戦国異伝
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第八十四話 炎天下その十二
「しかもじゃ。水も飲めるしのう」
「そうですな。ではやはり」
「川を挟んで敵を迎え撃ちますか」
「織田の軍勢を」
「そうするとしようぞ」
こう話してだ。六角は川の向こう側に己の軍を配した。そしてその彼等を見てだ。
織田の斥候達は難しい顔になった。とりわけだ。
彼等を率いる奥村は目を曇らせてだ。こう言った。
「ふむ。やはりな」
「助右衛門殿は読まれておられたのですか」
「六角が川向こうに布陣することを」
「そのことを」
「うむ。おそらくそうすると思っておった」
やはりそうだと答える奥村だった。見ればその陣は中々堅固で川を渡ることは容易ではなさそうである。だが彼はその敵陣を見てこう言うのだった。
「並の者ならあの陣は崩せぬ」
「しかしですか」
「それでもだと仰るのですな」
「我等ならばですか」
「あの陣を越えられますか」
「そして勝てると」
「並みの者ならと言った」
奥村は己のこの言葉をだ。あえて再び言ってみせた。
そしてだ。こうも言ったのである。
「しかし権六殿も牛助殿も並の方ではない」
「はい、それは確かに」
「お二人共並の方ではありませぬ」
織田家の誰もが知っていることだ。このことはだ。
「攻めるなら権六殿、守られるのなら牛助殿です」
「そのお二人が共におられますな」
「それでは」
「相反する個性の方々じゃがだからこそじゃ」
余計にだ。それ故にだというのだ。
「お二人が共におられる。それだけでじゃ」
「並ではない」
「そうだと仰るのですな」
「しかもお二人だけではないしのう」
奥村は笑みを浮かべてさえいた。六角のその堅固な布陣を見てもだ。
そのうえでだ。彼はまた斥候達に話した。
「又左殿に内蔵助殿もおられる」
「人が揃っておられますな」
「鎮吉殿もおられますし」
「さすれば」
「勝つ」
負けぬ、ではなかった。よりはっきりとした言葉だった。
「必ずのう。我等は勝つぞ」
「では敵の数及び布陣のことを権六殿達にお伝えしましょう」
「その為にも今はですな」
「ここから去られますな」
「うむ、本陣に戻る」
実際にそうすると答える奥村だった。そうした話の後でだ。彼は実際に斥候達と共に織田の軍勢の下に戻った。そして数や布陣のことを聞くとだ。彼はこう言った。
「さて。兵は互角じゃが」
「川向こうにおりまする」
川尻が不機嫌そのものの声で柴田に答えた。
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