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チートだと思ったら・・・・・・

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九話

「はははははっ! どんな手使ったか知らんけどやったやないか新入り。このかお嬢様が手に入った以上、もうこっちのもんや!」

少年、フェイトが連れ帰った少女を己の式に抱えさせた女、天ケ崎千草が声高だかに笑う。ここまで来てしまえばもう自分の計画は八割がた成功したと言っていいだろう。何せ、後はかの地に向かうだけなのだから。

「ん゛ー!」

「ふふふ、なーんも心配せんでええですよお嬢様。酷い事はしまへんから。さあ、祭壇へむかいますえ」

ようやく、自分の願いが叶う。西洋の魔術師どもに一泡ふかしてやることができる。歓喜に震える千草の心。だが、そんな千草に水を差す者達がここにはいた。

「待て!!」

「天ケ崎千草! お嬢様を返してもらうぞ!」

英雄とその仲間達が、ついに敵陣と会合した。



「ちっ、うっとうしい奴等やな」

「明日の朝には本山の術者達が帰還する。無駄な抵抗はやめて投降しろ!」

本山にまで襲撃をかけた相手にこの様なおどしが通用するとは思えない。だが、少しでもむこうの余裕をそぐことができれば、そう思って告げた桜咲だったがやはり千草に効果はなく、浮んだ笑みが消えることは無かった。

「ふん、本山で震えとれば良かったのに、のこのこやってきたことを後悔させたるわ」

「ん?」

千草は懐から一枚のお札を取り出し近衛の胸元に張り付ける。そして厳かな声で呪文を唱え始める。するとどうだろうか、近衛に張られたお札……いや、それだけでなく辺り一面に眩い光が溢れだす。

「お嬢様の力の一端、見せたるわ!」

顕現。地面から湧き出るように次々と異形の怪物達が現れる。一角の鬼、一つ目の鬼、河童、等など、日本を代表するような妖怪の数々。百体を越える異形達は皆、近衛の魔力によって召喚された者達だった。陰陽に関しても知識のある桜咲には分かる。並の術者であればこれだけの鬼達を召喚するのに五人は必要であると。それにもかかわらず近衛は一人、それも全体の何十分一というレベルの力の行使でこれをなした。極東最大の魔力、それがどれほどのものなのかを、桜咲は一人実感していた。

「あんたらはこの鬼達と遊んどき、まあ殺さんようには……そうや、一つ忘れとったわ」

千草が指を鳴らすと、一体の式が岩の陰から現れる。その肩には、一人の男が担がれていた。

「……え?」

「そんな!?」

「!」

「あんたらも酷い奴等やなあ、友達が本物かどうかもきづかへんやなんて」

式に担がれた男、それは……修学旅行初日の夜より”ずっと”敵に囚われていた、宮内健二であった。



「千草さん、彼を……」

「ん? まあええやないか、ここまできたらもう捕まえとく必要もないやろ。それに、あれを呼び出しとる最中にはそんな余裕もあらへんしな」

「…………」

「さて、猿轡ぐらい外したるか」

口を塞いでいたものが取り除かれる。食事以外では久しぶりのことだ。

「ほら、あんたが捕まった事に全然きづいてへんかった友達になんか言ってやったらどうや?」

にやつかせた顔を寄せてくる千草。さて、ここまではほぼ原作通りのようだ。だが、ここからは外れていく、この俺によって。さあ、覚悟を決めよう。

「さっさと下ろせ、この年増」

「なん、やてぇ!」

一瞬でその顔を怒りに染めた千草の命によって、俺は荒々しく地べたに放り捨てられる。足首が隠れる程度の水が顔を濡らす。いい気つけだ。

「鬼共! こざかしい餓鬼共にきつい灸をすえたれ!」

吐き捨てる様にして、その場を去っていく千草。どうやらフェイトもそれに続いたようだ。これで、こちらも行動を起こせる。

「悪いな嬢ちゃん達、召喚者の命やからな、手加減できんのや」

次々と武器を持ちあげていく異形達。対して明日菜達も武器を構えるが、実戦経験に乏しい明日菜とネギは目に見えて震えている。そろそろ、頃合いか。

――同調、開始

「そんな感情は持たなくていい、手加減しないのは此方も同じだ」

「あ?」

――投影、開始! 戦いの歌!

