ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します
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本編
第12話 帰る場所
暗い。でも周りに、たくさんの人が居るのが解る。皆、同じ方向に向かって歩いている。私も同じように歩く。……ただ、歩く。
頭がボーとする。意識は濃い霧の中で、迷子になってしまった様だ。
ふと……このまま進んで良いのか? と頭の中に疑問が浮かんだ。
何となく、周りを見回してみる。そこに居たのは、死体・死体・死体・死体。
私の周りは、歩く死体で埋め尽くされていた。いや、死体が歩く訳が無い。今周りにいるのは、死体では無く死者達だ。
漠然と理解した。このまま一緒に逝けば、自分と言う存在と引き換えに輪廻の環に戻る事が出来る。
だけど私は、それを嫌だと感じた。
ひと塊りになって目的地に向かう死者達の中から、のろのろと抜け出す。
目の前には河が在った。その河に入る気になれず、何となく周りを見渡す。
見えるのは、死者達と河そして下流へ向かう階段だけだった。それ以外は、ただ闇が広がるばかりである。
何となく階段へ向かう。単に濡れる気になれず、死者達の前を横切る気にもなれず、闇は怖いと感じたからだ。
階段は、青暗い光で照らされていた。だから足を踏み外す心配もない。ゆっくりと、一段一段下りていく。
すると、目の前に石造りの門が見えた。その門を押すと、簡単に開いたのでそのままくぐる。同じような門がいくつか在ったので、同じようにくぐった。途中に右にそれる小道があったが、それらは何となく無視した。
何時の間にか頭の中の霧は薄れていき、自分の向かうべき場所に確信が出来始める。
階段を下りきると、広い場所に出た。目の前に、大きな河と大きな門が確認出来た。幻想的なのに、どこか畏怖を感じる門だ。
「ここは……?」
一度来た事がある場所だ。懐かしさに、あの時と同じ言葉が口から出て来る。
「ここは、冥き途。……貴方は、もう知っているでしょう」
「はい、私は知っています」
振り返ると、そこに懐かしい2人が……いや、2人と1匹がいました。
「お久しぶりです。リタ、ナベリウス。それに、ケルちゃん」
「久しぶり」
「……り」
リタは笑顔で、ナベリウスは目を閉じ僅かに微笑んで、返事を返してくれました。ケルベロスは尻尾を左右に振って、喜びを表現してくれました。
「また、死んでしまいました」
私は冗談でも言っているかの様な、軽い口調で言いました。
「…………」
「…………」
しかし返って来たのは、重苦しい沈黙でした。2人にとって死者……つまり死とは、慣れ親しんだ存在だと思っていました。しかし、実際には違った様です。
思えば俺がここに来た時、2人は本気で俺の今後を考えてくれました。2人は死者が無事に生まれ変わり、新しい生を手に出来る様に、冥き途で案内人をしているのだから、死に慣れている訳ではないのでしょう。
……相変わらず私は、浅はかですね。
「ありがとう。悲しんでくれて。ありがとう。再開を喜んでくれて。そして、ごめんなさい。2人が死に慣れてると、思い込んでました」
私は心を込めて、お礼と謝罪を2人に言いました。
「気にしないで。本当なら、貴方自身が一番辛いはずなのだから……。それに、さっきの沈黙は違うの。私達は貴方との再会を、手放しで喜んでしまった。そこに、貴方の死があったのに……。ごめんなさい」
リタはそう言って、謝って来ました。ナベリウスもリタにならい、頭を軽く下げます。この2人の反応に、私は救われた様な気がしました。
それから2人に、これまでの人生について話しました。
ハルケギニアの事。
トリステイン王国の事。
ドリュアス領の事。
使用人達の事。
父上と母上の事。
姉と妹の事。
短い人生と言っても、7年近い人生の話です。すべて話し終えた頃には、かなり時間が経っていました。話の途中では、笑顔を見せてくれた2人ですが、話が終わると途端に沈んだ表情になってしまいます。
「気を落とさないでください。本人がそれほど気にしていないのに、周りがこれじゃ気にならない物も気になってしまいます」
私はあえて、元気よく言い切りました。
「そうね……」
