わずにはいられなかった。
「こんなことをしたんだ」
「ステラを助けたかったからだ」
それ以外に答えはなかった。
「それだけだ」
「それだけか」
「そうだ。だから何でも受けるさ」
「どうして御前は・・・・・・」
帰ったシンを待っていたのはそのままレイと共に一旦艦内の牢舎に入れられることとなった。誰もそれに対して言うことはできなかった。
「すまないな」
「気にするな」
シンとレイは隣同士の牢に入れられていた。その中で話をしていた。
「俺が勝手にしたことだ」
レイはシンに対してそう述べる。
「ところでだ。無事に返せたのか」
「ああ」
「ならいい」
レイはそれを聞いて述べる。
「よかったな」
彼等が牢に入れられている間にロンド=ベルでは処分が検討されていた。
「即刻銃殺にせよ!」
モニターから飛び出てきた三輪が叫んでいた。
「そもそもコーディネイターなぞ入れるからこうなるのだ!わかったな!全員銃殺だ!」
「あの、長官それは」
同じくモニターにいたサザーランドが引いていた。彼は今カルフォルニアにいる。そこからモニターでロンド=ベルに顔を出していたのである。
「あまりにも」
「ええい、黙れ!コーディネイターも敵なのだ!」
「それはあまりにも極論でしょう」
イゴールが三輪に対して言った。
「現に彼等は」
「五月蝿いわ!」
やはり話にならない。
「そもそも何だ!ラクス=クラインという女は!」
彼は叫ぶ。
「一切話には出て来ないではないか!今何処にいるのだ!」
「彼女も今は大変なのです」
岡がそう説明する。
「プラントでは暗躍する勢力もあり」
無論ラクスやそういった話は軍事機密である。
「そうおいそれとは」
「ともかくだ!捕虜を無断で敵に渡したのだぞ!」
三輪は言う。
「問答無用で銃殺だ!よいな!」
「確かに軍規ではそうなりますが」
シナプスがそれに応える。
「ですがそれは」
「嫌だというのか!?」
「ロンド=ベルは正規の軍とは言えない部分もあります」
彼は言う。
「ですから」
「あのシン=アスカはザフトにおったな」
「ええ」
「しかもトップガンだというではないか。それで何も知らないとは言えぬぞ」
この時の三輪の言葉は正しかった。
「だからこそだ!即刻銃殺にせよ!」
「お待ち下さい」
今度はタリアが口を開いた。
「それはそうですが」
「コーディネイターが何だ!」
三輪はタリアをジロリと睨んできた。
「クッ」
その言葉に不快感を覚えたがそれでも言うしかなかった。
「彼の功績はまた」
「何だ!?アルスター次官の船を撃沈したことか」
「えっ!?」
それを聞いたロンド=ベルの面々は皆顔を青くした。
「それは本当ですか!?」
ユリカがそれを問いただす。
「シン君がフレイさんのお父さんを」
「間違いないようです」
その横でルリが述べた。
「今データを調べましたが」
「そんな・・・・・・」
「彼の船はインパルスガンダムに撃墜されておる」
三輪はそれを説明する。
「あの時そのガンダムに乗っていたのはあの小僧だったな」
「ですがそれはあくまで戦争だからで」
大文字が言う。
「彼には」
「そうだ、戦争なのだ!」
だがそれこそが三輪の待っていた言葉であった。
「だからだ!軍規を犯した者には容赦することはない!」
「おい、まずいぞ」
カガリがそれを見て隣にいるユウナに声をかけてきた。
「このままだとあいつは」
「そうだねえ」
「そうだねえって御前」
他人事の様に言うユウナに食ってかかろうとする。
「幾ら何でもその態度はないだろ」
「しかしね、カガリ」
ユウナはそんなカガリに対して言う。
「彼が軍規に違反したのは事実なんだよ」
「わかっている」
「だからこれはまずいんだよ。仕方ないけれど三輪長官の言うことは今回は正しいよ」
「今回は、か」
「あくまで今回は、ね」
ユウナはそこを強調してきた。
「けれどねえ」
それでもユウナは根底ではシンと同じ考えであった。
「シン君はやっぱり必要な人材だしそれに」
「あいつは仲間だ」
カガリはそれをはっきりと言った。
「仲間を助けたい。それじゃ駄目か」
「それはオーブの次期当主としては相応しくない言葉だと思うよ」
ユウナはそっと突っ込みを入れてきた。
「やっぱりリーダーとしては」
「御前の言いたいことはわかってる」
そのユウナに対して言い返す。
「けれど私は」
「わかってるよ。けれどここは」
「どうしようもないのか」
「黙って見ているしかないですね」
アズラエルも述べてきた。
「あの長官さんは人の話は全く耳に入りませんしね」
「くっ」
「残念ですが軍規に反したのは事実ですし。ましてや彼は軍属です」
「仕方ないというのか」
「そうなります。残念ですが」
「ではわかったな」
また三輪が叫んだ。
「これで処分は決まりだ!」
「待って下さい」
「ムッ!?」
