とある星の力を使いし者
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第32話
上条と神裂が家を出てから麻生はリビングに置いてあるお土産や部屋中をくまなく調べる。
土御門も同じように部屋を調べながら麻生に話しかける。
「さて、麻生。
この「儀式場」を見てどう思う?」
くまなく調べ終わったのか苦笑いを浮かべながら麻生に近づいていく。
麻生も表情は変わっていないが、顎に指を当てて何を考えているようだ。
「率直に言うと御使堕しが発動して良かったと思う。
この配置にこのお土産の数、一つ間違えれば「極大地震」、「異界反転」、「永久凍土」、術式をあげればきりがない。
確実に言えるのは、これらの内一つでも発動すればこの国は確実に消滅する。」
「にゃー、俺も同じことを思ったぜい。
それにオレにも正体が分からない創作魔法陣もちらほら存在するし、この事実をカミやんに教えなくて正解みたいだったにゃー。」
「あいつなら自分の右手で解決するのではと思いこの配置を動かされたらたまらないからな。
差し詰め、上条当麻が最強の不幸を持ち主なら上条刀夜は最強の幸運の持ち主といったところか。
全く変な所は似ているなあの親子。」
麻生は部屋を出て行こうとするが土御門が麻生を呼び止める。
「麻生、お前は一体何者だ?」
さっきまでとは違い冗談も笑いもない魔術師の声が後ろから聞こえた。
土御門はそのまま言葉を続ける。
「オレはお前がこの「儀式場」の感想を聞いた時に正確な答えが返ってきたときは正直驚いた。
お前はオレのような陰陽や風水のエキスパートでないのにだ。
麻生、お前は一体・・・・」
土御門の問いかけに麻生は少し溜息を吐いて背を向けながら答える。
「ただの一般人Aだ。」
そう一言答えただけだった。
土御門はその答えを聞いて少し驚いた顔をするが小さく笑みを浮かべた。
「それで麻生はこれからどうするのかにゃー?」
その声は魔術師のとしての土御門ではなく麻生のクラスメートとしての声だった。
「この「儀式場」はお前に任せる。
俺はミーシャに用がある。」
麻生は上条の家を出て「わだつみ」の家に向かう。
何とかミーシャよりも先に海の家に着いた上条は浜辺にいた。
途中で出会った美琴に刀夜の居場所を聞いてここまで来たのだ。
神裂は刀夜は自分が保護するといったが上条はそれを拒否した。
理由は簡単だ。
上条刀夜は上条当麻のたった一人の父親だからだ。
だから自分が救ってみせる、と神裂に言って今は一人で浜辺にいる。
刀夜は浜辺を歩いていた。
突然いなくなった上条を探していたのだろう。
上条を見つけると安心したような顔をする刀夜、その顔はただの一般人の顔だった。
だからこそ上条は奥歯を噛みしめた、刀夜を尋問するような真似はしたくなかった。
だが、ミーシャがやってくる間に終わらせないといけない。
「何で、だよ?」
声を振えない様に泣き出さない様に気をつけながら言った。
「何でオカルトなんてつまんねぇモノになんざはまりやがったんだ!?
どうして魔術師の真似事なんかしたんだ!?」
それを聞いた刀夜の笑顔が消えた。
だが魔術師としての表情になったわけではなく、息子にやましい所を見られた父親のようなそんな表情だった。
「それだけ元気だと夏バテは大丈夫そうだな。」
再び上条に笑いながら話しかける。
「さて、何から話そうか。
当麻、お前は覚えていないかもしれないが学園都市に送られる前に、周りの人達からお前がなんと呼ばれていたか覚えているかい?
