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戦国異伝

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第八十四話 炎天下その十


「ならば御主達も用いる筈じゃ」
「殿のお言葉ならば」
「その時はです」
「そうさせて頂きます」
「うむ。そうせよ」
 あらためてだ。六角は彼らに告げた。
「仕えるなり出家するなり。どちらにしてもじゃ」
「生きよ」
「そういうことですな」
「その通りじゃ」
 こう告げてだった。彼等はだ、
 主の言葉を受けることにした。しかしだ。
 彼等はまずはだ。このことを誓うのだった。
「ですがそれでもです」
「この戦は必ずです」
「必ず勝ちましょう」
「何があろうとも」
「勝とうと思わねば勝てぬ」
 一つの真理をだ。六角は今口にした。
「それ故にじゃ」
「では。それ故に」
「前にいる織田の軍に向かいましょう」
「勝つ為に」
「ここで勝てば近江の南を取り戻せる」
「ですな。それでは」
「何としても」
 家臣達もだ。主の言葉に応える。こうしてだ。
 六角と織田の戦いが再びはじまろうとしている。六角家も決戦の準備に取り掛かった。だが彼等もだ。織田家と同じ悩みを抱えていたのである。
 六角は陣中を見回る。しかしだ。
 将兵達は暑さの前に疲れていた。しかもだ。
「水が欲しいのう」
「全くじゃ」
「喉が渇いたわ」
「かなわんわ」
 こう言い合っていた。それを聞いてだ。
 六角も難しい顔になった。そうしてこう旗本達に言った。
「どうしたものじゃ。これは」
「はい、水ですな」
「水がありませぬな」
「暑い、とにかくな」
 このことがだ。どうにもならなかった。それでだ。
 こうだ。強い顔で言うのであった。
「できれば水が欲しいが」
「しかし。城の井戸にも水はありませぬし」
「川の水を飲んでいますが」
「どうも暑過ぎて」
「それで」
 水が幾らあってもだというのだ。喉が渇いて仕方がないというのだ。ただ普通の服なら問題はなかった。だが今の彼等はというとだ。
 具足を着けている。その分だけ暑くだ。尚且つだった。
「どうもこの場所は日差しが強いです」
「他の場所よりも」
 そのせいでだ。彼等はだというのだ。
「ただ。織田家の場所もです」
「かなり暑いです」
「我等と同じくです」
「状況は同じです」
 置かれている状況は同じだった。それでだ。
 六角は汗だく、彼もそうなっているその顔で言うのだった。
「ではじゃ。勝つのはじゃ」
「はい、数は互角ですし」
「後は気力ですな」
「それに指揮する者の質ですな」
「それに地の利です」
 こうしたものが挙げられていく。そしてだ。
 その中でだ。六角は織田家について述べた。 
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