リタは私の言に、納得してくれたようです。ナベリウスも声にこそ出しませんでしたが、頷いてくれました。
それから私は、リタとナベリウスの話を聞きました。やがて話題が変わり……。
「ところでギルは、これから如何したいの? ここに残りたいなら、私達に出来る事ならさせてもらうわよ」
リタが話題を、これからの事に切り替えました。
「選択肢って、どれ位有るのですか?」
「大きく分けて、輪廻の環に戻るかここに残るか。そして残るにしても、どのような形で残るか選ばなければならないわ」
「せっかく、友達が出来たのです。なるべく残りたいですね」
リタは頷き、説明を続けてくれました。
「残る場合は、誰かの使い魔か使徒になる方法と、私の様に自立した個体として自分を確立してしまう方法があるわ」
私はリタの説明が理解出来たので、それを示す為頷きました。
「使い魔か使徒になる場合は、私じゃ力が足りないからナベリウスと契約してもらうのが良いと思う」
リタが確認する様に、ナベリウスに聞きました。ナベリウスは頷き肯定します。
「自立した個体になる場合は、それ相応の力が必要になるし当然リスクも高くなる。その代わり、この世界での自由が約束されるわ」
つまり楽で安全な隷属の道と、険しく危険な自由の道。この二つの、どちらの道にするか? と言う事ですね。これからも対等とは言いませんが、この2人と友人として付き合って行くには、当然後者を選ぶべきです。
そう結論を出した私は「自由の道を選ぶ」と、誓い声に出そうとした時、その会話が聞こえました。そのリタとナベリウスの会話が、私の誓いを一瞬で粉々にしてくれたのです。
「契約方法は、何が良いのかしら?」
「……性魔術が楽」
「それで良いの?」
「……いい」
……ちょっと待ってください。えっと……するのですか? 誰が? 私とナベリウスが? 何を? XXX? でも大切な友人ですよ? したくないのですか? したいに決まってます!! でもそれは、今後友人として……。でも、戦女神はエロゲだった気が……って、違う!! そんなの事は関係無い!! 大切な友人に……
リタとナベリウスの話は、どんどん先に進んで行きます。が、私は1人で絶賛パニック中。2人の話を全く聞いて居ませんでした。
……ゴン!! ……バタ。
「正気に戻った? ……あれ? 大丈夫?」
一体何が……ガクッ。
暫くして、私は目を覚ましました。事情を聴くと、私を正気に戻す為にリタが槍で殴ったそうです。と言うか、そんな危険物(魔槍ドラブナ)で殴らないで下さい。下手したら魂が消滅します。それに何か物凄く、既視感が有るのは気のせいでしょうか?
「リタ……やり過ぎ」
ナベリウスに指摘され、リタは気まずそうにしています。話を聞いて居なかった私にも非があるので、あまり気にしないでほしいです。
「とにかく自立した個体になるのに、具体的にどれ位のリスクがあるのか確認したいの。それには魂と精神を、詳しく診る必要があるの。だから無意識下で拒絶しなように、意識的に私が診るのを受け入れてほしいの」
何故かリタは、捲し立てる様に説明しました。
「分かりました」
リタの話は、私にとって有益な事なので、特に何も考えず二つ返事で返します。
「先ずはリラックスして、心を落ち着かせて」
私は言う通りにします。
「次はイメージして。魂を私に、直接触らせるのを許すイメージ」
私は言われた通りに、イメージをしました。もう術式が動き始めているのか、頭が少しぼーっとしますね。
「準備OKみたいね。……それじゃ行きます」
リタの顔が、私に近づいてきます。思考が鈍った私は、他人事の様にリタの顔を見ています。そして、私とリタの唇が重なりました。私は頭がぼーっとしていて、今起きている事が現実かどうかさえ判らない状態です。
どれ位の時間を、そうしていたのでしょうか? 必要な情報が集まったのか、リタが離れ術を解除しました。
今起きた事が現実であると自覚した私は、あっという間に顔が真っ赤になりました。鏡で確認しなくとも分かるレベルです。私はパニックにならない様に、落ち着こうとしていましたが、そんな必要はありませんでした。
……ゴン!! ……バタ。
「……天誅」
……なんで? ……ガクッ。
少ししてから、目を覚ましました。私はまたリタの危険物(魔槍ドラブナ)で殴られた様です。何故?
