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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第30話

なぜミーシャが上条の接近に麻生は反応できなかったのに今回は反応できたのか、理由は簡単である。
麻生は上条の容疑が晴れれば、今度は自分の方に来ると予想していたからだ。
心の準備をしているのと、していないとでは大きく差が出る。
首筋にノコギリの刃を当てられているにも拘らず麻生はミーシャの質問に答える。

「俺はこんなめんどくさい事はしない。」

「問二。
 それを証明する手段はあるか?」

「ないな、こればっかりはあんたの考え次第だ。」

ミーシャは眼球だけを動かし神裂に視線を向ける。
上条の時のようにイギリス清教の見解を聞こうと思ったが、神裂は先ほどとは違い口を閉じて困ったような顔をしている。
神裂は麻生の能力について詳しくは知らない。
もしかしたら、イギリス清教最大主教(アークビショップ)であるローラ=スチュアートなら、何か知っている可能性があるが今から連絡を取るのに時間がかかってしまう。
ミーシャは神裂から見解が聞けないと分かると視線を麻生の方に戻し言った。

「イギリス清教から公式見解を聞けないと判断し、貴方を御使堕し(エンゼルフォール)を展開させた魔術師として判断し排除する。」

瞬間、ミーシャの背後で水の柱が飛び出してきてそれが蛇の形となり麻生に向かってくる。
神裂や土御門はミーシャの早急すぎる行動に驚きを隠せないでいる。
ミーシャは自分の首筋に当ててる麻生のナイフを持つ手を空いている片手で押えつけ、麻生の腹を前に突きだすように蹴る。
麻生も空いている手でミーシャの蹴りをガードし、その勢いもあってか二人の間に距離が空く。
その間を埋めるかのように水の槍が麻生に向かって飛んでくる。
麻生は右手の人差し指を突き出し空中で何かを描く。
その指の動きについてくるかのように空中で何かが浮かび上がる。
上条は見た事のない記号に見えたが、魔術師である神裂や土御門にはそれが何かすぐにわかった。
記号ではなくルーンの文字である事を。
その文字を中心に麻生の前方に炎の盾が円を描くように展開すると水の槍とぶつかり水蒸気が発生した。
水蒸気で視界が悪くなりミーシャは周りを警戒しようとした時、腹に衝撃が走り「わたづみ」の家の外まで吹き飛ばされる。
何とか受け身を取り前を見ると「わたづみ」の中からナイフを手に持ちながらゆっくりと外に出てくる麻生がいた。

「中で戦うと周りに迷惑だからな。
 場所を変えさせてもらった。
 さて、お前が俺を殺すっているのなら俺は全力で抵抗させてもらおう。」

その言葉を皮切りに両者は五メートルという距離を一瞬で詰める。
金属と金属がぶつかり合おう音と火花が空中で散っていく。
ミーシャはノコギリからL字の釘抜き(バール)に持ち替え、さらに腰からドライバーを抜き取りそれを麻生に向かって投げつける。
麻生はナイフでそれを弾き落とすがその対応は間違いだった。
弾き落とした瞬間には既にミーシャは接近していて、L字の釘抜き(バール)を麻生のナイフを持っている手首に向かって振り下ろす。
麻生は無理矢理手首を曲げて直撃を避ける事が出来たがL字の釘抜き(バール)の先端が、ナイフとナイフを持っている皮膚の間に入り込む。
ガリガリ!!、と皮膚を削る音と同時にナイフを上に弾かれ、そのままL字の釘抜き(バール)を麻生の顔面に向かって振り下ろす。
麻生の両手には干将・莫耶が握られており、振り下ろされるL字の釘抜き(バール)を受け止める。
さらにはミーシャの左右から地面が盛り上がり先端が槍のような形なり、ミーシャに襲いかかるがそれを後ろに下がる事でかわす。
地面の槍と槍がぶつかり合った瞬間、その影から干将・莫耶が飛んでくるが冷静にそれを打ち落とす。

「今のが決まっていれば両腕は切り落とせたんだけどな。」

土煙が晴れると麻生の両手には赤い槍が握られていた。
槍の名前は刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)
槍の持つ因果逆転の呪いにより、真名開放すると「心臓に槍が命中した」という結果をつくってから「槍を放つ」という原因を作る。
しかし、これは麻生の技量関係なく真名解放をすればミーシャの心臓を貫き殺してしまう。
麻生はある女性と一つの約束をしている。
その女性とは黄泉川愛穂。
彼女がまだ警備員(アンチスキル)に入りたての頃、まだ実力も未熟だった時、武装無能力集団(スキルアウト)に捕まってしまった時があった。
しかし、武装無能力集団(スキルアウト)が愛穂の身体に何かしようとした時に麻生が愛穂を助けに来たのだ。
偶然にも麻生は武装無能力集団(スキルアウト)が愛穂を連れて行くところを見かけたからだ。
麻生は能力を最大まで使い、その場にいた人間を全員殺そうと考えていたがそれを止めたのは他ならぬ愛穂だった。