疫病神、さ。」
刀夜はつらそうな表情を浮かべながら言葉を続ける。
「お前は生まれ持ち「不幸」な人間だった。
周りの人間もお前の側にいると不幸になると言って、お前に石を投げつけたりした。
私は恐かったんだ。
「幸運」だの「不幸」だの信じてお前に暴力を振るう現実が。
だから私はお前を学園都市に送った。
科学の最先端なら「不幸」という非科学なモノを信じないと思っていた。
その科学の最先端でさえお前は「不幸な人間」として扱われた。
以前のような陰湿な暴力はなかったみたいだがな。
残された道は一つしかない、私はオカルトに手を染める事にした。」
上条刀夜はそこで言葉を断ち切った。
刀夜は御使堕しを使って上条の「不幸な人間」という肩書きを、誰かと入れ替えるつもりだったのだろう。
それは諸刃の剣と同じだ。
上条当麻という存在が誰かと入れ替わるという事は、自分の子供は二度と刀夜を父親だと思う事は無くなる。
それでも上条刀夜は我が子を守りたかったのだ。
「馬鹿野郎、ばっかやろうが!!」
だからこそ上条は吼えた。
刀夜は驚いた顔をするが上条はその表情が許せなかった。
「ああ、確かに俺は不幸だった。
この夏休みだけで何回不幸な目にあったか分からねぇよ!!
たった一度でも俺は後悔しているって言ったか?
こんな「不幸」な夏休みを送りたくなかったなんて言ったかよ!!
確かに俺が「不幸」じゃなければもっと平穏な世界で生きられたと思う。
けど、自分がのうのうと暮らしている陰で別の誰かが苦しんで、血まみれになって、助けを求めて、そんな事にも気づかずにただふらふらと生きている事のどこが「幸運」だって言うんだ!?
俺はこんなにも素晴らしい「不幸」を持っているんだ!!
「不幸」だなんて見下してんじゃねぇ!
俺は今、世界で一番「幸せ」なんだ!」
この不幸がなければインデックスに会う事も出来なかっただろう。
この不幸がなければ姫神に会う事もなかっただろう。
この不幸がなければ美琴が実験で苦しんでいる事を知る事はなかっただろう。
何より麻生恭介という男に出会う事はなかった筈だ。
だからこそ彼は宣言する。
自分の不幸は決して「不幸」ではないことを。
それを聞いた刀夜は言葉も出なかったがその時初めて小さく笑った。
「何だ、お前。
最初から幸せだったのか、当麻。」
刀夜の顔はとても安堵の表情に満ちていた。
「馬鹿だな、私は。
自分の子供から幸せを奪おうとしていたのか。
といっても何が出来た訳でもないがな。
私も馬鹿だな、あんなお土産にオカルトの力なんてないってことぐらい分かっていたはずなのに。」
上条はふと父親の言葉に眉をひそめた。
そして気づいた、何かがおかしいと。
刀夜はウソをついているように見えない。
刀夜はインデックスが自分の妻だと本気で信じているようだ。
刀夜が御使堕しの犯人なのになぜ、その違いに気づかないのか。
上条は考えようとした時、後ろから、さくっ、という砂を踏む音が考えを遮った。
上条は後ろを振り向く。
「ミーシャ=クロイツェフ。」
砂浜の波打ち際にポツンと赤いインナーの上に同色の外套を羽織った少女が立っていた。
上条は何かを言おうとしたが瞬間に喉が凍りついた。
ぞわり、とミーシャ=クロイツェフの小柄な身体から見えない何かが噴き出し上条の両足は地面に縫い付けられた。
殺意。
ただの殺意だけで上条当麻は石化していく。
ミーシャは腰からL字の釘抜きを引き抜き、ゆっくりと竹刀のように構える。
上条は身震いしたが下がる訳にはいかなかった。
震える手を握りしめて刀夜を庇うように前に立つ。
突然、あらぬ方向から神裂の怒鳴り声が飛んできた。
「そこから離れなさい、上条当麻!!」
ヒュン、という風鳴りの音が上条とミーシャの間を一閃する。
ミーシャの気が一瞬それて、その間に神裂が間に割って入った。
殺気立つ神裂の左右には土御門と麻生が立っている。
「ご苦労さん、カミやん。
ケリを着けたんだろ?