過剰強化によってこの身を拘束していた縄を引きちぎり、すぐさま干将・莫耶を投影し、続き身体強化の魔法を使う。

「お前さ・・・・・・!?」

最後まで言わせない。近くにいた鬼を三体程切り裂いて還し、大きくバックステップをとって明日菜達の元へと移動する。

「健二!?」

「健二さん!」

「久しぶりだな、二人とも。先ほどは心配をかけたようだが、この通りもう大丈夫だ」

敵の手の中から抜け出し、仲間に会えた事で心が安らいでいくのを感じる。特に、明日菜の安堵の表情を見ればなおさらに、だ。

「宮内、健二」

「桜咲刹那か……君が俺をどう思っているかは知らないが、今はそんなことをしている暇ではないだろう。ネギ君、時間が欲しい障壁を張れるか?」

「あ、はい!」

ネギの風花旋風風障壁によって、巨大な風の壁が展開される。正直、ここまで巨大なものを容易く作り出すネギの魔力に嫉妬の念を感じるが、そんなことを今言っている場合ではない。

「さて、作戦会議だ。絶対に近衛を取り戻すぞ」

英雄の息子の仲間に新たなメンバーが加わり、いよいよ反撃へと動き出す!



「いいか? 俺達の目的はあくまでも近衛を救うことだ。それ以外を考えるな」

「はい!」

四人と一匹で行われた作戦会議の結果、単身近衛の奪取へと向かうことになったんネギへと言葉をかける。こで言い聞かせておかないと原作みたいに頭に血がのぼりそうだからな。

「最初の奇襲が失敗したらすぐに俺達を喚べ。これも忘れるな」

「分かりました!」

「それじゃあ……行くぞ!」

ネギの風障壁が解除され、鬼達の姿があらわとなる。だが、突然解除された風障壁に鬼達はすぐに反応できていない! そこに、ネギの最大呪文を叩きこむ。

――雷の暴風!

風邪を伴った雷は正面の鬼二十数体を吹き飛ばした。それに乗じてネギが杖に乗って飛び立つ。

「っ! いかせるな!」

一体の鬼の声に弓を持った鬼が反応する。素早く矢を番えるが、そうはさせない。

「姫を取り戻しに行く騎士の邪魔はさせんよ」

下手くそなりに使える瞬動で接敵し、首をはねる。鬼は弓と矢を落とし、還って行った。

「さぁ、始めようか」

――アデアット!

視界が変わる。ネギとの仮契約で得たアーティファクト、全てを見通すもの(センリガン)は戦いにおいて重要な要素である眼に、多大な恩恵をもたらしていた。





「さて、作戦会議とは言ったが……取れる手段はそう多くないだろう」

「二手に分かれる……ですかい? ええっと……」

「宮内健二だ。そこのオコジョの言うとおり、我々の目的は近衛の奪還だ。奴らが近衛を利用して何かを企んでいる以上、早急に取り返す必要がある」

恐らく、どうやってもスクナは復活する。だが、何もしないのではより悪い方向へと事態が進みかねない。この作戦が上手くいかないと分かっていても、行うしかない。

「俺はここに残る。何せ飛べないからな。ネギ君について行くのは無理だ。二人はどうだ?」

「アスナさんは、その……何故か乗せると上手く飛べなくなっちゃうので……」

「そう、か。それじゃあ、桜咲はどうだ?」

「……私も、飛ぶ術はありません」

やはり、と思いながらも顔には出さない。なし崩し的にネギ君が単身で近衛奪還へと向かうことになった。作戦は立てた……ならば、やることはただ一つ。

「それじゃあ、アレをやっとくか!」

「仮契約、か?」

「分かってるねぇ、健二の兄さんは。あ、ちなみにオレっちはアルベール・カモミール。カモって読んでくれ」

欲望丸出しの顔で地面へと魔法陣を描いていくカモ。……もう決めていたことだが、やはりいざとなると決心が鈍るな。

「そいじゃあ、兄貴に刹那の姉さんブチューっと一発頼みますぜぇ!」

「あ、えぅ」

「あの、その」

両者共に顔を赤くして固まっている。カモがまくしたてているが、中々動きだす気配を見せない。……仕方ない。さようなら、俺のファーストキス。

「桜咲、お前がしないのなら俺が先にする」

ええ!? と驚く皆をよそにネギの首をつまみ上げて魔法陣の中に連れていく。そして、時間にして一秒みまんであったが、確かに俺とネギは唇を重ねた。

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

他三人と一匹が石化している中、ひらひらと舞うように落ちてきた仮契約カードをキャッチする。カードは外套を来た俺が立っているだけで、何か目立った武器のようなものは見られない。だが、これは俺の力になると、何故か確信していた。

