戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第八十四話 炎天下その六
「わかったな。だからこそじゃ」
「喉が渇いていてもですか」
「飯を食えと」
「そうしなければなりませぬか」
「そうじゃ。水は少ないがそれでも食え」
とにかくだ。柴田は彼等に食う様に命じた。
「それもたらふくじゃ。よいな」
「わかりました。それでは」
「何とか食います」
「わし等はまだよい」
柴田は己の言葉に従い何とか食いはじめた足軽達にだ。こうも言った。
「まだ涼しい方じゃ」
「えっ、この暑さで涼しいとは」
「ご家老、幾ら何でも強気に過ぎるのでは」
「こんな暑さははじめてです」
「それでそう仰るのは」
「では青を見よ」
これが今の柴田の言葉だった。青といえばだ。
「我等の具足に旗を見よ」
「むっ、我等のですか」
「それをですか」
「そうじゃ。青は木の色じゃ」
五行思想からだ。柴田は話した。
「それに水の色でもあるな」
「はい、水です」
「それに海の色です」
「そういうことじゃ。そういったものの色じゃ」
青はだ。即ちそれだというのだ。
「その色を見よ。涼しくなるな」
「確かに。言われてみれば」
「水の中におる様です」
「それだけで」
「思え。思うことも大事じゃ」
足軽達にだ。こう話していくのだった。
「よいな。青を見よ」
「畏まりました。それでは」
「今はそうします」
足軽達も柴田の言葉に頷く。彼はこう言って足軽達の暑さにうだるその気持ちを宥めた。だがそれでもだ。朝からさらにだ。日は高くなっていく。
その高い日、それに晴れ渡った青い空を見上げてだ。川尻が言った。
「憎いのう、この暑さは」
「全くじゃ。暑いわ」
「暑くて仕方がないわ」
前田と佐々もだ。具足を着けたうえで言う。彼等もそのうだる様な暑さに参っているのだ。
そしてその暑さの中でだ。佐々が言った。
「それは敵も同じにしてもじゃ」
「このままでは戦にならんぞ」
「戦どころではない暑さじゃ」
前田と川尻も佐々に応える。その他にもだ。
城内の足軽達もへ垂れ込んでいる。暑さには勝てなかった。
その彼等を見てだ。柴田はまた叱る。しかしだった。
暑さは否定できなかった。それはどうしてもだ。それでだ。
佐久間がだ。城主の間で柴田にだ。こう問うたのである。
二人共具足の上に陣羽織を羽織っている。何時でも戦に入られる格好だ。そしてその格好で二人向かい合っていた。佐久間はその中で問うたのである。
「今日の昼じゃな」
「そうじゃ、昼じゃ」
柴田は佐久間にもはっきりと答える。
「昼に攻める」
「それはわかった」
まずはだ。佐久間は同僚のその言葉に頷いた。
だがそれでもだ。彼はこう言ったのだった。
「しかし。昼ともなると」
「余計に暑くなるのう」
「しかも水がじゃ」
今日もだ。水の話だった。
「わかるじゃろ。もうじゃ」
「ないか」
「そうじゃ、残り少ない」
この日もだった。水は少ないというのだ。
ページ上へ戻る