スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇
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第百六話 出会いと別れ
第百六話 出会いと別れ
「あれっ、俺達も休暇!?」
ディアッカがアスラン達から話を聞いて声をあげた。
「休暇というか上陸ですね」
ニコルがそれに答える。
「中立を宣言しているコロニーに」
「中立、ねえ」
ディアッカはニコルの言葉に今一つ懐疑的であった。
「そう言う奴こそ信用できないんだよな」
「ヘリオポリスのことか」
「ああ、ああしたこともあったしな」
イザークにも応える。
「何かな、どうにも引っ掛かるんだよ」
「大丈夫ですよ、ネオスイスのコロニーですし」
「ネオスイスか」
「あそこは本当の中立ですから。そんなに心配ならヴェサリウスに残ってはどうですか?」
「おいおい、そりゃないぜ」
ディアッカにはそんな気は毛頭無かった。
「上陸出来るんだろ、久し振りに」
「はい」
「だったら上陸しとかねえと。気分転換にな」
「そうだな、たまにはいいな」
アスランもそれに頷く。
「シンの奴も。気が晴れる」
「彼は少し、荒れ過ぎですね最近」
「前から戦闘になると熱くなる奴だったけどな」
「フン、そんなことは知るものか。あいつの問題なぞ知ったことではない」
「まあそんなこと言わないで」
ニコルがイザークを宥める。
「戦友なんですからね」
「問題は向こうがそう思っているか、だけれどな」
アスランはポツリと言った。
「今のあいつの戦い方は。周りが見えていない」
「周りが」
「そのうち怪我をするかも知れない。怪我で済めばいいが」
「大丈夫なんじゃないのか?あいつはそう簡単にやられたりしねえよ」
「確かに。アカデミーでもパイロット能力ではトップでしたし」
「俺もあいつに勝ったことはない。悔しいがな」
「イザークはそっちでも次席だったんでしたね」
「忌々しいことにな。結局俺は卒業した時も次席だった」
なお首席はアスランである。彼は申し分のない優等生であった。シンがどちらかというと戦闘にのみ特化していたのに対して彼はバランスがとれたものであった。
「あいつはいつも携帯を持っていたな」
「妹さんのでしたね」
「あいつにも家族がいるのか」
イザークはそれを聞いて意外そうな顔をした。
「イザークにもいるじゃないですか」
「うむ、母上がな」
彼はここで少し態度を正しくさせた。
「素晴らしい母上だ。俺をここまで育ててくれた」
「けどちと甘やかし過ぎだよな」
「おい、ディアッカ」
軽口を叩いたディアッカにくってかかる。
「母上を侮辱するつもりか」
「侮辱なんかはしてねえよ。けれど御前はちょっとな」
「五月蝿い!俺の何処が悪い!」
「別に悪いなんて言っちゃいねえだろ。そう怒るなって」
「フン」
「何か最近イザークも熱くなることが多いですね」
「どうにもな。戦争だからか」
「戦争か」
それを聞いてアスランがまた呟いた。
「そうだな、俺達は今戦争をしているんだ」
「今更何言ってるんだよ」
それにディアッカが突っ込みを入れる。
「だから今ここにいるんだろ」
「臆病風に吹かれたわけでもあるまい」
「ああ、それはない」
それは否定した。
「じゃあどうしたんですか?」
「いや、少しな」
アスランは少し上を見た。そして心の中で友のことを思った。
(キラ・・・・・・)
彼は今キラのことを想っていた。今彼はロンド=ベルでどうしているのか。それが気掛かりであったのだ。
「で、シンはどうしてるの?」
ミネルバの中ではルナマリアがシンのことをレイに尋ねていた。
「戻って来た時は何か獣みたいだったけれど」
「今はとりあえず落ち着いている」
レイがそれに答えた。
「あの携帯を見てな」
「ああ、妹さんのね」
「そうだ」
「妹さんの携帯見ただけで落ち着くの?電話も繋がらないのに」
「だがそれだけでいいみたいだ、今は」
「ふうん」
「録音させている声を聞いてな。気を落ち着かせている」
「だったらいいけれどね。艦長が心配してたから」
「そうなのか」
「あれだけ荒れてたら当然でしょう?何するかわからないじゃない」
「だが。今は大丈夫だ」
「だといいけれどね。じゃあそっちは任せたわよ」
「ああ」
その頃シンはレイの言葉通り彼とレイの部屋にいた。そこでベッドに座りながら携帯を動かしていた。
『お兄ちゃん、頑張ってね』
『元気でいてね、私も頑張るから』
「ああ、俺はやってやる」
携帯に録音させていた妹の声を聞いて呟く。
「御前もお父さんもお母さんも守るからな。安心してくれ」
「シン」
ここでレイが部屋にやって来た。
「どうだ、気分は」
「ああ、レイか」
シンは彼に顔を向けた。レイは落ち着いた顔をして彼を見ていた。
「今は落ち着いてるさ、済まないな」
「いや、いい」
だが彼は礼を抑えさせた。
「困った時はお互い様だからな。俺も御前には随分助けられている」
「俺は助けた記憶はないんだが」
「戦闘でな。御前がいるといないのとでは全然違う」
「そうなのか」
「だから感謝している。何時でもな」
「悪いな、そんなことを言ってもらって」
「気にすることはない。それよりだ」
「何だ?」
「その携帯は、妹さんのらしいな」
「ああ、プラントにいるな」
「そうか」
「俺達が負けたらプラントも戦争に巻き込まれるんだよな」
「その可能性は否定出来ない」
「そうだな、そうなればユニウスセブンと同じことになる」
シンにとってはそれが最大の恐怖であった。それだけは何としても防ぎたかったのだ。
「俺はお父さんもお母さんもあいつも死なせるつもりはない」
「だから戦うんだな」
「ああ、あのガンダムのパイロットだってやってやる」
シンの目に赤いものが宿った。
「誰だろうが。プラントには行かせない」
「御前はその為に戦ってるんだな」
「そうだ」
その返事には何の迷いもなかった。
「プラントには行かせない、絶対にな」
「そうか、御前の考えはわかった」
レイはそこまで聞いて頷いた。
「では俺も御前について行く」
「プラントの為にか」
「そうだ、今まで何の為に戦うのか決めかねていた」
「プラントの為じゃなくか」
「俺には家族はない」
レイは言った。
「確かにプラントにいるが。家族がいない。それで守るものは」
「わかりかねていたのか」
「そうだ、だがこれからは違う。俺もプラントの為に戦ってみる」
「レイ」
「御前と一緒にな。それでいいか」
「ああ、頼む」
シンはレイを見て言った。
「俺は家族を守る。そして御前は」
「その御前の背を守ろう。プラントの為にな」
彼等は誓い合った。その想いが一つになった。シンにもレイにも迷いはなくなった。だが彼等はこの時はまだ知らなかった。プラントを守る方法は一つではないことに。それを知るのは後になってからだ。
ロンド=ベルの面々はネオスイスのコロニーで休息をとっていた。早速ケーンやジュドー達がハメを外している。
「このチーズなんとかってうめえな」
「ああ、こんなチーズの食い方なんてはじめてだぜ」
「おいおい、知らなかったのかよ二人共」
ライトがケーンとタップに言う。
「これ結構有名な料理なんだぜ」
「そうなのか?」
「初耳だぜ」
「初耳っておい」
ライトはそれを聞いて呆れた顔になった。彼等ドラグナーの面々とガンダムチームは今チーズフォンデュを食べていた。野外で鍋を囲んでいる。
「本当に知らないのか!?」
「ああ」
「それで」
「おいおい、本当かよ」
「俺達もそうだけど」
「シャングリラにはこんなのねえから」
「はじめて見るよな」
「うん」
ジュドーにビーチャ、モンド、イーノまでそれは同じだった。
「私も。この料理ははじめて」
「リィナちゃんまで」
「これって何かワインの匂いするし」
「もっと甘くならないのか?」
「ん!?じゃあ砂糖入れてっと」
ライトはプルとプルツーのリクエストに応えて砂糖を入れた。
「そうか、知らないのか」
「このパンをチーズの鍋に入れて食べるのだな」
「その通りで、大尉」
見ればマイヨもいた。プラクティーズの面々やミンもいる。かなり大勢である。
「ふむ、ウォッカに合いそうだな」
「そういえば大尉ってロシア出身なんだよね」
「うむ」
エルに答える。
「あの国では酒は普通だ。ウォッカだけではない」
「そうなんだ」
「だから私も酒は好きだが。今は飲まない」
「そりゃまたどうして」
ジュドーがそれに尋ねる。
「すぐに戦闘になるかも知れないからな。用心だ」
「やっぱり真面目だね、大尉は」
「そうおす、俺達とは大違い」
ケーンとタップがそれを聞いて大きく頷く。
「ていうかあんた達はまた軽過ぎるのよ」
「俺達人のこと言えないけどな」
ルーとジュドーがそれに突っ込みを入れる。
「それはそうとこの料理知らないのか。何かショックだな」
「それでライト君」
プラクティーズの面々も彼に声をかける。