「って、健二! アンタ一体なにしてんのよ!」

「落ち着け! 緊急事態だ、今は少しでも力が必要だろう! 俺はノーマルだから苦渋の決断だったんだぞ!」

我を取り戻したとたんもの凄い勢いで詰めかけてくる明日菜に若干引きながらも反論する。実際、しょうがなかった……アーティファクトは持っていたほうが有利なのは確実だ。今すぐにでも力が必要なこの状況ぐらいでしか行えるタイミングがないのだ。この時ばかりはキスしか方法を明示していなかった原作を呪った。とりあえず……

「………………」

「………………」

「………………」

「いつまで固まってるつもりだ!」

未だ戻らない二人と一匹を明日菜のハリセンを借りてブッ叩いた。その後は一応原作通りにネギと桜咲のパクティオ―が行われたのである。





「ふっ!」

干将を振い、懐に潜り込もうとしていた小鬼を切り捨てる。これでおよそ二十五体目だ。桜咲は俺以上の数を倒しているようだが、鬼達に終わりは見えない。それが実戦経験に乏しい俺には、精神的疲労となってのしかかってきていた。

「明日菜!」

「え?」

アーティファクト、センリガンの力によって本来”見えないはずの場所”まで見える様になった俺は明日菜の危機をこの目に捕えた。

「っだぁ!」

対多数戦闘なんてものを経験したことがない明日菜は間の取り方が全くできていない。俺もチャチャゼロのシゴキで数回経験しただけだから偉そうなことは言えないが、この眼を得たためマシにはなっているだろう。攻撃をかわした明日菜に背後から振り下ろされた巨大な棍棒を双剣を交差させて受け止める。

「ぐぅ、おおおおおお!」

一時的に身体強化の密度を上げ、一気に押し返す。それが意外だったのか、たたらを踏んだ鬼の胸に莫耶を突き刺す。

「あ、ありがとう。健二」

「はぁ、はぁ……どう、いたしまして」

何も疲労は精神的なものだけじゃない。先ほどから何度もこの様に明日菜を助けているため、肉体的な疲労も、確かに蓄積しつつあった。

あまたの鬼達との戦いは、まだ終わりを見せない。



「け、健二……大丈夫?」

「……あ? なんか言ったか?」

不味いな……数瞬だが意識が完全に飛んでた。アーティファクトによって広がった視界には数えきれないほどの鬼。俺だけで50は倒したってのに、まだ終わりが見えない。後方では桜咲が複数の鬼を相手に孤軍奮闘している。いつまでも、へばってるわけにはいかないか。

「明日菜、まだいけるか?」

「う、うん。アンタが何回も守ってくれたから……」

そんな申し訳ない顔をするぐらいなら礼の一つでも言ってくれた方が元気がでるんだけどな……まぁ、それはこの窮地を脱してからにしよう。

「行くぞ!」

「まかせて!」

俺と明日菜はそれぞれ武器を構え、待ちうける鬼共に向かって行った。



「なかなかやるなぁ!」

「アンタもなっ!」

俺が今相手取っているのは一際大きい一角の鬼だ。多分だが、原作で桜咲が別格と評していた内の一体だ。他の鬼にオヤビンって呼ばれてたし。

「お、らぁ!」

「ぐっ!」

正直、俺とは相性が悪い。戦いの歌を覚えたとはいえ、俺はまだまだ強化効率がすこぶる悪い。原作のネギ程の恩恵を得られないのだ。故にこの鬼の様なパワータイプの放つ強力な一撃は躱すしかない。今も半身になった体の真横に巨大な棍が振り下ろされた所だ。

「ちっ、またかわされたか。兄ちゃん、見えとるな?」

「見えていても肝が冷えるよ。アンタの攻撃はな」

俺のアーティファクトの恩恵、それは絶対的な視力の上昇と、ほぼ360°にまで広がった視界、そして透視能力だ。明日菜を助けに行けたのも、二つ目の恩恵のおかげだ。

「最初はいけすかん命令や思うたけど、悪うないな」

「俺はご免こうむりたいがね」

俺と鬼が、静かに武器を握りなおす。この鬼は強い……チャチャゼロ程ではないだろうが、それでも今の俺では荷が重い相手だ。だが、だからといって引くと言う選択肢は無い。足に力を込め、瞬動を行おうとした所で……