「ギルは肉体との繋がりが、ちゃんと生きてる」
「「……え?」」
私とナベリウスの声が重なります。
「つまりギルは、まだ戻るべき肉体が有るの。ギルの為に、少しでも役に立てればと思って唇を許したのに、いくらなんでもこのオチは無いと思う」
あっ、なんかナベリウスからも非難の視線が……。私は居た堪れなくなって、身体を引きその視線から逃れようとしてしまいました。
「次に来た時同じ事があっても困るから、自分の状態位自覚出来る様に、霊体と魂の基本を叩きこんであげる」
あれ? 今、リタに母上が被って見えましたよ?
「しかし早く戻らないと、肉体がダメになってしまうんじゃ」
「大丈夫。前回ギルが来てからそちらの時間で7年だけどこちらでは、何百年もの時間が経っているから」
え? そんなに時間の流れに差異があるのですか?
「どの道自力で繋がりを伝い戻るにも、魂と肉体の繋がりを知覚できなければ無理よ」
リタの言葉には、全く反論の余地がありませんでした。
「お願いします」(涙出そうです)
今頃、皆泣いてるかも知れませんね……。早く帰らないと。
リタとナベリウスの修業は、洒落になって無かったです。そう言えば、この2人は、綺麗で可愛いのに人外でした……。
でもリタとナベリウスが、私の修業を如何に早く終わらせるか、こっそり話し合っていたのを私は知っています。時間の流れに差違があると言っても、早く帰った方が良いに決まっていますから。
本当にリタとナベリウスには、感謝してもしきれません。
やっと冥き途から帰還する事が出来ました。修業は厳しかったです。えっ? 修業の内容? 忘れさせてください。……オネガイダカラ。
なのに帰りは、繋がりたどるだけでやたら楽でした。
……なんでさ?
悪態の一つも吐いてやりたい気分ですが、無事に肉体に戻り目覚めた事に変わりはありません。ここは、リタとナベリウスに感謝するべきなのでしょう。
目を開けると、薄暗く室内の様です。そして周りには、誰も居ませんでした。
まず最初に、現状を確認する事にしました。私が寝かされていた部屋は、やたらと立派な作りをしています。恐らくですが、かなり高位貴族の館と思われます。そして近くのテーブルの上に、私の杖が置いてあります。
状況から見て味方。……ヴァリエール公爵の館と見て良さそうですね。部屋が薄暗いのは、今が夜だからの様です。
次に身体の状態です。外傷は特に見当たりませんでした。軽く動かしただけで、身体がバキバキ音を立てました。寝たままで、結構な時間が経っていた様です。軽く柔軟をして、全身の筋肉と関節を柔らかくします。身体に違和感は、特に認められませんでした。
身体を触ってみましたが、火傷の痕は残っていない様です。ただし髪型は、坊主になっていました。流石に秘薬や水魔法でも、髪までは元に戻せなかったのでしょう。
(残ってる髪は、1mm位でしょうか? 伸ばすのに、時間がかかりますね……泣きたいです)
しかし、どうして誰もいないのでしょうか? ひょっとして、私の事は誰も心配してくれなかったのでしょうか? いや……ソンナハズハ……。
……それよりも、お腹が空きました。何か食べたいです。……かなり切実に。
取りあえず、このまま寝る選択肢は無いです。私は部屋の外に出る事にしました。
ベッドから抜け出し、杖を回収するとドアを開けて廊下に出ます。
(暗くて良く分かりませんが、広いですね。……でも、ライト使うと警備の人来るかもしれませんし)
廊下に出て、初めに思った事がそれでした。わざわざ騒ぎを起こす事も無いでしょう。
(モンモランシ家も広いと思いましたが、ヴァリエール家も負けていないですね)
廊下を適当に歩いてみます。しかし、人を見つける事が出来ませんでした。
(ひょっとして、今は深夜なのでしょうか?)
