戦国異伝
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第八十三話 明智の覚悟その十一
だが、だった。それに加えてだったのだ。
「ただ。彼等の勝手は許されませぬ」
「そうされますか」
「勝手は許されぬ」
「それだけなのですか」
「そうです。殿はそうした方です」
南蛮のものには寛容であるがだ。それに溺れることも勝手もさせぬというのだ。
「そこから何があるかわかりませぬ故」
「果たして南蛮から来るものはよいのか」
「それとも悪いものか」
「それが問題ですが」
「どんなものでもよいものと悪いものがありますが」
今言ったのは明智だった。彼は落ち着いていた。
「しかし。信長公はそうしたことを見極められる方ですな」
「その通りです」
丹羽は言葉を止めることなくだ。その明智に答えた。
「殿のその目ははっきりしています」
「では」
「ご安心下さい」
実際にこう答える丹羽だった。
「殿ならばです」
「ですか。ではそれがし達は」
「その殿を御覧になって下さい」
信長をよくわかっている、まさにそれ故の言葉だった。
「殿は戦だけでなく政も非常に立派に為されます故」
「ではその信長公を見せて頂きます」
「そうさせてもらいます」
誰もが丹羽のその言葉に頭を垂れた。そうしてだ。
再び飲みはじめる。その酒を飲みつつだ、和田がまた言った。だが今度言ったことはこれまでとはうって変わってだ。明るい話題であった。
「どうも最近舞が流行っていますな」
「ややこ踊りですかな」
「それですか」
「はい、それです」
話題はこのことに移った。
「それですが」
「確か阿国でしたな」
丹羽は和田にこの名前で応えた。
「出雲の阿国でしたな」
「御存知でしたか」
「名前は聞いたことがあります」
それはだというのだ。
「少しですが」
「都で話題になっております」
「ふむ。都で」
「おなごではありますが」
女だというのだ。その阿国はだ。
「ですがそれでもです」
「踊りがよいのですな」
「ただ踊るのではなく」
「それに加えてですか」
「艶があります」
和田は阿国をこう評した。
「それがあるおなごなのです」
「ふむ。艶がですか」
「普段からかなりよきおなごだそうですが」
「踊ればさらに」
「はい、艶があります」
まさにだ。そうだというのだ。
「それが阿国でございます」
「ふむ。では」
「一度御覧になられたいですな」
「殿にお話したいですな」
丹羽は笑みを浮かべて和田にこう述べた。
「その阿国のことを」
「信長公に」
「実は殿は舞も好まれていまして」
「ああ、あれですな」
「はい、特に敦盛を好まれます」
平家物語にあるだ。それをだというのだ。
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