「おっ!?」
「つけるのはパンだけか?」
「他のものは駄目なのか?」
「とりあえず野菜でもソーセージでも何でもいいよ」
ライトは彼等に答えた。
「あんまり突拍子もないものじゃなきゃね」
「じゃああたしチョコレート」
「あたしは生クリームだ」
「それじゃ何かわからないものになるだろ。また別だよ」
そう言ってプルとプルツーを制止する。
「何だ、面白くないの」
「後でパフェも出るから。安心しなって」
「酒はないのかい?」
「ミン大尉、酒は慎んだ方がいい」
「何だよ、大尉は真面目なんだから」
「戦場では酔いは禁物だ」
「面白くないねえ、ちぇっ」
「何かあっちやけに騒がしいぜ」
隣の席ではアスラン達がいた。ディアッカが彼等の方を見て言う。
「大勢でよ。色々話してるぜ」
「話はいい!早く食え!」
イザークがそんな彼を急かす。
「さもないと最後のお楽しみが遅れる!早くしろ!」
「最後のお楽しみって何だ?」
「決まっている!チョコレートサンデーだ!」
イザークは思いきり力説した。
「それがないと最後まで食べたことにならんのだ!それがわからんのか!」
「だって俺チョコレートサンデー頼んでねえもん」
それに対するディアッカの返事は素っ気無いものだった。
「俺が頼んだのはザッハトルテだし」
「あれ美味しいですよね」
ニコルがそれに頷く。
「僕が今回頼んだのはマンゴープリンですが」
「マンゴープリンだとおお!?」
イザークがそれを聞いて叫ぶ。
「ニコル、貴様そんなものを頼んでいたのか!」
「ええ、そうですけど」
「あんな美味いものを頼むとは!許せん!」
「おいおい、許せんって」
「じゃあチョコレートサンデーと替えます?」
「いや、それはいい」
「いいのかよ」
「今の俺にとってはチョコレートサンデーこそが最高だからな。それはいいんだ」
「ふうん」
「それでだ。そのマンゴープリンだが」
「はい」
「何故今なのだ?確かに美味いが今はフォンデュだぞ」
「まあ好みで」
「そうか、好みか」
「ええ、それが何か」
「まあいい。ところでアスランは何処だ?」
「あっ、そういえば」
ここで三人はアスランがいないことに気付いた。
「いねえな。あいつ何処に行った?」
「あっ、あそこにいましたよ」
「ん!?何か女の子達と話してるぜ」
「男も二人いるが」
見ればシンジとトウジもいた。
「何を話してるんだ?あいつは」
「さてね」
「あっ、こっちに来ましたよ」
「ああ、皆」
アスランは三人の方に来て声をかけてきた。
「合席、いいかな」
「合席だと!?」
まずはイザークが顔を上げた。
「そうなんだ。何か満席みたいでね」
「そういえば」
店は盛況か満席であった。四人の周りも客で一杯だ。それでアスランは今彼女達と話をしていたらしい」
「いいかな。ここは」
「俺は別にいいけど」
「僕も構いませんよ」
「フン、俺もまあいい」
三人はそれぞれ賛成であった。
「満席なら仕方ない」
「そうか。あの」
アスランはそれを受けてシンジ達に声をかける。
「連れはいいそうなんで。どうぞ」
「わかりました」
「ほな今から頼みますわ」
「はい」
「!?」
ニコルはトウジの言葉を聞いてふと目を顰めさせた。
「何かさっきの人の声、イザークに似ていますよね」
「そういえばそうだな」
ディアッカも頷く。
「そっくりさんってやつか?」
「何処のどいつだ!?それは」
イザークも気になり彼等を見る。そしてトウジに気付いた。
「あいつか」
「はい」
「顔は全然似てないけどな。声はそっくりだよな」
「ですよね」
「フン、誰だって声位似る」
イザークはそれを聞いても何故か悪い気はしなかった。
「そんなことにいちいち気にしていられるか」
「今度もっと凄い同じ声の人が出たりしてな」
「ありますね、アスランとか」
「じゃあここです」
「有り難う」
シンジがそれに応える。
「悪いですね、何か」
「いえ、いいですよ」
アスランは彼等に紳士的に対応する。その対応は実に見事なものであった。
「困った時はお互い様ですし」
ナチュラル、コーディネイターという垣根はこの時は隠した。怪しまれないようにという配慮がそこにはあった。だがそれでもアスランの応対は見事なものであった。
「どうぞ」
「じゃあ御言葉に甘えて」
「それじゃあ」
「おっ」
レイとアスカを見てディアッカが声をあげた。
「中々可愛いじゃねえかあの二人」
「そうですね、あの青い髪の人なんか」
「あの赤茶色の髪の女は。何かな」
「何かなって何よ」
アスカはすぐにイザークの声に反応してきた。キッと顔を向ける。
「どっかの変態みたいな声してるくせに」
「何っ、俺が変態だとぉ!?」
「それかうちのトウジみたいな声で紛らわしいのよ!」
「いちいち人の声に難癖つけるな!一体何だ貴様は!」
「難癖って何よ!そちから言ってきたんでしょ!」
「ぬぅあにぃ~~~~っ!?口の減らない女だ!」
イザークは立ち上がった。そしてアスカと対峙する。
「女がそれでいいのか!男に口応えするなど!」
「何よ、男女差別!?面白いわね、受けて立つわよ!」
「女は黙って男の言うことに従っていればいいんだ!つべこべ言うな!」
「そんな古いことよく言ってられるわね!頭にカビが生えてるんじゃないの!」
「俺の頭にカビだと!」
「そうよ、この河童!」
「か、か、か、河童だとぉ!?」
「あのさ」
ディアッカとニコルがそっとシンジとトウジに囁きかけてきた。
「あちらのお連れさん、いつもあんななの」
「はい、そうですけど」
「そっちのあのわしに声がそっくりな兄ちゃんもあんなんか?」
「ええ、まあ熱くなり易い性格でして」
「そうか、そっちも大変だな」
「何か。あんた達も大変みたいやな」
「何だ、またアスカか」
ガンダムチームとドラグナーチームも騒ぎに気付いた。
「また喧嘩か?」
「それも今度はどっかの学生さんとか。厭きないねえ」
「その発言取り消せ!」
「あんたの差別発言の方が先よ!」
「黙れ女!」
「黙りなさいよ河童!」
「おい、イザーク落ち着け」
アスランがその間に入ろうとする。だがアスカの見境のない攻撃は彼にも加えられた。
「黙りなさいよ、このデコッぴろ!」
「なあっ!?」
「あ~~~あ、言っちまったよ」
「アスランの一番気にしてる言葉なのに」
「そんな、俺はまだ」
「だったらどきなさい!どかないと髪の毛全部引っこ抜くわよ!」
「ええいアスランどけ!」
イザークも激昂したままであった。
「この女、もう許せん!」
「それはこっちの台詞よ!」
アスランはショックを受け意気消沈し、二人の喧嘩は続いた。いい加減マイヨが止めに入ってそれは終わった。なおレイはその間黙々とフォンデュを食べているだけであった。
「さてと」
店の喧騒をよそにロウはステラ達を連れて街で買い物をしていた。見ればステラ達は結構リラックスしていた。
「どうだ、気分は」
「いいですね」
まずはアウルが答えた。
「久し振りの外ですからね」
「外の空気はやっぱりいいものですよ」
スティングも答えた。
「艦内だと息が詰まっちゃいますからね」
「そうだな。暫くしたら今度は北極だからな」
「氷ばっかりなんですよね」
「そうだ、氷しかない」
ロウは彼等に説明した。
「だからあ。今のうちに羽根を休めておくといいものさ」
「じゃあ今日はハメを外して」
「ああ」
「楽しみましょうよ。ほら、ステラも」
「うん」
ステラはあまり感情のない声と顔で三人に頷く。
「けれどこんな時にイライジャさんもいないなんて」
「当直だから仕方ないですけれどね」
「まあそれはな。まああいつにも何か買ってやるか」
「何がいいですかね」
「お菓子とか」
「あいつ、お菓子は好きだったかな」
「じゃあ時計は」
「それでいいか」
やはりスイスと言えば時計である。ロウもそれには賛成した。アウルに対して答えた。
「スイス製時計、これでな」
「はい」
「御前達にも買ってやるか」
「時計?」
「そうさ、ステラは欲しくないのか?」
「私、時計」
だがその反応は今一つ遅かった。
「くれるの、ギュール」
「ああ遠慮するな」
ロウはそんな彼女にも明るい声をかけた。
「じゃあそれでいいな、三人共」
「はい」
「俺達はそれで」
アウルとスティングに異存はなかった。
「ステラもな。それじゃあ」
「ステラに時計」
「お似合いの可愛いやつ買ってやるからな。楽しみにしてろ」
四人はロウを中心に和気藹々としていた。その前から別の一団がやって来ていた。
「艦長も外出なんですか」
「そうよ」
タニアはルナマリアに言葉を返した。見ればシンとレイ、メイリンも一緒である。
「副長が見てくれているからね。ここは言葉に甘えて」
「何か結構皆外出してますね」
「それはね。たまには気分転換しないと」
タニアは大人っぽい丈の長めのスカートでルナマリアはジーンズ、メイリンは半ズボンであった。それぞれ個性がよく出たファッションであった。
「そうでしょ、シン」