「ウチがこいつらに捕まったのはウチの力が無かったからじゃん。」

何をされるか分からなかったのにそれでも愛穂は麻生に笑顔を向けた。

「だからウチは強くなるよ、こいつらを更生させるだけの強さをね。
 だから麻生とウチと約束じゃん、絶対に人を殺したらだめ。
 例えそいつがどんな悪人でも。」

愛穂は自分の小指と血まみれになった麻生の小指を結びつける。
麻生はその約束をずっと守っている。
どんな奴が相手でもどんな腐った悪人でも絶対に命までは取らない。
先程の干将・莫耶を投げつけたのも首ではなくわざわざ弾かれやすい腕を狙ったのだ。
だがさっきも言ったが刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)を真名解放すれば麻生と愛穂の約束など関係なくミーシャの心臓を穿つ。
麻生は槍を握りしめミーシャに接近して槍を突き出す。

刺し穿つ(ゲイ)

突き出した方向はミーシャの身体ではなくその足元の地面に向かって突き出される。
普通の槍ならそんな所に突き出したところで何の意味はない、そう普通の槍なら(・・・・・・)

死棘の槍(ボルク)!!」

突如槍は方向を変えて地面ではなくミーシャの身体に向かって軌道を変化させる。
ここで刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)についてもう一度説明しよう。
槍の持つ因果逆転の呪いにより、真名開放すると「心臓に槍が命中した」という結果をつくってから「槍を放つ」という原因を作るというものだ。
これは、発動したと同時に「心臓を貫いたという結果」が成立しているため、仮に放った直後で麻生が死んだとしても、槍はひとりでに動いて相手の心臓を貫く。
つまり軌道が変化したのは麻生の技量ではなく槍自身がその軌道を変化させたのだ。
その先は心臓ではなくミーシャの右肩に向かっていた。
麻生の今の能力では因果律を操るほどの力はないが、刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)に直接干渉して「心臓を貫いたという結果」を改竄する事は出来る。
ここで麻生が予想もしていなかったことが起こる。
さっきまでミーシャの肩に向かって突き出されていた槍の軌道が、突如変化してミーシャの身体に触れる事なく横に逸れていく。

(どうなって・・・・)

麻生は気づいた。
刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)を回避するためには敏捷性ではなく、幸運の高さが必要になってくる。
つまりミーシャには刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)が自ら避けていくほどの幸運を持っている事になる。
ミーシャは手に持っているL字の釘抜き(バール)で麻生の身体を横一文字に振りぬく。

(槍自体を空間固定。)

素早く槍自体を空間固定してそれを基点に、空中に飛んでL字の釘抜き(バール)を何とかかわし、左手を突き出して唱える。

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。」

それに応えるかのように槍が爆発する。
麻生は地面に着地してミーシャの様子を窺うが、ミーシャの身体の身体を守るかのように水の盾が周りに展開されていた。
麻生は刀を創り構え、ミーシャもL字の釘抜き(バール)を持ち直し構える。
すると、二人の間に神裂が乱入してくる。

「二人とも剣を引いてください!!」

神裂の問いかけに反応したのは意外にもミーシャの方だった。

「問一。
 貴女も御使堕し(エンゼルフォール)を完成を阻止する為に動いていたのではないのか?」

「確かにそうです。
 ですが、犯人ではないかもしれない人を排除するのとはまた違います。」

神裂の言っている事が分からないのかミーシャは首を傾げている。
そこに土御門が説明する。

「さっき店主の娘がカミやんを襲ったのは火野神作に見えたらしい。
 そして、カミやんも火野神作に見えたと言ってた。
 御使堕し(エンゼルフォール)の影響を受けている者とそうでない者が同じに人間に見えたのなら、そいつがこの御使堕し(エンゼルフォール)を展開した魔術師である可能性が高い。」

「問二。
 それはこの少年も同じ事ではないのか?」

「これはオレの私情としての意見だが、麻生がこんな面倒な魔術を発動するなんてどうしても思えない。
 とにかくだ、火野を捕まえて尋問してそれで何も情報が聞き出せなかったらそん時に麻生を問い詰めればいい。
 それからでも遅くはない筈だ。」

神裂と土御門の話を聞いてミーシャは少しだけ考えるとL字の釘抜き(バール)を元に戻す。
それを見た麻生も刀を捨てる。
遅れて上条もやってきてこれからの事について話し合う。
ミーシャは麻生達と一緒に行動する事になった。
自分の事をまだ疑っているのかもしれない、と麻生が考えていると上条は何か思い出したような顔する。

「あ、ああああああああああああああああ!まずい、インデックス!?」

そう叫ぶと上条はダッシュで「わだつみ」に戻っていく。
とりあえず神裂達は火野が再び戻ってきて襲いにかかると言う可能性もあるので、見張りと「わだつみ」の修理をすることになった。
麻生も一応は一般人なので寝ても構わないという事になった。
麻生は言われなくても寝る、と欠伸をしながら「わだつみ」の自分の部屋に戻ると布団に寝転がり眠るのだった。





