ハイスクールD×D 万死ヲ刻ム者
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第五十五話 過去
「はい。そこでターン・・・ステップのキレも良いわね。アンジ君はすぐに覚えてしまうわね」
「すげえな、闇慈は。すぐに覚えてしまうからよ」
「こう言うのは頭で覚えようとするんじゃなくて。身体で覚えるものだよ、イッセー」
山から一度グレモリーの別館に来た闇慈と一誠は、ヴェネラナとダンスの練習を行っていた。一誠と闇慈はダンスを全くやったことがないため覚えるのに一苦労しているようだった。そして休憩の時間になった時に闇慈は小猫の事が気になったのかヴェネラナに尋ねた。
「ヴェネラナさん。小猫ちゃんの容態は?」
「無理をしすぎて体力が著しく落ちていたけど、1日か2日。ゆっくりと体を休めれば回復するでしょう」
「小猫ちゃん。ここに来てから様子がおかしくなって凄く心配です」
一誠は小猫の正体を知らないのでそう呟いていたが、闇慈はなんとなく気付いていた。
「彼女は今、懸命に自分の存在と力に向き合っているのでしょう。難しい問題です。けれど、自分で答えを出さねば先には進めません」
「存在と力?」
「・・・ヴェネラナさん。小猫ちゃんの過去に何があったんですか?・・・猫又の過去に」
「猫又?それって何だよ?闇慈」
「アンジ君はご存知のようね。イッセー君はリアスの眷属になって間もなかったわね。そう、知らなくても当然ですね。少しお話をしましょう」
ここでヴェネラナは昔話を始めた。
それは二匹の姉妹猫の話だった。姉妹の猫はいつも一緒だった。寝る時も食べる時も遊ぶ時も。親と死別し、帰る家もなく、頼る者もなく、二匹の猫はお互いを頼りに懸命に一日一日を生きていった。
二匹はある日、とある悪魔に拾われた。姉の方が眷属になる事で妹も一緒に住めるようになり、やっとまともな生活を手に入れた二匹は幸せな時を過ごせると信じていた。
ところが事態は急変してしまった。姉猫は、力を得てから急速なまでに成長を遂げたそうだ。隠れていた才能が転生悪魔となった事で一気に溢れ出たらしい。その猫は元々妖術の類に秀でた種族で、魔力の才能にも開花し、挙げ句仙人のみが使えると言う『仙術』まで発動していた。
短期間で主をも超えてしまった姉猫は力に呑み込まれ、血と戦闘だけを求める邪悪な存在へと変貌していった。そしてとうとう力の増大が止まらない姉猫は遂に主である悪魔を殺害し、『はぐれ』と成り果てましまい、しかも『はぐれ』の中でも最大級に危険なものと化した。追撃部隊を悉く壊滅する程に・・・
(猫又がそれ程の妖怪だったなんて・・・その力に小猫ちゃんは恐れているのか。まるで死神に転生したばかりの僕を見ているようだな)
「しかし残った妹猫。悪魔達はそこに責任を追及しました。『この猫もいずれ暴走するかもしれない。今の内に始末した方が良い』と」
「っ!!」
「しかし処分される予定だったその猫を助けたのだサーゼクスでした。サーゼクスは妹猫にまで罪は無いと上級悪魔の面々を説得したのです。結局、サーゼクスが監視する事で事態は収拾しました」
しかし信頼していた姉に裏切られ、他の悪魔達に責め立てられた小さな妹猫の精神は崩壊寸前だったそうだ・・・
「サーゼクスは、笑顔と生きる意志を失った妹猫をリアスに預けたのです。妹猫はリアスと出会い、少しずつ少しずつ感情を取り戻していきました。そして、リアスはその猫に名前を与えたのです。・・・小猫、と」
(これが君の過去か。小猫ちゃん)
「つまり・・・小猫ちゃんは妖怪だったんですか?」
「そう、彼女は元妖怪。猫又をご存じ?猫の妖怪。その中でも最も強い種族、猫魈の生き残りです。妖術だけではなく、仙術をも使いこなす上級妖怪の一種なのです」
~~~~~~~~~~~~
ダンスの練習も終わり、闇慈と一誠は本邸に移動した。そして到着した途端リアスが迎え入れ、一誠を抱きしめた。闇慈はそんなことも目も暮れず真剣な表情で・・・
「リアス先輩。小猫は?」
それを聞いたリアスは険しい表情となって小猫の部屋に案内をした。そしてリアスの案内で中に入るとベッドの中で横になっている小猫と、その脇際で様子を伺っている朱乃がいた。
しかし今回の小猫は違った。小猫の頭から白い猫耳が生えていた。作り物でもない、本物の猫耳が。普段は隠していて、体力がなくなると出てきてしまうらしい。