しかしここでモニターがまた動いた。そして今度はピンク色の髪の少女が姿を現わした。
「えっ、嘘だろ」
アーサーがそれを見て思わず声をあげた。
「貴女が」
「どうしてこちらに」
「お話は伺いました」
ラクスはモニターでにこりと笑ってそう述べた。
「フィリスさんから」
「そうだったのですか」
「はい、今でも連絡を取っていますので」
ラクスは言う。
「それで今も」
そして次に三輪に対して語ってきた。
「三輪長官ですね」
「う、うむ」
「ブライト」
アムロはそれを見てブライトに囁いてきた。
「あのラクスって娘只者ではないな」
「そうだな」
それはブライトもはっきりと感じていた。
「あの三輪長官を押している」
「穏やかな顔なのに凄いプレッシャーだ」
「それにカリスマ。持って生まれたものなのかもな」
「そうかもな」
「私からもお願いです」
ラクスは三輪に対して言っていた。
「今回はお許し願いないでしょうか」
「できぬ!」
当然のようにそれを突っぱねてきた。
「軍規は正さなくてはならぬ!」
「元々シン=アスカは私達の同志です」
ラクスは言う。
「プラントと地球の平和の為に戦っているのです。ですから」
「だが責任は」
三輪は食い下がる。
「果たさねばならぬ。だからこそ銃殺なのだ!」
「責任、ですか」
「そうだ!」
彼は叫ぶ。
「それはどうして果たすというのだ!」
「それなら考えがあります」
ラクスは言う。
「彼がその捕虜を奪還すればいいでしょう」
「なっ」
思いも寄らぬその言葉に一瞬戸惑ってしまった。
「それで同じになりませんか」
「馬鹿な、そんなことが」
「だからです」
ラクスはすかさず言ってきた。まるで話のタイミングを読んでいたかのように。
「それが果たせたならば。そう思われませんか」
「うぐぐ・・・・・・」
「無論それで処分が終わるとは思っていません」
ラクスは言う。
「タリア艦長」
「はい」
同志でもあるタリアに声をかけてきた。
「まずは適度な入牢と罰金、そして懲戒処分を」
「わかりました」
かなり重いがそれでもしたことを考えるとかなり軽いものであった。そもそもシンならばその程度の失態はすぐに取り返せるものだから。
「そのうえで以上のことをお伝え下さい。宜しいでしょうか」
「わかりました。それでは」
タリアはそれに応える。
「それでどうでしょうか」
「ムム・・・・・・」
「私はそれでいいと思います」
それまで沈黙を守っていたミスマルがここで口を開いた。
「それで話を進めていきましょう」
「はい、それでは」
厳罰を望んではいない三輪以外の者はそれに賛同した。これで話は決まった。
「だが!」
しかし三輪はまだ言った。
「このことは残る。それを忘れないよう」
そう言って自分からモニターを消してしまった。後には暗闇が残っているだけであった。
「よく言うぜ」
ピートがそれを見て言う。
「アラスカじゃサイクロプスを無理矢理始動させたってのにな」
「あれで危うく全滅するところだったな」
サンシローもそれに応える。
「危ないところだった」
「全くです」
「そんなことをした奴が言ってもな。説得力がないってものだぜ」
リーにブンタ、ヤマガタケも同じ考えであった。つくづく人望のない三輪であった。
「だがこれでシン君は助かった」
大文字がここで述べた。
「ラクス=クラインさん、有り難うございます」
「いえ」
だがラクスはそれに対しても特に満足した感じはなかった。むしろ疲労が見られた。
「本当のことを言いますとこうするしかなかったですから」
「こうするしかですか」
「シン=アスカは人類のこれからの可能性の一つなのです」
「覚醒ですね」
アズラエルがそれに問う。
「SEED理論による」
「はい」
「彼もまたその一人ですから」
「今ここで失うわけにはいかないのですね」
「そうです。ですからこそ」
「最初に申し上げておきます」
アズラエルの目がいささか剣呑に光った。
「僕は正直に言いましてまだコーディネイターへの悪感情が強く残っています」
「アズラエルさん」
ユウナが咎めるがそれでも言葉を続けた。
「ですがそれ以上にその理論に賛同することはできません。それは言うならば救世主思想ですね」
「そう捉えて頂いても結構です」
ラクス自身もそれを認めた。
「だからです。救世主なぞこの世には不要なのです」
「どういうことでしょうか。それは」
「人はその救世主に頼りきってしまうでしょう。そしてそれに依存してしまう」
彼は言う。
「そうなってはまた同じことの繰り返しです。人というのは誰もが先に進まなくてはいけない。違いますか」
「では誰もがSEEDと同じにならなければいけないと」
「そうです。限られた者に頼るのではなくね。自らに恃むべきなのです」
哲学的な言葉であった。少なくともそれがアズラエルの哲学であった。
「ですが」
しかしここで言葉を変えてきた。