麻生が目を覚ますと既に昼の十二時になっていた。
麻生が起きるのと同じタイミングで土御門が麻生の部屋に入ってきた。

「おっ、ちょうど起きたみたいだにゃー。」

「この家に入ってきてもいいのか?
 他の人に見つかるとやっかいだぞ。」

「その辺は抜かりないぜよ。
 カミやんの家族は海に遊びに行っていて二階にいるのは、カミやんに麻生にねーちんとミーシャだけぜよ。
 支度が出来たらカミやんの部屋に集合な。」

そう言って部屋から出て行く土御門。
麻生は起き上がり顔を洗っていつもの黒一色の服を着て上条の部屋に向かう。
部屋に入ると既にメンバーはそろっているのだが、上条の目の下にどす黒いクマが出来ていた。
何でも昨日は上条は一睡もしていないらしい。
本人に聞くと刀夜がインデックス(刀夜から見れば詩菜に見えるのだが)の布団にダイブしようとしていたので、それを阻止していたら朝になっていたらしい。
そんな絶不調の上条をほっといて話を進めていく。

「さて、これからどうやって火野を追跡するかが問題だぜい。」

「火野が魔術師なら彼の魔力の残滓を追跡する事はできないでしょうか?」

「解答一。
 昨夜、火野が魔術を使用した痕跡は見つからず。
 おそらくは追跡を逃れるための工作かと推測される。」

「一番ネックの「天使」の気配もないしにゃー。
 もっとも天使クラスの魔力なんざ、そのまま放置すりゃあそれだけで土地が歪んじまう。
 何らかの方法を使って隠蔽してることは間違いないんだろうけど、どちらにしてもまずは情報収集だぜい。」

土御門は客室の隅っこに置いてある古臭いテレビのスイッチを入れる。
ニュース番組では相変わらず小萌先生と、どこかの大学心理学者(見た目は小学校三年生くらいに見えるが)が火野の行動などについて話をしている。
上条は昨日火野が何度も言っていたエンゼルさまについて思い出す。

「なぁ、もしかして火野は天使に命令されて御使堕し(エンゼルフォール)を引き起こしたんじゃあないのか?」

「それはないな。」

上条の意見に麻生が否定する。

「天使にはそもそも心と言った考えを持っていない。
 簡単に言えば天使って言うのは神様の使い勝手のいい人形みたいなものだ。
 神様の命令を無視して行動する天使を「悪魔」と呼んでいるんだ。」

「ま、そこらは火野を捕まえて吐かせますか。
 さて、具体的に敵戦力を考えようぜ。」

「天使を完全に掌握しているというのはおそらくない筈だ。」

「何でそう言いきれるんだ?」

麻生の言葉に上条が反応する。

「もし掌握できていたら、あの時に既に天使の力を使っている筈だ。」

あっ、と上条もそこに気づいたようだ。
神裂と土御門も麻生の考えに同意しているようだ。

「協力者がいるという可能性はどうでしょうか?
 クロイツェフの話を聞いた限りでは歯を二本を引き抜かれ左手首は砕かれているはずです。」

「馬鹿正直に病院に行けば即通報。
 闇医者の世話になるにも脱獄直後じゃあ金もない。
 こりゃあ現金輸送車を襲って資金調達か、回復魔術の下準備ってとこか。」

「何にせよ、釈然としません。
 私達は心理分析(プロファイリング)の専門家でもありませんし、これ以上は犯人予想は余計な誤情報を生むだけかもしれません。」

神裂が言葉を言い終えるとそこで会話の流れも止まる。
若干ながら重苦しい空気の中、テレビの方だけが妙に無機質に響き渡るがいきなりテレビの声がいろめき立った。
麻生が視線を向けると「臨時ニュース」というテロップが映っていた。
何でも火野は神奈川県内の民家に逃げ込んでいるというニュースだった。

「さてはて困った事になったぜい。
 できれば警察に介入される前に、火野神作を回収しちまいたい所だけどどうしたもんかにゃー。」

「土御門!
 仮に人質がいた場合どういう結果を招くか分かって言っているのですか!?」

神裂は珍しく激昂したが土御門は簡単に受け流してしまった。

「うにゃーん、それじゃ火野を回収するにしても人質を救出するにしても、とにもかくにも現場に行ってみないと。
 それで現場ってどこなんだか、神奈川県内だけじゃあ結構広いぜよ。」

あの、と上条は恐る恐る片手を挙げて発現する。

「何ですか、現場に連れて行けという要望なら却下します。
 ステイルはどうだか知りませんが私はあなたを戦場に連れて行く気などさらさらありません。」

「そうではなく、さっきの上空からの映像で気になる点が一個あったんだけど。
 いや、でも、けど、見間違いかもしれねーし、あってたとしても。」

「即刻言いなさい。」

「ウチの母さんの趣味がパラグライダーらしくてさ、全然分かんねー近所の上空写真を山盛り持ってこられた事があるんだけど。
 なーんかあの赤い屋根って見覚えある気がするんだよなー。
 実家(ウチ)の上空写真で。」

上条はあまり正解であってほしくないような顔をしながら言うのだった。 
 

 
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