「俺は別に」
だがシンはタニアの言葉に今一つ乗ってはいなかった。
「別に待機でもよかったですけど」
「あら、つれないわね」
「じゃああんた一人でミネルバで何するつもりだったのよ」
「何って別に」
ルナマリアに問われてもシンの態度は変わらなかった。
「トレーニングでもしようかなって」
「あっきれた。あんたってそんなことばかり考えてるじゃない」
「悪いのかよ」
「悪いとかそんなのはないけどね。ちょっとは他のことも考えなさいよ」
「別にいいだろ、俺のことなんだから」
彼女にそう反論する。
「それで御前に迷惑かけているわけでもなし」
「そういう問題じゃないのよ。大体あんたはね」
「何だよ」
「まあまあ二人共」
タニアがその間に入る。
「今は楽しい上陸時間よ。そんなに騒がない」
「艦長が言うなら」
「それに今艦長って言うのはよくないわね」
そう言ってルナマリアを嗜める。
「じゃあ何て呼べば」
「素敵な御姉様でいいわ」
「素敵な御姉様って」
「だって。私だってまだ二十代よ」
「それはそうですけど」
「まだお姉さんでいたいわ」
「そういえば艦長って家族おられるんですよね」
メイリンが尋ねる。
「ええ、男の子がね」
「お子さん、お元気ですか」
「暫く会ってないのよ、これが」
少し寂しい笑みになった。
「戦争中だからね」
「あっ、すいません」
「いいわ、それは。まあ元気にしているのはわかってるから」
「そうなんですか」
「艦長・・・・・・いえ素敵な御姉様にも家族がおられるんですね」
レイはそれを聞いて何か思ったように呟いた。
「家族が」
「ええ」
「そしてシンにも」
「俺はな。その為にここにいるから」
シンはレイにそう返した。
「いつも言っているが」
「そうか、理由があってか。何かを守る為に」
「そうだ」
「そして俺も。これからは」
「ところでシン」
「!?」
メイリンがシンに声をかけてきた。彼はそちらに振り向く。それで前から近付いてきているロウ達に気付かなかった。
「その赤い携帯電話いつも持ってるのね」
「電波、届くの?」
「今は無理だと思うけど」
首にかけてある妹の携帯電話を手に取ってメイリンとルナマリアに答える。
「声は聞ける」
「録音でしょ」
「いつも聞いてるんだ」
「ああ、聞いてると落ち着く」
彼は言った。
「あいつもいるんだって。だから」
それからさらに言おうとした。だがそこで不意に何かにぶつかってしまった。
「うわっ!?」
シンはそれを受けて倒れ込んだ。何の弾みか前に一人の少女が覆い被さってきた。
「いつつ・・・・・・」
状態を起こそうとするシン。だがその上にその少女の身体があった。不意に手に何か柔らかいものが触れた。
「こら、シン!」
何故かここでルナマリアに怒られた。
「な、何だよいきなり」
「何処触ってんのよ、何処!」
「何処って・・・・・・えっ!?」
ここで彼は気付いた。少女の両胸を後ろから触っていたのだ。
「う、うわっ、これは」
「早く離しなさいよ!」
「あ、ああ」
「全く。何やってるのよ」
メイリンにまで言われる。タリアはその横でクスクスと笑っていた。
「お嬢さん、怪我はないかしら」
「うん」
少女はタリアの言葉に頷いた。
「そう、よかったわ」
「御免、君」
シンは彼女を助け起こして謝罪する。
「その、前を見てなかったから」
「いいわ」
少女は抑揚のない声で答えた。
「怪我、ないから」
「そうなの」
「うん。だから私」
「ああ、ステラ」
ここでロウが彼女に言った。
「こういう時は御礼な」
「御礼」
「有り難うってな。言ってみな」
「うん、有り難う」
それに応える形でシンに礼を述べた。
「助け起こしてくれたからな。こういう時はな」
「わかった」
「すまなかったな、君」
ロウは今度はシンに声をかけた。
「迷惑をかけてしまって」
「いえ、不注意だったのはこっちですから」
シンもそれに言葉を返した。
「お気遣いなく」
「そうか。ところで君は」
「はい?」
「いや、いい。ではこれでな」
「はい」
「ギュールさん、時計屋こっちですよ」
「早く早く」
「急かすなって。じゃあ行くぞステラ」
「うん」
彼はアウルとスティングに誘われステラを連れて時計屋に入って行った。そして姿は見えなくなった。
「さっきの娘」
「可愛かったわね」
タリアがシンに声をかけた。
「まるで妖精みたい」
「はい」
「胸も大きかったしね」
ルナマリアが横目でシンを睨みつつ顔と声を突っ込んできた。
「な、何言うんだよルナマリア」
「別ね。ただ」
「顔が赤いから」
「こ、これは別に」
「どうだか」
メイリンもシンに突っ込みを入れてきていた。
「何だかんだであんただって女の子に興味あるじゃない」
「全然そんな素振り見せない癖にさ」
「お、俺は別に」
「その真っ赤な顔が何よりの証拠」
「はいはい、言い訳どうぞ」
「な、何だよ一体」
「まあまあシン」
タリアが彼を宥める。
「からかわれてるだけだから。ここはまずは落ち着きましょう」
「ええ」
「チーズフォンデュでも食べながらね」
「あっちにお店がありますよ」
「あら」
レイの指差す方向を見て声をあげる。
「都合がいいわね」
「案外もう先客がいたりして」
ルナマリアが店を見て言う。
「アスランとかがね」
「そうそう、それでイザークが女の子と喧嘩したりしていてね」
「女が騒ぐな!とか」
「実際に言ってそう」
そして二人の予想は見事に的中していた。イザークとアスカが大喧嘩を続けていたのだ。二人はフォンデュそっちのけで喧嘩をしていた。
「そんなことがあったの」
キラはそれをアークエンジェルの艦内で聞いた。
「ああ、大変だったぜ」
「あっちもあっちで。銀髪の兄ちゃん抑えてたしな」
「大騒ぎだったんですね」
彼はドラグナーチームの面々から話を聞いていた。そして目をしばたかせていた。
「お店の方は」
「まあな」
「アスカがいるとな。どうしてもな」
「あの赤茶色の髪の毛の娘が」
「おめえも注意しとけよ」
ケーンがキラに笑いながら忠告した。
「あいつは誰彼なしに噛み付くからな」
「そうだぜ、狂犬みたいにな」
「狂犬」
「ああ、何かあるとな、すぐに突っかかってくるんだ」
「凄い勢いだぜ。噛まれない奴の方が少ないよな」
「そうそう」
タップとライトも話に加わっていた。この三人はとりわけアスカとは色々とある。
「噛まれないのってタケルだけか?」
「タケルさんっていうと」
「ああ、ゴッドマーズのパイロットのな」
「あの人ってバルマー星人なんでしたよね、確か」
「そうだぜ」
タップがそれに頷いてみせた。
「そうだったんですか」
「同じ人間だけどな」
「同じ!?」
「そうさ、バルマー星人とゼントラーディやメルトランディとはな、同じなんだ」
「後何かエイジってやつもそうだったな」
「ああ、グラドスか。あそこはバルマーの殖民惑星だったな」
「十二支族の一つが何たらってな」
「あの人もですか」
キラは三人の話に驚きを隠せなかった。
「ダバさん達もポセイダルから来たってお話してましたし」
「少なくとも生まれた星は違うな」
「大きさが違ってたりもしたけどな」
「マックスも大きくなったことがあったらしいな」
「そうらしいな、見たかったぜ、大きさが違うのって」
「何か。コーディネイターよりも凄いですね」
「そういやそっか」
「タケルなんて超能力まで持ってるしな」
「超能力」
「サンシロー達だって持ってるぜ、それは」
「そんなものまで」
「まあタケルは特に凄いけどな」
「他にもニュータイプもいれば」
「白い流星ですよね」
「他にも。ジュドーとかな」
「そうそう」
「サイボーグだって」
「凱さんに宙さん」
「だからさ、そんなの全然大したことないんだって」
「そうそう、ロボットだっているし」
「ハッターさんとかボルフォッグさんとかですか」
「他にもな。皆全部ひっくるめて俺達はロンド=ベルなの」
「コーディネイターとか言ってもそんなの関係なし!」
「だから他じゃどうだか知らねえがこっちではそんなのノープロブレムだからな。安心しろよ」
「はい」
「そういうわけだ。これから宜しくな、キラ」
「わかりました、お願いします」
キラは少なくともドラグナーの三人組には迎え入れられた。だがそこに別の者達もやって来た。
「おっ、噂をすれば」
「手前もう一回言ってみろ!」
「何度でも言ってやるわよ、何度でも!」
見れば勝平とアスカであった。アスカはここでも口喧嘩をしていた。
「あのアスカって娘と」
「勝平だよ。ザンボットのパイロットの一人」
「あいつも御先祖様が他の星から来たんだ。ビアル星からな」
「ビアル星の人なんですね」
「そっ、星が違うけど」
「あれで頼れるんだぜ、ちょっと頭があれだけどな」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよ!」
アスカは叫ぶ。
「何度でも言ってやるって言ってるのよ!」