先程から私の耳に入ってくる音は、虫の音と犬の鳴き声だけです。
(せめて調理場で、少し食料を分けてもらいたいけど……)
「ぐぅ~~~~」
恥ずかしい事に、お腹が鳴ってしまいました。
闇雲に歩き回っても、調理場に辿り着くには時間がかかると判断し、まずこの館の造りを把握する事にしました。
目で確認するには、今は夜で暗すぎます。分かるのは外の景色から、現在地が1階である事位です。そこで、音で分かる事が無いか試してみます。
先ずは壁を適当に、コンコンと叩いてみます。風のラインに成ったなら、音には敏感になっているはずです。音の響き方で、館の造りが……分かりませんでした。ライン程度では、そこまで詳細に音を感じる事が出来ない様です。それに良く考えたら、いくら音に敏感でも比較対象が無ければ、検証の仕様が無いです。
しかし音の反響から、廊下の大凡の広さ位は分かりました。
(あれ? ……この館、それほど大きくない様な気がします。ひょっとして、ヴァリエール公爵の館では無いのでしょうか?)
「ここ何処ですか?」
思わず口に出てしまいます。
不安はありますが、とにかく次です。壁に手を当てて、館の建材を感じ取ってみます。そこから分かったのは(何となく1階建ての様な気がする?)程度の事でした。それも《固定化》や《硬化》が使われていなければの話です。
(駄目です。全く分かりません。でも、土と風がラインクラスに成った感覚はあります)
結局諦めて、適当に歩き回る事にしました。暫く歩くと、渡り廊下がありました。渡り廊下の先には、大きな建物があります。建物の廊下に明りが灯っていたので、暗くても建物の大きさが分かりました。どう小さく見積もっても、モンモランシ家の館の数倍は大きいです。
(今まで私が居たのは、来客用の離れだったのですか? ……なら調理場は、普通本館に在るはず)
私は意を決して、渡り廊下を進み本館に侵入します。すると運良く、本館に入ってすぐの場所に調理場を発見出来ました。おそらく家人と客人に、料理を出すのに都合の良い位置なのでしょう。
早速調理場に入り、食べ物を物色します。しかし出て来たのは、使用人用の黒っぽいパン(おそらくライ麦パン)とハシバミ草にベーコン(らしき肉)とバターとチーズに塩他各種香辛料。他にも、良く分からない肉や野菜がありましたがスルーします。
調理用具と薪はそろっているので、自力で料理する事にしました。使用人達を叩き起こすのも、気が引けますし。
先ず薪をかまどに入れて、魔法で火をつけます。火が安定するまで待って、網を敷き薄目に切ったライ麦パン2個分6枚にバターを乗せて焼きます。焼きあがったら網を鉄板に変え、厚く切ったベーコンをジューシーに、薄切りにしたベーコンをカリカリに焼き上げ、塩他各種香辛料で味付けします。ハシバミ草も、軽く炙っておきます。(苦味緩和の処理)出来た物を、パン・ハシバミ草・チーズ・ジューシーベーコン・パン・ハシバミ草・チーズ・カリカリベーコン・パンの順番で重ねれば……。
「ベーコンハシバミチーズバーガーの完成です!!」
(勢いで命名してしまいましたが、長いでしょうか? まあ、バーガーで良いでしょう。それより、早く食さねば……)
もう既に「お腹がくうくうなりました」状態です。折角の料理が冷めてしまいますし、火だけ《凝縮》で消して早速食べます。テーブルの上にバーガーと水を用意し、さあ食べるぞと大口を開けた瞬間、調理場入口から視線を感じました。
入口にはピンクブロンドの女の子が居ました。歳の頃は私より少し下位でしょう。寝間着も、上等な物を着ています。
(……この娘はひょっとして)
取りあえず食べるのを中止し、問いかけて見る事にしました。