「闇慈君、イッセー君、これは・・・」
「大丈夫です、朱乃さん。話はリアス先輩とヴェネラナさんから伺いました」
闇慈は朱乃にそう返すとベッドの隣に移動して小猫の様子を伺った。
「小猫ちゃん。身体は大丈夫?」
闇慈は小猫に優しく問いかけるが、小猫は・・・
「・・・何をしに来たんですか?闇慈先輩」
闇慈に見せた事のない不機嫌そうな声を上げた。闇慈は少し心に傷を負ったみたいだが表情は変えなかった。
「心配しているのに、その言い様はないんじゃないかな?」
闇慈が小猫を再び心配するが、小猫は答えない。そして闇慈は別題に入る。
「話はアザゼル先生とヴェネラナさんに聞いたよ。オーバーワークなんかしても良い事はない。小猫ちゃん・・・君は何を焦っているの?」
「・・・なりたい」
小猫はゆっくりと起き上がると涙目で闇慈を見ながら、こう言った。
「強くなりたいんです。祐斗先輩やゼノヴィア先輩、朱乃さん・・・そして、闇慈先輩やイッセー先輩のように心と体を強くしていきたいんです。ギャーくんも強くなって来てます。アーシア先輩のように回復の力もありません。・・・このままでは私は役立たずになってしまいます・・・ルークなのに、私が一番・・・弱いから・・・お役に立てないのはイヤです・・・」
確かに小猫を除いた全員は強くなって来ていた。祐斗は聖魔剣を手に入れ、ゼノヴィアはデュランダルを使える。朱乃は最強の駒、クイーンで、ギャスパーは時間を停められる。アーシアは回復能力が優れており、イッセーは伝説のドラゴンを身に宿している。闇慈は死神の力を手に入れ、歴代の悪魔や堕天使を倒し、明鏡止水も習得した。
小猫は溜まった涙をボロボロこぼしながら話を続ける。
「・・・けれど、うちに眠る力を・・・猫又の力は使いたくない。使えば私は・・・姉さまのように。もうイヤです・・・もうあんなのはイヤ」
初めて見せる小猫の泣き顔に闇慈は少し戸惑いを見せるが小猫に話す。
「でも小猫ちゃん。それは話が矛盾してるよ。それに『強さ』ってそんな簡単に身に付くものじゃないと思う。そして事実や現実も受け入れることも『強さ』に結び付くんじゃないかな?強さが手に入らないと言って挙句の果てに身体を無理に傷つけ強くなっても、それは本当の強さじゃない。唯の『付け焼き刃』だ」
「っ!!闇慈先輩は強いからそんなことが平気で言えるんです!!先輩に私の気持ちなんて分かる訳・・・」
小猫が言い切ろうとした瞬間・・・
パン!!
病室に乾いた音が響き渡る。それは闇慈が小猫の頬を右手ではたく音だった。
「闇慈!?」
「闇慈君!?」
イッセーと朱乃もその事に驚きを隠せないようだった。
「・・・えっ?」
はたかれた小猫本人も呆然としていた。そして闇慈の眼が真紅の魔眼になると・・・
「いい加減にしろ、塔城小猫。誰にだって強くなりたいと言う気持ちはある。嘗ての俺がそうだ。だが、焦りで己を見失うな!!確かに俺も怖かった。死神の力が強くなっていく内に本当の自分じゃなくなってしまうんじゃないかと。しかし・・・」
闇慈は死神の時の口調で小猫に言い聞かせる。そして魔眼を解除すると・・・
「その恐怖に打ち勝つ心をくれたのは君だよ、小猫ちゃん。そして君は一人じゃない。部員のみんなやグレモリー家の人達だっている・・・人を信じる心があれば恐れるものはなにもない。それを忘れたらダメだよ」
闇慈はそれだけを言い残すと病室から退室した。それを追うかのように一誠も出てくる。
「おい、闇慈。いくら間違っているとは言っても叩くのはダメだろう?小猫ちゃん。怖がってだぜ?」
「僕もやり過ぎたかなって思ってる。でも僕は小猫ちゃんには強くなってもらいたいんだ。付け焼き刃じゃなく、本当の強さをね。さて・・・僕もあんなに言ったんだからもっと強くならないとね」
闇慈は小猫のことを思って・・・いや。好きだからこそ本気で怒った。それは一誠も分かっていた。
「だな。色んな意味で」
一誠は闇慈の事をニヤニヤと笑いながら見ていた。闇慈は一誠が何を考えているのか分かったのか笑顔でこう言った。
「イッセー・・・先に謝っておくね?明日の修行で君に『死』を見せたらゴメンね?」
「何だよそれ!?それって死亡フラグ、ビンビンじゃねぇか!!」
そしてその言葉通りになりかけたことをここに記しておく。
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