「手前それが仲間に言うことか!」
「フン、仲間ですって!?」
アスカは勝平をジロリと見据えてきた。
「仲間ってんならね、もうちょっとまともにやりなさいよ!また厄介事起こして!」
「うるせえ!歌聴く位いいだろ!」
「状況を考えなさいよ!相手は捕虜なのよ!トラブルがあったらどうするのよ!」
「ヒメやクインシィさんだって聴いてたじゃねえか!」
「アンコール何回もする馬鹿が何処にいるのよ!」
「また馬鹿って言いやがったなこの野郎!」
「だから何度でも言ってるでしょ!」
「おいアスカ」
ケーン達が喧嘩をしているアスカに声をかける。
「何?三馬鹿」
「こんな調子だから」
「いちいち気にすることはないぜ」
タップとライトがここでキラに言う。
「どうしたんだよ、一体」
「この馬鹿がね」
アスカは言う。
「ラクス=クラインの歌聴いてたのよ。それで何度もしつこくアンコールしてて」
「ザフトの歌姫ラクス嬢のか!?」
「おい、歌ってたのかよ」
「そうだけど」
身を乗り出してきたタップにも言う。
「それがあんまりにもしつっこくて。それで怒ってるのよ」
「ちぇっ、アンコール位でな」
「何言ってるのよ、ラクス嬢はね、今捕虜なのよ」
アスカは勝平にまた言った。
「捕虜なのに。そんなことしたら駄目に決まってるでしょ、何かあったら本当にまずいのよ」
「そんなにか」
「当たり前でしょ、疲れて体調崩したりとか。本当にやばいんだから」
「バサラさんなんか百曲歌って演奏しても平気だぜ」
「あの人は特別、半分人間じゃないから」
「けどラクス=クラインもコーディネイターじゃねえか」
「コーディネイター」
キラはその言葉に反応した。だがそれは一瞬だった。
「コーディネイターだって人間でしょ」
アスカの言葉だった。
「無理をしたら駄目に決まってるでしょうが」
「そうか」
「そうよ、コーディネイターだからって無理は出来ないし同じ人間なのよ。覚えておくことね」
「ああ」
勝平はそれに頷いた。そして自分のことにもふと心を向けた。
「俺だって。人間と変わらないからな、地球にいる香月やブスペアと一緒で」
「そうよ。まああんたは無茶が利くけどね」
「ヘッ、ガイゾックがなくなっても戦争はまだまだあるからな」
「とにかくあまり馬鹿なことはしないようにね。わかったわね」
「わかったよ。じゃあCDで我慢するか」
「そうしなさい」
「何か上手い具合に話が纏まったな」
「ああ、アスカがいてな」
「奇跡ってやつだな」
「うっさいわね、何が言いたいのよ」
アスカは今度は三人に顔を向けてきた。そしてキラにも気付いた。
「あんたも。何か言いたいの?」
「あっ、いや僕は別に」
キラは何か言おうとした。だがそのはっきりしない様子にアスカは早速切れてきた。
「言いたいことがあったら言いなさいよ」
ズイ、と顔を突き出して言う。
「ウジウジして。それでも男なの!?」
「男って」
「男ならはっきり言いなさいよ、あたしそんな態度大っ嫌いなのよ」
「じゃあはっきり言ったらどうするんだ」
「それはそれでムカつくわ」
タップにそう返す。
「フォンデュの時の河童みたいにね。ヤマダさんみたいな声したあいつみたいに」
「俺はダイゴウジだ!」
ヤマダの名が出るとすぐに遠くから声がやって来た。
「ダイゴウジ=ガイ!覚えておけ!」
「よく聞こえるな」
「ああ」
「どんな耳してるんだ?」
実はキラ達はナデシコにやって来たマリュー達と一緒にここに来ているのだ。アスカはミサトがいるから迎えに来たのだ。ミサトとマリューは楽しく酔い潰れていたが。
「あの河童、今度会ったらたたきのめしてやるわ」
「こりゃまた」
「アスカと喧嘩する奇特な御仁がいたとは」
「とにかくね、あんたははっきりしなさい」
「う、うん」
キラはアスカの言葉に頷く。
「さもないと死ぬわよ、いいわね」
「死ぬって」
「戦争やってるんだからね、いきなりドカンってなるわよ」
「戦争・・・・・・」
「ったく、バカシンジもそうだけど何でこうウジウジしてるのが戦争やってるのよ」
そう言いながら溜息をつく。
「天才でもね、フォローできるのには限りがあるわよ」
口では何だかんだと言ってもやはり心は優しいアスカであった。それははっきりと出ていた。
「一矢さんみたいに。一途過ぎるのもあれだけど」
やはり彼女も一矢には負けた。何も言えないのだ。
「タケルさんも。あんなのだったら何時か怪我するわよ」
「タケルはな」
「あいつも。辛いんだろうな」
「あんた達は割かしお気楽だけどね」
「何があっても明るく楽しく!」
「それがドラグナーチームってやつさ」
「たまには義理のお兄さん見習ったら、あんたは」
「ちぇっ、大尉は関係ねえだろ」
「大尉って」
「ギガノスの蒼き鷹。知ってるわよね」
キラにまた顔を向けた。
「ロンド=ベルにいるって聞いてたけど」
「まああの人はこの三人とは全然違うから安心してね」
「わかったよ。何かこの部隊って色んな人がいるんだけどね」
「少なくとも馬鹿には事欠かないわね、この三人とか」
「おい、俺達もかよ」
「ついでにあんたも」
「俺もか」
勝平もそこにまだいた。やはり怒っている。
「たまにはトランクス替えなさいよ。二週間なんて」
「二週間」
「いいじゃねえか、一ヶ月履いたことだってあるしよ」
「一ヶ月ですってぇ!?」
「あ、あの君」
キラもそれに驚き勝平に声をかける。アスカは一ヶ月と聞いて顔を思いきり壊していた。
「下着はできるだけ。毎日換えた方がいいよ」
「おっ、新入りの」
「うん、キラ=ヤマト。宜しくね」
「ああ、宜しくな」
「それでさ、下着は」
「あんた!さっさと風呂に入って下着換えなさいよ!」
「何だよ、また」
「どんだけ不潔なのよ!ったくうちの男共は!」
「風呂に入らなくたって人間死んだりしねえよ」
「そういう問題じゃないわよ!一体何考えて生きてるのよ!」
アスカの激昂は続いた。何はともあれキラは心もロンド=ベルに入ろうとしていた。フレイのことはあっても。それで幾分かは助かっていた。
休息が終わり出港するロンド=ベルの艦艇。ティターンズもザフトもネオ=スイスから離れそれぞれの任務に戻ろうとしていた。だがまだ休息から気を離していない者もいた。
「おのれ、あのナチュラルの女!」
イザークであった。彼はアスカとの喧嘩をまだ根に持っていた。
「この俺が河童だと!許せん!」
「おいおい、まだ怒ってるのかよ」
ディアッカがそんな彼を見て呆れた表情を浮かべる。
「いいじゃねえか、フォンデュ美味かったしよ」
「確かにあれはな」
それはイザークも認めた。
「非常によかった」
「プラントのより美味しかったですね」
「そうだな、ワインの具合もな」
「アスランも満足してましたよね」
「ああ」
アスランもそこにいた。そしてニコルの言葉に頷く。
「母上の味を思い出した」
「そうですか」
「ラクス嬢のじゃないのかい?」
「それは・・・・・・」
アスランはディアッカの言葉には微妙な顔をした。
「ちょっとな」6
「おおっ、熱いねえ」
「やはりな。フィアンセの手料理とはいいものか」
「いや、それは」
そのわりにはアスランの顔は晴れない。
「何かあったんですか?」
「一度ラクスの料理を食べてみればわかる」
「はあ」
「下手をすればそのまま」
「天国へ行けるとでも言うのだな」
「何だよ、結局はおのろけじぇねえか」
「本当にそう思うのか?」
イザークとディアッカに言い返す。
「だったらそれで幸せだが」
「何か訳わかんねえな」
「まあいい。おのろけはもう沢山だ」
「そういえばディアッカも料理は得意でしたね」
「おう、特に炒飯がな」
意外なことに彼は料理上手なのだ。
「今度食わせてやるからよ。楽しみにしてな」
「了解です」
「俺は甘いものがいいな」
イザークが言った。
「辛いものはな。ちょっと」
「へえ、意外ですね」
「カレーが好きだ」
「じゃあ今度カレーでも作ってやるよ」
「頼めるか?」
「ああ、グレイトなやつ作ってやるからよ、楽しみにしてな」
「うむ」
「そうか、ディアッカは料理が好きなのか」
「日舞だってしてるぜ」
「意外と多趣味なんですね」
「少なくともシンみてえにいつも携帯見て、なんてはしないさ」
「そういえばあいつ、戦闘ではかなり熱くなるな」
「あの熱さはな。異常だ」
イザークから見てもそうであった。
「まるで狂っているみたいだ」
「ああ」
「それが悪い方向に行かなければいいですけれどね」
「もういってるんじゃねえのか?」
ディアッカの言葉は割かし辛らつなものであった。
「やばいぜ、あれ」
「そうか」
アスランもそれに納得するものがあった。
「あのままだと」
「彼にとっても周りにとっても」
「悪い結果になるだろうな。まあそこはレイやハイネに任せようぜ」
「僕達じゃ駄目ですか」
「俺達の話はな。聞きはしない」
アスランもシンは苦手であるようだ。
「レイやハイネなら別だが」
「そうなんですか」
「どのみちあいつのことだ」
