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戦国異伝

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第八十一話 信貴山城その六


「大和百万石の兵の殆どが集っております故」
「そうです。しかし大軍はです」
「その分の兵糧が重要ですな」
「二万の兵には二万の兵糧が必要です」
 それ以下であってはならない。絶対にだった。
「ですから大和の城から集めようと思っていました」
「既に人をやってですね」
「そのつもりでした。しかしです」
 信貴山城に充分ある。それならばだった。
「これだけあれば何の問題もありませぬ」
「では」
「はい。休息の後ですぐにです」
 滝川は満足した笑みで話していく。
「河内に入りましょう」
「迅速ですな。まさに」
「それがしは兵は速く進めたいと思う者ですが」
 滝川の用兵の迅速さには定評がある。ただ忍の者を使えるだけではないのだ。だからこそ信長にも信頼されているのである。
「ですがそれでもです」
「ここまで速くなるとはですか」
「思いませんでした。そしてです」 
 尚且つだというのだ。
「それは敵も同じです」
「三好もまた」
「三好も我等が攻め入るのはわかっています」
 河内からだ。そうすることがだというのだ。
「ですがそれでもです」
「ここまで迅速な動きとなると」
「そうです。予測できるものではありません」
「では敵の備えが出来ていないうちに」
 まさにだ、その時にだというのだ。
「攻め入り一気に突き崩すことができますな」
「その通りです」
「まさに戦局を決めますか」
「そしてなのですが」
 ここで滝川は小声になった。そのうえで筒井にこっそりと囁いたのである。
「先に手の者をこの城にやっていたのですが」
「先日お話されていたことですな」
「左様です。その時に倉庫も調べました」
 この倉庫、他ならぬここをだというのだ。
「ですがその時はです」
「ここまで兵糧はなかったというのですか」
「こう報告がありました」
「では」
「松永は先を読んで、です」
 そうしてだというのだ。兵糧を集めたというのだ。
「そうしたのかと」
「先を読みこれだけの兵糧を集めるとは」
「やはり松永という男はです」
「切れ者ですな」
「間違いなく」
 こう評するのだった。
「我々がすぐに攻められる様に手配しておいたのですから」
「左様ですな。確かに信頼できませぬが」
「しかし今回は織田家を助けました」
 そうしたというのだ。他ならぬ織田家をだ。
「それは確かです」
「ですな。しかしそれがしはどうしてもです」
 眉を曇らせて言う筒井だった。
「あの男については好きになれませぬ」
「それはそれがしも同じです」
「そうですな。どうしても」
「出自が何もわからぬのがあまりにも無気味です」
 このこともだ。松永を警戒させる一因となっていた。その出自の不明さが彼を無気味なものと見せていたのだ。
 その出自についてだ。滝川はさらに言う。
「あれだけの茶器を持っていますし」
「和上が仰る様に」
「あの茶器はそれがしも聞いておりました」
「天下無双の。まさにそうした」
「見事な茶器です」 
 九十九茄子のことは筒井も知っていた。それでだった。 
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