「ああ、あああ、あああああ!!」

烏族の鋭い連続攻撃を受けて吹き飛ばされる明日菜の悲鳴が耳に届いた。視界が広がったとはいえ、常に全てを見ているわけではない。一つの事に集中していれば、自然と視界は狭まる。俺は鬼との戦いに集中するあまり、明日菜が視界から外れていることに、全く気付いていなかった。そして、明日菜に気をとられた俺は……

「隙ありや」

容赦なく攻撃動作に入っていた鬼の攻撃を、察知することができなかった。
体に鈍い衝撃が走り、俺の体は中を舞った。





「っつぅ……」

ゆっくりと、背後にある岩に手をついて身を起こす。先ほど交戦した鳥頭。さっきまでの鬼達とは格が違った。こちらの攻撃は全てかわされ、防がれる。だというのに相手の攻撃は面白いように自分に当たるのだ。

「どうしよ……」

自分には戦いの経験等ないと言っていい。エヴァちゃん達との戦いは……此方は真剣であったが、今思い返せば手加減されていたと分かる。何せ茶々丸さんの攻撃手段はデコピンだったのだから。

「勝てないかも……」

普段の自分からは考えられないほどよわよわしい声が漏れた。それほどまでに、追い詰められている。さすがに、こんな状況で前向きになれるほど、じぶんは図太くなかったようだ。そう思うと、自然に固い笑みが浮かんだ。
そんな時、自分の目の前に何かが吹き飛ばされてきた。最初は健二か刹那さんが倒した鬼かと思ったが、どうにも違うようだ。

「……え?」

吹っ飛んできたものは上下に分かれた紅い外套に黒のボディアーマー、そして特徴的な白い髪に褐色の肌。それは間違いなく……

「健二!」

この戦いで自分を何度も助けてくれた、宮内健二だった。





「健二! 健二!」

誰かが俺の名前を読んでいる。誰かは分からないが、少し静かにしてほしい。今の体にはその声すらも鈍い痛みとなって体に響く。

「健二! 大丈夫なの!? 何とかいいなさいよ!」

少しずつ頭がはっきりしてくる。それに伴い、ぼやけていた視界も鮮明さを取り戻した。

「明日、菜……か。大丈夫か?」

「え? うん、ネギの魔力が守ってくれてるから……って、それはこっちのセリフよ! 大丈夫なの!?」

心配してくれていることに嬉しさと申し訳なさを覚える。明日菜を補助しようと思っていたのに、このザマだ。体中が悲鳴を上げている。正直、しばらく休まなければ接近戦は厳しいだろう。弓に関しても同じだ。一本一本射るならともかく、速射には耐えられない。

「詰み、か」

打てる手がない。最早俺は足手まといになるだけだ。身体強化だけに費やしていたこの世界の魔力も、もうすぐ尽きる。……だが、それでも、譲れないものがある。

「……る、から」

「え?」

この少女を……俺を心配そうな目で見ながら支えてくれる少女を、俺は……

「明日菜は、俺が……守るから!」

守らないといけない!!

「……あ」

残された力を総動員して立ち上がる。そして、己が両足で立ち上がった時、俺の頭の中で一つの映像が流れた。

――「剣を収めたということは、戦いをやめる気になったのですね?」

――「馬鹿を言え、私はアーチャーだぞ? 元より剣で戦う者ではない」

UBWルートにおいて、アーチャーが裏切った時のワンシーンだ。何故この映像が流れたかは分からない。だが、俺はこのシーンのあるセリフに、活路を見出した。

――元より”剣で戦う”者ではない。

そうだ、アーチャーは剣で戦う者ではない。アーチャーは数多の手札から最適なものを選択して戦うのだ。剣はあくまでも、その中の一つにすぎない。そして、それは俺にもあてはまる部分がある。なぜなら、その数多は……

「俺の中にある!」

――投影、開始!

間違っていた! 己の体の非力さを思うあまり、俺は接近戦をこなせるようになろうと、剣ばかり……いや、剣しか使っていなかった。思い出せ、俺が神からもらったのは何だ? エミヤの弓術、そして、エミヤの”魔術”だ。エミヤは己の魔術でどう戦っていた? ただ、剣を投影して振うだけじゃなかっただろう!

――投影、完了。

「さぁ、ここからが本番だ」

俺の頭上には、20を超える剣軍が鬼達にその切っ先を向けていた。 
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