イザークはシンを突き放していた。
「あいつ自身で解決するしかない」
「結局は自分自身で、ですか」
「そうだな。最後は」
アスランはイザークの言葉に賛同した。彼等が何をしても決めるのはシンなのだ。それを認識した。そして休息から戦いに心を戻していた。丁度艦内に警報がかかった。
「ムッ!?」
「ロンド=ベルか!?」
四人はすぐにそれに反応した。
「総員戦闘配置、総員戦闘配置」
艦内に放送がかかる。艦内を緊張が支配していく。
「モビルスーツ部隊発進用意、敵の大部隊が接近中」
「チッ、足つきめ、援軍と合流したか!」
「ってことはロンド=ベルだな」
「いえ、まだわかりませんよ。若しかしたら」
「他の敵かも知れないな」
「どっちにしろ敵だ!ここで潰してやる!」
イザークはもう熱くなっていた。そして真っ先に格納庫に向かう。ヴェサリウスだけでなくミネルバも戦闘態勢に入っていた。シン達も出撃していた。
「さてと」
クルーゼは今回は出撃していた。専用のジンから戦場を見渡す。
「敵はティターンズに」
見れば右側にティターンズの艦艇が数隻展開していた。
「暗黒ホラー軍団もか」
「彼等もですか」
「驚くことはないと思うが」
ガデスにそう返す。
「彼等にとってみれば我々もナチュラルと同じ人間なのだからな」
「同じですか」
「そうだ、本来の種が違うからな。我々もまた敵なのだよ」
「倒すべき敵ですか」
「そうだ。だから容赦は無用ということだ」
「わかりました。それでは」
「数は多いが見たところ大した兵器は・・・・・・ムッ!?」
ここで彼は何かを察した。
「この気配は」
「ンッ!?」
それはもう一人の男も感じていた。彼も戦場に向かっていたのだ。
「来るな」
「戦場にはあいつもいやがるのか」
この時ムウはアークエンジェルの中にいた。今将に出撃しようというところであった。
「どうしたんですか、大尉」
そんな彼にナタルが声をかけてきた。
「いや、ちょっとな」
だが彼はそれを誤魔化す。
「何でもない。ただ」
「ただ?」
「少尉のプロポーションが気になってね」
「なっ!?」
「た、大尉!」
それを聞いたマリューが慌てて言う。
「その発言は、セクハラです!」
「おいおい、大袈裟だな」
「大袈裟でも何でもないです!女性にそんなことを言うなんて!」
「そ、そうなのか」
「全く。注意して下さい」
「ああ、わかったよ」
そこまで言われてはムウも頷くしかなかった。
「それじゃあ」
「頼みますよ、全く」
「困ったものですね、大尉にも」
ガムリンがそれを聞いて顔を顰めさせていた。
「声が似ているから。あえて言わせて頂きますが」
「ああ」
「自重されて下さい。さもないと大尉だけでなく私も何か誤解されますし」
「悪い悪い」
「何か最近シュウ博士とも似てるって言われますし。困ってるんですよ」
「あのシュウ=シラカワ博士か」
「ええ、そうですよ」
ガムリンはムウに答えた。
「私はあんなに謎だらけの人じゃないのに」
「額は広いがな」
「それは余計なお世話です」
今度は本気で怒ってきた。
「私の額のことは関係ありません」
「まあ気にするな」
「とにかく。今度は暗黒ホラー軍団、ザフト、ティターンズと派手な戦いですから」
「わかってるさ」
「気を着けて下さいよ、エンディミオンの鷹でも」
「よし、じゃあ出撃するか」
「待って下さい、大尉」
だがそんな彼をミリアリアが制止した。
「おいおい、今度はどうしたんだよ」
「もうキラがスタンバイしています。ですから」
「わかったよ。それじゃあ順番待ちだな」
「はい。じゃあキラ」
「うん」
既にキラはストライクに乗り込んでいた。そしてカタパルトに向かう。
「カタパルト接続」
ミリアリアの放送が艦内に響く。
「エールストライク、スタンバイ!システム=オールグリーン!」
キラにもその声は伝わる。今彼は戦場に想いを馳せていた。
(また戦いに)
彼は躊躇していた。アスランのことを思う。
(アスラン、また君と)
だが今は考えている時ではなかった。ミリアリアの声が戦場に行く時が近付いてきているのを教えていたのだ。
「進路クリア」
そして今。出撃する時が来た。
「ストライクどうぞ!」
「キラ=ヤマト、ガンダム行きます!」
キラはそれに応えるしかなかった。そして戦場に出た。もう既に多くのマシンと敵軍が戦場にいた。
「続いてフラガ機、リニアカタパルトへ」
その間にもミリアリアの放送は続く。
「ムウ=ラ=フラガ、出るぞ!」
そしてムウもまた。戦場に出た。戦いは早速はじまった。
「主力は暗黒ホラー軍団に向かえ!」
アムロが指示を出す。
「ティターンズ、ザフトの数は少ない!まずはホラー軍団だ!」
「了解!」
「わかったな、坊主」
ムウが彼に声をかけてきた。
「は、はい」
「まずは連中だ、いいな」
「相手は宇宙人なんですよね」
「まあそうだな」
ムウは彼のその言葉に頷いた。
「少なくとも俺達とは違うな。やけに大きいらしいし」
暗黒ホラー軍団の者達が巨人なのはもうわかっていた。ムウもそれは知っていた。
「そうなんですか」
「まっ、連中も撃墜されただけで簡単に死にはしないからよ。大丈夫だ」
「はあ」
「一回や二回撃墜されてもな、そう簡単には死なないさ」
「そうですかね」
「おいおい新入り、やけにいじけてるじゃねえか」
「貴方は」
「トッドさ」
モニターに現われたトッドはキラに声をかけた。
「トッド=ギネス。名前は聞いてるだろ」
「ダンバインのパイロットの人ですよね」
「そうさ、まあ宜しくな」
「はい」
「言っとくけどな、戦場じゃ焦ったりとか戸惑ったりってのが一番悪いんだ」
「それはわかってますけど」
「いや、わかってねえな。御前さんの言葉聞く限りじゃな」
「・・・・・・・・・」
キラはそれに答えることができなかった。言われてみればその通りであったからだ。
「俺もな、それで痛い目に遭ったからわかるんだ」
「痛い目に」
「そうさ。死にかけたこともあった」
かってのショウ達との戦いで。彼は散々煮え湯を飲まされてきたのだ。撃墜されたこともあった。
「焦ったり、まあ色々あってな。だからわかるんだよ」
「そうだったんですか」
「だからだ。敵がいたらな、迷わず斬れ」
「斬れ」
「モビルスーツだったら撃て、だな。とにかく余計なことは考えるな」
「はい」
「敵だって命掛けて来てるんだ、こっちだってな」
「だから同じ・・・・・・ってことですか?」
「じゃあ御前さんは死にたいのかい?」
「それは」
進んで死にたい者なぞそうはいない。その返事は決まっていた。
「やっぱり」
「そうだろ?だったら生きるんだよ」
トッドはキラに言った。
「敵を倒してな。いいな」
「・・・・・・・・・」
「何、敵だってそう簡単に死にはしないさ」
彼は今度はムウと同じことを述べた。
「やらなきゃ、こっちがやられるぜ」
「やらなきゃ」
「そうだ、生きたいだろ?」
「はい」
それはキラも同じである。
「御前さんも何かを守りたいだろ?俺だったらママさ」
「ママ」
「トッド、またママなの?」
「うるせえ」
チャムの突っ込みに返す。
「いいだろ、母親を大事にするってのはよ」
「それはそうだけど」
「トッドはな。少し行き過ぎてる」
「ショウ、手前まで」
「何かを守る為に」
だがその言葉はキラの心に響いた。
「その為に」
「戦うんだな」
「はい」
そしてトッドの言葉に頷いた。
「それじゃあ」
「おう、やりな」
「敵は暗黒ホラー軍団だ、頼むぞ」
「はい」
ショウの言葉にも頷く。
「それじゃあ」
ビームライフルを構えた。そして撃つ。それにより敵が炎と化して消え去ったのであった。
ロンド=ベルは暗黒ホラー軍団をメインに戦っていた。それに対してザフトとティターンズはお互いを攻撃していた。
ザフトは五機のガンダムを軸にしている。まずはディアッカが仕掛けた。
「俺が穴を開ける!」
「頼む、ディアッカ!」
アスランが言う。その後ろからバスターが派手に攻撃を放った。
だがティターンズの先頭の三機のガンダムにはそれは当たらない。鮮やかな程の動きでディアッカの攻撃をかわしてしまった。
「何だと!?俺の攻撃を」
「ディアッカ、何をやっている!」
それを見たイザークが叫ぶ。
「相手はナチュラルだぞ!」
「いや、この動きはナチュラルじゃない」
そこでアスランが言った。
「これは・・・・・・強化人間に近い」
「強化人間、人造ニュータイプね」
「そうだ」
そしてルナマリアに頷く。
「ティターンズのお家芸だ。それをまた戦線に投入してきたのか」
「コーディネイター用にだな」
レイがそれを聞いて呟く。
「考えたものだ。強化された人間に同じ強化された人間を当てる。当然と言えば当然だな」
「レイ、そんなことを言っている場合か」
シンがそんな彼に言う。
「相手が強化人間だろうと」
「待って下さい、シン」
出ようとする彼をニコルが止めた。
「何故だ」