「シン=アスカ君は今や我々にとって欠かせない戦力であるのも事実です。失うわけにはいかない」
「では彼と戦力として必要とされているのですね」
「その通りです。隠すつもりもありません」
はっきりと言い切った。
「おわかり頂けたでしょうか」
「・・・・・・ええ」
「あともう一つ言っておきます」
アズラエルはさらに述べた。
「僕は貴女が来られることもまた望んでいます」
「それも戦力としてですね」
「そうです。戦いを終わらせる為のね」
あくまでそこには計算しかなかった。だが実業家としてはこれは当然であると言えた。
「宜しいですね。それでは」
「わかりました」
ラクスはモニターから姿を消した。その後でカガリが難しい顔をアズラエルに向けていた。
「なあ」
「こういうことはすぐに伝えておかないといけません」
アズラエルはそのカガリに対して述べた。
「さもないと今後に妙なしこりが残りますよね」
「それもあるがな」
「SEED理論のことですか」
「うちにはもうその持ち主が四人いるんだぞ」
「ええ、勿論承知していますよ」
アズラエルとて彼等は見ている。
「だからこそです」
「だからか」
「ニュータイプと同じなのですよ」
アズラエルはここでニュータイプを話に出してきた。
「ニュータイプと?」
「はい。ニュータイプもまたそうですね」
彼は言う。
「彼等もまた同じ人間です。超能力や念動力を持つ人も」
「まあな」
「中には本当に人間かどうかを本気で疑ってしまう人達もいますが」
マスターアジアやBF団のことである。しつこいまでの拒否反応であった。
「ですがそうした人達以外は誰もが人間なのですよ」
「SEEDの持ち主でもですか」
「ほら、パプテマス=シロッコがいますね」
「あいつか」
カガリの嫌いなタイプである。
「彼は言っていますね。これからの時代はニュータイプの女性により支配されると」
「ああ」
それは彼女も聞いていた。
「あれは嘘だろ」
「カガリ、また身も蓋もない」
ユウナが突っ込みを入れるが当然彼もシロッコの話は信じてはいない。
「はい、嘘ですね」
アズラエルはきっぱりと言い切った。
「その理論が正しければそれはハマーン=カーンになる筈です」
「そうだよな」
カガリはその言葉に頷く。どうやら政治的な勘はあるらしい。
「だとしたらあいつは何でネオ=ジオンに行かないんだ?」
「そう、そこです」
アズラエルは言う。
「非常に不思議ですね。それは何故だと思いますか」
「あれだろ?」
カガリはまた言った。
「そんなのは看板で実はあいつが後ろで権力を握りたいんだろ」
「そういうことです。僕もシロッコはそういう男だと見ています」
まさにその通りであった。
「彼は女性の救世主を欲しているのではありません」
「自分の人形が欲しいだけか」
「そうです。それにニュータイプだからといって全ての能力が優れているとも限りません」
「その通りだ」
アムロがそれに応えた。
「ニュータイプは選ばれた存在じゃない。誰もが持っている能力の一つを目覚めさせただけだ」
「そうですね」
アズラエルはその言葉に満足そうに頷く。
「人と言葉無く意識を通じ合わせ、そして感性が鋭い」
「それだけだ。何もミュータントじゃない」
「人は無限の可能性を持っているものだ。ニュータイプも超能力もまた」
クワトロもそれに述べる。
「そのうちの一つに過ぎないのだ」
「言うならばSEEDもそれに同じなのです」
「そうなのか」
「はい。ですから」
「救世主でも選ばれた存在でもない」
「僕はそう考えています」
「わかった」
カガリはそこまで聞いて頷いた。
「じゃあ私もキラやシンをそう見ていく。だがな」
「だがな?」
「シンだけはいつか殺す。あいつこの前何を言ったか知ってるか?」
「いえ」
「私が男みたいだと言ったんだ。胸もないしはしたないと」
「その通りだね」
ユウナがそれを聞いて納得したように頷く。
「全くカガリときたら。言葉使いは乱暴だしお酒が入ったらすぐに脱ぎ出して下着姿になるし寝ている時は時々真っ裸になるしで」
「こら、何でそこまで知っている」
「小さい時から一緒だったじゃないか。幾ら何でもトランクスは履いてはいないけれど」
「御前こそそのハート柄のトランクス何とかしろ」
「男のトランクスの柄はどうでもいいんじゃないかな。アズラエルさんなんて紫のシルクだし」
「いいトランクスでしょう」
「こら、そんな趣味の悪い下着を」
「カガリもせめてもう少し色気があればねえ」
「同感ですね」
「御前等っ」
何だかんだで最後はユウナの愚痴になってしまった。だが何とかシンの銃殺は免れた。しかし彼とレイは暫くは牢に入れられることとなり処罰は下されたのであった。
第百二十五話完
2006・11・18
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