だったら下がりな、後はオレらの仕事だぜぃ。」
刀夜は土御門の顔を見て口をパクパクさせている。
刀夜から見ると土御門はキナ臭いウワサの立つアイドルに見えている筈だからだ。
だが、そんな誤解を解いている暇はなく上条は様子がおかしくなったミーシャの方を見る。
「あい、土御門。
アイツは一体どうしちまったんだ。」
「いやー、考えてみればおかしかったんだぜい。
どうせ他宗派のヤツは偽名を使ってくると思ったがそれにしてもミーシャはない。」
「?」
「ミーシャというのはですね、ロシアでは男性の名前につけられるものなのです。
偽名として使うにもおかしすぎる。」
「何だってそんな事を・・・」
「ロシア成教にはサーシャ=クロイツェフっていうのはいたけど。
おそらくそいつが「入れ替わっている」のがサーシャなんだろ。
この世にはな男にも女にもなれるヤツがいるんだよ。」
土御門の言葉に上条は眉をひそめた。
「忘れたかい、カミやん。
この大魔術が一体何の名で呼ばれているのか。」
瞬間、ミーシャの両目がカッと見開いた。
ドン!!、という地を揺るがす轟音と共にオレンジに染まる夕空が一瞬で星の散らばる夜空へと切り替わった。
上条は思わず頭上を見上げ、刀夜の息が凍る。
そんな中、麻生はヒュ~、と口笛を吹いていた。
「天体制御ってところか。
属性の強化のための「夜」となると・・・・なるほど、月の守護者にして後方を加護する者か。
神の力、常に神の左手に侍る双翼の大天使か。」
御使堕し。
上条はこの術式の名前を思い出した。
御使堕しは天使を地上へと落す術式。
ならば、落された天使が元の場所へ帰ろうと思うのは当然の事。
すると頭上の月が一際大きく蒼く輝いた。
光の輪が満月を中心にして一瞬で広がり、夜空の端の水平線の向こうまで消えてしまった。
さらに輪の内部に複雑な紋章を描くように、様々な光の筋が走り回ると巨大な魔方陣が描かれる。
その魔法陣を見てさっきまで口笛を吹いていた麻生が、さっきの態度と一変して焦りの表情を浮かべ大きな声で叫んだ。
「ふざけるなよ、神の力!!
そこまでして天の席に帰りたいのか!!」
「おい、何がどうなっているんだ!?
あの天使は何をしようとしているんだ!?」
「簡単に言うとあの魔法陣が発動した瞬間、核兵器並みの威力を持った火矢の豪雨が地上に降り注ぐ。
そんなことをすれば人類の歴史は終わりを告げる。」
それを聞いた上条の表情は凍りつく。
神裂もあの魔法陣がどういったモノか分かっているのかミーシャを睨みつけている。
ミーシャ・・・神の力に視線を向けたまま神裂は上条に言う。
「上条当麻、「神の力」は私が押さえます。
あなたは刀夜氏を連れて一刻も早く逃げてください。」
その言葉を聞いて上条は最初何を言っているのか分からなかった。
相手は核兵器並みの魔術を使う相手に神裂は押えるといったのだ。
「あの「一掃」は発動するのに時間がかかります。
おそらく三〇分といった所でしょう。
あなたはその間に刀夜氏を連れて逃げて御使堕しの解除をお願いします。
あの天使は御使堕しを解除すれば「一掃」をする意味も無くなります。」
ここで上条はようやく神裂の真意に気づいた。
神裂が時間を稼いている間に、上条が刀夜から御使堕しの儀式場を聞きだしてそれを破壊する。
それが分かった上条は歯を苦しばって神裂の背中を見て言う。
「頼んだぜ、神裂!