「あの三人は普通のパイロットとは違います、迂闊な攻撃は」
「だが」
「いや、ニコルの言う通りだ」
「隊長」
ここでクルーゼが彼等に言った。
「見たところあの三機のガンダムには指揮官機がいる」
「指揮官機が」
「そうだ。あの赤いモビルスーツだな」
三機のガンダムの少し後方にいるロウのマシンを指し示した。
「そしてフォロー役があの青いモビルスーツだ」
今度はイライジャのマシンを。
「三機のガンダムはあの二機のコントロールを受けている。それを何とかすれば」
「勝機も」
「赤いモビルスーツには私が向かおう」
クルーゼは自らそれを言ってきた。
「青いマシンはニコルが」
「はい」
「後の三機はシン、ディアッカ、イザークがやれ。レイとルナマリアはヴェサリウス、ミネルバと共にティターンズの他の部隊にあたれ」
「隊長、私は」
「君か」
「はい」
一人残ったアスランがそれに応えた。
「君には特別な任務がある」
「それは」
「足つきを沈めるのだ」
「足つきを!?」
「そうだ、これはイージスにしか出来ない」
「まさか」
「変形し高速で接近しスキュラを撃ち込む」
イージスならではの作戦であった。
「それで沈めるのだ。いいな」
「わかりました。それでは」
「それでは各員それぞれの任務にあたれ」
クルーゼはあらためて指示を下した。
「そして敵にあたる。いいな」
「了解」
シンはそのままガイアに向かった。クルーゼはロウに向かう。戦いが本格的にはじまったのであった。
「このガンダム」
シンはガイアを前にして言う。
「何か他のガンダムとは違うな。一体」
「敵、来た」
「ステラ、こっちにも来た」
「こっちもだ」
スティングとアウルから通信が入ってきた。
「悪いが援護は出来ない」
「踏ん張ってくれよ」
「頑張れってこと?」
「そうだ」
二人はそれに応えた。
「じゃあな」
「気合入れていけよ」
「うん」
二人に頷く。そして突っ込んで来るインパルスに顔を向けた。
「敵、来る」
「喰らえーーーーーーーーっ!」
そこにインパルスのビームライフルの連射が浴びせられた。
「ティターンズ!よくもユニウスセブンを!」
「敵、倒す」
ステラは呟いていた。抑揚のない言葉を。
「なら、倒す。ロウ見てるから」
そしてガンダムを変形させた。四足の獣になった。
「!?」
「そこ!」
そして背中にあるビームをシンに向けて放つ。だが彼はそれを左に跳んでかわした。
「変形出来るガンダムだと!?」
「シン、気を着けて下さい!」
そこへイライジャに向かうニコルから通信が入った。
「ニコル」
「その三機のガンダムは普通のモビルスーツじゃありません!かなりの戦闘力を持っています!」
「馬鹿な、そんな」
「いや、間違いじゃねえぜ」
「そうだ、間違いない」
ディアッカとイザークも思い出していた。
「こいつ等、血のバレンタインの前に」
「ザフトに攻撃を仕掛けようとしていた連中だ」
「そうですね、データも符号します」
「あの時暴れていたというあの三機か」
「ああ、さっきの俺の攻撃をかわした時は気付かなかったがな」
「どうやら。間違いはないな。あのロンド=ベルのエースパイロットとも互角だった」
「ロンド=ベルのか」
「具体的に言うとアムロ=レイやカミーユ=ビダンです」
「あの二人と」
コーディネイターの間でもニュータイプは一目置かれていた。とりわけアムロ=レイやカミーユ=ビダンといった存在は。最早生ける伝説であった。
「はい、互角に渡り合っていました」
「フン、じゃあ俺がニュータイプより上だってことを見せてやる」
「シン、どういうつもりですか!?」
「ティターンズの強化人間がどうした!」
彼は叫んだ。
「ここでコーディネイターこそが最も優秀だというのを見せてやる!この連中を倒してな!」
「お、おいシン!」
「馬鹿な、三機を一度に相手だと!」
「貴様等の相手は俺が一人で引き受ける!」
シンはよりによって最も無茶な行動を取った。
「貴様等の相手、纏めて!」
「ムッ、シンか」
クルーゼはそんな彼を冷静に見ていた。
「ふむ、まあいい」
だが彼はそれに対して怒るわけでもなかった。すぐに対策を向けた。
「ディアッカ」
「はい」
「君はこのままシンのフォローだ」
「後方から援護射撃ですね」
「そうだ、遠慮はいらないぞ」
「わかりました」
「そしてイザーク」
「はい」
「君も向かえ。そのままな」
「あの三機のガンダムに」
「そうだ、これで三対三だ」
どちらにしろクルーゼは敵のガンダムには同じ数のガンダムを向けるつもりであった。
「それでいく。いいな」
「了解!」
「わかりました。では」
「シン、君はそのままでいい」
そのうえでシンにも言った。
「むしろ君が何処までやるのか見てみたい」
「いいんですね、それで」
「ああ」
クルーゼはその言葉に思わせぶりな笑みを返した。
「だから。頼むぞ」
「わかりました。それでは」
「うむ」
(さて、彼が動いてくれればそれでいい)
クルーゼはシンに応えながら考えていた。
(今開発中の一機はやはり彼か。そしてもう一機は)
アスランに思いを馳せる。この時彼は暗黒ホラー軍団と交戦中のアークエンジェルに近付いていた。
「今度は宇宙人なんてな」
アークエンジェルを操縦するトールがぼやいていた。
「何か次から次に敵が出て来るね」
「そうだよなあ、何かひっきりなしに」
「地球にはミケーネ帝国もいるし。激戦続きだな」
カズイとサイがそれに応える。
「敵がここまで多いと。何か生きれるか不安になるわ」
「生きたいか?」
ミリアリアも言ったところでナタルが四人に声をかけた。
「副長」
「だったら気を抜くな」
ここで四人に対して言った。
「暗黒ホラー軍団も強敵だ。油断が一瞬の命取りになる」
「そうだ、だから無駄話をしている余裕はないぞ」
ノイマンも言った。
「艦長、ローエングリンのコースクリアーです」
「わかったわ」
マリューはナタルのその言葉に頷いた。
「ローエングリン発射用意!」
「一番、二番、てーーーーーーーーっ!」
ナタルが射撃命令を出す。そしてローエングリンの巨砲が火を噴いた。それで目の前にいるホラー軍団のマシンが吹き飛んでいく。かなり強力な一撃であった。
「これはまた強烈ね」
ジュンコがローエングリンの射撃を見て言った。
「ラー=カイラムのメガ粒子胞よりも上ね」
「そうね。その分使い方が難しそうだけれど」
それにマーベットが応える。
「それでも大きな戦力だわ」
「ええ」
「これで戦艦は八隻」
「大きな戦力になるわね」
だが。そうそう油断は出来なかった。彼等は気付いていなかった。レーダーをかいくぐりやって来る一機の赤いモビルスーツに。アスランのイージスだった。
「ラクス嬢を奪ったならば」
アスランはイージスのコクピットの中で呟いていた。
「その報い、受けてもらう!」
「艦長、大変です!」
それに気付いたカズイが叫ぶ。
「どうしたの!?」
「敵にロックオンされました!」
「大丈夫よ、暗黒ホラー軍団の敵ならすぐに」
ローエングリンで薙ぎ払う。そのつもりだった。だがそれは違った。
「違います!横からです!」
「横から!?」
「はい、これは」
カズイはレーダーを見る。声が悲鳴になった。
「イージスです!イージスガンダムです!」
「何ですって!?」
「よし、照準は合わせた!20」
アスランは既にアークエンジェルにロックオンしていた。
「スキュラで!仕留めてやる!」
「緊急回避!」
「駄目です!」
マリューの命令はすぐに否定された。
「間に合いません!」
「クッ!」
「このままでは!」
「貸せ!」
だがここでナタルが動いた。カズイから通信を半ば強引に受け取る。
「えっ・・・・・・」
「ザフト軍に告ぐ!」
ナタルはすぐにザフトに対して通信を入れた。
「こちらは地球連邦軍所属のアークエンジェル!」
「何だ?」
「どうなってやがるんだ?」
「足つきからの全周囲放送ですね」
イザーク、ディアッカ、そしてニコルが言った。
「うん?」
そしてクルーゼも。ザフトだけでなくティターンズも動きを止めた。ロンド=ベルとホラー軍団の戦いは相変わらず続いていたが。
「こちらは現在プラント最高評議会議長シーゲル=クラインの令嬢ラクス=クラインを保護している」
「何っ!?まだ」
「!」
アスランとキラはそれを聞いて同時に反応を見せた。だがキラは今前方の暗黒ホラー軍団を前に手が離せない。
「ラクス様!?」
「偶発的に救命ポッドを発見し、人道的な立場から保護したものであるが」
ナタルはザフトに対して言う。
「以後当艦に攻撃が加えられた場合それは貴艦のラクス嬢への責任放棄と判断し、当方は自由意志でこの件を処理することをお伝えする」
「卑怯な!」
アスランはそれを聞いて怒りの声をあげる。
「なんともまあ」
ムウはそれを聞いて何も言えなかった。
「格好の悪いことだな」
クルーゼはそんなアークエンジェルを嘲笑した。
「散々抵抗しておいて不利になったらこれか」
「隊長!」