「私はギルバート。……君は?」
相変わらず、ザ・人見知り発動中です。もう少し優しく語りかけられなかったのでしょうか? 私が内心情けなく感じて居ると、女の子は壁に身体を隠し、こちらを覗きこむようにしながら「ルイズ」と答えてくれました。
(この娘が虚無の担い手ですか。マギは可哀想な娘。と、評していましたね。……私個人としては、例の件が無ければ近づきたくない人物ですね)
「もう遅いですから、早く部屋に帰って寝た方が良いです」
しかし、反応がありません。私をじっと観察しています。
「喉が渇いているのですか?」
また反応無しです。ですが時々視線が、私からバーガーに移っています。
「お腹が空いているのですか?」
今度は反応がありました。ルイズは、ビクッと身体を振るわせてから頷きました。
「2個あるから、1個食べますか?」
流石にお腹が空いている人の前で、堂々と自分だけ食べる事ができません。元々この食材は、公爵家の物ですし……。
私の誘いにルイズは警戒しながらも、空腹には勝てなかった様です。黙ってテーブルに着きました。
私は新たに皿を用意し、1個をそちら移してルイズの前に出してやります。ですがルイズは、なかなか食べようとしません。
「どーやって食べるの?」
ああ、そう言うです事か。
「特に作法はありません。サンドイッチと同じ様に、手で持ってそのまま食べます。その際、具が落ちないように注意してください」
ルイズは頷いてから、バーガーを手でつかみ齧り付きます。余程お腹が空いていたのか、凄い勢いでバーガーが減って行きました。まるで、普段食べさせてもらっていない子みたいです。
そこで私も自分の分に手をつけようと、バーガーに手を伸ばしました。しかしその手を、途中で引っ込める羽目になったのです。
「ん~~~!! ……み みず!!」
(まったく、そんなに急いで食べるからですよ)
私はまだ手つかずだった自分の水を渡すと、ルイズは一気に飲み干しました。私は自分用の水を、新たに取りに行きます。
帰ってくるとルイズは、私のバーガーを凝視していました。
(これじゃ食べ辛いです)
「まだ足りないのですか?」
「えっ……いえ、その……」
(態度見れば丸分かりだって言うのに、この娘は……)
「まだ足りないのですか?」
「……はい」
念を押すと、ようやく肯定しました。
「あと何個食べたいのですか?」
「……2個」
「それを別にして、2個ですか?」
「……別で」
「分かりました。私の分含めて4個作って来ますので、先にそれを食べていてください」
私は先程の薪から魔法で水分を分離し、手早く調理を始めます。
「ギルバート。あなた魔法が使えるのね。はぐ、もきゅ もきゅ……」
「はい。もうすぐ7歳になりますので、魔法を始めてかれこれ2年になります」
「……ゴクン。私はまだなの。魔法を使うときって、どんな感じなの?」
「流れですね」
「流れ?」
「そうです。力の流れを感じて、そこにイメージを乗せるのです。だから流れる力が、強過ぎても弱過ぎても魔法は成功しません。またイメージが曖昧だと、発動できないか正しい効力を発揮しません」
「そうなの?」
「はい。だから最初は魔法の発動訓練の後に、属性基準を調べるのです。これにより、流れの力加減を自覚させます。結果として魔法の成功率が、圧倒的に変わって来ます。まあ、これは我が家の教えなのですが……」
「ふーん」
と、ベーコンハシバミチーズバーガー4個出来上がりです。皿に2つずつ盛りつけました。ついでに、水差しに水を入れてテーブルに持って行きます。
「さて、食べましょうか」
ルイズは既に、バーガーに齧り付いています。私は(公爵家の令嬢がはしたないですね~)等と思いながら、食べ始めました。その時ふとルイズの食欲に、疑問がわきました。