必ず御使堕しの儀式場を破壊するからな!!」
上条は刀夜の腕を掴んで海の家へと走っていく。
神の力の視線が上条達へと移すがそれに割り込むように神裂が滑り込む。
「貴方の相手は私です。」
神裂は腰の太刀「七天七刀」の柄に手を伸ばす。
そんな神裂を黙って見ていた神の力だったが、やがてポツリと人外の声で言った。
「――――――q愚劣rw」
ズバン!!と天使の背中が爆発するとそこから水晶を削って作ったような、鋭く荒削りな翼が何十集まり剣山のように飛び出した。
同時に膨大な海水が天使の背中へと殺到する。
神裂は「七天七刀」の柄を強く握りしめるとその後ろで肩を叩かれる。
土御門かと思った神裂だがそこには麻生が立っていた。
「なぜ、あなたがここに!?
土御門はどうしたのですか!?」
「あいつならどこかに行った。
それよりも火織、お前は後ろに下がっていろ。」
なっ、と神裂は麻生の口から出た言葉を聞いて絶句する。
「あなたは自分が何を言っているのか分かっているのですか!?
あいては神の力ですよ!!
聖人である私ですら全力を出しても時間を稼ぐことしかできない相手です!!
確かにあなたは強い、ですが神の力に勝てるほどの強さではない筈です!!」
神の力の目の前にいるのに、それを気にせず麻生の方に身体を向けて話す。
それを聞いても麻生は神裂よりも前に出て神の力を見る。
「何もあれ相手に勝つつもりはない。
ただ、何個か聞きたい事があるからそれを聞いたら下がるよ。」
そう言って麻生は神の力にどんどん近づいていく。
神裂は神の力が麻生に攻撃するかと思ったが神の力は黙って麻生を見つめている。
麻生と神の力との距離が一〇メートルとなったところで麻生は足を止めた。
「お前に聞きたい事がある。
あの時、俺と戦った時にこの力を使わなかった。」
麻生の問いかけに神の力は先ほどの人外の言葉ではなく人間の言葉で答えた。
「解答一。
あなたが犯人ではない事は最初から分かっていた。
ただ、あなたがどれ程まで力を使えるかを確認したかっただけだ。」
神裂は麻生の問いかけに神の力が普通に答えている事に驚く。
麻生はそれが当然の如く話を続ける。
「その術式を使えば抑止力が黙っていないぞ。
特に「アラヤ」がな。」
抑止力?と神裂が聞いた事のない単語が麻生の口から聞こえた。
「解答二。
抑止力は現在活動していない。」
「なんだと。」
神の力の解答に麻生は驚きというよりも疑問に思っている。
次の神の力の言葉を聞いて麻生の雰囲気が一変する。
「星の守護者。」
ポツリとそう呟いた。
ぴく、と麻生はその言葉に反応する。
「星の守護者であるあなたが現在の星の状態に気付いていないとは。」
神裂は先ほどから聞いた事のない単語が出てきているのでそれを麻生に聞こうとした時だった。
ゾクリ、と背筋に悪寒を感じたのだ。
それは神の力から感じたのではない、目の前の麻生から感じたのだ。
突然、神の力が爆発した。
正確には神の力の周囲に酸素を生成してその中に塵を混ぜて導火線の代わりにして爆発させたのだ。
しかし、神の力は背中から生えている水翼でその爆発を防御していた。
そしてそんな事をできるのはこの中でたった一人だけだ。
麻生の表情はとても冷たく無表情でいてその表情の中に怒りのようなものが混じっていた。
「俺が星の守護者だと?