「ああ、わかっている」
だがクルーゼも伊達に白服ではない。政治的なこともわきまえていた。
「全軍攻撃中止だ」
「はい」
「副長」
「艦長、御言葉ですが」
ナタルはマリューに対しても言う。
「我々には任務があります。ここで沈められるわけにはいきません」
「それはわかっているわ」
マリューもそれはわかっていた。だが。
「けど」
「そこから先は」
「救助した民間人を人質に取る」
だがアスランは納得がいかない。憤ったまま言う。
「そんな卑怯者と共に戦うのが御前の正義なのか!」
キラに対して言う。
「キラ!」
「アスラン・・・・・・」
だがキラはそれに対して何も言うことはできなかった。そんな彼の側にエイジが来た。
「キラ君」
「すいません」
「彼女は助け出す」
アスランもこうなってはどうしようもなかった。苦虫を噛み潰して言うだけだった。
「必ずな!」
そしてアークエンジェルから離れる。それでもいい気持ちはしないものであった。
「何だ!?」
ケーンが首を傾げさせる。
「何がどうなってんだ?」
「よくわかんねえが俺達どうやら卑怯者らしいぜ」
ゴルディマーグがそれに応える。
「OHNO!ベリー残念です!」
「ジャックが言っても説得力ないけれどね」
「確かにそうですが」
だが光竜にも闇竜にも釈然としないものがあった。
「ちっ。蚊帳の外とはいえ後味の悪いオチだぜ!」
忍もまた。誰もが釈然としないものを感じていた。
「とりあえずの危機は回避出来たわね」
「はい、これでザフトの脅威はとりあえずは除かれました。暗黒ホラー軍団だけです」
「それももうすぐ退けられそうだけど。けど」
戦いはロンド=ベルのものになろうとしていた。暗黒ホラー軍団の大軍も残すは四天王とその直属部隊だけであった。その彼等が徐々に退いていることは彼等にもわかっていた。
「何かね」
「・・・・・・・・・」
「アスラン・・・・・・」
キラもまた釈然としなかった。だがアークエンジェルは救われた。そして戦いはそのままロンド=ベル有利に移っていく。その間にティターンズもザフトも膠着状態になり、ロンド=ベルがホラー軍団を退けるとすぐに撤退に移った。
「今はロンド=ベルの方が数が多い」
クルーゼは言った。
「ここは退く。いいな」
「はっ」
アデスがそれに頷く。ザフトが去るとティターンズも去った。これで戦いは終わった。
「また会うことになるだろうな」
クルーゼはヴェサリウスに帰ってこう呟いた。
「ムウ=ラ=フラガ。楽しみにしているぞ」
何故か彼等はお互いを感じていた。それが何故かはムウだけが知らないことであった。だが何はともあれ今回の戦いは終わった。後味の悪い戦いではあったが。
「戦いは終わりましたのね」
「ええ」
キラはアークエンジェルに帰るとラクスの部屋に来た。そしてそこで声をかけられた。
「貴女のおかげで」
「なのに悲しそうなお顔をしてらっしゃるわ」
「僕は本当は戦いたくなんかないんです」
キラはここで言った。
「僕だってコーディネイターなんだし。アスランはとても仲のよかった友達だったんです」
「アスランが・・・・・・」
「アスランがイージスのパイロットだなんて・・・・・・」
彼は呻く様に呟いた。
「こんなことって・・・・・・」
「そうでしたの」
ラクスはそれを聞いて応えた。
「彼も貴方もいい人ですもの。それは悲しいことですわね」
「アスランを知っているんですか?」
「はい」
ラクスはその言葉に頷いた。
「アスランは私がいずれ結婚する方ですわ」
「結婚・・・・・・」
「優しいんですけど、とても無口な人」
「そうなんですか。変わらないんですね」
「そしてこのハロを下さいましたの」
「ハロ!ハロ!」
ピンクハロを見せる。ハロはラクスの周りで跳び跳ねていた。
「私がとても気に入りましたと申し上げましたら、その次もまたハロを」
「そうかだったんですか」
「はい」
「トリィ!トリィ!」
ここでトリィも鳴いた。
「僕のトリィも彼が作ってくれたものなんです」
「まあ、そうですの」
「でも・・・・・・」
「御二人が戦わないで済むようになればいいですわね」
ラクスは俯くキラに優しい声でこう述べた。
(この人は)
キラはそれを聞いて思った。
「どうかなさいました?」
「いえ」
顔を背ける。しかし決意が宿った。
(やっぱり駄目だ。この人を戦いの道具にしちゃ)
そして動いた。ラクスに気付かれないうちに。それが彼にとって別れとなることも知らずに。
「なあ」
豹馬は大空魔竜の食堂でちずるに尋ねていた。
「あのラクスって子プラントの歌姫のラクス=クラインだよな」
「そうみたいね」
「じゃあサインもらっとくかな」
豹馬もああいう子が好みなの?」
ちずるはそれを聞いて豹馬に尋ねる。
「そりゃそうさ!カワイイ顔にカワイイ声。たまらないぜ!」
「・・・・・・・・・」
「な、何だよ。急に不機嫌になってよ」
「知らないわよ!」
ちずるは急に不機嫌になって豹馬からそっぽを向いた。
「豹馬の場合、どうせならラブソングでも聴いて女心を勉強するんだな」
「へえ、ブリットはそうやってクスハへのアタック方法を研究したのか?」
「ぬ!」
「豹馬サンノ勝チデス」
ロペットがそれに突っ込みを入れる。
「でも確かにラッキーだな。今のうちにサインもらっておこうぜ」
「呆れた」
マリは豹馬とさして変わらない洸を見て言う。
「連邦とプラントは戦争しているのよ、今」
「いい歌には戦争なんて関係ないのさ」
「洸の言うことにも一理あるな」
神宮寺がそれに頷いた。
「事実、プラント以外のところでも彼女の歌は評判になっている」
「ですね」
「確かにぷらんとの歌姫の歌は。いいです」
麗と猿丸もそれに頷いた。
「そういうこと。じゃあサイン、もらってくるぜ!」
「待て、洸」
「す、すいません竜馬さん」
竜馬に声をかけられてしょげかえる。
「ちょっと調子に乗り過ぎました」
「いや、行くのなら俺の分ももらってきて欲しいなと」
「あれ、リョウ君もラクス=クラインのファンなの?」
「すまん、俺もだ」
「俺も俺も!」
ミチルに応えて弁慶と雅人も名乗りをあげた。
「この調子じゃロンド=ベルの中にもかなりの数のファンがいそうね」
「皮肉なものね。戦争がはじまることでコーディネイターである彼女の歌が聴けるようになるなんて」
ちおずるとミチルはそんな彼等を見て言う。
「あの声も遺伝子調整の恩恵だと見る者もいるがな」
そして隼人がここで言った。
「ばってん歌っていうとは声じゃのうて心で歌うもんたい」
「そうだな。声だけではここまで多くの人の心をひきつけるのは無理だと思う」
大作の言葉に洸が頷いた。
「でも、やっぱりコーディネイターなんだよね」
「まあそれはな」
チャムに忍が答えた。
「けどな、結局そんなの大した変わりじゃねえだろ」
「宇宙人よりとんでもない人だっているしな」
「素手で使徒を倒したらしいな」
「うん、そうらしいね」
チャムはニーにそう応えた。
「車より早く走って」
「それ、本当ですか!?」
「あれ、あんた達」
沙羅がここでトール達に気付いた。
「こっちに来てたのかい?」
「はい、ちょっと挨拶に」
「よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそね」
沙羅はミリアリアに挨拶を返した。
「よろしく頼むよ。これから長い付き合いになるけどね」
「はい」
「それで」
カズイがチャムに尋ねる。
「えっと君は」
「ああ、彼女はミ=フェラリオなんだ」
「ミ=フェラリオ!?」
カズイもサイもショウの言葉に目を丸くさせる。
「バイストンウェルは聞いてるよな」
「ええ、名前だけは」
「そこにいるんだ。まあ妖精だと思えばいいよ」
「はあ」
「他にもポセイダルから来たリリスって娘もいるよ」
チャムがトール達四人に対して言った。
「あたしと仲良しなんだよ」
「そうなんだ」
「それはまた」
「それでさ」
トールがそのチャムに尋ねる。
「さっきの話だけれど」
「マスターアジアだよね」
「そうそう、名前だけは聞いたことがあるけど」
「確かネオ=ホンコンのモビルファイターだったよね」
サイもそれは知っていた。
「かなり強いって聞いてたけど」
「それ本当なの!?使徒を素手でなんて」
「確かにあれは信じたくはないでしょうね」
澄んだ奇麗な声が聞こえてきた。アイナの声だった。
「私も見た時は驚いたわ」
「そうだろうな。ダンクーガならともなく」
亮がそれに頷く。
「あんなことは。出来るものじゃない」
「全くです。私も我が目を疑いました」
生真面目なノリスですら驚きを隠せなかった。そこまで信じられない光景であったのだ。
「本当なんですね」
「他にも色々ととんでもないことしてるよ」
「とにかくあれは普通じゃないわよね」
「もう一人いるしね」
さやかとひかるが言い合う。
「もう一人って」
「ネオ=ドイツのガンダムファイター、シュバルツ=ブルーダーよ」