「しかし、どうしてそんなにお腹が空いているのですか?」
私は何も考えずに、疑問をそのままぶつけました。女の子にそんな事を言えば、どうなるかなど全く考えていませんでした。
「ム……。ギルバートも、エレオノール姉さまと同じ事を言うのね」
ルイズは「ご機嫌斜めです」と、言わんばかりの態度になります。
「ひょっとして、三食を抑えているのですか?」
「だってエレオノール姉さまが“太るから”って、あんまり食べさせてくれないんだもん」
あー、そう言う事ですか。まあ姉妹間の問題は、姉妹で話し合って解決してください。まあ、10年後のルイズが低身長+貧乳なのは、この所為かもしれませんが、逆に食べると太るだけかもしれませんし。この件に関しては、ノータッチで行きましょう。取りあえず話題変換して、この話を終わりにする事にしました。
「ところで、私の妹には会いましたか?」
「妹?」
「アナスタシアの事です」
「あっ。無いから気付かなかった。ギルバートも黒髪なのね」
(無いは余計です!! 無いは!!)
私は思わず、心の中で叫んでしまいます。
「モンモランシーと一緒に遊んだよ。その後、エレオノール姉さまに怒られたけど。ディーネさんが、かばってくれなかったら……」
そう言いながら、ルイズは震え始めてしまいました。
(……何をやらかしたのですか?)
「その後……モンモランシーとアナスタシアが、すごく優しくなった」
聞かなかった事にしておきます。と言うか食べ終わりましたし、そろそろルイズは寝た方が良いと思うのです。まだ船は漕ぎ出していませんが、目が少し眠そうです。部屋に帰り着く前に力尽きられても困ります。
「そろそろ眠いのではありませんか? 無理をせずとも、話なら明日出来るでしょう」
「うん。……少し眠い」
やはり、もう解散した方が良さそうですね。まあ、私は全然眠くないのですが。
「お休みなさい」
「はい、お休みなさい」
ルイズに就寝の挨拶を返し別れると、私は館の中を少し歩く事にしました。ベッドに入っても、眠れそうにないからです。
暫くしてから、足音が聞こえました。足音からして、たぶん大人の男の人だと思います。
私は予想が合っているか確かめたくなって、足音の方に移動します。私の予想は的中していました。そこにいたのは、絵でしか見た事の無いモンモランシ伯爵だったのです。何故こんな時間に、モンモランシ伯がここにいるのでしょうか?
確かめてみたくなった私は、モンモランシ伯爵の後をつけてみます。
伯爵は部屋に入って行きました。すぐに部屋の前に移動して、中の音を拾います。部屋の中には、母上と知らない男の人2人(うち1人がモンモランシ伯)それに、知らない女の人1人で最低4人は居る様です。拾った声と音から察するに、知らない男女はヴァリエール公爵と公爵夫人の様です。
中の人達は一通り挨拶をすると、機密性の高い話をするのかサイレントを使いました。これでは、中の声と音を拾えません。その場は諦めて、元の部屋に戻る事にしました。
離れに入った所で、使用人がこちらに走って来ます。
「……あっ」
しかし、向こうは相当急いで居た様で、暗がりに居た私に気付きませんでした。呼び止めようと思った時には、既に距離が離れて過ぎています。
「まあ良いか」
目覚めた事を、母上達に伝言をして欲しかったのですが。……それほど重要な話でも無いですし、後でも十分でしょう。
この認識が甘すぎた事を、私は後で後悔する事になるのでした。
後書き
ご意見ご感想お待ちしております。
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