こんなくそったれた星の守護者だって言ったなお前は。」
神裂は今まで聞いた事のない麻生の声を聞いた。
その声にははっきりと殺意が混じっていた、神裂ほどの武人が震えるほどの。
「火織、質問を聞き終えたら下がるといったがあれはなしだ。
このクソ天使は一回殺さないと気が済まない。」
麻生は殺意の籠った目で神の力を睨みつける。
「お前から色々聞きたい事がまだあったがそんなのはどうでもいい。
俺を星の守護者なんて呼んだんだ、死ぬ覚悟はできているだろうな?」
瞬間、麻生の元に何かが集まっていく。
魔力でもないそれは麻生だけが使える力だ。
星の力。
その莫大なエネルギーが麻生に集まっているのだ。
麻生は星の力を体内で循環させる事で身体能力を聖人レベル以上のものまで引き上げている。
だが、この力は麻生にとって諸刃の剣だ。
この力は人間が扱うには過ぎた力だからだ。
長時間扱うのはもちろん、一つ扱いを間違えば麻生の身体を滅ぼす事になる。
そんな事は麻生が一番分かっていた。
だが、相手は神の力。
普通の戦いでは歯が立たない。
だからこそ、この力を使う事にしたのだ。
左手を開けると青白い光が集まると二メートルもの蒼い両刃の剣が出現する。
柄の装飾など一切ない、文字通り刃だけある巨大な剣。
それを両手で掴み一気に神の力まで接近する。
それに合わせるように水翼を何十本も麻生に向かって振り下ろされる。
飛んでくる水翼を片っ端から切り裂いていく。
今度は水翼同士をぶつけ刃の豪雨を麻生に向かって放たれる。
麻生は剣でさばき切れないと判断すると星の力を集めそれを前方に展開して盾にする。
星の力の盾に触れた刃は次々と粉々に砕け散る。
そして神の力の背後に刀のような形をした剣が一〇本も生成されると、それは神の力に向かって放たれる。
その一本一本が星の力で作られた物だが水翼を圧縮して同じような剣の形を作ると、その飛んでくる刀に向かって放ち相殺する。
だが、神の力の意識が一瞬だけ背後に向いてしまった。
その一瞬を見逃さずに、麻生は手に持っている巨大な剣を神の力に向かって放つ。
「!?」
神の力がギョロリと眼球を飛んでくる剣に向ける。
すぐに何重にも重ねた水翼の盾を作り剣を防ぐ。
何とか剣の防いだ瞬間には、麻生は神の力の目の前まで接近していた。
今までの攻撃は神の力の目の前に接近するための囮だったのだ。
そして水翼の盾が壊されたいま絶対の隙が生まれてしまった。
左手に星の力を溜めて神の力の顔面に向かって突き出す。
拳は神の力の顔面を捉えたかに思えた。
だが、次の瞬間には神の力の身体はバリン!!、と音を立てて砕け散った。
その身体は水翼でできていた。
(これは偽物!!)
麻生が気づいた時にはドスン!、という音と同時に胸に違和感を感じた。
自分の胸を見下ろすと水翼でできた刀のような刀身が麻生の胸の真ん中を貫いていた。
麻生の口から血が溢れだす。
神の力はこの戦いが始まった瞬間には既に偽物を用意していたのだ。
「ち・・く・しょ・・・う・・」
麻生の身体に纏っていた光が徐々に消えていく。
神の力は刀身を引き抜くと重力に従うかのように、麻生は凍った海面へと落ちていく。
神裂はこの一連の戦闘を黙って見ているしかなかった。
手出ししようとしたが、その隙が全く見えなかったのだ。
気づいたら麻生の後ろに神の力がいて胸を貫かれていた。
「麻生恭介!!」
あの高さから氷の海面に激突すれば死は確実だ。
神裂は麻生を抱き留めようとするが距離が遠く間に合わない。
最悪の結果を想像しかけた時だった。
突如、氷の海面が落ちてくる麻生を優しく抱きかかえるように受け止めたのだ。
それを見た神裂は足を止め神の力を見る。
神の力は胸から血を流している麻生を黙って見つめていた。
すると空に流星のような光が飛んでいき、その光は上条の家の辺りに落ちていく。
夜空に展開されていた「一掃」の術式は消えると神の力の身体は粉々に砕け散った。
神裂は上条が御使堕しの儀式場を破壊したのだと思った。
神の力の力が無くなったので、海も元の海水に戻るが麻生を抱きかかえていた氷も、元の水に戻ってしまったので麻生の身体は海の底に沈んでいく。
それに気づいた神裂は海に飛び込み、麻生を海から引き上げると急いで海の家まで運び救急車に連絡するのだった。
「ふむ、経過は順調みたいだね?」
「ああ、あんたのおかげだ。」
「僕は大したことはしてないよ?
それよりも傷口を見て正直驚いたよ?