「確かゲルマン忍術の使い手でしたよね」
「何だ、そりゃ」
カズイがサイの言葉に呆れた声を出す。
「そんなのがあるのか」
「一応。何か凄いらしいよ」
「あれも凄いなんてもんじゃないよ」
「勇さん」
サイが勇に顔を向けた。
「いきなり何処からともなく出て来るし。あれはあれでね」
「そんなに」
「世の中信じられないのが一杯いるってことさ」
「そういうことだな」
大介がそれに頷く。
「僕だって君達から見れば異星人だしね」
「あっ、そうでしたね」
「確かフリード星の」
「そうだ。確か君達の友達は」
「はい、キラです」
「コーディネイターの。けれどね」
サイ達にもガンダムファイターと比べるとどうにも小さいことに思えてきた。キラといえどそんなことは絶対に無理だからだ。
「正直大したことじゃないから」
「ですね」
「昔はBF団なんていたしな」
甲児も言った。
「BF団って」
「変態みてえな超能力者を十人も抱えてておまけに世界ぶっ壊しそうなスケールのボスに三つの訳わかんねえ強さの僕がいた組織さ」
「そんなのもいたんですか」
「対する国際エキスパートも凄かったがな」
「銀鈴さん元気かしらね、大作君も」
「宜しくやってるんじゃねえの?そっちでの戦いは終わったしな」
「そうね。だといいわね」
「はあ」
「まあ世界は広い、だよ」
大介もそう言うしかなかった。
「だからコーディネイターなんてね」
「そうですね、そんな変態じみた人達なんかとキラは全然違いますから」
「そうよね。だから偏見とかここじゃないか」
「それは安心してくれていいね」
「わかりました。じゃあキラも宜しくお願いします」
「ああ、宜しく」
キラはカズイ達が思っていたよりずっと容易にロンド=ベルに受け入れられた。これはマリュー達にとっても意外なことであった。
「けどこれって案外意外じゃないかもな」
「どういうことですか?」
マリューはアークエンジェルの艦橋でムウの言葉に顔を向けていた。
「だってよ、ここって色々な人間がいるじゃないか」
「ええ、まあ」
「他の星の奴だっているしロボットだっているだろ」
「それはそうですけど」
「だからだよ。コーディネイターなんてここじゃ些細なことなんだ」
「些細なこと」
「バルマーから来た人間だっているんだぜ。それも当然じゃないかな」
「そうなのですか」
「これはかえってキラにはいいことだろうな。問題はあいつがそれに気付くかどうかだが」
「気付かなければ」
「困ったことになるだろうな」
「やっぱり」
「あくまで気付かないまでだけどな。あの坊主はどうも一人よがりになるしな」
「はい」
それはマリューも感じていた。
「そういうところも何とかしていかなくちゃいけないが今は無理だ」
「それじゃあ」
「とりあえずは様子見だな。いいな」
「わかりました」
とりあえずはマリュー達はそれで終わった。ミリアリア達がアークエンジェルに戻るとすぐにキラの下へ言った。キラは格納庫にいた。四人は彼のところに行くと大空魔竜でのことを話した。
「そうなの」
「ええ、だからね」
ミリアリアがキラに言う。
「そんなに気にすることないわよ」
「だといいけど」
だが彼にはまだフレイの言葉が残っていた。
「まあここの人達はそんなの気にしてないからさ。楽しくやろうぜ」
「うん」
キラはトールの言葉に頷いた。
「それじゃあ」
とりあえずはそれを信じたいと思った。強張りはあっても。
「ところでさ、キラ」
カズイが彼に話し掛ける。
「何だい」
「こんなところで何やってたんだ?」
「えっ、それは」
キラはそれを言われて急に狼狽を見せた。
「ちょ、ちょっとね」
「何かおかしくないか?」
「そうね」
ミリアリアもトールに頷いた。
「なあキラ」
サイも彼に声をかける。
「一体ここで何を」
「あら皆様こんばんは」
「えっ!?」
そこにラクスがひょっこりと顔を出した。四人はそれを見て思わず声をあげた。
「彼女、どうするつもり!?」
「まさか」
「悪いけど黙って行かせてくれないかな」
「黙ってって」
「皆を巻き込みたくないんだよ」
「キラ、一体」
「僕は・・・・・・やっぱり嫌なんだよ、こんなことは」
「キラ」
「まあそうだよな」
最初に口を開いたのはトールであった。
「女の子を人質にとるなんて本来は悪役のすることだもんな」
「トール」
「手伝うよ」
「サイ」
「俺もな」
「カズイも」
「大丈夫よ。今格納庫は交代時間で誰もいないから」
「有り難う、皆」
キラは協力を申し出てくれた四人に礼の言葉を述べる。
「それじゃあ」
「では皆様」
ラクスも一同に声をかける。
「またお会いしましょう」
「それはどうかな」
だが四人はその言葉には懐疑的だった。トールがそれを代表するかのように口を開いた。
「なあキラ」
「何!?」
「御前は帰ってくるよな」
「えっ!?」
キラはトールの突然の強い言葉に戸惑いの顔を見せた。
「お前はちゃんと帰ってくるよな?俺達のところに」
サイもまた。同じ声の強さになっていた。
「うん」
そしてキラはそれにこくりと頷いた。
「心配しないで」
「よしわかった、約束だぞ」
「待ってるからな」
トールとサイが言った。カズイとミリアリアも。彼等はキラを信じていた。
「わかったよ、それじゃあ」
「ああ、行って来い」
「待ってるからね」
キラはストライクにラクスを乗せアークエンジェルを出た。そして銀河を飛ぶ。
「私、モビルスーツってはじめて乗りました」
「少し狭いですけど我慢して下さい」
キラはラクスに声をかける。二人はパイロトスーツを着ていた。
「もうすぐ迎えに来るはずです」
「迎え?」
キラ「ザフトへ通信を送り、貴女の引渡しの条件としてアスランが単独で来ることをあげました」
「もし、あの方が来なかった場合は?」
「・・・・・・・・・」
「キラ様?」
「貴女の生命は保証しないと告げました」
「まあ」
ラクスはそれを聞いて声をあげた。
「御免なさい」
キラはラクスに謝罪した。
「勿論アスランが来なくてもそんなことは」
「わかっております」
だがラクスはにこりと微笑んでキラに応えた。
「キラ様がそのような方ではないことは」
「すいません」
「そしてアスランも」
「アスランも?」
「きっと来ますわ、彼も」
「おわかりなんですね、何もかも」
「!?」
「いえ、いいです」
キョトンとした顔になったラクスを見て言うのを止めた。そこに一機のモビルスーツがやって来る。イージスであった。
「アスラン!?」
「そうだ」
すぐにイージスから返事があった。間違いなかった。
「コクピットを開いて、アスラン」
「わかった」
アスランはそれに従いイージスのコクピットを開いた。キラもそれを確認して開く。
「話して」
「え?」
キラは次にラクスに声をかけた。ラクスはそれを聞いて顔を上げる。
「アスランに本当に貴女であることをわからせないと」
「わかりましたわ」
言葉の意味を理解してそれに頷く。そのうえでアスランに声をかけた。
「こんにちはアスラン。お久し振りですわ」
「よし」
アスランはそのラクスの言葉を聞いて頷いた。
「確認した」
「わかったよ、それじゃあ」
キラはそのうえでまたアスランに言った。
「彼女を」
「ああ、わかった」
「ラクスさんも」
「はい」
ラクスはこくりと頷いてストライクのコクピットを出る。そしてイージスの方へ飛んでいく。
アスランはそれを受け止めた。これで捕虜交換は終わった。
「キラ様」
ラクスはイージスのコクピットからアスランに声をかけた。
「色々と有り難うございました。そしてアスラン、貴方も」
「キラ」
だがアスランはそれに応えない。キラをじっと見ていた。
そして言った。キラに対して。
「御前も一緒に来い!」
「!」
「御前が地球軍にいる理由がどこにある!」
驚くキラにさらに言う。
「だから俺と一緒に来るんだ!コーディネイターとして!」
「・・・・・・僕だって君となんて戦いたくない」
キラはそのアスランの言葉に応えて言った。
「でもあの艦には守りたい人達が・・・・・・」
言葉を続ける。
「友達がいるんだ!皆がいるんだ!」
「・・・・・・それが御前の答えなのか?」
「・・・・・・うん」
その言葉にこくりと頷いた。
「・・・・・・なら仕方ない」
アスランもここまで言われては諦めるしかなかった。
「次に戦う時は・・・・・・」
苦しそうにキラを見据えて言う。
「俺が御前を討つ!」
「僕もだ!」
そこまで言うと両者はコクピットを閉じた。そして互いに去っていく。最後に互いを見た。
(さよならだ、キラ)
(さよなら、アスラン)
二人は別れた。敵と味方に。無常な銀河の闇はそんな二人を包んでいた。だが同時に幾多の優しい星達の輝きもまた二人を照らしていたのであった。二人の彷徨える心を慰めるかの様に。
第百六話完
2006・7・25
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