なんせ臓器や重要な血管を傷つけることなく、まるで空いている隙間を通り抜けるかのように傷が通っていたんだからね?」
カエル顔の医者は心底嬉しそうに言う。
麻生が廃人になった時、一度この先生に見て貰ったのだが「冥土返し」と呼ばれた、この医者ですら麻生を元に戻す事が出来なかった。
ゆえに今回は麻生を助ける事が出来て嬉しいのだろう。
すると、麻生の病室の扉がコンコンとノック音が聞こえる。
麻生は答えなかったがカエル顔の医者がどうぞ、と答えると少ししてから神裂が入ってきた。
カエル顔の医者はもうすぐ退院できるからね?、と言って神裂と入れ替わるように出て行った。
神裂はお見舞いに果物が入ったかごをサイドテーブルに置いて近くのパイプ椅子に座る。
「傷の具合はどうですか?」
「傷に至ってはもうほとんど回復した。
明日には多分退院できるだろうな。」
そうですか、と言って安心したような顔をする神裂。
あの時は出血もひどかったのですごく心配していた神裂だがそんな恥ずかしい事を言えるわけがない。
「土御門の魔術で御使堕しの儀式場は破壊できました。
それとあなたに聞きたい事があります。」
「なんだ?」
「星の守護者とは一体何なのですか?」
星の守護者と聞いて麻生はぴく、と反応する。
「俺もよく分からない。
神の力に聞いたら少しは分かるかと思うが、あの時は完全に頭に血が上っていたからな。」
窓の外の景色を見ながら麻生は答える。
その後、長い沈黙が続く。
麻生は自発的に話す人間ではないし、神裂は神裂で何を話したらいいのか分からず徐々に緊張して、余計に何を話したらいいのか分からなくなっている。
「悪い、一人にしてくれないか?」
ようやく口を開いた麻生から出た言葉がこれだった。
それを聞いて少しだけ哀しそうな表情になった神裂は席を立ち、病室を出て行こうとするが出て行く直前に麻生が呼び止める。
「火織、俺を助けてくれてありがとう。」
神裂は麻生の方に振り向くが、麻生は依然と窓の外をじっと眺めていた。
神裂は小さく笑って言った。
「あなたにはまだ借りがありますから、それではお大事に。」
そうして病室から出て行き麻生は外の景色を見ながら神の力の言葉を思い出す。
(星の守護者であるあなたが現在の星の状態に気付いていないとは。)
神の力は確かにそう言っていた。
(あの神の力は何が言いたかったんだ。)
外の景色を眺めて考えても答えが出る事はなかった。
火野神作は気絶した後、突入してきた警官達に捕縛され今は車に乗せられて刑務所に送られている。
彼は自分の中にエンゼルさまが居ない事が分かり放心状態だった。
武装している警官達も火野の変化に戸惑ってる時だった。
突如、強い衝撃が車を襲ったのだ。
何事かと思った次の瞬間には車の扉が破壊される。
そこから赤いローブを被った人が入ってくる。
警官隊の何名かが銃器を向けようとした瞬間には、警官達の身体が発火して一瞬で骨も残らず灰になってしまった。
火野はそんな状況を目の前にしても放心状態だった。
ローブを被った人は火野に近づき話しかける。
「己の神を見失ったか。」
その声は歳老いた老人のような声をしているがその声には老人のような弱々しさは感じられなかった。
そして火野に手を差し伸べる。
「私と共に来い。
お前を導く天使を私が授けてやろう。」
今まで何を聞かれても反応を示さなかった火野がその言葉を聞いてピクリと反応した。
そして藁にもすがるような目をしていった。
「エンゼルさまに会えるのか?」
「会えるともお前がエンゼルに会いたいというその信仰心が必要不可欠だが。」
その言葉を聞いた火野は今までにない笑みを浮かべその人の手を掴む。
「あなたの・・・あなたのお名前は。」
「私はダゴン秘密教団の教皇、バルズ=ロメルト。
お前を我が神達は歓迎するだろう。」
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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